33 / 43
悪役令嬢は脅される
しおりを挟む
「わたくしは許可致します。そして、戦場にはわたくしも参ります」
ずっと、黙っていたアデリナが力強くそう言った。
そして、机に頭が着かんばかりに頭を下げる。
「その代わり、お役目が終りましたら娘達を連れて逃げる許可を下さいませ。卑怯者と罵られても構いません。
わたくしにとって、大事な娘達なのです」
「それは願ってもない事。わたくしにとっても、世界にとっても貴女方のご令嬢は宝です。
必要であれば、護衛にクリストハルトも連れてお行きなさい」
「おい」
流石にその決定には、クリストハルトが異論を差し挟んだ。
「俺は殿下の護衛だ。側を離れるつもりはない」
「わたくしは何処へも逃げるつもりはありません。貴方は戦場に着いたら、護衛の任を解かせますわ」
「そうか。だったら尚更だ。命令を聞く必要はないからな」
リリーアリアは、流石に言葉を失ってマルグレーテに視線を移すが、マルグレーテも首を横に振った。
「わたくしは、アリア様の許可を頂いてお側におりますので。それに、クリストハルト様に言う事を聞かせることが
出来るのは殿下か陛下くらいですし、多分陛下の言う事も今回は聞かれないかと」
「分かってるじゃねえか、嬢ちゃん」
ニッと、男らしく野性味の溢れる笑顔をクリストハルトは浮かべ、マルグレーテはこくん、と頷き返す。
はあ、と溜息をついて視線を元に戻すと、疲れ切ったエッカートが同じ様に溜息を吐いていて目が合ってしまった。
「殿下、我が家の女性達は気が強いので、私の意見は通らないようです」
「偶然ですわね。強情な部下達も、主人の意見を聞き入れてくださらないのですわよ」
エッカートがもう一度ふう、と溜息を吐いて、アデリナと同じ様に頭を下げた。
「どうか、お許しください。私も娘達を守りたい」
「ええ、勿論よ。ルーティ、紙と用具を」
マルグレーテは頷き、持ち歩いている腰の鞄から、紙とインクとペンを取り出して、リリーアリアの前に並べた。
「ありがとう、ルーティ」
スラスラと何事かを書き、最後に名前を入れて、小指に着けた指輪を紙に押し付けて文様を入れる。
その紙を、従僕に渡した。
「アデリナ様にお渡しして」
「かしこまりました」
従僕は頭を下げて、銀盆の上に紙を載せると、アデリナの前に差し出した。
「殿下、これは…」
「通行税を払わずに何処でも通れますわ。勿論、国外に出ることも可能です。貴方が危ないと感じたら、
二人を連れてお逃げ下さい」
「有難う存じます、リリーアリア皇女殿下」
立ち上がって、アデリナは最上級の丁寧なお辞儀をし、同じくエッカートもそれに倣った。
「離れたく、ないです、リーア様……」
「ミアも……」
リリーアリアはくふふ、と笑って二人を見た。
「可愛い二人のいう事でも、聞けませんわ。だって、わたくしは悪役令嬢でしょう?」
「そういえば、わたくしもそうでした」
ふふふ、とマルグレーテも笑顔を向ける。
ぽかん、とした双子は顔を見合わせて、うふふふふっと笑う。
「そうでした。メア、すっかり忘れておりました」
「ミアも、二人が大好きで、忘れてました」
「ねえ、メア、ミア。わたくしは貴方達の話してくれた、突飛もないお話が大好きですの。色々な道具や、
色々なお料理。それを作って欲しいのです。ずっと、これからも。だから、お母様の言う事をお聞きなさい。
そして、わたくしの為にそれを作ってくださらないかしら?」
メルティアとミルティアは、ふわふわした笑顔を一瞬なくして、そしてメルティアが不敵に笑った。
「約束致します、殿下。でもわたくし、殿下の行う魔法で戦争が終ると信じておりますの。
だから、殿下の為に、殿下の側で、作るとお約束致しますわ」
「ミ…わたくしもです。殿下は出来ると思えば出来るって仰いました。だから、信じます」
ふう、とため息をついてリリーアリアは天井を仰いだ。
「酷いですわ二人とも。悪役令嬢を逆に脅すなんて。絶対に失敗出来ないじゃありませんの」
「しません、殿下は。失敗など、絶対に。わたくしも信じております」
「もう、ルーティまで、酷いですわ」
言いながら、リリーアリアは微笑んだ。
ずっと、黙っていたアデリナが力強くそう言った。
そして、机に頭が着かんばかりに頭を下げる。
「その代わり、お役目が終りましたら娘達を連れて逃げる許可を下さいませ。卑怯者と罵られても構いません。
わたくしにとって、大事な娘達なのです」
「それは願ってもない事。わたくしにとっても、世界にとっても貴女方のご令嬢は宝です。
必要であれば、護衛にクリストハルトも連れてお行きなさい」
「おい」
流石にその決定には、クリストハルトが異論を差し挟んだ。
「俺は殿下の護衛だ。側を離れるつもりはない」
「わたくしは何処へも逃げるつもりはありません。貴方は戦場に着いたら、護衛の任を解かせますわ」
「そうか。だったら尚更だ。命令を聞く必要はないからな」
リリーアリアは、流石に言葉を失ってマルグレーテに視線を移すが、マルグレーテも首を横に振った。
「わたくしは、アリア様の許可を頂いてお側におりますので。それに、クリストハルト様に言う事を聞かせることが
出来るのは殿下か陛下くらいですし、多分陛下の言う事も今回は聞かれないかと」
「分かってるじゃねえか、嬢ちゃん」
ニッと、男らしく野性味の溢れる笑顔をクリストハルトは浮かべ、マルグレーテはこくん、と頷き返す。
はあ、と溜息をついて視線を元に戻すと、疲れ切ったエッカートが同じ様に溜息を吐いていて目が合ってしまった。
「殿下、我が家の女性達は気が強いので、私の意見は通らないようです」
「偶然ですわね。強情な部下達も、主人の意見を聞き入れてくださらないのですわよ」
エッカートがもう一度ふう、と溜息を吐いて、アデリナと同じ様に頭を下げた。
「どうか、お許しください。私も娘達を守りたい」
「ええ、勿論よ。ルーティ、紙と用具を」
マルグレーテは頷き、持ち歩いている腰の鞄から、紙とインクとペンを取り出して、リリーアリアの前に並べた。
「ありがとう、ルーティ」
スラスラと何事かを書き、最後に名前を入れて、小指に着けた指輪を紙に押し付けて文様を入れる。
その紙を、従僕に渡した。
「アデリナ様にお渡しして」
「かしこまりました」
従僕は頭を下げて、銀盆の上に紙を載せると、アデリナの前に差し出した。
「殿下、これは…」
「通行税を払わずに何処でも通れますわ。勿論、国外に出ることも可能です。貴方が危ないと感じたら、
二人を連れてお逃げ下さい」
「有難う存じます、リリーアリア皇女殿下」
立ち上がって、アデリナは最上級の丁寧なお辞儀をし、同じくエッカートもそれに倣った。
「離れたく、ないです、リーア様……」
「ミアも……」
リリーアリアはくふふ、と笑って二人を見た。
「可愛い二人のいう事でも、聞けませんわ。だって、わたくしは悪役令嬢でしょう?」
「そういえば、わたくしもそうでした」
ふふふ、とマルグレーテも笑顔を向ける。
ぽかん、とした双子は顔を見合わせて、うふふふふっと笑う。
「そうでした。メア、すっかり忘れておりました」
「ミアも、二人が大好きで、忘れてました」
「ねえ、メア、ミア。わたくしは貴方達の話してくれた、突飛もないお話が大好きですの。色々な道具や、
色々なお料理。それを作って欲しいのです。ずっと、これからも。だから、お母様の言う事をお聞きなさい。
そして、わたくしの為にそれを作ってくださらないかしら?」
メルティアとミルティアは、ふわふわした笑顔を一瞬なくして、そしてメルティアが不敵に笑った。
「約束致します、殿下。でもわたくし、殿下の行う魔法で戦争が終ると信じておりますの。
だから、殿下の為に、殿下の側で、作るとお約束致しますわ」
「ミ…わたくしもです。殿下は出来ると思えば出来るって仰いました。だから、信じます」
ふう、とため息をついてリリーアリアは天井を仰いだ。
「酷いですわ二人とも。悪役令嬢を逆に脅すなんて。絶対に失敗出来ないじゃありませんの」
「しません、殿下は。失敗など、絶対に。わたくしも信じております」
「もう、ルーティまで、酷いですわ」
言いながら、リリーアリアは微笑んだ。
22
お気に入りに追加
757
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる