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第43話 家族デート②

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あの二人がどこかに行った後、どうすればいいか分からなかったのでとりあえず観光することにした。

「ん?」
街を観光していると、食欲を唆る香ばしい匂いが漂ってきた。

「これは?」

「おう、坊主ほしいのか?あぁいや貴族の坊っちゃんだったか?」

「いやそういうのはいらない。それよりもこれは何なんだ?」
店の店主は少し仰々しい態度になりそうになったが、今は一人ということもあり、礼儀はいらないと促す。すると、ふぅと息を吐いて話し出した。

「あんた、良い貴族なんだな。これはな、ここから南にある港町で発見された新種の海洋生物を使っているんだ。またこれが今までと違う食感で凄いうまいんだぞ?」

おぉ...そんな凄い海洋生物がいるのかと感嘆に思い見てみると....これ、うなぎじゃね?
大きさは違うが、この蛇と似ているこの円筒形の体、暗褐色の体色、尾まで繋がっている背ビレ………うん、うなぎだわこれ。

あの作者、うなぎも出していたんだった……まぁそんなことはいいや。

「店主、金は払うから三本もらえないか?」

「おう!三本な、いやぁ他の貴族と違ってあんたは物分かりが良くて助かるぜ~」

何やってるんだよこの世界の貴族は……
高貴な貴族である私がこんな庶民の食い物ごときに金を払うだと!?とか言ってないだろうな?

この世界の貴族に呆れながらも、うなぎの串焼きを三本貰い、二人を待つことにした。


「…………ん?あれかな?」
おーい二人とも~、と呼ぼうとしたが……その不機嫌極まりない雰囲気を纏っている姉妹の姿を見て口を動かそうにも動かせない。

その後ろにはさっきナンパをしていた男達なのだが、様子は一変し身体はだらっとして、目は生気がないんじゃないかと思わせるぐらい真っ黒で、口も涎が出るのではないかと思うくらい開いている。

いや何があったんだよ?
見た目は特に異常ないように見えるけど……

「……じゃあここで解散してちょうだい。もしさっきの事を誰かに言おうとすれば………分かるわよね?」

「「「ひ、ひぃぃぃぃ!!」」」
おそらく姉がなにかを言ったのだろう。言い終わった瞬間、男達は即時に脱兎のごとく去っていった。
………ほんとに何があったんだよ?

「はぁ…こんなことに時間をかけてしまいました……せっかくお兄様との貴重なデート時間なのに」

「私もいるのだけどね?…まぁアクセルならすぐそこにいるわよ」

姉さんがこちらを指差した瞬間、ソフィアの顔は怒りに満ちた表情から嬉しそうな表情に変化し、すぐに駆け寄ってきた。

「お兄様!遅くなってしまい申し訳ありません。お会いしたかったです!」

「おかえりソフィア、いやそこまで待ってないから大丈夫だぞ」

理由は聞かないでおこう…それを知ったら後悔すると思った俺は動揺を顔を出さないようにソフィアと話す。

「ごめんねアクセル、お姉ちゃん達の都合で待たせちゃって」

ソフィアがすぐに駆け寄ってきたのに対して、姉はいつもと変わらず歩いてこちらに寄ってきた。
珍しく姉らしい、と心の中で思いながらも返答する。

「大丈夫ですよ。姉さん達がいない間、二人に似合いそうな物を買ってましたから」

「へ?」

「ソフィア達に、ですか?」
俺の発言に二人が呆気に取られている間に、さっき買った物を取り出す。

「ソフィア、手を出して?」

「え?あ、はい…」
こちらに差し出されたソフィアの薬指にそれをはめる。ソフィアは指を見ながら頭が追いつかないのかぼけっとしている。

「お、お兄様、これは?」

「ソフィアと姉さんがいない時に少しアクセサリー店に行ったんだ。その時にその指輪がソフィアに似合いそうだなって思ったんだ」

繊細でシンプルな見た目だが、派手すぎず控えめなデザインがより彼女のお淑やかなな雰囲気を引き出せる、ソフィアだからこそ似合う指輪だ。

「俺の独断と偏見で選んだんだが……その、気に入らなかったらつけなくても……」

「いえ…」
俺の言葉を否定するかのように首を横に振り小さく呟いた。

「……ほんとうに、ほんとうに嬉しいです…!」
ソフィアは大切なものを包むかのように身につけている指輪を触れると、とびっきりの笑顔を見せながらこちらを向いた。

「……ありがとうございます、お兄様……この指輪…生涯大切にします…!」

その笑顔は、今まで見てきた中で前世も含めて一番と言ってもいいだろう。

それが見れただけでも買った甲斐があったというものだ。
そして俺は別のアクセサリーを出して、もう1人の大切な人物の方に向かう。

「姉さん、少し後ろを向いてもらえますか?」

「え、えぇ…」

姉さんが後ろを向いたので俺はその細くて美しい首筋を傷つけないように慎重につける。

「………え?」

つけ終わったので、姉さんから離れると、姉さんは首につけた物を確認するかのように手で持ち上げ、目を見開く。

「姉さんにはそのネックレスを。普段何も身につけていませんが、こういうアクセサリーも好きそうだったので……」

こちらもソフィアと同じようにシンプルな見た目だが、その細かなリンクが華奢な首元を包み込み、彼女の肌に美しく映えていた。
マリア姉さんがつけることでどこか洗練された印象を与えてる。

「………何度も、何度もそうよ……どうしてこんな……初めてよ…」

姉さんは誰にも聞こえないようにぶつぶつと言っており、その姿を見た俺は少し不安になった。

「ね、姉さん?もしかして嫌でしたか?それなら外しても……」

いい終わる前に視界が真っ暗になった。
それに少し苦しい気がする……もしかして姉さんに抱きしめられたのか?

「……ありがとう……ありがとう………」


その言葉だけ反芻して特に何も言わない。
ただ涙声が漂っていた。
それは今まで耐えてきたのが崩れ去るような、報われたような……そんな心情が声から滲み出た気がする。

(……もしかしたら姉さんは……俺の知らない所で………)

……いや、今はやめよう。
深追いするのは、この運命を捻じ曲げてからだ。そう思いながら、姉さんに抱きしめ返した。





あれから二人は落ち着いたのか、再び家族デート?が始まったのだが……

「………」

「………」
…これ、また見た気がする。
ただ今度は別の意味で気まずいのだ。
それが、二人ともさっき渡した指輪とネックレスをまじまじと見て幸せそうにしているのだ。

それにたまに俺の方を見てはうっとりとしているし、こちらが顔を向けると頬を染めて逸らすのだからこちらも困ってしまう。


「あ、あの二人とも?そんなに見られると困るのですが…」

そう指摘すると二人とも慌てたように顔を背けたり、手をあたふたしたり、目が泳いだりする。
………流石は姉妹、こういう所は似ているのだな。

「す、すす、すみません!?その………何故かお兄様の方をずっと見てしまうんです。いつもよりも更にかっこよくみえて……そ、そうですよねお姉様!!」

「え、えぇ!そうね、そうよ!いつもよりもかっこよく……って何言ってるのよ!そんなの当たり前……え…えっと……ど、どうしてこんなドキドキするの?あ、アクセルの顔が見られないわ……」

……この人達、さては混ぜたら危険だな?
あの魔女組とは別の意味でカオスな状況に俺は頭を抱えた。

「ど、どうしますか?今日はやめておきます?」

「「それはいや(です)」
ここは息ぴったりなのね。それと同時にいつも通りに戻るのだから流石としか言わざるおえない。

「それなら楽しみましょう?久しぶりに2人と一緒にいたいですから」

そう言うと、2人はお互い顔を見合わせてふふっと笑い合っていた。

「そうね、せっかく2人と会えたのだから楽しまなきゃ損ね」

「それにソフィア達が王都にいられるのはそう長くありません。それならお兄様の言った通り楽しみましょう」

すると二人ともいつも通りに戻ったのか、俺の手をとって歩き始めた。

「「いきましょう!」」

その眩しい笑顔に俺はさっきまでの出来事を振り返り苦笑してしまう。

二人にはそれぞれ何かに囚われているかもしれない。それが悩みであれ、しがらみであれだ。

ただ今は、今だけはしがらみも、悩みも関係ない。純粋に楽しみたいという気持ちがしっかりと伝わった。

その純粋な想いだけが残っている二人の姿は……おそらく原作ではきっと見ることが出来ない最高の姿だと断言出来た。

俺も今は楽しもう、それだけ気持ちを残して
久しぶりに三人で王都を周りあったのだった。











「………」
とある屋敷の中、その中に三人の人物がいた。

「……それで、英雄ブリュンヒルデの様子は?」

「えぇ、見てきたけれど、あれだと気づいた様子はないわね……名だけの女ってことね」

ふんっと鼻をならし、彼女のことを毛嫌いそうにしている。

「喚くな、セミカ・イべルアート。焦らなくてもチャンスは来る。それまで時を待て」

「…偉そうにしないでもらえるかしら?私は別に貴方の下僕になったつもりはないわよ。
ゼノロア・ペレク」

ここは、とある屋敷の中。
そしてその屋敷の主の家名は……ペレク
その当主の名前はゼノロア・ペレク
アクセルの忌み敵として立ちはだかる者である。

「あの家には俺にも個人的な因縁があるのだ。……マエル・アンドレ・レステンクール
奴だけは許さん」

「貴方も人の事言えないじゃない…」

「お前とは違う……それでそちらはどうなのだ?」
ゼノロアはその場にいるもう1人の人物に聞く。

「…こちらも準備は出来た。後は貴様ら次第だ」
その声からは人間と感じられない……ただそんなもの二人には関係ないのだろう。いつも通りにしている。

「そうか…でかした。終わり次第、約束の物を用意する」

「当然だ。もし約束を破れば……その時は分かるな?」

たたならぬ圧を出しながら問うが、ゼノロアはそんな圧を軽々しく受け流す。

「なに、心配することはない。しっかりと用意はしてある」

「……ならいい」

ゼノロアは椅子から立ち上がり、今も不穏な空気を醸し出している空を見上げながら口角を上げる。


「待っていろレステンクール家の者よ。今すぐにでもお前達を悲劇の運命へと導いてくれる……!」


男爵会議が始まろうとする中、両者が衝突するのはもはや時間の問題だろう。

……ただ彼らは重大なミスを犯していた。
彼らが一番警戒する相手はかの英雄ブリュンヒルデではない——

「お兄様!これはどうでしょうか?
きっとお兄様ならこのエレガントな服も着こなすことが出来るはずです!」

「ソフィア、そっちも確かにいいけれどこっちの方が私は好きよ。さぁアクセル、お姉ちゃんと一緒に着替えましょうね~」

「いや、あの姉さん?一人で着れますし…なんか、凄く派手なのでは?もう少し落ち着いた服の方が助かるのですが……」



——最大に警戒するべき人物は悲劇の悪役と呼ばれた彼なのだから。
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