侯爵夫人の嫁探し~不細工な平民でもお嫁に行けますか?

ひよこ1号

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突然の試験と、脱落者

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「おや。使用人達の名前を?」
「ええ?お話した方は全員存じておりますが……」

何か問題があっただろうか?と侯爵を見れば、侯爵は夫人と目を見かわしている。
侯爵は少し驚いた眼をしているが、侯爵夫人は笑顔だ。

「家令の名前を知っている方はいらして?……ああ、アリーナ嬢以外でね」

モニカ嬢とレオナ様がすっと挙手した。
その他の三人は視線を彷徨わせている。

突然試験が始まったようだ。

「ではモニカ嬢」
「はい。ジョルジュ、と夫人がお呼びになったのをお聞きいたしました」
「ええ、そう。正解よ」

正解をもらったモニカ嬢は、ほっとしたような顔で私を見た。
私はモニカ嬢に微笑んで頷く。

「貴女がたの荷物をお部屋に運び入れた従僕の名を知っている方は?」

アリーナ嬢以外と言われていないので、これは、私も参加するべきだろうか?
よく分からないが、とりあえず挙手はしておく。

レオナ様を見るが、挙手はしていない。
形の良い眉が、少し寄せられていた。

私以外、誰も手を挙げなかった。

「では、アリーナ嬢」
「ロード、と聞いております」
「ええ、正解ですわね」

でも、これは私にとって有利過ぎる問題だ。
迷ったけれど、それを口にする事にする。

「でも、きっと皆さんは初日に荷物を運んで頂いたくらいで、言葉を交わす機会はなかったように思いますが、わたくしはその後ロードと話す機会がございました」

「ふふ。正直なこと。本来これはね、最終日に問う質問なのよ。こちらで何度か接点は作るように調整して、様子を見る予定だったの。でも」

私がぶち壊してしまった!
試験の一つを!
あわわわわ。

「申し訳ありません……」
「いいのよ。これは選別の為の手段に過ぎないもの。結果さえ出ればいいの」

そうか。
結果さえ出ればいいのなら、問題ないなら良かった。
私は胸をほっと撫で下ろした。
きっと他にも試験は用意しているのだろう。
流石は侯爵夫人である。
私は心置きなく食事に戻った。

冷めても美味しい!

結局その日の晩餐も、デザートを2皿頂いて、お土産お菓子のメレンゲもたっぷり頂いた。
サクッとしていて、口の中でシュワッと甘く蕩ける美味しいお菓子だ。
包みを持って、皆と部屋に戻る途中で、ハンナ嬢とリーディエ嬢だけ侯爵夫人の侍女に呼ばれて、渡り廊下を引き返した。

「あの子達落とされたわね」

冷たく静かな声で、マリエ様が言う。
モニカ嬢はのんびりした声で同調した。

「そうですねぇ」

そこでレオナ様がまた足を止めて、私を振り返る。

「アリーナ嬢。少しお時間を頂けて?わたくしの部屋でお話をしたいのだけれど」
「ええ、勿論ですわ」

今日こそ、このメレンゲが目当てですね?

私はメレンゲの入った布包みを抱えなおした。

「いいえ、メレンゲじゃなくてよ。話がしたいの。いらっしゃい」

凄い。
私の考えていた事を見抜くなんて。
しかも、私の考えは外れていた。
恥ずかしい。

踵を返して部屋に向かうレオナ様の背中を追いかける。
結いあげた黒髪が、ゆらゆらと揺れるのが美しい。
編み込まれた飾りや宝石も、星の様に輝いている。

レオナ様とディオンルーク様が結ばれたら、黒髪の子が生まれそう。
きっと綺麗な子供だろうな、などと考えていると部屋に着いた。
通された部屋の中は、私と同じ間取りだが、豪華な装飾品や調度品がある。

屋敷からわざわざ運ばせた物だろう。

侍女に椅子を引かれたので、そこへと腰かける。

「昨日は断ってしまったけど、話を聞いてもらおうと思ったのよ。今日でここを去るから」
「えっ?何故ですか?」

私は驚いた。
だって、どう考えても花嫁候補一位なのに。

「何故って、本気で言っているの?あなた」
「はい。レオナ様は美しくて、礼儀作法も完璧で、公平でお優しい、素敵なご令嬢なので一番の花嫁候補かと」

レオナ様は深く、深くため息を吐いた。

「貴女って本当に……」
「……ハンナ嬢とリーディエ嬢が私を蔑むような事を言っても、レオナ様は揺らぎませんでした。流されることなく、嗜めておられたのです。侯爵夫人に相応しい品格と美しさ、最高じゃないですか」
「貴女が誉めてくれるのは嬉しいけど、それでも。侯爵夫人が選んだのは貴女よ」

えっ?
えっ?
選んだ?

私の顔を見てから、レオナ様は白く美しい手を伸ばして私の耳飾りに触れる。

「これを見た時には分かっていたわ。この色はディオンルーク様の瞳のお色。その宝石を貴女に身に着けさせるという事は、ディオンルーク様に対しての伝言《メッセージ》よ。あの方が気に入るかどうか……と思ったけれど」

確かに、そういう、絵空事の様な仕来りは知っている。
愛する人の持つ色の贈り物を身に着ける、とかそういうのが貴族の間ではあるのだと。
平民にはそんな習慣はない。
裕福な家庭でも、宝石やドレスなどをそんなに幾つもはもてない。
相当大きな大商会なら、その位はあるかもしれないけれど。

「ディオンルーク様が私をお気に召す事はないかと存じますが」
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