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運命の呼び声
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マリアローゼは目の前で、馬を操るグランスの武骨な手を、小さな手でぽんぽんと優しく叩いた。
「ローゼ様?」
不思議そうな声が背後から降って来て、マリアローゼはふふっと笑った。
「何でもございませんの。グランスがとてもお強いことを思い出しただけですわ」
「そうですか。でも、まだまだです。今まで以上に強くなる必要がありますから」
丁寧だが、強い意志を感じる言葉を聞いて、マリアローゼはグランスを振り返って仰ぎ見た。
マリアローゼに優しい微笑を向けながら、グランスは続ける。
「お嬢様がどんな無茶をしても、お助け出来るようにならなくては」
「まあ、わたくし、そんなにやんちゃは致しません事よ?でも、心強いですわ」
言った後でマリアローゼはふと考えた。
(やんちゃは、していませんわよね?
きちんと言われた事には素直に従って参りましたもの)
ふと、隣で馬を進めているウルススと目が合い、笑顔のウルススが目を逸らした。
(はて?
何か、やんちゃな事を、しましたかしら?)
ウルススの意味深な態度に、マリアローゼは再び考えて、思い当たった。
初めて町に出た、初めて本屋に行った時のこと、呼ばれるようにルーナとノクスの為に駆けつけたあの時、確かにウルススも護衛として付いて来ていたのである。
思い当たったマリアローゼは、あ、と短い声を思わず漏らした。
「で、でもウルスス、あの時は、きちんと、付いて来て欲しいと、お伝え致しましたわよね?」
「ええ。きちんと確認をとって頂きました。そして、ノクスとルーナを救われたのも、拝見しました」
「あの時」
「無茶をなさったのですか?」
ウルススの前に乗っている二人が、勢い良くマリアローゼを見たので、今度はマリアローゼが慌てて目を逸らした。
「無茶はしていませんのよ?だって護衛のウルススをきちんと連れて参りましたもの。そうですわよね?ウルスス」
同意を求めるように言うと、ウルススは大きく頷いた。
「ええ、如何にも。貧民達で溢れる薄暗い路地に駆け込んで行かれた時には肝が冷えましたが」
「も、もう!それは護衛の貴方達への信頼ですわ……それに、あれは、運命でしたの」
慌てたマリアローゼが、後半はしんみりしたように目を伏せて告げた。
「二人の呼ぶ声が、聞こえた気がしましたのよ」
その呟きに、ノクスとルーナは声を詰まらせた。
主人の前で泣くのは言語道断だと分かっていても、涙を抑え切れなかった。
忘れた瞬間など無いほど、鮮烈な記憶だった。
生まれてきた事を後悔した事しかなかったのに、マリアローゼが全てを与えてくれたのだ。
その、気高い魂と命を分け与えてまで。
何度も繰り返し夢に見る。
そして、何度もマリアローゼを見る度に奇跡のような存在に感謝する。
暗い夢より、辛い夢より、何より恐ろしいのはマリアローゼの存在のない世界なのだ。
ノクスとルーナにとっては。
「助けて頂いたこと、一日たりとも忘れた事はございません」
「お嬢様の為に、私達も誰にも負けない位成長したいと思ってます」
ノクスとルーナの涙交じりの決意の言葉に、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「わたくしも、後悔した事はただの一度もありません。二人はわたくしにとって大事な存在ですもの」
ノクスとルーナの過去を知らなかったグランスとオリーヴェも、二人の忠誠心に納得した。
そして、自分達もまた助けられた事を思い出して、二人の忠誠の言葉に心の中で同意する。
「ほら、図書館が見えて参りましてよ。二人とも涙を拭いて?」
マリアローゼに可愛らしく小首を傾げてお願いをされて、ノクスとルーナは涙を堪えて頷いた。
「ローゼ様?」
不思議そうな声が背後から降って来て、マリアローゼはふふっと笑った。
「何でもございませんの。グランスがとてもお強いことを思い出しただけですわ」
「そうですか。でも、まだまだです。今まで以上に強くなる必要がありますから」
丁寧だが、強い意志を感じる言葉を聞いて、マリアローゼはグランスを振り返って仰ぎ見た。
マリアローゼに優しい微笑を向けながら、グランスは続ける。
「お嬢様がどんな無茶をしても、お助け出来るようにならなくては」
「まあ、わたくし、そんなにやんちゃは致しません事よ?でも、心強いですわ」
言った後でマリアローゼはふと考えた。
(やんちゃは、していませんわよね?
きちんと言われた事には素直に従って参りましたもの)
ふと、隣で馬を進めているウルススと目が合い、笑顔のウルススが目を逸らした。
(はて?
何か、やんちゃな事を、しましたかしら?)
ウルススの意味深な態度に、マリアローゼは再び考えて、思い当たった。
初めて町に出た、初めて本屋に行った時のこと、呼ばれるようにルーナとノクスの為に駆けつけたあの時、確かにウルススも護衛として付いて来ていたのである。
思い当たったマリアローゼは、あ、と短い声を思わず漏らした。
「で、でもウルスス、あの時は、きちんと、付いて来て欲しいと、お伝え致しましたわよね?」
「ええ。きちんと確認をとって頂きました。そして、ノクスとルーナを救われたのも、拝見しました」
「あの時」
「無茶をなさったのですか?」
ウルススの前に乗っている二人が、勢い良くマリアローゼを見たので、今度はマリアローゼが慌てて目を逸らした。
「無茶はしていませんのよ?だって護衛のウルススをきちんと連れて参りましたもの。そうですわよね?ウルスス」
同意を求めるように言うと、ウルススは大きく頷いた。
「ええ、如何にも。貧民達で溢れる薄暗い路地に駆け込んで行かれた時には肝が冷えましたが」
「も、もう!それは護衛の貴方達への信頼ですわ……それに、あれは、運命でしたの」
慌てたマリアローゼが、後半はしんみりしたように目を伏せて告げた。
「二人の呼ぶ声が、聞こえた気がしましたのよ」
その呟きに、ノクスとルーナは声を詰まらせた。
主人の前で泣くのは言語道断だと分かっていても、涙を抑え切れなかった。
忘れた瞬間など無いほど、鮮烈な記憶だった。
生まれてきた事を後悔した事しかなかったのに、マリアローゼが全てを与えてくれたのだ。
その、気高い魂と命を分け与えてまで。
何度も繰り返し夢に見る。
そして、何度もマリアローゼを見る度に奇跡のような存在に感謝する。
暗い夢より、辛い夢より、何より恐ろしいのはマリアローゼの存在のない世界なのだ。
ノクスとルーナにとっては。
「助けて頂いたこと、一日たりとも忘れた事はございません」
「お嬢様の為に、私達も誰にも負けない位成長したいと思ってます」
ノクスとルーナの涙交じりの決意の言葉に、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「わたくしも、後悔した事はただの一度もありません。二人はわたくしにとって大事な存在ですもの」
ノクスとルーナの過去を知らなかったグランスとオリーヴェも、二人の忠誠心に納得した。
そして、自分達もまた助けられた事を思い出して、二人の忠誠の言葉に心の中で同意する。
「ほら、図書館が見えて参りましてよ。二人とも涙を拭いて?」
マリアローゼに可愛らしく小首を傾げてお願いをされて、ノクスとルーナは涙を堪えて頷いた。
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