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第17話

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「凪さん、これ……俺、これ欲しい……」
「……」
「中いっぱいに……」


 無意識にポツポツ言葉を零していた。
 それに気がついて咄嗟に口を手で覆う。
 俺はアルファだったんだぞ。
 それなのに、自分を抱いてくれって言うなんて。


「……なに、言ってるんだろ……」


 泣きそうになりながら、でも彼を気持ちよくしてあげたくて手を伸ばし、それに触れてゆっくり動かす。

 もっとまともにならないと。
 早く薬か凪さんの精液を摂取しないと……。


「真樹」
「はい……んっ!」


 背中に手が回ってキスをされ、体を抱き寄せられる。
 自分のペニスを俺のそれと一緒に握って、ゆっくり手を動かし始めた彼に驚いてしまう。


「むっ、ぁ、ふ……っは……!」
「何も考えなくていい」


 震える体を抑えられ、ほとんど同時に射精する。
 凪さんは汚れた手を俺の口元に持ってきて、謝りながら指を突っ込んできた。


「これで少しでも熱が治まればいいんだけど」
「ん、甘い……」


 指をちゅぱちゅぱと舐めて、ベッドに寝転がる。
 隣に横になった彼は俺に服を着せると、ぎゅっと強く抱き締めて「休憩」と言い、休み始めた。



 ***


 俺は後天性のオメガ。
 アルファとして生きてきたある日、発情期になったオメガの女性を助けた。
 その結果、性別がオメガになってしまった。

 そんな経緯があって通常と違うからか、もしくは付き合ってくれた彼との相性が良かったのか、発情期は三日で落ち着いた。


「凪さん。俺……これからどうすればいいですか。俺は自分の人生を貴方に渡しました。基本的に貴方の指示に従おうかなと思います。……あ、ただまだ暫くは番にはなれないので……。」


 頭もまともになって、これからの事を二人で話し合う。


「わかってる。けど、俺の指示に従うなんて事しなくていい。真樹がやりたいようにして。ただ……提案してもいいなら、これからもここで一緒に暮らしたいと思ってる。仕事も、できるなら辞めてほしいかな。無理にとは言わないけど。」


 アルファは基本的にオメガに対しての独占欲が強い。
 だから自分しか見えないところで、誰にも傷つけられることなく生活してほしいと思う人が多いと聞く。


「一緒に暮らすのは、俺もそうしたいと思ってます。だって……俺、凪さんのこと好きだし。それにやっぱり凪さんが俺を助けてくれたので、貴方の思うようにしたい。仕事は……辞めた方がいいんでしょうか。」


 ただ、俺が仕事を辞めるということは、凪さんが俺を養うということ。
 それはあまりにも負担がかかると思う。


「あ……でも、オメガって申告すればどちらにせよ、結局クビになりますかね……。」
「どうして?」
「うちの会社でオメガの人に会ったことがありません。もしかしたらいるのかもしれないけど、別室かもしれないし、採ってない可能性もあるし……。」
「……オメガ性の人は希少だから、そもそも採用試験を受けてないのかもしれない。……俺はそう信じたいけどね。」


 頷いたけど、自分の言葉でショックを受けて俯く。


 ……うん?けれど何で凪さんが『そもそも採用試験を受けてないのかも』という考えを信じたいんだろう。


「何で凪さんはそう信じたいの?」
「それはまあ、俺の親父が代表の企業だからね。」
「……うん?」
「自分の会社の社長の名前は言える?」
「……賀陽……信英のぶひで……」
「そう。それが俺の親父」


 開いた口が塞がらなかった。
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