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第50話

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 ***


 無理だった。頑張ったつもりだけどできなかった。

 遂にやってきた金曜日。
 夕方は凪さんが気を使ってくれたようで、先に帰るように言われ、一人で帰宅した。
 急いで最後の準備といわんばかりに焦って後孔を慣らそうとしてみたけど、今日が本番だと思うと緊張しすぎているのか一本も指が入らない。

 これはお風呂で少しでもリラックスした方がいいと思い、凪さんが帰宅し二人でご飯を食べた後、別々でお風呂に入って、再度挑戦する。


「っ、ぅ、く……」


 無理、きつい。
 体勢がダメなのかもしれない。
 いやそれより、心臓がうるさい。

 後孔に触れていた手を離して、泣きそうになりながら頭からシャワーを浴びる。
 準備くらい一人で上手く済ませたかった。
 そうすれば凪さんの負担も軽減されると思ったのに。

 余りに長い間風呂場にはいられないので、諦めてあがった。
 リビングに行って「お風呂空きました」と報告をしてソファーに座る。
 彼は着替えを持ってリビングを出て行き、それを確認してから横になって溜息を吐く。


 できなかったらどうしよう。
 散々凪さんを待たせたのに、申し訳がない。
 凪さんは優しいから怒りはしない。
 それにもし無理だったら自分達のペースでって言っていたし、大丈夫。

 でもやっぱり、そうなったら……落ち込むよなぁ。

 悶々と考えていると、いつの間にか随分と時間が経ったみたいで、目の前に凪さんがいて「まーき」と俺の名前を呼びながら頭を撫でてくる。


「眠たくなっちゃった?」
「ううん、違います。」
「なら……不安?」


 そう聞かれ、頷いた。
 カミングアウトするべきだろうか。
 実は慣らそうと一人で頑張っていたけど、遂に指の一本も入らなかったって。
 グルグルと頭の中で悩んで、眉尻を下げて困ったように笑う彼に全てを白状する事にした。


「実は、三日前からスムーズにできるようにって思って、自分でちょっと弄ってたんです……。」
「……え?」
「最初は何とか指が一本入ってたんですけど、今日はそれすらできなくて……。だから、多分凪さんのこと気持ちよくしてあげれない……。」


 また泣きそうになる。
 彼と繋がって良くしてあげたいのに。


「あー……わかった。真樹、大丈夫。」


 彼は苦笑してそう言う。


「前も言ったけど、無理だったら俺達のペースでゆっくりやっていけばいいだけだ。その事については不安にならなくていいよ。でも、それより……真樹の気持ちは?本当にこれからしてもいい?それに対しての不安はどう?怖くない?」
「俺は入らなかったらどうしようって不安の方が大きいです。」


 我ながら、大きな決意をしたなと思う。
 アルファだったのに、ある日急にオメガになって、絶望していた中、凪さんに出会った。
 彼に出会えた理由がオメガになったことだから、その性別を受け入れることができて、今は彼と一つになろうとしている。

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