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第121話 孤児達を見守る魔物
しおりを挟む「なぁアクセル兄ちゃん、こいつ治んのか?さっきから飯あげてるのに、全然食べないんだよ」
犬の耳をした子供が心配そうに聞いてくる。周りもそれに同調するように、不安が広がってきてるのが分かった。
(....やっぱり、か)
フォレストウルフではない、神秘的にも感じる白い狼のような魔物の痛ましい様子を見て、推測から確信に変わってしまう。
「....ルシア様と二人で話したい。みんなで呼んできてくれるか?」
「う、うん....分かった」
みんなにそう伝えると、おずおずとした様子のまま、教会の方に向かってルシアを呼びに行ってきてくれた。
「....さて、少し二人きりで話そうか。狼さん」
誰もいなくなったのを確認してから、狼の目の前で座り込む。
「いやいや最初に見た時は驚いたよ。森の中に入ったら魔物がいたからね」
思い出されるのは偶然にも森林の中で迷ってしまい、偶然この場所でこいつと出会ったことだ。
魔物ということもあって、初めは倒そうとしたが、その場にいた子供達が泣きながら殺さないでと懇願したり、かばったしたのだ。
ルシアからも目をうるうるさせて懇願されたから、驚いたものさ。
「いつからここにいるんだ?どうしてここに居座ってるんだ?」
『......』
「まぁ、答えてくれるわけ無いか」
狼に人語を話せって言われる方が無理があるよな。ただ、真摯にこちらの方を向き合っているのが分かったため、そのまま話を続ける。
「さっき身体の中を診させてもらったぞ。魔物の身体の中を診たのは初めてだったから、新鮮な気持ちだった」
....おそらく俺が次に言う言葉を理解しているだろうなこいつは。
「おまえ....今まで一体どんだけ修羅場をくぐり抜けた?」
その中には臓器そのものが存在してなかった。魔物の身体の構造は見たことないが、生きるために必要な臓器がほとんどない。あったとしても損傷がひどくとてもではないが治すことが難しい。
「魔力や魔素で補っているつもりだろうが....このままだとすぐに死ぬぞ」
平然としているが、魔力の流れが確実に鈍くなっている。老化によるものだろうが....一体どうやってこんな身体で生き抜いてきたんだ?
「どうしてお前ほどの魔物がこんな何の変哲もない場所で、あの子供達と一緒にいるんだ?」
....答えてくるわけないか。諦めようと魔物に背を向けた時、頭の中でなにかが響き出した。
―――我にとって、この場所は思い出の場所なのでな。
「っ!?」
威風堂々とした声、念話なのかどうかは分からないが、それだけでも危機感を感じてしまう。
「...しゃべれる、のか?」
『お主が話しかけたからであろう?我はそれに答えた...いや少し語りたいだけだ』
巨大な腕で毛づくろいをしながら、俺に語りかけてくる。
『....我はただ、もう休みたいだけだ』
そのまま、その狼の魔物は語り始める。
『ここで生まれた時から、我は弱肉強食のこの世界で生き抜いてきた。多くの者を殺し、数多ある同胞を見殺し、そしていつしか世界の頂点として君臨してきた....だが、我にとってはそんなものどうでもよかった』
『我はただ、あの小童たちのように生きていたかった。強者に簡単に鏖殺させそうなあの弱き者みたいに....仲間とともに生きていたかった。ここにいるのは残り短き余生の名残というものだ』
語り終わり、狼のような魔物はこちらを射抜くようにじっと見つめてきた。
『....お主も、我と同じ匂いがする』
「...俺が、ねぇ」
『近き未来、お主はたくさんの者達を裏切り傷つけ、そして孤独に生き続け独りで死ぬ....我なら分かる。お主は....我と同類だ』
「....まぁもし、それが俺の未来だとしても――」
――それならそれで構わない。その時はその時だ。
しばらくその魔物と見つめ合う。その時のこいつの目は...とても哀愁に漂い、それがなぜだか虚しく感じてしまった。
すると、背後からガサガサと草を踏んでこちらに近づいてきている人がいる。
「ルシアか....ま、知りたいことは分かった。語ってくれてありがとう――」
「―――白き魔獣、フェンリルよ」
最後に奴の本当の名前を言って、彼から目を離す。
「アクセル様....その様子だとやはり」
「えぇ、魔力の流れが鈍くなっていました。おそらく老衰だと...」
「....そうですか」
それが分かるとルシアは魔物...フェンリルに近き、愛でるように撫で始めた。
「私が幼い頃から見守ってくれた守り神みたいな存在だったんです。でも、そんな神様のような子でも、時間が経てばいなくなってしまうんですね...」
「...すみません。力になれなくて」
「そんな、謝る必要なんてありません。貴方はこの子のことを教えて...私達のような異端の存在でも受け入れてくれたんですから」
俺は彼女に言いかけたその言葉を....つい閉じてしまった。だってその時の彼女の表情は...とても、眩しいといっていいほどの笑顔であったんだから。
(...異端の存在、これが魔物と人の絆っていうわけか)
最後まで笑顔で抱きしめている聖女と、その抱擁を受け入れている魔獣の姿を目に焼き付け、俺はそう思ったのだった。
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