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13ー復讐されたとしても

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卒業まであと僅か、という頃にエデュラの元に招待状が届いた。
双子の生誕祭だ。
欠席したいところだが、最後の最後である。
さすがにフィーレンもラファエリも欠席するわけにもいかないだろう。
それならば、とエデュラも久方ぶりに王宮へと足を運んだ。

華やかに飾り付けられた庭に、豪華な食事と華美に装う人々の群れ。
その中心でいつもふんぞり返っている双子は、とても不機嫌だ。
まだお目当ての番が来ていないせいだろう。
だが、その目にエデュラが映ると、すぐに傍に来るようにと従僕が走らされた。
呼ばれたエデュラがエリーナ姫の傍に歩いていくと、エリーナ姫は獰猛な視線を獲物に向ける。

「あら、今日も地味な装いだこと」
「花というより、花を引き立てる緑だな」

エリーナ姫の容赦ない口撃に、エリード王子も嘲笑で乗っかる。
エデュラは微笑みながら、淑女の礼を執った。

「お二人のご生誕日をお祝い申し上げます」

「貴女に祝われても嬉しくないのよね」
「では、下がらせて頂きます」

間髪入れずに冷たい言葉を吐くエリーナ姫に、流石に周囲の人間も嗤うばかりでなく眉を顰める。
仮にもまだ正当な兄王子の婚約者に対してである。
そして、いつもは困ったような笑みを浮かべるだけのエデュラが即答した答えに、双子は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
エデュラはそのままその場を後にしようとしたが、エリーナ姫の甲高い声が制止する。

「ま、待ちなさいよ!」
「まだ何か?」

もう挨拶も終えたし、礼儀は尽くしたとばかりに見据えるエデュラに、エリーナは二の句を告げられずにいた。
そこへ、銀盆を持った従僕が訪れて、エリーナ姫にそれを差し出す。

「こちらをお預かり致しました」
「誰からよ!」
「私からです、王女殿下」

聞こえてきたのは、美しい護衛騎士ラファエリの声だった。
途端に王女はパッと輝くような笑みを浮かべる。

「まあ、愛しい番、貴方からでしたのね!」
「番ではございません」

だが、即座にその言葉を否定されて、エリーナ姫の顔は羞恥で赤く染まる。
そしてキッと周囲の人々に視線を巡らせた。

「あなた達は下がりなさい」

公衆の面前でこれ以上の恥は搔きたくなかったのだろう。
エデュラは引き留められた手前、その場に残って二人を眺めていた。

「ラファエリ。貴方もいい加減認めたら如何かしら?わたくしの事が愛しいと、その胸の内は荒れ狂っているのでしょう?さっさと婚約を破棄して、わたくしと婚約を結びなさいな」
「なっ!婚約は破棄ではなく解消だろう!我が番に瑕疵はつけさせんぞ」

エリーナ姫の蠱惑的な笑顔に、隣の席のエリード王子から罵声が飛ぶ。
相変わらず自分とその番の事しか頭にないらしい。
だが、冷たい相貌を崩さず、ラファエリは静かに答えた。

「私もフィーレン様も婚約は解消致しませんので瑕疵にはなりません。ご安心を。では」

一礼して、ラファエリは踵を返すと大股で歩み去っていく。
引き留める言葉をエリーナ姫が発する前に、エデュラは囁いた。

「皆が注目しております。お慎みを」
「何よ……何でなのよ……おかしいわ、番なのになぜ分からないの?」

唇を噛みしめて言葉を耐えた後で、ぶつぶつとエリーナ姫が口にする。
ラファエリの態度は、気持ちを抑えているというよりは、明らかに熱情が無い。
さすがにエリーナ姫にもそれは伝わっていた。
エデュラはそれを誤魔化すように、当たり障りのない答えを口にする。

「竜人族は魔力の量が多いと、そのせいで繊細な感覚が鈍ると聞いたことがございます。フィーレン様もラファエリ様も魔力量が多いのでしょう。エリンギル殿下のように」

そう言うと、ハッとした顔になってエリーナ姫が唇を震わせた。

「兄上のように……誰かが邪魔をしている、というの?」

「誰か」が「邪魔」?
そんな事はエデュラは口にしていないが、それは人工的な手段を知っているという事だ。
そうなのか、とエデュラは腑に落ちた気がした。

「そうなのですね。エリンギル様は誰かに邪魔をされておいでなのですね」

だとしても誰が?
リリアーデが現れたのは学園が始まる直前、凡そ三年前だ。
園遊会の主賓の癇癪を恐れてか、離れている人々はまだ周囲に戻ってきていない。
失言した、という顔になったエリーナ姫の代わりに、エリード王子が答える。

「リリアーデが薬でも盛っているんだろう?僕達の知ったことではないけれど」
「そ、そうよ。あの女以外に誰がいるというの」

だとしても。
それを知っているのならば、唆したのはきっとこの二人だ、とエデュラは確信する。
でも、それを知ったところで今更だ。

「そうでございますか」

あっさりと答えたエデュラの言葉に、信じられないというように双子は顔を見合わせた。
それはそうだろう。
自分達は今まさに、その報われぬ番への愛に心を翻弄されているのだから。

「え?貴女は怒らないの?馬鹿じゃない?」
「今まで、ずっとわたくしは耐えて参りました。お忘れとは言わせません。エリーナ姫殿下、エリード王子殿下。お二人はずっと、わたくしが番であるという事を疑ってきたではございませんか」

それは否定しようのない真実だ。
二人は顔に焦りを浮かべる。

「そうだけど、邪魔をしたのは私達じゃないわ。ねえ?」
「そ、そうだ」
「そうでございますか。でも、今までずっと否定してきたのですもの。誰かが同じように邪魔をしたとしても、仕方のない事ではございませんか?」

にっこりとエデュラが笑顔で告げた言葉に、二人はヒュッと喉を鳴らした。
幼い頃から小さな暴君達は、様々な悪戯や嫌がらせをこまごまと周囲にしてきたのだ。
誰かが復讐をしていたとして、おかしくはない。
エデュラは淑女の礼を執ると、二人に背を向ける。
フィーレンとラファエリの苦しみを救うためとはいえ、あの双子の恋を奪う事にも罪悪感を持たずにいられそうなことに、エデュラは安堵していた。
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