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神名月秋燈の誕生日 前座
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台風一過の青空。朝はまだ、雨風が激しかったというのに。いつの間にか、授業を受けているうちに空は目に痛いくらいの、鮮やかな青に染まっていた。その余りの眩しさに、目が眩みそうになるのは必然。秋燈は目を細めて、じっと窓の外に広がる青に見入ってしまった。
(――あの空の果てには、何があるのだろう)
普段は授業中にぼんやりするなんてことは、このチームメイトに関しては考えられないことだ。ところが、先程から、目の前の背中は……。彼の真後ろの席の主、露草夏都華は、早速好奇心を持ち出してそっとその目線の先を追った。外は、からりとした青空。
(――まるで、あっちみたいな空ねぇ)
夏都華が好きな南の島の青空にとてもよく似ている。どこまでも高く青く、輝く青空と、(てぃーだ)。それに、どうやら秋燈はそれに目を奪われているようだ。確かに、胸を打つくらいの。綺麗な空だった。
(誕生日近いしねぇ、感傷的になってんの?)
(そんなおっさん、ずいぶんと可愛いないの)
夏都華はそんなセンチメンタルな後ろ姿に、密かに笑みを浮かべた。そして、そっと指を伸ばすと秋燈の背中を軽くつつく。彼はちらりと夏都華の方に一瞥を送ってきたが、すぐさま前を向いてしまう。別に無視したわけではなく、授業中の私語は厳禁という暗黙のルールに則っただけだ。あと五分で授業も終わる。
さて休み時間になり、秋燈は後ろを振り返った。
「何だ? 露草」
「おっさん……さっき、何考えてわけ?」
夏都華の言葉を聞き、秋燈は目を丸くする。口元に手を当て珍しく、目線をそらした。幽かに頬が赤らんでいるのは、気のせいだろうか。
「……気づいていたのか……」
「もっち、アンタだしね」
何故か嬉しそうに笑う夏都華の顔をじっと見つめた後で、一つ大きく溜め息をついた。
「来週誕生日だしさぁ、なんか、イイことでもあったわけぇ?」
どうやら、言わねば逃れられない運命のようで……。答えを期待するかのような、夏都華の顔をもう一度、ちらりと見て。秋燈は意を決した。
「……今日の、青空の向こうには何があるのかと」
「は、い?」
予測通りの、夏都華のリアクションに。秋燈はやはり、言うべきじゃなかったと微かな後悔を。絶対こんなこと、お前らしくないとか、センチメンタルで気持ちが悪いとか、からかわれるに決まっている……。そんなことを、悶々と考えていたが。それらを総てうち消すような言葉が夏都華から零れた。
「そうね……青空のはてのはてには。何があるのかしら……アンタはどう思う?」
いつになく、優しい口調の夏都華と共に、秋燈はもう一度、まぶしい青空を見上げた。からりと晴れ渡る空。青空のはてのはてに、少年少女達の思いよ、届け。
(We who are more unripe do not find right words.)
(――あの空の果てには、何があるのだろう)
普段は授業中にぼんやりするなんてことは、このチームメイトに関しては考えられないことだ。ところが、先程から、目の前の背中は……。彼の真後ろの席の主、露草夏都華は、早速好奇心を持ち出してそっとその目線の先を追った。外は、からりとした青空。
(――まるで、あっちみたいな空ねぇ)
夏都華が好きな南の島の青空にとてもよく似ている。どこまでも高く青く、輝く青空と、(てぃーだ)。それに、どうやら秋燈はそれに目を奪われているようだ。確かに、胸を打つくらいの。綺麗な空だった。
(誕生日近いしねぇ、感傷的になってんの?)
(そんなおっさん、ずいぶんと可愛いないの)
夏都華はそんなセンチメンタルな後ろ姿に、密かに笑みを浮かべた。そして、そっと指を伸ばすと秋燈の背中を軽くつつく。彼はちらりと夏都華の方に一瞥を送ってきたが、すぐさま前を向いてしまう。別に無視したわけではなく、授業中の私語は厳禁という暗黙のルールに則っただけだ。あと五分で授業も終わる。
さて休み時間になり、秋燈は後ろを振り返った。
「何だ? 露草」
「おっさん……さっき、何考えてわけ?」
夏都華の言葉を聞き、秋燈は目を丸くする。口元に手を当て珍しく、目線をそらした。幽かに頬が赤らんでいるのは、気のせいだろうか。
「……気づいていたのか……」
「もっち、アンタだしね」
何故か嬉しそうに笑う夏都華の顔をじっと見つめた後で、一つ大きく溜め息をついた。
「来週誕生日だしさぁ、なんか、イイことでもあったわけぇ?」
どうやら、言わねば逃れられない運命のようで……。答えを期待するかのような、夏都華の顔をもう一度、ちらりと見て。秋燈は意を決した。
「……今日の、青空の向こうには何があるのかと」
「は、い?」
予測通りの、夏都華のリアクションに。秋燈はやはり、言うべきじゃなかったと微かな後悔を。絶対こんなこと、お前らしくないとか、センチメンタルで気持ちが悪いとか、からかわれるに決まっている……。そんなことを、悶々と考えていたが。それらを総てうち消すような言葉が夏都華から零れた。
「そうね……青空のはてのはてには。何があるのかしら……アンタはどう思う?」
いつになく、優しい口調の夏都華と共に、秋燈はもう一度、まぶしい青空を見上げた。からりと晴れ渡る空。青空のはてのはてに、少年少女達の思いよ、届け。
(We who are more unripe do not find right words.)
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