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第160話

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 退勤時間になって、橋本と約束した時間にビルのロビーで待つ。
 凪さんはもう少ししてから帰る予定らしい。
 帰る頃に連絡をするように言われたので、それだけは忘れないように頭に入れる。


「あ、堂山ぁ。ごめん、待った?」
「ううん。お疲れ様」


 スマートフォンを弄っていると、ロビーに来た橋本が俺の名前を呼んで手をヒラヒラと振ってきた。
 それに手を振り返す。


「予約、ありがとう。どこの店?」
「実は俺じゃなくて凪さんが……あー、専務がしてくれたんだ。おすすめのお店だって。お酒も美味しいらしい。ここなんだけど、俺も初めてだからいまいち場所わかってなくて。」
「……美味そう……。地図見せてもらっていい?」
「うん」


 スマートフォンを渡せば彼はビルを出てスタスタと歩き出す。


「それで、何があったん?」
「あ……えっと……」
「ごめん。フライングした。ご飯の時に話した方がいいやつ?それともあんまり聞かない方がいい?」
「ううん。大丈夫。楽しい話じゃないんだけどいいかな。」
「それは別に気にしないけど。……あ、もしかして前のあの男が関係ある?ほら、凄い偏見持ちの。」


 間違いなく三森の事を言っているとわかって、コクコク頷く。
 橋本は何かを察してくれたらしく「無理に話さなくていいから」と言ってくれた。


「いや、でも橋本のお陰で助かったんだ。」
「俺?何もしてないけど」
「専務に伝えてくれたって。俺が消えたから」
「ああ、あれか。吃驚した。目の前にいた筈なのに消えたんだもん。もしかして何か事件に巻き込まれたのかって思って」



そう言われ、先に言うべきかどうか悩んで、結局口を開く。


「実は攫われて……」
「はっ!?」


 足を止めた橋本が、目を見開いて俺を見る。
 苦笑を零すと、スマートフォンを一度返されて、そのまま体中を何かを確認するように触られた。


「え、ちょ、橋本っ!」
「怪我は?」
「大丈夫!」
「……よかった」


 無事を確認すると、またスマートフォンを手にした彼。
 スタスタと歩いていくのを追いかける。
 完全にマイペースな人だ。でもそんなところも面白い。


「攫われて、何も無かった?殴られたりとか……」
「あー……うん。」
「……聞かない方がいいだろうから突っ込まないけど、無理はすんなよ。」
「ありがとう」


 予約していたお店に着いた。
 そこは高級感の漂う場所で、少し緊張している俺とは違い、彼は案内された個室に入って行く。
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