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商会を立ち上げたいお嬢様

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本当なら晩餐の後にまた父の部屋に特攻したかったのだが、その前に兄達に相談する事にした。
勉強会を始める前に、マリアローゼはコホン、と咳払いをする。

「わたくし、商会を立ち上げようと思うのですけれど」
「「「えっ」」」

マリアローゼの突然の爆弾発言に全員が呆気に取られた。

「どうしてそういう話になったんだい?」

いち早く復活したシルヴァインがニコニコと笑顔を浮かべる。
まるで新しい玩具を与えられたような、心底楽しそうな笑顔である。

「実は魔道具の作成を依頼致しまして。一財産築けると太鼓判を押して頂きましたの」

「ローゼは金持ちになりたいのか?」

ノアークが首を傾げて聞いてきたが、それに対してマリアローゼはふるふると首を振る。

「自由に使えるお金はほしいですけれど、それは二次的な理由ですわ。
一番の理由は、良い物をより安く、庶民にも普及させることが目的ですの」

「ふむ、つまり貴族相手の商売は、父上のお抱え商会に任せるという事ですか」

キースが眼鏡をくいっと持ち上げる。
一を聞いて十を知る、撃てば響く反応だ。

「ええ、そういう事になります」

貴族に対しての販路は一朝一夕に開拓出来る物では無い。
例え公爵家が後ろ盾であっても、それは同じだ。
領内で取れるものを売るにしても、基本的には代理人を立てての商人同士の交渉になってくる。
貴族が自ら売る、というのが恥とされているのもあるが、
実際に他家との関係と損得を秤にかけた時に、余計な軋轢を生むことになるのが主な理由だ。
元々、商人が男爵の地位を買うということも可能になっているし、
王国では領地を持たない低位貴族にしか直接の商売の許可は下りない。

その点一般向けの商会ならば、店舗があれば始められるし、
信頼出来る商人がいれば、代理で運営してもらうのは難しくない。
勿論、昼に考えた問題、は山積みなのだけれど。

「面白そうじゃないか」
「兄上も以前考えていませんでしたか?」

キースがはたと気付いたように、シルヴァインに視線を移す。

「ああそういえば、でも売りたいものが無かったからな。すっかり忘れていたよ」
「では、その草案を元にして、父上に相談したらいいんじゃないですか?ローゼ」

流石頭の良い長男次男である。
売りたいものもないのに、そんな構想を練っていたのも驚きである。
そして草案だけ作ってポイしていたのも凄い。
難問をクリアする楽しみだけ得る、そんな神々の遊びだろうか。

「わたくしはその辺の事には疎いので、お兄様達にお任せしてよろしくて?」
「分かった。部屋から資料を持ってくる」
「僕と兄上で企画書を任されよう」

勿論、思い切り助走をつけて、丸投げした。
この世界の法律にも、慣例通例などにもまだまだ不勉強の身である。
それに全てをカバーしなくても、スペシャルな兄達がいるのだから、
頼るのは当然なのだ。
と、自分に言い聞かせるマリアローゼは面倒な仕事がひとつ片付いてほくほくなのである。

「ねーねー俺たちは?」
「俺たちも手伝いたいんだけどー」
「……俺も」

「ミカエルお兄様とジブリールお兄様は、商品開発を手伝ってくださいませ。
悪戯目的のものではなくて、便利なものですわよ?」

二人は諸手を上げて喜んでいる。

本当に分かってくれてるのか心配になるが、
マリアローゼはしょんぼりした犬のようなノアークに向き直る。

「ノアークお兄様は、わたくしの助手です」
「……分かった」

ぱああ、と嬉しそうに言うノアークは表情にはあまり出ないものの、
見えない尻尾がブンブン振られているのがマリアローゼには感じられる。
そして、ノクスとルーナも仲間はずれにはしない。
マリアローゼはにっこりと笑いかけた。

「ノクスとルーナにも何れお手伝いしてもらうことになりますわ」
「喜んでお手伝いします」
「頑張ります、お嬢様」

二人の真剣で素直な申し出に、マリアローゼは嬉しそうにふんふん頷いた。
これで土台は整ったので、あとは踏み固めて行くだけである。
マリアローゼは予想外の展開にとても満足して、新しい魔道具についても考え始めた。

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