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価値観が似ている二人
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馬車から降りる時にマリアローゼを抱えたシルヴァインが、そのまま歩き出そうとするのでマリアローゼは抵抗して小さな足をぱたぱたと動かした。
「お兄様、降ろして下さいませ。自分で歩けますし、レイ様にまず会いに行きたいのです」
「呼んだかな?」
馬車の陰から出てきた人物に、ひっとマリアローゼは小さく悲鳴を上げた。
会いに行こうとしたその人、ジェレイドだったのである。
「折角だから、僕が案内しようと思ってね。さあ、我が愛しのマリアローゼを寄越し給え」
バッと両手を広げてから、シルヴァインに手を伸ばして、マリアローゼを受け取る体勢に入ったので、シルヴァインはニヤリと不遜な笑顔を見せた。
「いいえ。丁度今、マリアローゼの願いを聞いて、降ろそうとしていた所でしたので」
シルヴァインは伸ばされたジェレイドの手を無視して、マリアローゼを優しく地面に降り立たせた。
諦め悪く、今度はマリアローゼに伸ばしてきた手を、マリアローゼ自身が手でぺちりと叩き落とす。
「お兄様の仰るとおりで御座いますので、お構いなく!それよりもレイ様にお願いがあるのです。レイ様にしかお願い出来ない事なのです」
マリアローゼが大きな瞳を輝かせて見上げると、ジェレイドは片膝を付いて胸に手を当てた。
「何でも、何でも叶えよう、我が姫よ」
(一々大袈裟過ぎますわ!)
突っ込みを入れたいのを我慢して、マリアローゼはにっこりと微笑んだ。
料理に必要な器具を作って欲しいと思っていたのである。
「本来ならわたくしが、工房に出向きたいところなのですが、生憎時間も限られておりますので、レイ様に監修して頂きたいのです」
「ふむ、何を作らせればいいのかな?」
ニコニコと手を伸ばしてジェレイドが髪や頬を撫でてくるが、頼みごとをしている手前、それを拒否するのは止めて、マリアローゼは先を続けた。
「まずは自動で出来るカキ氷機、これは町で店や屋台で使う事を考えて20機くらいは欲しいところです」
「ほう、カキ氷か、いいね!」
ジェレイドは相変わらずニコニコしながら、マリアローゼを愛で続けている。
一呼吸置いて、マリアローゼは作って欲しい物について再び話し出す。
「わたくしもお料理の際に使いたいので、ピーラーにスライサーにミキサー、泡だて器もお願い致します」
「ふむふむ。では料理に使う君の為の道具一式を用意させようね」
君の為の、という言い方に引っかかりを覚えて、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
「料理の道具ですけど、お城では使いませんの?」
「うーん、商会のレストランになら提供してもいいとは思う。けれど、」
そこで、言葉を区切って、地面についていた膝から土を払ってジェレイドは立ち上がった。
「城の厨房には沢山の料理人や使用人が勤めているからね。彼らの仕事を奪ったり減らしたりする訳にはいかない。宴の時には下処理も膨大になるけれど、街の人々の臨時の働き口にもなるんだよ」
「なるほど、便利な道具があると、それを妨げてしまうという事ですわね?ご指摘感謝致します、レイ様」
小さくお辞儀をするマリアローゼに、ジェレイドは笑み零れた。
「本当に君は素晴らしい淑女だ。頭も良くて、礼儀正しくて、こんなに愛らしいなんて」
突然手が伸ばされて、抵抗出来ないままマリアローゼは宙高く持ち上げられた上、ジェレイドにぐるぐると回された。
ぐるぐるぐるぐる。
「も、もうお止めになって下さいまし!目が回って酔ってしまいますわ」
「ぐふっ」
ぱたぱたと力いっぱい動かした足が、鳩尾に入ってしまったのか、ジェレイドはピタリと動きを止めて、マリアローゼを地面へと戻した。
「な、中々いいキックだね」
「有難う存じます、レイ様」
本当は心配したい所だが、不可抗力だし、もうぐるぐるが嫌なマリアローゼはお礼を言って兄の後ろにさっと隠れた。
鳩尾を押さえながら、そんなマリアローゼを見て、ジェレイドはまたニコニコと笑顔を取り戻す。
「そんな風に隠れて……ああ、君は可愛らしいなあ」
重症である。
つける薬はこの世の何処にも在りそうもない。
スン、と暗くなったマリアローゼの視界を塞ぐように、1人の人物が立ちはだかった。
そう。
ユリアである。
「はい、ジェレイド様、早くマリアローゼ様のお願いを聞いて、とっとと道具作りに行きやがれ!…下さい」
「君、それわざと言ってるよね?おかしな敬語だけど」
しっしっと手を振り払うような仕草で動かして、続けてユリアは罵声を浴びせた。
「はいはい、そうですよ!マリアローゼ様はこれからお料理するんですから、ほら行った行った」
「君はもう少し身分と言うものを気にしないか?」
「この世の一番上にマリアローゼ様がいて、その他有象無象は下に居ますけど?」
「それには概ね同意するよ」
気が合わない様でいて、価値観は全く同じなのである。
「お兄様、降ろして下さいませ。自分で歩けますし、レイ様にまず会いに行きたいのです」
「呼んだかな?」
馬車の陰から出てきた人物に、ひっとマリアローゼは小さく悲鳴を上げた。
会いに行こうとしたその人、ジェレイドだったのである。
「折角だから、僕が案内しようと思ってね。さあ、我が愛しのマリアローゼを寄越し給え」
バッと両手を広げてから、シルヴァインに手を伸ばして、マリアローゼを受け取る体勢に入ったので、シルヴァインはニヤリと不遜な笑顔を見せた。
「いいえ。丁度今、マリアローゼの願いを聞いて、降ろそうとしていた所でしたので」
シルヴァインは伸ばされたジェレイドの手を無視して、マリアローゼを優しく地面に降り立たせた。
諦め悪く、今度はマリアローゼに伸ばしてきた手を、マリアローゼ自身が手でぺちりと叩き落とす。
「お兄様の仰るとおりで御座いますので、お構いなく!それよりもレイ様にお願いがあるのです。レイ様にしかお願い出来ない事なのです」
マリアローゼが大きな瞳を輝かせて見上げると、ジェレイドは片膝を付いて胸に手を当てた。
「何でも、何でも叶えよう、我が姫よ」
(一々大袈裟過ぎますわ!)
突っ込みを入れたいのを我慢して、マリアローゼはにっこりと微笑んだ。
料理に必要な器具を作って欲しいと思っていたのである。
「本来ならわたくしが、工房に出向きたいところなのですが、生憎時間も限られておりますので、レイ様に監修して頂きたいのです」
「ふむ、何を作らせればいいのかな?」
ニコニコと手を伸ばしてジェレイドが髪や頬を撫でてくるが、頼みごとをしている手前、それを拒否するのは止めて、マリアローゼは先を続けた。
「まずは自動で出来るカキ氷機、これは町で店や屋台で使う事を考えて20機くらいは欲しいところです」
「ほう、カキ氷か、いいね!」
ジェレイドは相変わらずニコニコしながら、マリアローゼを愛で続けている。
一呼吸置いて、マリアローゼは作って欲しい物について再び話し出す。
「わたくしもお料理の際に使いたいので、ピーラーにスライサーにミキサー、泡だて器もお願い致します」
「ふむふむ。では料理に使う君の為の道具一式を用意させようね」
君の為の、という言い方に引っかかりを覚えて、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
「料理の道具ですけど、お城では使いませんの?」
「うーん、商会のレストランになら提供してもいいとは思う。けれど、」
そこで、言葉を区切って、地面についていた膝から土を払ってジェレイドは立ち上がった。
「城の厨房には沢山の料理人や使用人が勤めているからね。彼らの仕事を奪ったり減らしたりする訳にはいかない。宴の時には下処理も膨大になるけれど、街の人々の臨時の働き口にもなるんだよ」
「なるほど、便利な道具があると、それを妨げてしまうという事ですわね?ご指摘感謝致します、レイ様」
小さくお辞儀をするマリアローゼに、ジェレイドは笑み零れた。
「本当に君は素晴らしい淑女だ。頭も良くて、礼儀正しくて、こんなに愛らしいなんて」
突然手が伸ばされて、抵抗出来ないままマリアローゼは宙高く持ち上げられた上、ジェレイドにぐるぐると回された。
ぐるぐるぐるぐる。
「も、もうお止めになって下さいまし!目が回って酔ってしまいますわ」
「ぐふっ」
ぱたぱたと力いっぱい動かした足が、鳩尾に入ってしまったのか、ジェレイドはピタリと動きを止めて、マリアローゼを地面へと戻した。
「な、中々いいキックだね」
「有難う存じます、レイ様」
本当は心配したい所だが、不可抗力だし、もうぐるぐるが嫌なマリアローゼはお礼を言って兄の後ろにさっと隠れた。
鳩尾を押さえながら、そんなマリアローゼを見て、ジェレイドはまたニコニコと笑顔を取り戻す。
「そんな風に隠れて……ああ、君は可愛らしいなあ」
重症である。
つける薬はこの世の何処にも在りそうもない。
スン、と暗くなったマリアローゼの視界を塞ぐように、1人の人物が立ちはだかった。
そう。
ユリアである。
「はい、ジェレイド様、早くマリアローゼ様のお願いを聞いて、とっとと道具作りに行きやがれ!…下さい」
「君、それわざと言ってるよね?おかしな敬語だけど」
しっしっと手を振り払うような仕草で動かして、続けてユリアは罵声を浴びせた。
「はいはい、そうですよ!マリアローゼ様はこれからお料理するんですから、ほら行った行った」
「君はもう少し身分と言うものを気にしないか?」
「この世の一番上にマリアローゼ様がいて、その他有象無象は下に居ますけど?」
「それには概ね同意するよ」
気が合わない様でいて、価値観は全く同じなのである。
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