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3-新たな出会い、そして理性と本能

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エデュラはゴドウィン帝国でも、ふとした時に涙が自然と溢れてしまう状態にあった。
何とか堪える様に気を張っていれば別なのだが、気を抜くと悲しみに支配されてしまう。
そんな中で、帝国の皇子と話す機会に恵まれた。
彼はリーヴェルトという。
焦げ茶色の髪に、琥珀色の瞳の優し気な皇子だった。
次期皇帝としての教育を既に受けていて、勉学も剣の腕も優秀だという。
それでも穏やかそうな柔和な顔と、話し方はとても素敵だと子供心にエデュラは感じていた。

「私は番というものに興味があるんだ。君の話を是非聞かせて頂きたい」
「はい。わたくしで宜しければ喜んで」

エデュラはリーヴェルトに請われるまま、全ての心情を包み隠さず吐露する。
番がどんなに愛しいか。
番がどんなに幸福を与えるか。
そして、冷たくされるよりも、離れる方がとても悲しくて辛い、という事も。
けれど、話を聞く皇子の表情はどんどん曇っていった。

「どうか、なさいましたか?」

何か不手際があったのかと問いかけると、皇子は首を横に振る。
真摯な眼をエデュラに向け、困ったように眉を下げた。

「君達の愛の形を決して軽んじている訳ではないのだが、思っていたものと違うと感じる」
「……違う?」

エデュラの胸がズキリと痛む。
また、番とは違うと言われるのだろうか?と。
首を傾げながら慎重に言葉を選ぶ皇子の言葉は、けれどもエデュラの予想とは異なっていた。

「例えば、普通の人が誰かを好きになる時、そこには理由があるだろう?」
「……ええ、そうでございますね」

例えば友人、例えば家族。
ただその存在が好き、というのとは違う。
家族であれば、血縁者という大枠での愛はあるが、それと好悪はまた別だ。
エデュラは思い浮かべながらこっくりと頷いた。

「君は彼の何処に惹かれるの?」
「……全てでございます」

そうとしか言い様がなかった。
何、と表現すること自体が難しい。
番においては、その存在そのものが愛すべきものなのかもしれない。
皇子は更に辛辣な一言を付け加えた。

「君に対して無礼な振る舞いをする事も?」
「それは……いえ……」

あのゾッとするような冷酷な瞳を思い出してエデュラは即座に首を振る。
悲しくて、辛くて、切なくて、何故そんな目で私を見るのかと問いたくなるのだ。

でもきっと、彼には、エリンギル王子には答えなどない。
だって、番だと気づいていないのだから。
ただの地味な婚約者でしかない。
だから不満で、厭わしいのだ。
彼のその態度は愛する理由とは言えない。
言えないのだけれど、実際に目にすると愛で心が満たされるのだ。

「でも、お会いすると、どうしようもないほど好きで仕方がなくなるのです……」
「理性と本能か……」

皇子は難しい顔をして呟いた。
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