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七区の少年は夢を語る

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 眼前広大に広がる自然。ここは自然界と人間界の境界線。

 今、俺が立っている場所は人間界で一般人がギリギリ入ることができるラインの真上だ。
 自然界というのはおっかいない場所ってのは理解はしている。一般人が入ったら良くて生存できるのは1日と言われるほどの危険地帯というか、立入禁止区域だ。
 数年前から、こそこそと削ってようやく穴が空いた外の世界への入り口、ここを超えれば立派な犯罪者だが気にする事はない。探究心に身を任せて、ほんの数十メートルの梯子を降りていくだけだ。今回はそれだけでいい。
 死ぬのは真っ平ごめん、試験の前の視察と資金集め。それだけだ。

 1日分ほどの水と食料を入れたカバンと一本の槍を背負って梯子を降りて樹海へと足を踏み入れた。元は市街地であったであろう建築物たちが自然に覆われている、いや飲み込まれていると言った方が正しい。樹海から上を見上げてみたが、七区がとてつもなく遠く見えた。

「ここが、樹海。まるで迷路だなこりゃあ。一度迷ったら確かに抜け出せそうにもない。数十分したら家に帰ろう。」

 そう決めて、樹海となった市街地を探索する。
 少しハシゴから離れたところにあった草木に覆われた二階建ての民家を目標に絞って探索する。

 扉までガッチリと根が張った民家、扉にまだ根が張ってるところを見るに、ここなら誰も漁ってないだろう。区の近くだというのにラッキーだ。

 ツタなどを使って2階のベランダまで登って、槍の矛先で窓ガラスを割ってやると簡単に中に入ることができた。
 部屋の中は緑が茂っているが、4Kテレビに漫画らしきものが陳列された本棚にテレビの下にはレトロなゲーム機があり、元住民の持ち物などはほとんど残っているようだ。

「うっひよー!まるで宝の山だなこりゃ!」

 現在では貴重とされるコミック漫画たちは状態がよく、尚且つプレミヤ付いている持ち運びができるレトロゲーム機までもが揃っている。売りに出せば本来の目的にプラスして軽く1ヶ月は生活には困らないだろう。

 袋を取り出して慎重にそれらのお宝を閉まっていると。ドンッ!と近くで音がした。

 身体に緊張が走り息を呑む。

 まさか、こんなとこにいるのか!?いくら自然界といっても、ここは七区の近く。こんなとこで湧くはずがない!

 恐る恐る入ってきた苔まみれの割れた窓から外を見る。
 そうすると、外には湧くはずもないアイツがいた。

 自然界で生まれた動植物が一定の確率で突然変異を起こして産まれる超自然的存在、その名をクリーチャー。

 そしてクリーチャーの視線がこちらに向く。

 クリーチャーは建物の中にいる獲物を補足して、民家へと突撃する。

「まずい!気付かれた!?」

 思わず声に出てしまった。これで確実にいるとバレてしまった。急いでここから脱出しなければ!

 ベランダから飛び出して、全速力で急いで来た道を戻ろうと樹海の中を走る。
 相手は見た目から図鑑で見たおそらくイノシシがクリーチャー化したものだろう、このまま目的地に真っ直ぐに走っても到底クリーチャー化したイノシシの速度を振り切れるわけがない。そう考えて市街地の中を回るようにクリーチャーとの距離を離そうと走り続ける。

 見ず知らずの市街地の中、到底地形の把握が出来ているわけでもなく、行き止まりを引いてしまった。

 このままでは死ぬ。だったら少しでも生存できれば、救援が来るかもしれない。そんな甘い考えをしながら、槍を構えてクリーチャーを睨みつける。

 クリーチャーはそんな俺を見て弱者と気付いたのか猛突進を仕掛けてくる。

 初めてのクリーチャーとの戦闘。槍で応戦しようと動きを見切れる筈がなく、突進を食らって壁へと叩き付けられる。
 その衝撃で口から胃液が吐き出た。

 まるで宛らバトル漫画のやられ役。そんな死にそうな自分に笑う。

「ここで死ぬのかな、俺?」

 せめて自分のZONEくらいは知りたかったな。

 壁に打ち付けられた自分にトドメを刺そうとクリーチャーが向かってくる。

 そう消えそうな意識の中で死ぬ寸前だというのにくだらないことを考えていると。

 目の前に火柱が立ち、クリーチャーを焼き払う。

 そして顔面に水のようなものをぶっかけられて、意識が戻り始める。そうするとボンヤリとしながらも女性の声が聞こえてきた。

「おっ、目が開いてきたな。そこの坊主、お前、ハンターって感じもしないな。どこの区の出身だ?」

「……」

「答えは…沈黙か。詳しいことは後だ。今はクリーチャーこいつをぶっ倒すから、そこでじっとしてな。」

 褐色肌で金茶髪、身長は大体185cm。ところどころ、甲冑のようなものが付いた服に、包帯でぐるぐる巻きにした大剣を片手持ちでこちらに背を向けるその女性は、辛うじて生きながらえていたクリーチャーの突進を軽々と受け止めて、その巨体を大剣で真っ二つに切り裂いた。

「ははは、すげぇや。」

 感動だった。初めて見た狩りにこんな状態の癖してワクワクしていた。

「坊主、立てるか?」

 俺は立って女性の方を見る、すると。

 バチンッ!

 市街地にビンタの音が響く。それに続けて女性が怒鳴り声を上げる。

「お前!馬鹿なのか!?ハンターの資格も無いで自然界に降りてきやがって、私がいなかったら、死んでたんだぞ!とにかく、お前を今から区に戻す。親の名前と住所は?」

「親なんかいねぇよ。家もねぇ。」

「もしかして、捨て子か?こんな時代だってのに……自分の名前はわかるのか?」

星谷世一ほしやよいち

「なるほど、じゃあ星谷。お前はなんでこんな事したんだ?」

「資格が欲しいんだよ。だから、自然界で良さげな骨董品を掻っ捌いて、試験の糧にしようとした。」

「資格っていうと、ハンター試験か?」

「そうだよ。ハンターになって金稼いで、アンタみたいなカッコいいハンターになりてぇんだ。」

「なんでハンターを選んだ?他の職業でもいいと思うが。」

「俺みたいなヤツは、社会に出たところで昇進なんかできやしねぇ。変に気遣いされても気持ち悪くなるだけだ。でもハンターは違う!クリーチャーから区を守って、自然界の恐怖から人間界を守る英雄だ。そこに必要なのは純粋な力のあるヤツが、その名を名乗れる!」

 星谷は意気揚々と話すが、女性はそれを止めるように言う。

「だが、そんなハンターはごく僅か。私のような無名ハンターがゴロゴロいる。お前もそんな無名に、落ちこぼれになりたいのか?」

 星谷はその静止を跳ね除けて言う。

「いいや、俺は力ある名の名乗れるハンターになりたい!!だから、アンタみたいなカッコいいハンターの下で修行させてくれ!」

 女性は頭を抱え少し考えた後に星谷に話しかける。

「どうせ、私がほっといても。またお前はおんなじ事して死ぬだけだからな。いいだろう。星谷、今日からお前を私の弟子にする。それと、私の名前はそうだな、オルキスと呼んでくれ。」

「えっ!いいのか!?やったー!!!ありがとう!オルキス!!!」

「ただし、私が許可するまで一人で自然界に入ることは許さない。お前の姿を見て真似する馬鹿が増えるといけないんでな。とりあえず、私の家に行くから着いて来い。」
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