上 下
318 / 351

愛の説教と領地のお屋敷

しおりを挟む
晩餐の席に、シルヴァインと共に遅れて現れたマリアローゼは、優雅にスカートを摘んでお辞儀をした。

「お母様、皆様、遅くなって申し訳ありません。お兄様にお説教をしておりましたの」

顔を上げると、ジェレイドは観察するように兄を見ていたが、マリアローゼと目が合うとにっこりと微笑みかける。
何気ないそんな対応に、マリアローゼは目を留める。

(やっぱり、思惑があったのですね)

確信はしたのだが、成長を促す為と言い訳も出来れば、マリアローゼからは何も言えない。

テーブルについて待ちぼうけていた双子が、お説教という言葉を聞いてイヒヒと嬉しそうに笑った。
最近怒られてばかりで、他人が怒られるのが嬉しいらしい。

「愛のあるお説教だったよ」

不遜な、何時もの自信たっぷりな笑みで答えるシルヴァインの言葉に、キースが反応を返す。

「ずるいですよ、兄上」
「………俺も説教される」

キースは言葉とは裏腹に少し微笑んでいて、落ち込んだシルヴァインを心配していたのが分かり、マリアローゼは微笑んだ。
だが、ノアークは本気とも冗談ともつかないような、多分本気の言葉で羨ましがり、その言葉に双子も反応する。

「「俺もー!」」

迷走し始めた状況に、マリアローゼは困った様に微笑み返す。

「それより、お食事に致しませんか?」
「ええ、そう致しましょう」

母がいち早く答えて、晩餐がやっと始まりを迎えた。


翌日はのんびりと起きて、諸々の用事と食事を終えると、海の屋敷へと向かう。
アイテールの街中を抜けると街道沿いに海岸線が広がり、とても明媚で眺めが良い。
途中で小さな岬がありそこには大きな船が泊まっていて、もう一つ岬を越えるとなだらかな砂浜に戻り、ちょうど小さな岬の間に港があるように見えた。
(あの場所は軍港かしら?)
明らかに商船とは異なって見えたし、街から少し距離がある。
ゆっくり見る間もなく通り過ぎ、道が曲がりながら続いていく大きな岬の崖の上に城が見えてきた。

「あれは…屋敷ではなくて、お城ではありませんの?」
「そうだけど、街道沿いには屋敷もあるんだよ、ローゼ」

今日は誰にも譲る気はなく、がっちりとマリアローゼを放さなかったシルヴァインの膝の上で、マリアローゼは頷いた。
城がある岬には、崖沿いに城の方へと向かう道も見えるが、街道は真っ直ぐ続いている。
遠目から見ると、城までは森が続いているように見えた。

「お屋敷からお城までは馬車で参りますの?」
「うーん、そうだね。俺達は馬も使うけれど、ローゼ用の馬も用意される筈だから、乗れるようになったら馬で行けるかもしれないね」
「まあ、それは素敵ですわ!わたくし、頑張らなくては」

ふんす!と気合を入れて、マリアローゼは力強く頷いた。
それを優しげに見て、シルヴァインはマリアローゼの髪にキスを落とす。
いよいよ岬が近づいてきて、城へと向かう道と街道の交わる所には、大きな門と歩哨所が見えてくる。
馬車が見えると、歩哨所と門にいる兵士が、姿勢を正して馬車を見送っていた。
しばらく森を左手に馬車が進むと、屋敷の門が見えてきて、開けられた門扉の中に馬車が入っていく。
大きな噴水の周りを囲むように敷石が敷かれ、壮麗な屋敷がその正面に建っていた。

馬車を降りると、ずらりと使用人達が並んでいる。
王都の公爵邸の倍以上の人数が並んでいて、全員が降り立つと深くお辞儀をした。

「お帰りなさいませ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

無能を装って廃嫡された最強賢者は新生活を満喫したい!

えながゆうき
ファンタジー
 五歳のときに妖精と出会った少年は、彼女から自分の置かれている立場が危ういことを告げられた。  このままではお母様と同じように殺されてしまう。  自分の行く末に絶望した少年に、妖精は一つの策を授けた。それは少年が持っている「子爵家の嫡男」という立場を捨てること。  その日から、少年はひそかに妖精から魔法を教えてもらいながら無能者を演じ続けた。  それから十年後、予定通りに廃嫡された少年は自分の夢に向かって歩き出す。  膨大な魔力を内包する少年は、妖精に教えてもらった、古い時代の魔法を武器に冒険者として生計を立てることにした。  だがしかし、魔法の知識はあっても、一般常識については乏しい二人。やや常識外れな魔法を使いながらも、周囲の人たちの支えによって名を上げていく。  そして彼らは「かつてこの世界で起こった危機」について知ることになる。それが少年の夢につながっているとは知らずに……。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

妹に結婚者をとられて隣国へ逃げたら、麗しの伯爵様に捕まりました(物理的に)~旦那様が錯乱して私を愛犬だと勘違いなさっていて、大変困っています

百門一新
恋愛
フェリシアはコルコッティ子爵家の令嬢だ。長女だが、二十三歳になっても嫁ぎ先が見つからないくらい目立たない令嬢だった。そうしたころ兄の婚約者が、実家の知り合いという男性を紹介したくれたが、妹が駆け寄って彼と向き合ったのを見た瞬間に、フェリシアはある予感がしていた。そうしてその通りに、美人な十六歳の妹が彼と婚約をする。彼女の結婚と同時に、フェシアは勢いに任せて家を出て隣国へと行く。だが、「旦那様! それは人間です! お離しください!」愛犬を失って錯乱中だという若き伯爵様に、「会いたかったよ僕のジャスミン!」と物理的に確保され、手を握ってもしゃべっても、私が全然人間だという認識をしてくれない…! ※「小説家になろう」でも連載中

処理中です...