上 下
5 / 40

4-帰還命令

しおりを挟む
「獣人族を野蛮だと軽視するつもりはないけれど、人間は獣性が低くて本能も獣人に比べれば最低限だ。だから理性が働きやすいのだと思う。だがその代わり、番を認識する力が弱いのではないだろうか?」

そうなのかもしれない。
エデュラは皇子の考えにゆっくりと頷いた。

だとすれば、この悲しみも愛しさも、抑え込もうと思えば出来るのかもしれない。
美味しそうな物を目の前にして、食べるのを我慢するのと同じ。
でもそれでは、私がまるで食いしん坊みたいね。

思わずエデュラがふ、と笑うと、皇子が優し気に目を和ませた。

「君の笑顔は可愛らしいな」
「……え、あ……、そんな……有難う存じます」

急な誉め言葉に驚き、エデュラは言葉を失ってしまった。
誉められなれていないのだ。
特に同年代の男性と話して、そんな風に褒められた記憶はない。
口篭もった後、顔を赤く染めながら漸く礼の言葉を紡ぐと、皇子は笑い声を立てる。

「良かったら、君の考えも聞かせてくれないか?」
「はい……」

エデュラは正直に考えていた事を話すと、皇子は楽しそうに笑う。
そして、笑顔で頷いた。

「君は笑顔だけじゃなく、考える事も可愛らしいな。……でもそうか。昔読んだ文献に変わった話が載っていたんだ」
「どんなお話でございますの?」
「番との縁を切って、別の番と縁を結び直す話なんだが、それだと人間同士の恋愛と同じだなと思った記憶がある。何を以て運命と呼ぶのだろうな」

エデュラも考える。
運命とはただそこに在るだけのものではなくて、自分で引き寄せることも出来るもの。
でもそれを運命と呼べるかどうかは、誰に委ねられるのだろう。

「恋や愛に真実の、と付けたがるように、自分や誰かの恋愛を劇的なものにしたいだけなのかもしれません」
「そうか……それもあるかもしれないが、私は出会いこそが運命なのかもしれないと思っているよ」

出会いこそが運命。
不思議そうにエデュラが首を傾げると、皇子は優しく微笑んだ。

「例えば君の兄のディンキルは話も合うし馬も合う。剣の稽古も中々良い勝負をする」
「まあ、お兄様ったら……」
「いや、いい。手を抜かれるのは御免だ。だが、彼との出会いは君のお父上がこの国へ家族と共に来るという選択をしなければ成しえなかっただろう」

思ってもいない偶然で、良い出会いがあった時、それを運命と呼ぶのかしら?

エデュラが皇子を見つめると、皇子は照れ臭そうに笑った。

「彼とは生涯の友誼を結ぶだろう。だから私はそれも運命だと思いたい」
「ふふ。劇的ですわね」
「そうとも言うかもしれない。お互いの意見を取り入れて纏まったところで、どうかな?庭園の散歩をするというのは?」

立ち上がって差し出された皇子の手に、エデュラは手を重ねる。

「はい。お供致します」


それからというもの、泣き暮らしていただけのエデュラの生活は一変した。
妹のエリシャと共に兄ディンキルと皇子リーヴェルトの剣の勝負を観戦したり、広大な図書館で本を読んだり、皇子とは色々な話を交わす。
そのどれもが興味深い話ばかりで、エデュラは悲しむ暇も退屈を持て余すこともなかった。
毎日が新鮮で、楽しい日々は飛ぶように過ぎていく。
もう少し滞在を伸ばそうか、と父に言われて、全員がその言葉に頷いた翌日、王国からの書簡が届いた。
それは王命で、すぐに帰国するよう申し付ける物だったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

年下彼氏の策略

水無瀬雨音
BL
※タイトル変更しました。 「あんたを汚したら、俺は楽になれるんですかね」 千堂樹はイケメン高身長かつ愛想よく明るいキャラクターで社内外の誰からも人気の営業マン。表面上取り繕っているだけで幼少期のトラウマから人を心から信じることができず、内心はかなりの腹黒。 誰とでもなんなく付き合えるのに、先輩の小鳩祐だけは苦手だった。 利益があるから人に優しくすると思っている樹にとって、利益もないのに誰にでも親切な祐が理解できない。見ているだけで祐に苛立つ樹だったが、関わらなければいいと思いながらも何故か関わってしまう。ならば徹底的に付きまとって祐の裏の顔を暴いてやろうと思う樹だったが、だんだんと樹の純真さに惹かれていく。 くっつく前のじれったい感じを書きたいのですぐにはくっつかないと思います。 腹黒年下×ほんわか地味メガネ(素顔はそこそこイケメン) ※作者未経験の業種のため業務内容など現実と差異がある場合があります。スルー推奨。 途中急展開しております。もうすこし丁寧に書きたかったのですが、いい加減引っ張りすぎかと。 ※当然ですがこの作品の著作権は作者にあります。  設定、話の流れ、セリフなど盗作することは絶対にやめてください。  多少変えたとしても類似していれば運営さま、その他に通報します。  またこの作品と似たモノを見つけたら作者及び運営さままで通報いただけますようお願い申し上げます。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...