上 下
59 / 83

第五十九話 ンガイの森はやはり燃える。

しおりを挟む
 俺たちは一頻りンガイの森でのデートを楽しんだ。長くも短い間であったが、月島ちゃんとの仲はそれなりに深まった気がしていた。
 時刻は十八時頃、夕暮れに空が赤く染まりまるで火が燃えるような美しさの中、俺たちは帰り際に綿飴を齧り合いながら入場ゲートへと足を運んでいた。

 悟「今日は楽しかったな。」

 月島「はい、とっても。」

 悟「たまには、こんな日があっても良いかなって…」

 月島「そうですね。」
 
 楽しかった時間の終わり、少し寂しくもあったが、とっても貴重な時間を過ごせた事に俺は満足していた。


 満足してしまっていた


 ゲートに近づくにつれて、人の波がそれと真反対の方へと流れていくのを見た。

 時間はとっくに閉園時間の10分前を切ろうとしていたのにも関わらず人の波がゲートから遠ざかるように流れる。

 悟「なんだなんだ?」

 月島「悟さん。今って閉園時間の10分前くらいですよね?何でこんなにゲートから離れているんでしょう?」

 悟「今日は特にスペシャルイベントみたいなものなんてなかったはず……まさか!?」

 俺は波に逆らいながら、ゲート前へと足を進めるとその光景に絶句する。

 火、火、火、至る所に燃え広がる炎がゲート前を包み込んでいた。

 悟「なんだよ…これ……」

 「止めて、こっちに来ないで。キャァァァァ!!!」

 鳴り響く悲鳴、その方へと視線を向けるとそこにいたのは、ゴムのような弾力の皮膚を持つ恐ろしい人型の化け物、食屍鬼グールたちであった。

 悟「なんで、こんなところにグールがいるんだ!?しかも複数体。」

 [悟 正気度ロール (87)→成功(46)]
 
 SANチェックが発生しやがった!?つまり今、シナリオが発動しやがったのか!?
 
 月島、ニャル子「悟さん!」

 悟「おい、ニャル!どうなってるか説明しろ!なんでンガイの森が燃えてグールが発生してんだ!」

 ニャル子「僕にもわからない。」

 悟「お前でもわからないってのかよ。じゃあ他の入場者は?」

 ニャル子「それは私の分身たちが、対処してます。それにわからないと言ったのは訂正しよう。一つだけわかってることがある。」

 悟「それは?」

 ニャル子「このパーク内のどこかに統率個体がいる事です。」

 悟「統率個体か、お前じゃなんとかできないのか?」

 ニャル子「実は私の分身体は一体一体の力が弱くてですね。それこそ一般人並みです。」

 悟「でも、技能値は100だろ?だったら一般人よりか戦えるんじゃないのか?」

 ニャル子「無理です、分身体の技能値は分身の数だけ低くなるので。」

 悟「わかった。とにかくここにいるグールどもを倒しつつ統率個体を探して叩く。それでいいな?月島ちゃんも協力できるか?」

 月島「分かりました。悟さん、無事でいてくださいね。」

 悟「わかってんよ!そっちも頼むぞ。」

 二人と別れて俺は周囲のグールを片付けるため、懐から音器を取り出して変形させておく。
 そしてさっき悲鳴が上がった方へと向かって走っていく。

 しばらく走っていると、グールが3体ほど暴れているところに出た。

 悟「グール3体か。普段の俺ならまだ弱音を吐くところだが、今回の俺は一味違うぜ!」

 俺はこちらに気づいて走り向かってくるグール一体に銃口を向けて、発砲する。

 バンバンバン!

 初めて銃を現実で取り扱ったが予想にも結構当たった。グールの腹部と肩に1発づつ打ち込むことができた。
 グールは銃弾を受けた箇所を抑え込みその場へと倒れ伏せる。
 
 悟「うぉーー!いつもはダイスロールでダメージを計算してたから、クソダメとか出てたけど。今は違う、3発打って命中率は大体6割ほどでダイスより下がってるが、ダメージは、ほぼMAX火力!」

 そう一人ではしゃいでいる束の間に、先の銃声で奥にいた2体のグールもこちらへと接近していた。
 
 グールの1体が俺に至近距離で襲いかかる。
 俺はグールの攻撃を避けつつカウンターに顔面にパンチ2回、腹にキック1回を入れ込む。

 パンチ、パンチ、キック!

 やっぱな、1ターンに何回でも行動できる!近距離なら命中率もクソもない、ほぼ必中!

 カウンターを入れられたグールはよろよろと倒れていった。

 だけど怖いのはこっちがダメージを受ける時だ。
 どれくらいの攻撃でどれだけ俺の体が傷つくか、血反吐吐くのかがわからないし、ダイスによる運試しも効きやしない!
 そして恐らく、人間以上のSTRを持つ攻撃を食らったら、一発アウトの紙装甲!

 そしてまだあと残っている一体に銃をぶっ放して1体目と同じような状態にした後に念の為全員にヘッショをぶち込んでおく。
 COCのようにHPやCONロールないから仕留め切れたのかわからないためだ。マナーの悪い決して死体撃ちなどではない。

 俺はその場を後にしてゲート前へと向かったが案の定ゲートは炎に包まれて通れそうな雰囲気ではなかった。周辺にはグールの姿は見えなかった。おそらくは、月島ちゃんたちが向かった方へと向かって行ったのだろう。
 俺は月島ちゃんたちが向かった方へと走る。





 まだ燃え広がってないアトラクションの一つ、シャンタクコースターの線路上に仮面をつけた男がンガイの森を双眼鏡を使って見下ろしていた。

 「ギョッギョッギョッ、ようさん燃えてはりますな。本当やったらウイルスでも撒き散らしたろうと思ってたんやけどな。なんでKTGの連中しかも幹部がンガイの森で遊んどんねん!今はもう居らんみたいやからええげど。ワイの邪魔しよってホンマ虫唾が走るわ!」

 そして男は更なる邪魔者を見つける。

 「それにイラつくんはアイツらだけやない、何やアイツらグールとやりやっとるやんけ。あれが噂に聞いたCOCプレイヤーちゅうヤツか?芽は早めに摘んどかなきゃあんな。せや、統率個体ぶつけちゃるか!あれなら死なずともデータくらいは取らせることぐらいできるやろ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~

まきノ助
SF
 高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

処理中です...