39 / 47
ネール家の団欒
しおりを挟む
目を覚ましたルティアが見たのはテーブルを挟んで対面に座っているバルトとアリーゼの姿だった。
寝ぼけ眼を擦り、あくびをして、ルティアは体を起こす。
「おはようバルト」
「良く寝てたなルティア。もう昼だぞ」
ソファから滑るように降りて床に立ち、ゆっくり歩いてバルトの座るダイニングテーブルまで向かい、ルティアはバルトに向かって両手を伸ばした。
その無言の抱っこ要求に答え、バルトは椅子を引くと座ったままルティアを抱き上げ自分の膝の上に座らせる。
「そうしていると、本当の親子のようですね」
「血は繋がってないが、こうして一緒に暮らしてるんだ。そうも見えるだろ」
抱き上げられたルティアがバルトに身を預け、再び眠気から目を閉じて眠ってしまった様子を見て、アリーゼが微笑みながら呟いた。
その笑顔はこれまで敵対していた頃からは想像出来ないほど柔らかな物で、柔らかな視線からは慈愛の情すら感じられる。
「なあお前さん。飯は作れるか?」
「私の事はアリーゼとお呼び下さいバルト。父母亡き後、炊事洗濯は一人でこなしてきましたので家事は出来ます」
「お。そりゃあ良い。じゃあ早速で悪いが飯作ってくんねえか? 寝ちまったルティアを起こすのは可哀想だからな」
「花嫁修行というやつですね。わかりました、正直なところ自信は全くありませんが善処します」
「いや花嫁修行ではねえよ。あの扉の向こうが保冷室でな、そこにある食材は適当に使ってくれても構わねえから昼飯頼むわ」
「一個人宅に保冷室やらあの広い寝室やら、随分と豪勢な生活をしておいでですね。流石にベテラン冒険者と言ったところなのでしょうか」
「ちょっと前までこの家は仲間達と共同で使ってたんだよ。事情があって今は俺とルティア、あとポヨだけで住んでるがな」
「ポヨ? ああ、あのスライムの事ですね。そうですか、今は本当にお一人でルティアさんを」
バルトが本当に独り身だと分かって嬉しいのか、アリーゼはどこか安心したように微笑むと、椅子から立ち上がった。
そしてズボンの紐を締め直し、ブカブカな袖を折って短くすると、アリーゼはバルトが指差したキッチン横の保冷室へと向かって行く。
それを見てなのか、ソファでルティアの枕代わりとなって潰れていたポヨが球状に体を戻すとソファからピョンと飛び降り、ポヨンと跳ねて、キッチンの横に置いている食器棚へと向かっていった。
器用に伸ばした触手で棚を開け、皿を四枚取り出してはズルズルと皿を落とさないように床を這い、ポヨはいったいどこで見ているのか、テーブルまで皿を運んで綺麗に並べて見せると、再び食器棚に向かい、今度はフォークとスプーンを三人分持ってきて皿の横に並べた。
「ス、スライムが配膳を」
「うちのポヨは凄いだろ。器用なんだぜコイツ」
保冷室からパスタと野菜、魚介類を各種持ち出して来たアリーゼがポヨの行動を見て目を丸くした。
本来の草原に暮らすスライムだけでなく、進化していない普通のスライムの知能は極めて低い。
配膳どころか意思の疎通すら本来は困難であるが、ポヨに至ってはそれらをそつなくこなせる程には知能が備わっている。
「もしかして、スライムオリジンなのですか?」
「いやあ、どうなんかねえ? 最初に出会った時は確かにリーフスライムみたいな黄緑色だったからソレだと思ってたんだがなあ。やっぱり原種なのかねえ。だとしたら育て方を間違えると魔王級の魔物に育っちまうんだが」
「なんてモノを使役してるのですかアナタは」
「俺だって知ってて拾ったわけじゃねえよ。まあ知ってても拾ったかもしれんがな」
「まあ、害意は全く感じませんが」
「だとしたらお前。アリーゼはポヨにも家族として認定されたって事か。コイツ俺が敵と判断した魔物には襲い掛かるからな」
「スライムなのに頼もしいですね」
「しかもそこそこ強えんだぜ?」
炊事場に野菜と魚介類、パスタを並べ、調理器具を探すアリーゼの手元に、ポヨが鍋やら包丁、まな板を置いていく。
そんなポヨに少し不気味さを感じるが、アリーゼは恐る恐る手を伸ばし、手伝ってくれた事には感謝しながらポヨの体を撫でた。
ゴムより柔らかい弾力に最初は戸惑ったアリーゼだったが、嬉しそうに体を震わせたポヨの様子にホッと安心してため息を吐く。
「最初は草しか食わなかったんだが、最近なんでも食うようになってきてな。すまんがポヨの分の飯も作ってやってくれ」
「わかりました。夫の使役する魔物の世話も妻である私の役目、頑張って用意します」
「誰が夫で誰が妻だよ。まあなんせ頼む」
バルトの言葉に頷き、調理を開始するアリーゼ。
その手付きは辿々しく、決して手慣れたものではなかったが、覗き見るに手伝うほど下手というわけでも無かったので、バルトは椅子から立ち上がる事もせずにアリーゼに昼食を任せ、自分は椅子に座ったまま自分の腕に抱かれて眠っているルティアに視線を落とした。
「結婚か、考えた事も無かったな」
呟きながら、バルトは現状と仲間達とパーティを組んでいた時の暮らしを思い出して比べた。
仲間達と暮らしていた頃とは違う、のんびりした時間を感じ。
「こういうのも悪くねえな」
と、和やかな気分に浸りながらキッチンから聞こえてくる包丁とまな板が当たるトントンという音を聞き。
ルティアの顔に掛かった髪を手櫛でもって整えてあげるのだった。
寝ぼけ眼を擦り、あくびをして、ルティアは体を起こす。
「おはようバルト」
「良く寝てたなルティア。もう昼だぞ」
ソファから滑るように降りて床に立ち、ゆっくり歩いてバルトの座るダイニングテーブルまで向かい、ルティアはバルトに向かって両手を伸ばした。
その無言の抱っこ要求に答え、バルトは椅子を引くと座ったままルティアを抱き上げ自分の膝の上に座らせる。
「そうしていると、本当の親子のようですね」
「血は繋がってないが、こうして一緒に暮らしてるんだ。そうも見えるだろ」
抱き上げられたルティアがバルトに身を預け、再び眠気から目を閉じて眠ってしまった様子を見て、アリーゼが微笑みながら呟いた。
その笑顔はこれまで敵対していた頃からは想像出来ないほど柔らかな物で、柔らかな視線からは慈愛の情すら感じられる。
「なあお前さん。飯は作れるか?」
「私の事はアリーゼとお呼び下さいバルト。父母亡き後、炊事洗濯は一人でこなしてきましたので家事は出来ます」
「お。そりゃあ良い。じゃあ早速で悪いが飯作ってくんねえか? 寝ちまったルティアを起こすのは可哀想だからな」
「花嫁修行というやつですね。わかりました、正直なところ自信は全くありませんが善処します」
「いや花嫁修行ではねえよ。あの扉の向こうが保冷室でな、そこにある食材は適当に使ってくれても構わねえから昼飯頼むわ」
「一個人宅に保冷室やらあの広い寝室やら、随分と豪勢な生活をしておいでですね。流石にベテラン冒険者と言ったところなのでしょうか」
「ちょっと前までこの家は仲間達と共同で使ってたんだよ。事情があって今は俺とルティア、あとポヨだけで住んでるがな」
「ポヨ? ああ、あのスライムの事ですね。そうですか、今は本当にお一人でルティアさんを」
バルトが本当に独り身だと分かって嬉しいのか、アリーゼはどこか安心したように微笑むと、椅子から立ち上がった。
そしてズボンの紐を締め直し、ブカブカな袖を折って短くすると、アリーゼはバルトが指差したキッチン横の保冷室へと向かって行く。
それを見てなのか、ソファでルティアの枕代わりとなって潰れていたポヨが球状に体を戻すとソファからピョンと飛び降り、ポヨンと跳ねて、キッチンの横に置いている食器棚へと向かっていった。
器用に伸ばした触手で棚を開け、皿を四枚取り出してはズルズルと皿を落とさないように床を這い、ポヨはいったいどこで見ているのか、テーブルまで皿を運んで綺麗に並べて見せると、再び食器棚に向かい、今度はフォークとスプーンを三人分持ってきて皿の横に並べた。
「ス、スライムが配膳を」
「うちのポヨは凄いだろ。器用なんだぜコイツ」
保冷室からパスタと野菜、魚介類を各種持ち出して来たアリーゼがポヨの行動を見て目を丸くした。
本来の草原に暮らすスライムだけでなく、進化していない普通のスライムの知能は極めて低い。
配膳どころか意思の疎通すら本来は困難であるが、ポヨに至ってはそれらをそつなくこなせる程には知能が備わっている。
「もしかして、スライムオリジンなのですか?」
「いやあ、どうなんかねえ? 最初に出会った時は確かにリーフスライムみたいな黄緑色だったからソレだと思ってたんだがなあ。やっぱり原種なのかねえ。だとしたら育て方を間違えると魔王級の魔物に育っちまうんだが」
「なんてモノを使役してるのですかアナタは」
「俺だって知ってて拾ったわけじゃねえよ。まあ知ってても拾ったかもしれんがな」
「まあ、害意は全く感じませんが」
「だとしたらお前。アリーゼはポヨにも家族として認定されたって事か。コイツ俺が敵と判断した魔物には襲い掛かるからな」
「スライムなのに頼もしいですね」
「しかもそこそこ強えんだぜ?」
炊事場に野菜と魚介類、パスタを並べ、調理器具を探すアリーゼの手元に、ポヨが鍋やら包丁、まな板を置いていく。
そんなポヨに少し不気味さを感じるが、アリーゼは恐る恐る手を伸ばし、手伝ってくれた事には感謝しながらポヨの体を撫でた。
ゴムより柔らかい弾力に最初は戸惑ったアリーゼだったが、嬉しそうに体を震わせたポヨの様子にホッと安心してため息を吐く。
「最初は草しか食わなかったんだが、最近なんでも食うようになってきてな。すまんがポヨの分の飯も作ってやってくれ」
「わかりました。夫の使役する魔物の世話も妻である私の役目、頑張って用意します」
「誰が夫で誰が妻だよ。まあなんせ頼む」
バルトの言葉に頷き、調理を開始するアリーゼ。
その手付きは辿々しく、決して手慣れたものではなかったが、覗き見るに手伝うほど下手というわけでも無かったので、バルトは椅子から立ち上がる事もせずにアリーゼに昼食を任せ、自分は椅子に座ったまま自分の腕に抱かれて眠っているルティアに視線を落とした。
「結婚か、考えた事も無かったな」
呟きながら、バルトは現状と仲間達とパーティを組んでいた時の暮らしを思い出して比べた。
仲間達と暮らしていた頃とは違う、のんびりした時間を感じ。
「こういうのも悪くねえな」
と、和やかな気分に浸りながらキッチンから聞こえてくる包丁とまな板が当たるトントンという音を聞き。
ルティアの顔に掛かった髪を手櫛でもって整えてあげるのだった。
359
お気に入りに追加
1,421
あなたにおすすめの小説
やがて最強になる結界師、規格外の魔印を持って生まれたので無双します
菊池 快晴
ファンタジー
報われない人生を歩んできた少年と愛猫。
来世は幸せになりたいと願いながら目を覚ますと異世界に転生した。
「ぐぅ」
「お前、もしかして、おもちなのか?」
これは、魔印を持って生まれた少年が死ぬほどの努力をして、元猫の竜と幸せになっていく無双物語です。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます
ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる