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釣り大会の開催

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「では、釣りに参りましょう。ダンさんも良かったら是非、一緒に…」
「はい。参加します」

言うが早いか、ずっと黙って見守っていたシルヴァインが、マリアローゼをひょい、と抱き上げた。

「良かったら一緒の馬車で行くかい?席はあるが」
「いいえ、滅相もございません。…仲間と後から行きますんで」

今日はミルリーリウムやエイラは人と会う約束があるので宿に留まっていて、
行きは一緒に乗っていたアルベルトとテースタも、父と同じく城へと強行軍で戻っているので確かに空きはある。
が、慌てたようにダンに断られて、シルヴァインは頷き、マリアローゼは少し残念そうな顔をした。

「ではまた湖で」

すいっと、踵を返してシルヴァインが馬車へと歩いて行く。
床を片付けていたカンナとルーナも、掃除を教会の人に任せると後に続いた。
ユリアはのんびり付いてきながら呟く。

「圧が凄いんだよなぁ……」

それは兄に対しての突っ込みだったのだろう。
抱き上げられたので見てはいないが、兄は爽やかな笑顔だとしても妙な迫力と怖さがある。
相変わらずその兄のすごい圧を物ともしないユリアに、マリアローゼは感心した。
そして、肩越しにもぞもぞと出した小さな手を、ダンや町の人へ振り返すのであった。


馬車に揺られて、宿の前に馬車を停めて、徒歩で湖へ向かう。
湖に向かうとそこには驚きの光景が広がっていた。

冒険者だけでなく、町の人達まで大挙して押し寄せている。

「あら……今日は何かのお祭りか何かだったのかしら?」
「いいえ?釣り大会ですよ」

マリアローゼの疑問に、ユリアが光の速さで返事を返した。

「という訳で、私司会なので、行ってきますね!」

「えっ…司会…?」

何をするつもりなのか。

確かに湖沿いの煉瓦の歩道に、一段高い演壇が作られている。
ユリアは挨拶を交わしつつ…誰と挨拶してるのかは不明だが……演壇に登った。

「今日は栄えある釣り大会第一回、司会を務めさせて頂きます神殿騎士ユリアと申します!
まずは、今回の主賓であらせられる、マリアローゼ様とシルヴァイン様に盛大な拍手を!」

手で指し示されたシルヴァインと、シルヴァインに抱き上げられたマリアローゼは
拍手と雄叫びと黄色い歓声に包まれて、小さく手を振った。
事前に何も聞かされていないのはシルヴァインも同じようで、
引き攣った笑みを浮かべたマリアローゼに、微笑を浮かべながら、ぼそりと呟く。

「ユリアは叔父上の隠し子か何かなのかな?」

ああ、こういうところが似てるんだ……

とマリアローゼも納得して、ふむぅと唸った。
カンナも隣で乾いた笑いを漏らしている。

「ご参加頂く皆様には豪華!賞品も!ご用意が御座いますので、是非上位入賞を目指してください。
まずは5位入賞者には…この!もこもこふわふわの羊ちゃんのマリーちゃんを差し上げます」
「欲しいですわ!!!」

マリアローゼはシルヴァインにぎゅっと掴みかかった。

「えっ…でも、5位狙うのはちょっと難しいな…?」

「えっ?何々?マリアローゼ様が、欲しがっている?あの、可愛らしい女神、マリアローゼ様が?」

拡声器の魔道具(メガホン)を持ったユリアがそのまま垂れ流す。
周囲からはマリアローゼにあげてほしいという声が続々と寄せられて、
壇上のユリアはうんうん、と頷いた。

「皆様、賞品が減りますけど宜しいですか?」
「いいともー!」

これは何かの仕込みでは?と思うような返答が返されて、ユリアに手招きされたマリアローゼは、シルヴァインの腕から降りて壇上に駆け寄った。
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