皇女殿下は婚約破棄をお望みです!

ひよこ1号

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悪役令嬢は脅される

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「わたくしは許可致します。そして、戦場にはわたくしも参ります」

ずっと、黙っていたアデリナが力強くそう言った。
そして、机に頭が着かんばかりに頭を下げる。

「その代わり、お役目が終りましたら娘達を連れて逃げる許可を下さいませ。卑怯者と罵られても構いません。
わたくしにとって、大事な娘達なのです」

「それは願ってもない事。わたくしにとっても、世界にとっても貴女方のご令嬢は宝です。
必要であれば、護衛にクリストハルトも連れてお行きなさい」

「おい」

流石にその決定には、クリストハルトが異論を差し挟んだ。

「俺は殿下の護衛だ。側を離れるつもりはない」
「わたくしは何処へも逃げるつもりはありません。貴方は戦場に着いたら、護衛の任を解かせますわ」
「そうか。だったら尚更だ。命令を聞く必要はないからな」

リリーアリアは、流石に言葉を失ってマルグレーテに視線を移すが、マルグレーテも首を横に振った。

「わたくしは、アリア様の許可を頂いてお側におりますので。それに、クリストハルト様に言う事を聞かせることが
出来るのは殿下か陛下くらいですし、多分陛下の言う事も今回は聞かれないかと」

「分かってるじゃねえか、嬢ちゃん」

ニッと、男らしく野性味の溢れる笑顔をクリストハルトは浮かべ、マルグレーテはこくん、と頷き返す。
はあ、と溜息をついて視線を元に戻すと、疲れ切ったエッカートが同じ様に溜息を吐いていて目が合ってしまった。

「殿下、我が家の女性達は気が強いので、私の意見は通らないようです」
「偶然ですわね。強情な部下達も、主人の意見を聞き入れてくださらないのですわよ」

エッカートがもう一度ふう、と溜息を吐いて、アデリナと同じ様に頭を下げた。

「どうか、お許しください。私も娘達を守りたい」
「ええ、勿論よ。ルーティ、紙と用具を」

マルグレーテは頷き、持ち歩いている腰の鞄から、紙とインクとペンを取り出して、リリーアリアの前に並べた。

「ありがとう、ルーティ」

スラスラと何事かを書き、最後に名前を入れて、小指に着けた指輪を紙に押し付けて文様を入れる。
その紙を、従僕に渡した。

「アデリナ様にお渡しして」
「かしこまりました」

従僕は頭を下げて、銀盆の上に紙を載せると、アデリナの前に差し出した。

「殿下、これは…」

「通行税を払わずに何処でも通れますわ。勿論、国外に出ることも可能です。貴方が危ないと感じたら、
二人を連れてお逃げ下さい」

「有難う存じます、リリーアリア皇女殿下」

立ち上がって、アデリナは最上級の丁寧なお辞儀をし、同じくエッカートもそれに倣った。

「離れたく、ないです、リーア様……」
「ミアも……」

リリーアリアはくふふ、と笑って二人を見た。

「可愛い二人のいう事でも、聞けませんわ。だって、わたくしは悪役令嬢でしょう?」
「そういえば、わたくしもそうでした」

ふふふ、とマルグレーテも笑顔を向ける。

ぽかん、とした双子は顔を見合わせて、うふふふふっと笑う。

「そうでした。メア、すっかり忘れておりました」
「ミアも、二人が大好きで、忘れてました」
「ねえ、メア、ミア。わたくしは貴方達の話してくれた、突飛もないお話が大好きですの。色々な道具や、
色々なお料理。それを作って欲しいのです。ずっと、これからも。だから、お母様の言う事をお聞きなさい。
そして、わたくしの為にそれを作ってくださらないかしら?」

メルティアとミルティアは、ふわふわした笑顔を一瞬なくして、そしてメルティアが不敵に笑った。

「約束致します、殿下。でもわたくし、殿下の行う魔法で戦争が終ると信じておりますの。
だから、殿下の為に、殿下の側で、作るとお約束致しますわ」
「ミ…わたくしもです。殿下は出来ると思えば出来るって仰いました。だから、信じます」

ふう、とため息をついてリリーアリアは天井を仰いだ。

「酷いですわ二人とも。悪役令嬢を逆に脅すなんて。絶対に失敗出来ないじゃありませんの」
「しません、殿下は。失敗など、絶対に。わたくしも信じております」
「もう、ルーティまで、酷いですわ」

言いながら、リリーアリアは微笑んだ。
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