上 下
145 / 208

第145話

しおりを挟む
 ***


 数日後、凪さんと一緒に久々に会社に出勤した。
 今日は前に蒼太と約束した、話をする日。
 凪さんの部屋で蒼太を待った。
 隣に座る彼が、俺の肩をそっと撫でる。


「緊張してる?もっとリラックスして」
「うん。……あ、ちょっと手繋いで。」
「蒼太君に会うだけだ。聞きたくない話があるなら、外で待っていてくれたらいい。」
「でもやっぱり気になっちゃうから」


 内線がかかってきて、蒼太が来たことを知らせてくれた。
 緊張させないように一人で部屋の前に迎えに行き、蒼太と会うと厳しい表情をしていて首を傾げる。


「どうした?体調悪い?」
「……大きなビルに入るのに緊張した。それに専務室に通されて……。君が番の秘書をしてるってのは聞いてたから、相手が偉い人だとは思ってたけど……ここ、誰でも知ってる会社じゃん。先に言っておいてよ」
「あ、ごめん」


 軽く謝れば、蒼太は小さく息を吐く。


「思ってないだろ。……番さんは?」
「中にいる。先に俺と話した方が緊張しないかなって思ったんだけど……。」
「もう既に緊張してる」
「だよな」


 睨む蒼太に苦笑して、専務室のドアに向き直りドアノブを握ってから蒼太にもう一度顔を向ける。


「あの……話したくないことは話さなくていいし、時間はあるからゆっくりで大丈夫だし、疲れたら遠慮なく言ってね。」
「大丈夫だよ。僕も話したいことがあったから来たんだし。」
「ありがとう」
「気にしないで」


 ノックをしてからドアを開ける。
 蒼太と一緒に中に入れば、ソファに座っていた凪さんが立ち上がり柔らかい表情で流れる様に一礼した。


「初めまして。真樹の番の嘉陽凪です。今日はここまで足を運んでいただいてありがとうございます。」
「あ……ぁ、えっと、上住蒼太、です。真樹とは中学生の時に……。」
「真樹から話は聞いています。どうぞ、こちらに座ってください。」


 凪さんを見た途端固まる蒼太。
 どうやらアルファの存在感に圧倒されているらしい。
 蒼太の手を引いてソファに座ってもらう。


「凪さん、蒼太がすごく緊張してるから、あんまり丁寧に話すと余計に緊張が加速すると思う。」


 凪さんにそう提案すると、彼はキョトンとした顔をする。何その顔、可愛い。


「そう?ならもう少しフランクに……。そっちの方がいいかな?」
「是非、そうしてください……。」


 大袈裟に首をブンブンと縦に振る蒼太に、凪さんは小さく笑った。
 凪さんの隣に座り、暫く適当な世間話をする。
 中林さんが飲み物を運んできてくれた頃には緊張した雰囲気も少しは柔らかくなった。


「ごめんね。そろそろ本題に移ろうか」


 そうして打ち解けてきたところで、三森についての話が始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

僕を愛して

冰彗
BL
 一児の母親として、オメガとして小説家を生業に暮らしている五月七日心広。我が子である斐都には父親がいない。いわゆるシングルマザーだ。  ある日の折角の休日、生憎の雨に見舞われ住んでいるマンションの下の階にある共有コインランドリーに行くと三日月悠音というアルファの青年に突然「お願いです、僕と番になって下さい」と言われる。しかしアルファが苦手な心広は「無理です」と即答してしまう。 その後も何度か悠音と会う機会があったがその度に「番になりましょう」「番になって下さい」と言ってきた。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...