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第89話 ご褒美
しおりを挟む「ではアクセル様、また明日お会いしましょう」
「はい、また明日」
実力試験が終わった後、学園初日ということで今日は早帰りだ。
ナーシャとも彼女の住んでいる屋敷で別れて、現在は自分たちが住むであろう家に向かい、着いた所なんだが……。
「……良かった、ちゃんと一軒家だ」
安堵した。と言っても周りと比べても凄く大きい一軒家だ。だが、いつも住んでいる所が屋敷だったので、一般家庭のような家を望んでいた俺からすれば大喜びだ。
「あっ!アクセル様、おかえりなさい!」
すると横からカリナの声が聞こえた。彼女の方を見ると、どうやら生活に必要な物を買っていたらしい。
「ただいまカリナ。今日入学初日だから少し早く帰ってきたよ」
「そうなんですね。あっ!待っててください、今玄関開けますから!」
すると袋を腕にかけてポケットの中にある鍵を取り出して、ドアを開けようとしている。
さて、帰ったら少しゆっくりしようかなぁ…とか思っているとソフィアが話しかけてくる。
「ではお兄様。家に入りましたらソフィアのお願い、聞いてもらいますからね?」
「ん?……そういえば帰ったらして欲しいことやるって言ってたな」
そう思いながらソフィア……あ、いや違うみんなの様子見た限り、期待してるな。
ジークだって恥ずかしそうにしながらも、こちらをチラチラっと見てるし……。
「……分かった、約束したからな」
「「やったっ!」」
そう言った瞬間、ローレンスとマリアがお互いの両手を握りながらジャンプするというなんとまぁ微笑ましい光景が見えた。
ユニーレも笑みを深めて、ジーク少しだけ目を輝かせてるように見える。
うーん……そんなに嬉しいのかね?
「お待たせしました皆さま。では中にお入りください」
そんな会話している間にどうやら、カリナがドアを開けたようだ。
「ではっ、早速中に入りましょうお兄様」
「うおっ!?」
そのまま、ウキウキのソフィアに強引に手を引かれて家の中に入っていく。
どうやら相当お楽しみなようですね……。
中に入ると、そこには普通の家でも見るような光景が広がってる。
机や椅子は多いものの、窓から見える広い庭、この世界では当たり前な暖炉、柔らかそうなソファなど……ここ、小説の中だったんだな……と思わせるほどの光景が数々。
「ではお兄様、そこに座ってください」
すると有無を言わせないまま、長机と一緒にある椅子に座らされる。
正面を見ると、いつの間にか俺と対面するように座っている5人の人物。
カリナは俺たちに紅茶を出すと、まだやることがあるのかそのままリビングから出ていく。
「……それで、初めは誰のお願いから聞けばいいのかな?」
「はいっ!我からなのだ!」
勢いよく手を上げたのはローレンス。なんか、末っ子を見てるようで微笑ましいな。
まぁローレンスなら特に危ないことは言わないだろうと思っていたら……。
「膝枕して欲しいのだ!!」
「膝枕?」
案の定、とても可愛らしいお題を言ってきたので安心出来る。
「それで頭を撫でて欲しいのだ……だめ、か?」
「……それくらいならお安いご用だ。ほらっソファに行くぞ」
「ッ!うん!」
彼女のたまに出る可愛らしい素の返事を聞きながら、俺はソファに座り、膝をポンポンとローレンスに座るように促す。
彼女は少しずつ、近づいて俺の隣に座って、俺の膝を枕にして寝転がる。
「わぁ……アクセルの膝……温かいのだ……」
「全く……ほら、よしよし」
気持ちよさそうに寝転がるローレンスの頭を撫で撫でする。すると、むふぅ……と今まで彼女から聞いたことない声が聞こえる。
「これ……気持ちいいのだぁ…」
幸せそうに目を瞑っており、その様子はただの少女だ。
「ず、ずるい……」
すると、いつの間にか近づいていたみんなの姿が映った。
「別に、みんなにもしてあげるぞ?」
「ゔっ……いえ、今回は遠慮しておきます」
本当はして欲しいのか……凄くこちらを凝視している。
「……ほら、次は?この状態でも願いなら聞くことが出来るぞ」
「で、では……私が」
すると控えめに手を上げるジークが名乗り出た。
「……あんた、アクセルに変なことお願いするんじゃないでしょうね?もしそうなら承知しないわよ」
「だ、誰がそんなことアクセル様に頼むのよ!!それにそういうのはもっとムードを作ってから……あっ」
「……ジーク、お前が墓穴を掘る前に言うのをおすすめするぞ」
ぷしゅ……と頭から湯気が出るほどの真っ赤になった顔を隠すよう両手で顔を覆っているジークに声を掛ける。
「………で、では失礼ながら……アクセル様」
すると未だ顔を真っ赤にさせながらも隣に座ってきて、手をこちらに差し伸ばしている。
「そ、その……一度マエル様とやりたかったことの一つで……手を、握ってくれませんか?」
「お、おう……」
父にして欲しかったことを息子にさせるのか……と思いながらも、ジークの手をそっと握る。
逞しい手だ。きっと今までずっと強くなるために頑張ったのだろう……だけど、それ以上にとても優しい手だと感じる。
「……ふふっ」
ジークは大切そうに俺の手を握っており……ローレンスと同じぐらい幸せそうな顔をしていた。
「……アクセル様……私、とても幸せです」
「そっか」
「はい……」
な、なんだ……ジークってこんな女の子っぽかったか?凄いギャップを感じるぞ。
「ほら、アクセルのこと堪能出来たでしょう?それならさっさと離れなさい!」
「貴方もよローレンス。いつまでもアクセルの膝に頭乗せてないで起きなさい。嫉妬で狂いそうだわ」
「「あっ……」」
残念そうにしながら二人に無惨に手を引かれて離れさせられる。
「じゃあ次は私かしら」
今度はユニーレのようだ。こいつ……意外と大胆というか、正直一番予想が出来ないから少し不安だ。
「じゃあアクセルには、これを私に言ってもらおうかしら」
すると、彼女は俺の頭に情報を渡してくる。それを見て俺は……顔を顰めてしまう。
「……おまえ、マジか?」
「えぇ、大マジよ?」
くっ……た、確かになんでもとは言ったが……これを言えって言うのか?
「お、お兄様?」
流石にいつもと違う様子にみんなが困惑している。いやまぁ……うん。
「……はぁ、仕方ない。ほらユニーレ、そこに立て」
「ふふっ、はーい♪」
嬉しそうに準備しているユニーレに対して、俺も納得してないが仕方なく立ち上がる。
くそっ……何かの罰ゲームだろ……そう思いながら、俺はユニーレと向き合う。
「……ユニーレ」
だが、やるなら全力でだ。羞恥心を消しつつ、彼女の顔を見つめる。すると、ユニーレもドキッとしたのか、少し動揺しながらも……何かを待ってるかのように口を緩める。
「……はい」
そんな彼女に俺は……彼女に渡された情報通りに、その言葉を吐いた。
「………………愛してる」
瞬間、すっ……と空気が凍った。
肝心の本人は「うふふっ♪」と手を頬に当てながら、こちらに身体を寄せているが……やっっばいかもしれない。
「……オニイサマ?」
あ、早速ソフィアが早速ブラコンモードに入ってしまった。
マリアは「ぇ……ぇ……?」と理解したくないと思いながら、その場から崩れ落ちる。
ほら見ろ、ジークなんて今にも泣きそうじゃないか……でも一番やばいのは……。
「……おい」
……ローレンスさんです。
「あら、何かしら?」
「お主……アクセルに何を言わせておるのだ?」
「別にいいじゃないのよ。彼に言って欲しい言葉を言わせただけよ」
「……ビッチが」
「……陰キャさん」
ま、まずいぞこれ……。
「……ここで暴れるのは駄目だ。表に出ろ……その性根、叩き潰してやる」
「ふふっ……今の私、誰にも負ける気がしないから……そっちこそ、覚悟しなさいな?」
すると、二人はその場からどこかに消える……だが、分かる。誰もいない場所で大暴れしていると。
と、とりあえず俺は……。
「あの……みんな?」
……ここにいる三人を落ち着かせることにした。
◇
「……じゃあ、今度は私ね」
少し拗ねたようにマリアは俺から目線を外して言う。
「ま、マリア…?」
「……むぅ、アクセルのバカ」
そう言って、俺の胸に飛び込んでくる。
「……心配したんだから」
「わ、悪い……まさかここまでとは思わなくて」
「……じゃあ…私のこと……安心させてね?」
そう言ってギュッ……と強く抱きしめてくる姉に俺も強く抱きしめる。
「ッ!……えへへ……やっぱり、安心するなぁ……」
……うーん、なんかとても気分良さそうにしてるのはいいが……流石にこれだけだと罪悪感が残ってしまうから……少し、サービスする。
「……姉さん」
「ひゃっ!?あ、アクセル!?」
彼女の耳元を囁くように姉さんと呟くと、マリアは素っ頓狂な声を出して、こちらに目線を向けてくる。
同時に姉の身体を先ほどよりも強く抱きしめる。んん…を少し色気が感じさせる声を出す姉。
そんな様子のマリアに容赦なく叩き込む。
「……ずっと、一緒にいますからね?」
「ッ!?!?!?!?!?」
それだけ呟いて、そっとマリアから離れる。すると、彼女は腰が抜けたように尻餅をつきながら……。
「………………ひゃ、ひゃい……」
顔を真っ赤にさせ呂律が回らない返事をした。
うーん……凄いね。超ブラコンのマリアではあるけど、ここまで効果を発揮するとは……ちょっとアクセルに嫉妬しそうだ。
「……おにいさま?」
「あ、あはは……」
またソフィアがブラコンモードになりそうになりながらも、なんとか宥める。
その間にジークがマリアを立たせて、ソファに座らせている。
「マリア、あんたアクセル様に何言われたのよ?」
「あ、ああ、あああアクセルが……わたしといっしょ……いっしょ……」
「………」
その様子にジークでさえ少し驚愕を見せている。うーん……やり過ぎたかな?
「……では、最後にソフィアのお願いを聞いてもらいます」
そして最後は満を持してソフィアの出番が来た。
さて、一体今度は何を頼まれることやら……まぁ特にやばいものは……。
「そ、その………き、きき」
「き?」
「き、きききききききききき………………キスをして欲しいのです!!!!」
「………えぇ…?」
どうやら物凄いお願いのようだ。ただソフィアは何か弁解するように両手を振ってくる。
「あ、あの!おでこ!そう、おでこにして欲しいのです!!口はまだ……は、恥ずかしいので………」
「………」
……はぁ、まぁいつかこうなるだろうなとは思ってたけど……まさか本当に来るとは……。
……仕方ない、腹を括るか。覚悟を決めてソフィアにゆっくりと近づく。
「お、おにい「動かないで」……は、はいぃ……」
自分がお願いしたことなのに今までの比にならないくらい顔が真っ赤だ……思ったけどみんな凄い初心だよね?
唇にするわけでもないのに、目を瞑ってる。その姿だけでも、可愛らしいので困ってしまう。
そんな彼女に掛かっている前髪をどけて、露わになった彼女のおでこに……スッと自身の唇を押し付けた。
「~~~!?!?!?!?!?」
うーん……なんか不思議な気分だ。自身の妹のおでこにキスする……大丈夫かな?
「そ、ソフィア「ひゃいぃいいいいい!!!」……!?」
ソフィアに声を掛けた瞬間、彼女は光のスピードでリビングから出ていった……な、なんだったんだ?
「あの……アクセル様」
すると、ジークが少し困惑した様子のまま声を掛けてくる。
そりゃそうだ。魔女組は暴れ回り、姉は腰を抜かして、妹はどこかに行く……こんなカオスな状況に彼女も戸惑ってしまってる。
「……とりあえず、ゆっくりしようか」
「は、はい」
そうして、彼女達のご褒美はこれにて終幕したが……これからは不必要な発言はしないようにしようと、俺は心の中で決めたのだった。
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