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第56話
しおりを挟むお湯に癒されてお風呂から出る。
凪さんが用意してくれた服に着替え、ヨタヨタしながらリビングに行けば彼はキッチンで料理をしている最中で、後ろから抱きついた。
「お風呂、ありがとうございます。」
「どういたしまして。もうお腹空いた?」
「ちょっとだけ。」
首を傾げて彼の手元を見る。
パプリカを切っている所だった。
「俺もそれやって見たい」
「切るの?……駄目だ。怪我しそうで怖い」
「折角くれたエプロンを使うタイミングが欲しいです。それに料理教室の代わりに凪さんが教えてくれるって言った。」
「……確かに言った。でも今じゃないよ。ごめんね、ちょっと手離して。」
納得いかない。
渋々手を離すと彼は手を洗ってタオルで拭い、いきなり俺を抱き上げる。
「えっ!?何!?」
「こんなに足腰震わせてるんだから大人しく座ってなさい。」
「何でわかったの……」
「抱きついてからずっと俺に体重かけてただろ。」
「……俺の負けです。大人しくしてます」
ソファーに運ばれ、キッチンに戻る彼の後ろ姿を眺める。
今もそうだけど、普段から彼は俺に対して過保護すぎると思う。
本人に指摘するとそんな事ないって言いそうだから伝えないけれど。
「真樹、何か飲む?風呂上がってから何も飲んでないだろ」
「お昼ご飯と一緒にお茶飲むのでいいです。」
「駄目。風呂上がりにはちゃんと水分摂って」
そうしてコップにお茶を入れて持ってきてくれる。
ほら、やっぱり過保護だ。
今でさえこれだ。番になったらヒートアップするんじゃないか。
そうなったら少し……いや、大分不安だ。
お茶を飲んで、スマートフォンを手に持ち、番のアルファが過保護すぎる件について調べてみた。
ヒットした検索結果を開けると、普段はそうでも無いが番のオメガの体調が悪かったり、何かに悩んでいたり、妊娠したりすると殆どのアルファが過保護になるらしい。
どこかに出掛けようとするのを引き止めたり、どんな用事でも一緒に行こうとしたり、酷い時はベッドの上から動くことも許されないケースもある。
「……無理」
それは無理じゃないか?
この酷い時のケースが、凪さんの場合有り得る気がして怖い。
「何が無理?」
「わっ!」
いつの間にか後ろに立っていた彼が、スマートフォンの画面を見ている。
隠したけどもう遅い。
パチパチと切れ長の目が瞬きする。
「俺って過保護なの?」
「……はは」
そうです。とも言えずに笑って誤魔化そうと試みる。
「え、笑うってことはそうって事?」
誤魔化されてはくれなかった。
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