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第85話 短い交流
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あの波瀾万丈の自己紹介が終わった後、今は休み時間を過ごしている。
だが、あんな自己紹介をして当然気が休まるわけもなく……。
「……」
……ある人及びソフィアとマリアはさっきの俺の言ったことが嬉しかったのか、惚けているようにこちらをじっと見続けてるし……。
「……むぅ、なんだか納得しないのだ……」
……ある奴及びローレンスは理不尽を感じてるのか、頭を抑えながら訴えかけるようにこちらジト目で見続けてるし……。
「あ、あはは……」
……ある奴及びジーク、ユニーレ、ナーシャは
俺の自己紹介に関して少し思うところがあるのか苦笑気味だ。
「……みんな、頼むからそんな風に見ないでくれ」
机に頭を伏せながら、俺は疲れたようにみんなに言う。
すると、それがトリガーになったのかソフィアが一気に近づいてきて、興奮気味のまま俺に話しかけてきた。
「お兄様!先ほどの自己紹介、とても……とても素敵でございました!!お兄様にそんな大切に思われて、ソフィアは……感激で胸がいっぱいです!!」
「あはは……ありがとうソフィア。そう思っててくれて嬉しいよ」
「はいっ!」
……うん、なんやかんや思うところもあるけど、この子の笑顔を見れるだけでも十分か。
そう自分に言い聞かせ、切り替えるように俺は次の時刻表を確認する。
「次は……実力試験、か」
「はい、場所は外にある訓練場です。まだ時間はありますが、そろそろ行きますか?」
ナーシャが確認するように、俺に聞いてくる。それに対して俺は……奴らのことを一瞬視界に入れ……判断する。
「……悪い、少し用事があるから先に行っててくれないか?」
「何かやることがあるのかしら?」
「あぁ…まぁ少し世間話をな」
ユニーレの問いかけに対して、話を濁すように詳細は詳しく言わずにそのまま俺は席に立ち上がる。
「ジークもみんなと一緒に先に行っててくれ」
「し、しかし……」
「それとも、ジークは俺がトイレに行こうとしてもついてくるのかな?」
「なぁっ!?け、決してそのようなことは……!?」
俺の言葉を否定するようにジークは顔を真っ赤にさせてぶんぶんと横に振りながら否定してくる。
生真面目な彼女がここで引くとは思えないしな。少し揶揄いも込めて顔をニヤケさせながら言ってやった。
「……あんた、もしかしてむっつりスケベだったわけ?似合わないわよ?」
「そ、そんなわけないでしょ!!変な事言わないで!!」
マリアが顔わ顰めさせながら、ジト目でジークに聞いてくるのに対して、彼女は、らしくもない大声を叫んで否定してくる。
「……コホン。アクセル様、変なことを仰らないでください」
「ごめんごめん、てことだからみんなと一緒に行ってくれるか?」
「……分かりました、納得はしていませんが……それなら仕方ありませんね」
頬を赤らめさせながらも、俺の言ったことを遂行してくれる彼女に感謝を伝えながら、俺は教室を出ようと席に立ち上がる。
「じゃあみんな、また後で」
そう言って俺は……少しでも奴らと交流しやすいところに誘き出す。そっちの方が奴らも都合がいいだろう。
◇
「……さてさて、と。一体誰が来るのやら」
人気のない校舎裏の壁にもたれかかりながら、どこまでも広がっている青空を見上げながら考える。
「……あら、もしかして待っててくれましたか?」
するとさっきの威厳ある雰囲気とは違い、少しあどけなさが残る年相応の声が聞こえてきた。
「……あんなに見つめられたら、嫌でも気づきますよ。先に来て待ってましたよ」
そう言いながら、ラベンダー色の髪をたなびかせながら、こちらに近づいてきてる人物に目をやる。
「うふふ、お優しいお方ですね……改めて」
立ち止まったところで彼女は、自己紹介をした時と同じように優雅なカーテシーを披露した。
「ローズ・ネファース・ミレイスです。よろしくお願いしますね…アクセル・アンドレ・レステンクール様」
「……ご丁寧にありがとうございます。王女様」
「あら、嫌ですわ。ここでは全員が平等で、仲良くできる学園世界……敬語なんていりませんわよ?」
「元々、そのような柄ではありませんので」
「もう、意地悪なお方ですこと」
そう言いながらも、彼女は口に手を当てて微笑みを見せてくる。
「……やはり、ナーシャちゃんから聞いた通り、不思議なお人です」
ぼそっと呟いた言葉に俺はつい顔を顰めてしまう。当然だ。王女様に、それもメインヒロイン様に興味を持たれるなんて、アレスで十分だ。俺は役不足すぎる。
「……私よりも、もっと貴方のご興味をそそられる人はたくさんおらっしゃいます。たとえば……アレスさん、とか」
「アレスさん……?あぁ、そういえばいましたね。そのような人物」
……ん?なんか、思ってた反応と違う?
原作だともっとこう、凄い興味を持ってたような……だって自己紹介でアレスのことを興味を持たれたわけだし……今の彼女の表情を見ると、まるでそんな人物、目にないと言ってるような……。
「……そんな人よりも私は、貴方に興味がございますわ。私でも掴めないその人柄……とても、興味をそそられます」
目を細めて、口を弧に結びながら、俺の方を見てくる。それは王女としてではなく、個人としても興味を持たれてるように感じてしまった。
「私などのような辺境に所属する貴族、貴方様に興味を持たれるような物は持っておりません」
「んもうっ、少しは自信を持ったらどうなんです?これでも私、一個人にこういうことはしませんのよ?」
「偶然でしょう、きっと王女様の気のせいでございます」
「……ほんとに意地悪なお方ですね。でも……ふふ、益々貴方という個人を見たくなりましたわ」
そう言って彼女は来た道を戻るように振り返る。
「本当はもう少し話したいのですが……どうやら他にもお客さんがいるようなので、今日はここで失礼いたしますわ」
「そうですか……では王女様、またの機会を」
「はい、またの機会を……アクセルさん」
最後に別れの挨拶を言い出して、彼女はその場から立ち去った。
「……さん付けは俺じゃなくて、アレスに言ってやってくれ」
ドデカいため息を吐きながら、そんなことを呟いてしまう。
「……ほんとに、今関わってみても益々思えないな」
——深淵と表現してもいいほどの、深すぎる闇を持ってるには。
原作を読んでみないと、ほんとに分からない……彼女の「闇」
「……まぁ、今はそんなことよりも」
余計な考えを捨てて、前に目をやる。すると彼女と入れ替わるように、その神々しさを隠さないで、そのままこちらに歩み寄ってる人物の姿が映った。
「……ローズ様には先を越されましたか……彼女に引き続いて申し訳ありません」
「……いえ、聖女様。寧ろ、私個人のために時間を割いてしまい、申し訳ありません」
「そのようなことを仰らないでください。今の私たちは平等……仲良くしていきましょう?」
そんな掛け合いをして聖女……ルシアは姿勢を正して、ローズと同じように自己紹介をしてきた。
「ルシア・ラングレーです。改めてよろしくお願いします……アクセル様」
「……はい、わざわざありがとうございます聖女様。こちらこそよろしくお願いします」
自己紹介は……いらないな。
どうやら、彼女は俺に聞きたいことがあるようだからな。
「……それで、聖女様。一体私のような人物にどのようなご用が?」
「……二年前に起きた、ペレク家国家転覆未遂事件……その時に彼らはある人物に毒を盛りました」
「……」
「この世界での毒はご存知でしょう?取り込めば死……最早私たち人間にとっては天災そのもの。その人物もまた、数日間意識を失っておりました」
ですが……と言葉を遮り、引き続いて彼女の……聖女ルシアの話は続く。
「……その人物はある日を堺に消えました。まるで、そこにはなにもなかったかのようにです……」
「……何が言いたいのですか?」
「単刀直入に聞きます……毒を投与しても尚、生き残った人物……それは、アクセル様ではないのですか?」
その言葉から、彼女は一体何を思ったのだろうか?
救えなかった人へと後悔による懺悔だろうか、それともやっと見つけた毒を治せる逸材による喜びだろうか?……それは、原作を知っている俺でも分からない。
でも、一つだけ分かる。
……この問いの返し方で、彼女の運命は大きく変わると。
「……そうですね、その人物とはおそらく私でしょう」
「では…!「ですが」…!」
「……おそらく、貴方が頼もうとしてくるものに私は首を縦に振ることは出来ません」
「ッ!……気づいていた、のですか?」
「えぇ、お優しい聖女様のことです……毒の治し方を知りたいのでしょう?」
「……それを知って、何故お断りを?」
憂いてるような表情に変えて、ルシアは俺に問いてくる。
やっと助けられるかもしれない人たちを救えないことは彼女にとってはとても悔しく、悲しいものだろう。
「それは私の役割ではないからです」
「役割……?」
「はい、私のような人物が沢山の人を救う……それは、私では荷が重すぎます」
どれだけ沢山の人たちを救おうと、俺には悪役というレッテルがある。
……そんな役割は俺には似合わない。これは……主人公であるアレスの役割だ。
何せ、彼がきっかけ与えてくれることにより彼女はあの魔法を使えるようになるのだから。
俺が彼女を救う時は……彼女が聖女から復讐者へと返り咲くのを防ぐ時だけだ。
「……分かりました……ですが、一つだけ頼んでも?」
「……なんでしょう?」
「今も神殿には、沢山の人たちが救けを求めています……私では、救いきれません……ですからどうか!……どうか、救える命を……救ってはくれませんか……?」
それは懇願であった。救いたいのに救えない、自分の無力さ……それを抱きながらも、救える命があるならば、自分はどんなことになっても構わない……そう伝えてるような気がしてならなかった。
「……考えておきます」
……だが、俺には似合わない。俺は知らない人たちを救うほど……優しい人間ではない。
でも彼女はその答えでも十分だったのか、手を重ね合わせ、祈るような体勢になり……。
「……ありがとう、ございます」
……そんな、俺には似合わないお礼の言葉を吐いた。きっと、彼女自身責め続けたのだろう、命を救えなかった後悔を彼女は昔も今も……そしてこれからも、抱き続けるのが目に見えて分かった。
……本当に、優しいお人だ。そして……報われない。
「……話は終わりですか?ならば、早く行かなければですよ?」
「……そう、ですね。ではアクセル様……私、お待ちしておりますから」
それだけ呟いて、彼女は一礼して、その場から去っていった。
その姿は、神々しさと同時に……悲しみを漂わせてるようにも見えてしまった。
「……俺も、行きますか」
切り替えるように身体をほぐして、訓練場に赴いたのだった。
だが、あんな自己紹介をして当然気が休まるわけもなく……。
「……」
……ある人及びソフィアとマリアはさっきの俺の言ったことが嬉しかったのか、惚けているようにこちらをじっと見続けてるし……。
「……むぅ、なんだか納得しないのだ……」
……ある奴及びローレンスは理不尽を感じてるのか、頭を抑えながら訴えかけるようにこちらジト目で見続けてるし……。
「あ、あはは……」
……ある奴及びジーク、ユニーレ、ナーシャは
俺の自己紹介に関して少し思うところがあるのか苦笑気味だ。
「……みんな、頼むからそんな風に見ないでくれ」
机に頭を伏せながら、俺は疲れたようにみんなに言う。
すると、それがトリガーになったのかソフィアが一気に近づいてきて、興奮気味のまま俺に話しかけてきた。
「お兄様!先ほどの自己紹介、とても……とても素敵でございました!!お兄様にそんな大切に思われて、ソフィアは……感激で胸がいっぱいです!!」
「あはは……ありがとうソフィア。そう思っててくれて嬉しいよ」
「はいっ!」
……うん、なんやかんや思うところもあるけど、この子の笑顔を見れるだけでも十分か。
そう自分に言い聞かせ、切り替えるように俺は次の時刻表を確認する。
「次は……実力試験、か」
「はい、場所は外にある訓練場です。まだ時間はありますが、そろそろ行きますか?」
ナーシャが確認するように、俺に聞いてくる。それに対して俺は……奴らのことを一瞬視界に入れ……判断する。
「……悪い、少し用事があるから先に行っててくれないか?」
「何かやることがあるのかしら?」
「あぁ…まぁ少し世間話をな」
ユニーレの問いかけに対して、話を濁すように詳細は詳しく言わずにそのまま俺は席に立ち上がる。
「ジークもみんなと一緒に先に行っててくれ」
「し、しかし……」
「それとも、ジークは俺がトイレに行こうとしてもついてくるのかな?」
「なぁっ!?け、決してそのようなことは……!?」
俺の言葉を否定するようにジークは顔を真っ赤にさせてぶんぶんと横に振りながら否定してくる。
生真面目な彼女がここで引くとは思えないしな。少し揶揄いも込めて顔をニヤケさせながら言ってやった。
「……あんた、もしかしてむっつりスケベだったわけ?似合わないわよ?」
「そ、そんなわけないでしょ!!変な事言わないで!!」
マリアが顔わ顰めさせながら、ジト目でジークに聞いてくるのに対して、彼女は、らしくもない大声を叫んで否定してくる。
「……コホン。アクセル様、変なことを仰らないでください」
「ごめんごめん、てことだからみんなと一緒に行ってくれるか?」
「……分かりました、納得はしていませんが……それなら仕方ありませんね」
頬を赤らめさせながらも、俺の言ったことを遂行してくれる彼女に感謝を伝えながら、俺は教室を出ようと席に立ち上がる。
「じゃあみんな、また後で」
そう言って俺は……少しでも奴らと交流しやすいところに誘き出す。そっちの方が奴らも都合がいいだろう。
◇
「……さてさて、と。一体誰が来るのやら」
人気のない校舎裏の壁にもたれかかりながら、どこまでも広がっている青空を見上げながら考える。
「……あら、もしかして待っててくれましたか?」
するとさっきの威厳ある雰囲気とは違い、少しあどけなさが残る年相応の声が聞こえてきた。
「……あんなに見つめられたら、嫌でも気づきますよ。先に来て待ってましたよ」
そう言いながら、ラベンダー色の髪をたなびかせながら、こちらに近づいてきてる人物に目をやる。
「うふふ、お優しいお方ですね……改めて」
立ち止まったところで彼女は、自己紹介をした時と同じように優雅なカーテシーを披露した。
「ローズ・ネファース・ミレイスです。よろしくお願いしますね…アクセル・アンドレ・レステンクール様」
「……ご丁寧にありがとうございます。王女様」
「あら、嫌ですわ。ここでは全員が平等で、仲良くできる学園世界……敬語なんていりませんわよ?」
「元々、そのような柄ではありませんので」
「もう、意地悪なお方ですこと」
そう言いながらも、彼女は口に手を当てて微笑みを見せてくる。
「……やはり、ナーシャちゃんから聞いた通り、不思議なお人です」
ぼそっと呟いた言葉に俺はつい顔を顰めてしまう。当然だ。王女様に、それもメインヒロイン様に興味を持たれるなんて、アレスで十分だ。俺は役不足すぎる。
「……私よりも、もっと貴方のご興味をそそられる人はたくさんおらっしゃいます。たとえば……アレスさん、とか」
「アレスさん……?あぁ、そういえばいましたね。そのような人物」
……ん?なんか、思ってた反応と違う?
原作だともっとこう、凄い興味を持ってたような……だって自己紹介でアレスのことを興味を持たれたわけだし……今の彼女の表情を見ると、まるでそんな人物、目にないと言ってるような……。
「……そんな人よりも私は、貴方に興味がございますわ。私でも掴めないその人柄……とても、興味をそそられます」
目を細めて、口を弧に結びながら、俺の方を見てくる。それは王女としてではなく、個人としても興味を持たれてるように感じてしまった。
「私などのような辺境に所属する貴族、貴方様に興味を持たれるような物は持っておりません」
「んもうっ、少しは自信を持ったらどうなんです?これでも私、一個人にこういうことはしませんのよ?」
「偶然でしょう、きっと王女様の気のせいでございます」
「……ほんとに意地悪なお方ですね。でも……ふふ、益々貴方という個人を見たくなりましたわ」
そう言って彼女は来た道を戻るように振り返る。
「本当はもう少し話したいのですが……どうやら他にもお客さんがいるようなので、今日はここで失礼いたしますわ」
「そうですか……では王女様、またの機会を」
「はい、またの機会を……アクセルさん」
最後に別れの挨拶を言い出して、彼女はその場から立ち去った。
「……さん付けは俺じゃなくて、アレスに言ってやってくれ」
ドデカいため息を吐きながら、そんなことを呟いてしまう。
「……ほんとに、今関わってみても益々思えないな」
——深淵と表現してもいいほどの、深すぎる闇を持ってるには。
原作を読んでみないと、ほんとに分からない……彼女の「闇」
「……まぁ、今はそんなことよりも」
余計な考えを捨てて、前に目をやる。すると彼女と入れ替わるように、その神々しさを隠さないで、そのままこちらに歩み寄ってる人物の姿が映った。
「……ローズ様には先を越されましたか……彼女に引き続いて申し訳ありません」
「……いえ、聖女様。寧ろ、私個人のために時間を割いてしまい、申し訳ありません」
「そのようなことを仰らないでください。今の私たちは平等……仲良くしていきましょう?」
そんな掛け合いをして聖女……ルシアは姿勢を正して、ローズと同じように自己紹介をしてきた。
「ルシア・ラングレーです。改めてよろしくお願いします……アクセル様」
「……はい、わざわざありがとうございます聖女様。こちらこそよろしくお願いします」
自己紹介は……いらないな。
どうやら、彼女は俺に聞きたいことがあるようだからな。
「……それで、聖女様。一体私のような人物にどのようなご用が?」
「……二年前に起きた、ペレク家国家転覆未遂事件……その時に彼らはある人物に毒を盛りました」
「……」
「この世界での毒はご存知でしょう?取り込めば死……最早私たち人間にとっては天災そのもの。その人物もまた、数日間意識を失っておりました」
ですが……と言葉を遮り、引き続いて彼女の……聖女ルシアの話は続く。
「……その人物はある日を堺に消えました。まるで、そこにはなにもなかったかのようにです……」
「……何が言いたいのですか?」
「単刀直入に聞きます……毒を投与しても尚、生き残った人物……それは、アクセル様ではないのですか?」
その言葉から、彼女は一体何を思ったのだろうか?
救えなかった人へと後悔による懺悔だろうか、それともやっと見つけた毒を治せる逸材による喜びだろうか?……それは、原作を知っている俺でも分からない。
でも、一つだけ分かる。
……この問いの返し方で、彼女の運命は大きく変わると。
「……そうですね、その人物とはおそらく私でしょう」
「では…!「ですが」…!」
「……おそらく、貴方が頼もうとしてくるものに私は首を縦に振ることは出来ません」
「ッ!……気づいていた、のですか?」
「えぇ、お優しい聖女様のことです……毒の治し方を知りたいのでしょう?」
「……それを知って、何故お断りを?」
憂いてるような表情に変えて、ルシアは俺に問いてくる。
やっと助けられるかもしれない人たちを救えないことは彼女にとってはとても悔しく、悲しいものだろう。
「それは私の役割ではないからです」
「役割……?」
「はい、私のような人物が沢山の人を救う……それは、私では荷が重すぎます」
どれだけ沢山の人たちを救おうと、俺には悪役というレッテルがある。
……そんな役割は俺には似合わない。これは……主人公であるアレスの役割だ。
何せ、彼がきっかけ与えてくれることにより彼女はあの魔法を使えるようになるのだから。
俺が彼女を救う時は……彼女が聖女から復讐者へと返り咲くのを防ぐ時だけだ。
「……分かりました……ですが、一つだけ頼んでも?」
「……なんでしょう?」
「今も神殿には、沢山の人たちが救けを求めています……私では、救いきれません……ですからどうか!……どうか、救える命を……救ってはくれませんか……?」
それは懇願であった。救いたいのに救えない、自分の無力さ……それを抱きながらも、救える命があるならば、自分はどんなことになっても構わない……そう伝えてるような気がしてならなかった。
「……考えておきます」
……だが、俺には似合わない。俺は知らない人たちを救うほど……優しい人間ではない。
でも彼女はその答えでも十分だったのか、手を重ね合わせ、祈るような体勢になり……。
「……ありがとう、ございます」
……そんな、俺には似合わないお礼の言葉を吐いた。きっと、彼女自身責め続けたのだろう、命を救えなかった後悔を彼女は昔も今も……そしてこれからも、抱き続けるのが目に見えて分かった。
……本当に、優しいお人だ。そして……報われない。
「……話は終わりですか?ならば、早く行かなければですよ?」
「……そう、ですね。ではアクセル様……私、お待ちしておりますから」
それだけ呟いて、彼女は一礼して、その場から去っていった。
その姿は、神々しさと同時に……悲しみを漂わせてるようにも見えてしまった。
「……俺も、行きますか」
切り替えるように身体をほぐして、訓練場に赴いたのだった。
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