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初めての失敗
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クリストハルトが目を眇めて言った。
「あれは、ゴルドニア兵だ。10騎に15人、偵察兵か斥候もいる。此処まで来て砦が手薄そうに見えたのかもしれん。
砦を落として背後から襲う算段かな?」
「分かりましたわ。生きている人間は少なくて良いでしょう。殲滅を」
「無茶な事を仰る」
笑顔で言うクリストハルトに、リリーアリアは艶やかな笑顔を浮かべた。
「その割に楽しそうですわ。貴方が戦い始めれば、伯爵も戦いやすいでしょう。ルーティ、
二人の護衛をお願い致しますわね」
「はい」
「二人は隠れて、いざとなったら魔法をお使いなさい。ルーティ、貴方もフードを被って不意打ちの準備を」
「行きますよ、殿下」
その言葉に頷き返し、リリーアリアはフードを被った。
砦の門は閉じられていて、城砦の上から矢を射る者達がいる。
ゴルドニア兵は盾を構えてそれを防いでいるが、後方から弓をつがえている者から先に、リリーアリアは矢を放った。
イメージするだけで試せなかった毒の矢に、男は泡を吹いて昏倒する。
まさか背後で仲間が倒れるとは思っていなかったゴルドニア兵が、そちらに視線を向けた瞬間に、
真横から走り寄っていたクリストハルトが大振りの剣を横に薙いだ。
盾を構えて矢から身を護るように固まっていた一団が、それだけで総崩れとなる。
その瞬間に更に別方向から、エッカートと騎士達が現れた。
「突撃!」
その合図を皮切りに、乱戦が始まった。
リリーアリアは森の近くを移動しながら、不審な人物がいないかを探していた。
先程、クリストハルトが斥候と言ったからだ。
背後に回りながら、矢を撃とうとしている者に、毒の矢を放って倒しつつ、静かに森の近くを移動していると、
二人の人間が、離れた場所から戦いの様子を窺っている。
見た目は先程の一段とも違うが、城砦に囲われている村人たちとも服装が異なる。
少しだけ悩んだが、要は…
麻痺させれば良いのですわね
と決めて、リリーアリアは二人に順番に矢を撃った。
突然二人が倒れたからか、更に後方にいた一人が逃げ出したのを見て、リリーアリアは再び麻痺の矢で射抜く。
逃げようとした方向に走り寄ってみるが、他に不審な人物はいないように見える。
「殿下」
矢で麻痺をさせた1人目の男がいるところまで、クリストハルトが走ってきて声をかけた。
リリーアリアは近づきながらフードを脱いだ。
「不審な者が居たのだけど、敵かどうか分からないから麻痺させて有りますわ」
「砦に運べ」
後ろを追ってきた兵士に言いつけて、クリストハルトはリリーアリアの背に手を回した。
「怪我人は居りますか?」
「軽傷ですが」
「治療致しましょう」
会話しながら砦に近づいていくと、砦の中でエッカートに抱きついている双子が見えた。
「怪我人を」
クリストハルトが短く命じた言葉で、呼ばれた怪我人が集まってくる。
リリーアリアは、癒しの魔法をかけ始めた。
「エッカートここは頼む」
「分かりました」
娘達を抱き寄せていたエッカートを見て、クリストハルトはそう言って砦の外に足早に出て行った。
「伯爵、何人か麻痺をさせて捕まえましたので、尋問をお願い致します」
「御意」
エッカートが纏わり付いていた双子を離そうとした瞬間、双子はリリーアリアの言葉に顔を見合わせた。
「あれが使えますわミア」
「メア、あの薬ですわね?」
薬?
怪しげな言葉にリリーアリアが小首を傾げると、二人は屋敷の方へ駆け出して行った。
マルグレーテは心得たように、二人を追いかけていく。
「申し訳ありません、殿下」
「くふふ、いいえ、二人が何を持ってくるのか楽しみですわ。到着を待ちましょう」
目頭を押さえたエッカートに、リリーアリアは笑って見せた。
そこに、戸板に乗せられて運ばれてきた三人を見て、リリーアリアは顔色の悪さにハッとした。
「伯爵、この者達の麻痺毒を除去するので、捕縛してくださいませ」
動けない者達を苦労しながら縛った兵士達の見守る中、リリーアリアは解毒の魔法を使った。
途端に、掴まった捕虜達はぜぇぜぇと呼吸を繰り返す。
危ない…死ななくて良かったですわ……
うっかり麻痺についての詳細な効果を省いて、文字通り全てが麻痺してしまっていたのだ。
初めての失敗、といえば失敗に、リリーアリアは冷や汗をかいたのである。
「あれは、ゴルドニア兵だ。10騎に15人、偵察兵か斥候もいる。此処まで来て砦が手薄そうに見えたのかもしれん。
砦を落として背後から襲う算段かな?」
「分かりましたわ。生きている人間は少なくて良いでしょう。殲滅を」
「無茶な事を仰る」
笑顔で言うクリストハルトに、リリーアリアは艶やかな笑顔を浮かべた。
「その割に楽しそうですわ。貴方が戦い始めれば、伯爵も戦いやすいでしょう。ルーティ、
二人の護衛をお願い致しますわね」
「はい」
「二人は隠れて、いざとなったら魔法をお使いなさい。ルーティ、貴方もフードを被って不意打ちの準備を」
「行きますよ、殿下」
その言葉に頷き返し、リリーアリアはフードを被った。
砦の門は閉じられていて、城砦の上から矢を射る者達がいる。
ゴルドニア兵は盾を構えてそれを防いでいるが、後方から弓をつがえている者から先に、リリーアリアは矢を放った。
イメージするだけで試せなかった毒の矢に、男は泡を吹いて昏倒する。
まさか背後で仲間が倒れるとは思っていなかったゴルドニア兵が、そちらに視線を向けた瞬間に、
真横から走り寄っていたクリストハルトが大振りの剣を横に薙いだ。
盾を構えて矢から身を護るように固まっていた一団が、それだけで総崩れとなる。
その瞬間に更に別方向から、エッカートと騎士達が現れた。
「突撃!」
その合図を皮切りに、乱戦が始まった。
リリーアリアは森の近くを移動しながら、不審な人物がいないかを探していた。
先程、クリストハルトが斥候と言ったからだ。
背後に回りながら、矢を撃とうとしている者に、毒の矢を放って倒しつつ、静かに森の近くを移動していると、
二人の人間が、離れた場所から戦いの様子を窺っている。
見た目は先程の一段とも違うが、城砦に囲われている村人たちとも服装が異なる。
少しだけ悩んだが、要は…
麻痺させれば良いのですわね
と決めて、リリーアリアは二人に順番に矢を撃った。
突然二人が倒れたからか、更に後方にいた一人が逃げ出したのを見て、リリーアリアは再び麻痺の矢で射抜く。
逃げようとした方向に走り寄ってみるが、他に不審な人物はいないように見える。
「殿下」
矢で麻痺をさせた1人目の男がいるところまで、クリストハルトが走ってきて声をかけた。
リリーアリアは近づきながらフードを脱いだ。
「不審な者が居たのだけど、敵かどうか分からないから麻痺させて有りますわ」
「砦に運べ」
後ろを追ってきた兵士に言いつけて、クリストハルトはリリーアリアの背に手を回した。
「怪我人は居りますか?」
「軽傷ですが」
「治療致しましょう」
会話しながら砦に近づいていくと、砦の中でエッカートに抱きついている双子が見えた。
「怪我人を」
クリストハルトが短く命じた言葉で、呼ばれた怪我人が集まってくる。
リリーアリアは、癒しの魔法をかけ始めた。
「エッカートここは頼む」
「分かりました」
娘達を抱き寄せていたエッカートを見て、クリストハルトはそう言って砦の外に足早に出て行った。
「伯爵、何人か麻痺をさせて捕まえましたので、尋問をお願い致します」
「御意」
エッカートが纏わり付いていた双子を離そうとした瞬間、双子はリリーアリアの言葉に顔を見合わせた。
「あれが使えますわミア」
「メア、あの薬ですわね?」
薬?
怪しげな言葉にリリーアリアが小首を傾げると、二人は屋敷の方へ駆け出して行った。
マルグレーテは心得たように、二人を追いかけていく。
「申し訳ありません、殿下」
「くふふ、いいえ、二人が何を持ってくるのか楽しみですわ。到着を待ちましょう」
目頭を押さえたエッカートに、リリーアリアは笑って見せた。
そこに、戸板に乗せられて運ばれてきた三人を見て、リリーアリアは顔色の悪さにハッとした。
「伯爵、この者達の麻痺毒を除去するので、捕縛してくださいませ」
動けない者達を苦労しながら縛った兵士達の見守る中、リリーアリアは解毒の魔法を使った。
途端に、掴まった捕虜達はぜぇぜぇと呼吸を繰り返す。
危ない…死ななくて良かったですわ……
うっかり麻痺についての詳細な効果を省いて、文字通り全てが麻痺してしまっていたのだ。
初めての失敗、といえば失敗に、リリーアリアは冷や汗をかいたのである。
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