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11.国王陛下の憂鬱、そして妃教育
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国王陛下は困っていた。
それはもう大変困っていた。
まだ、公爵家の面々は国王を立ててくれているが、オルブライト公爵の目は死んでいる。
ローザンヌ公爵は蛇蝎の如くレンダーを忌み嫌い、このままレンダーが国王を継ぐ場合は爵位と領地を返上して、帝国かオーレンス王国へ行くと伝えられた。
下手をすれば寄り子の貴族家も追随する可能性もある。
バシュラール公爵も、帝国との縁も出来たので、もしかしたら既にローザンヌ公と同じ事を考えているかもしれない。
宰相は宰相で、ギリギリまで粘るけれど、崩壊が見えてきたら、ね?と笑顔の圧が凄い。
何より、馬鹿息子であるレンダーが余計な事をして、第二王子とその婚約者が帝国へ行ってしまった。
仕事が出来ないくせに、余計な仕事を増やすのは上手いのである。
今まで、国王は問題ないと思っていた。
勉強や外交は不得意でも、執務だけは何とか出来ているのだと。
教育係の評価は低かったが、執務さえ出来ればまあ、などと悠長に構えていた。
それが全て張りぼてだったとは思わなかったのである。
もっと早く言ってくれれば、と思ったが、もしもオリゼーがそれを言ってしまっていたら、何が何でも婚約解消には持ち込ませなかっただろう。
特に妻の王妃が。
息子を甘やかすだけでなく、王妃は自分をも甘やかしていたのだ。
最近、どっと執務が増えた所為か、肌つやも悪いし顔色も冴えない。
外国へと留学している第三王子シルヴェストルは優秀だ。
オリゼーが婚約解消したその日のうちに手紙を出してある。
最早、レンダーの廃嫡は決定事項なのだ。
中継ぎにするにしても、第二王子のデリックはそれなりに優秀で必要だったのだが、レンダーが止めを刺した事でその目論見も破綻した。
頼みの綱はもうシルヴェストルしかいない。
だが、その前に片付けておくべき事を片付けねば、シルヴェストルは協力すら拒むだろう。
王はやっと、重い腰を上げるのだった。
●●●
「本当ですかぁ?」
ぱあっと花の様にアリスは輝く笑顔をレンダーへ向けた。
レンダーは得意げに頷く。
「ああ、父上…いや国王陛下からのお達しだ。君は王宮へ来て、妃教育を受けるんだよ」
うきうきと声を弾ませて、大声でレンダーは話している。
いつもの中庭での出来事だが、その場にいるのはレンダーとアリスの二人だけであった。
遠目に人だかりはあるが、お祝いするような雰囲気ではない。
しらーっと冷めた空気が漂っている。
だが、二人はそんな事には頓着しない。
「そのお妃教育を受ければぁ、私がレンダー様のお嫁さんになれるんですね?」
「ああ、そうだよ!正妃になるんだ!」
いや、それより先にやる事があるだろ。執務とか執務とか執務とか。
内情を知っている生徒達は心の中で突っ込んだ。
得意げに、レンダー王太子は観客達を振り返り、突然宣言する。
「アリス・ピロウは我が正妃となるのだ!」
芝居がかった言い方に、出し物は終わったとばかりに誰もが踵を返してその場を後にする。
拍手もなければ、お祝いの言葉もない。
「おい、お前達、次期国王の王妃が決まったのだぞ?!」
虚しく、その言葉だけが誰もが背を向けた中庭に響いた。
その日の夕方、アリス・ピロウを伴って、レンダーは王城へと帰った。
嬉しい筈なのに、何故か今日の中庭での出来事が、心にひっかかっている。
「あいつら、全員不敬罪だ……」
ぼそり、と呟いた言葉に反応したのは傍らに座り腕に寄り添っているアリスだ。
「きっと驚いたんですよぉ……レンダー様の深いお考えが、伝わらなかっただけですぅ。それにぃ、女の子は皆王子様が大好きでしょぉ?自分が選ばれなくて拗ねちゃったんだと思いますよぉ」
可愛らしい上目遣いと笑顔に、レンダーはそうか、と思い直した。
思い直すなよ、と誰かいれば突っ込んだかもしれないし、王子を転がすと言う意味ではアリスの言葉も有効だが、残念ながら二人は本当にそうなのだと信じている。
機嫌の直ったレンダーとぴったり寄り添うアリスは、王城の中を謁見の間まで仲良く歩いて行った。
翌日。
妃教育の始まったアリスの部屋で、彼女は盛大に泣いていた。
「何でぇ…何でぇ……そんなの、どっちでもいいじゃないぃ……」
「見栄えが悪い王妃がいたら、王も臣下も民まで笑い者にされるのですよ」
「もう嫌ぁ、王妃なんてやりたくないぃ」
アリスはドレス姿のまま、ぺたん、と床に尻を着き、えぐえぐと両手で顔を覆い、泣きじゃくっている。
教育係のリルギットは呆れたように、それを見下ろした。
「そのお立場に立つ前でようございました。もし、王妃になってしまってからでしたら、死ぬ以外にそのお立場から逃れる事は叶いません」
死ぬ、という言葉にアリスは大きく肩を跳ねさせて、リルギットを見上げる。
「え…え……死ぬ、ってどうして?」
「王妃とは王と共に国を担うのですから、他国に知られてはならない秘密もその身に蓄える事になります。そんな方が王妃を辞めると言って外に出たらどうなりますか。他国にその身を奪われて秘密を暴かれるでしょう。拷問にかけられて国の敵になるよりは、毒を賜って死ぬ方が楽でございますよ」
にべもなく言い放つリルギットに、脅えたように大きく目を見開いてアリスは震え出す。
そんな事、聞いてないよぅ……。
呆然とした表情で、アリスはリルギットに問いかけた。
「お姫様や、王妃様って、綺麗なドレスを着て、美味しいものを食べて、毎日楽しく暮らしているんじゃないの……?」
眉を顰めたリルギットが、冷たい声音で答える。
「それは庶民の描く夢物語でございますね。確かに貴族や王族には豊かな生活をなさる方々もおいでですけれど、大半は職務に追われています。どちらかといえば、そういった悠々自適な生活を送れるのは、裕福な商人の奥方ではないでしょうか?ご主人が有能な商人なら、働かなくても済みますでしょうし、市民よりも立場は強いでしょうしね」
その言葉でアリスの頭に浮かんだのは、マーティンだった。
彼は異国の血を引く、一風変わった美貌の持ち主である。
実家のマクラウド商会は大商会で、手に入らない物はないよ、と言っていた。
実際にマーティンからは、高価なドレスや宝石なども貰った事がある。
ぱっと、アリスは顔を上げて、縋るような笑顔を浮かべた。
「ぁ…あの、王様に、王妃にはならないって言って下さい。私には無理だと思うんです……レンダー様のお嫁さんじゃなくって、マーティンのお嫁さんになりたいのでぇ……」
「畏まりました。それでは、こちらで自由にお寛ぎ下さいませ」
にこっと笑顔を浮かべて、リルギットは完璧な淑女の礼を執って、部屋を退出した。
「まさか、三日も持たずに投げ出すとはな……一日どころか、一時間ではないか……」
リルギットの報告を受けて、国王は深く深く溜息を吐いた。
同席している公爵家の面々の目からは光が消えている。
死んだ魚の目の方がまだマシかもしれない。
「父上!お呼びになりましたか!」
何故か満面の笑顔で現れたレンダーを、ある者は死んだ目のまま見、ある者は汚物でも見るような目を向ける。
だが、本人はそんな事に気づかず、上機嫌だ。
「どうですか、アリス嬢は?」
根拠のない自信に裏打ちされた、遥か北にあるレスト山脈よりも高い自尊心はどこからやってくるのか。
父親の国王ですら分からなかった。
「王妃になりたくないそうだ」
「はい?」
ぽかんと口を開けて、レンダーは聞きなおした。
だが、何度聞きなおしても、国王の言葉が変わるわけではない。
「お前の妻にはならずに、マーティンとやらと結婚したいのだそうだ」
「えっ?……はっ?……どういう事ですか!アリスに何かしたんですか?」
知らんがな。
王を含めて、全員がその言葉に似たような感想を思い浮かべた。
疲れたように国王は言う。
「それは直接アリス・ピロウに確認するが良い。今この時を以って、淑女教育を中断とする。よって、お前の正妃どころか側妃にもなる資格はない」
「そ、そんな!私が直接話してきますから!」
慌てたようにレンダーは謁見の間を後にアリスの部屋へと走った。
部屋に入ると、アリスは円卓の椅子に座って、のんびり紅茶を飲んでいる。
無理矢理言わされたのだとか、そういう陰惨な様子はなく、あまりに平和な風景に、レンダーには意味が分からなかった。
「私と結婚しないとは、どういう事だ?結婚、したかったのだろう?」
「したかったですよぅ?うーん、でもぉ……元々無理だと思ってたんですよぉ。だってぇ、皆無理だって言ってたし……でもオリゼー様に応援されたからぁ、なれるかと思ったんですけど……無理でしたぁ」
えへへ、と笑顔で断言されて、あまりの軽さに脱力を覚える。
「いや……だが、教育さえ受ければ、なれるというのに……誰もが望む立場だぞ?」
「じゃぁ何で、だぁれもいないんでしょぉ」
「……は?……そ、れは……」
能天気な質問に、レンダーも返す言葉が無かった。
何故、オリゼーは去っていったのか。
何故、シャルロッテへの打診をローザンヌ公爵に断られたのか。
何故、ロージーは帝国へ逃げたのか。
「きっと、皆知ってたんですねぇ、大変だって」
何も考えていないような、それでいて真理を衝くアリスの言葉にレンダーはその場に崩れ落ちた。
それはもう大変困っていた。
まだ、公爵家の面々は国王を立ててくれているが、オルブライト公爵の目は死んでいる。
ローザンヌ公爵は蛇蝎の如くレンダーを忌み嫌い、このままレンダーが国王を継ぐ場合は爵位と領地を返上して、帝国かオーレンス王国へ行くと伝えられた。
下手をすれば寄り子の貴族家も追随する可能性もある。
バシュラール公爵も、帝国との縁も出来たので、もしかしたら既にローザンヌ公と同じ事を考えているかもしれない。
宰相は宰相で、ギリギリまで粘るけれど、崩壊が見えてきたら、ね?と笑顔の圧が凄い。
何より、馬鹿息子であるレンダーが余計な事をして、第二王子とその婚約者が帝国へ行ってしまった。
仕事が出来ないくせに、余計な仕事を増やすのは上手いのである。
今まで、国王は問題ないと思っていた。
勉強や外交は不得意でも、執務だけは何とか出来ているのだと。
教育係の評価は低かったが、執務さえ出来ればまあ、などと悠長に構えていた。
それが全て張りぼてだったとは思わなかったのである。
もっと早く言ってくれれば、と思ったが、もしもオリゼーがそれを言ってしまっていたら、何が何でも婚約解消には持ち込ませなかっただろう。
特に妻の王妃が。
息子を甘やかすだけでなく、王妃は自分をも甘やかしていたのだ。
最近、どっと執務が増えた所為か、肌つやも悪いし顔色も冴えない。
外国へと留学している第三王子シルヴェストルは優秀だ。
オリゼーが婚約解消したその日のうちに手紙を出してある。
最早、レンダーの廃嫡は決定事項なのだ。
中継ぎにするにしても、第二王子のデリックはそれなりに優秀で必要だったのだが、レンダーが止めを刺した事でその目論見も破綻した。
頼みの綱はもうシルヴェストルしかいない。
だが、その前に片付けておくべき事を片付けねば、シルヴェストルは協力すら拒むだろう。
王はやっと、重い腰を上げるのだった。
●●●
「本当ですかぁ?」
ぱあっと花の様にアリスは輝く笑顔をレンダーへ向けた。
レンダーは得意げに頷く。
「ああ、父上…いや国王陛下からのお達しだ。君は王宮へ来て、妃教育を受けるんだよ」
うきうきと声を弾ませて、大声でレンダーは話している。
いつもの中庭での出来事だが、その場にいるのはレンダーとアリスの二人だけであった。
遠目に人だかりはあるが、お祝いするような雰囲気ではない。
しらーっと冷めた空気が漂っている。
だが、二人はそんな事には頓着しない。
「そのお妃教育を受ければぁ、私がレンダー様のお嫁さんになれるんですね?」
「ああ、そうだよ!正妃になるんだ!」
いや、それより先にやる事があるだろ。執務とか執務とか執務とか。
内情を知っている生徒達は心の中で突っ込んだ。
得意げに、レンダー王太子は観客達を振り返り、突然宣言する。
「アリス・ピロウは我が正妃となるのだ!」
芝居がかった言い方に、出し物は終わったとばかりに誰もが踵を返してその場を後にする。
拍手もなければ、お祝いの言葉もない。
「おい、お前達、次期国王の王妃が決まったのだぞ?!」
虚しく、その言葉だけが誰もが背を向けた中庭に響いた。
その日の夕方、アリス・ピロウを伴って、レンダーは王城へと帰った。
嬉しい筈なのに、何故か今日の中庭での出来事が、心にひっかかっている。
「あいつら、全員不敬罪だ……」
ぼそり、と呟いた言葉に反応したのは傍らに座り腕に寄り添っているアリスだ。
「きっと驚いたんですよぉ……レンダー様の深いお考えが、伝わらなかっただけですぅ。それにぃ、女の子は皆王子様が大好きでしょぉ?自分が選ばれなくて拗ねちゃったんだと思いますよぉ」
可愛らしい上目遣いと笑顔に、レンダーはそうか、と思い直した。
思い直すなよ、と誰かいれば突っ込んだかもしれないし、王子を転がすと言う意味ではアリスの言葉も有効だが、残念ながら二人は本当にそうなのだと信じている。
機嫌の直ったレンダーとぴったり寄り添うアリスは、王城の中を謁見の間まで仲良く歩いて行った。
翌日。
妃教育の始まったアリスの部屋で、彼女は盛大に泣いていた。
「何でぇ…何でぇ……そんなの、どっちでもいいじゃないぃ……」
「見栄えが悪い王妃がいたら、王も臣下も民まで笑い者にされるのですよ」
「もう嫌ぁ、王妃なんてやりたくないぃ」
アリスはドレス姿のまま、ぺたん、と床に尻を着き、えぐえぐと両手で顔を覆い、泣きじゃくっている。
教育係のリルギットは呆れたように、それを見下ろした。
「そのお立場に立つ前でようございました。もし、王妃になってしまってからでしたら、死ぬ以外にそのお立場から逃れる事は叶いません」
死ぬ、という言葉にアリスは大きく肩を跳ねさせて、リルギットを見上げる。
「え…え……死ぬ、ってどうして?」
「王妃とは王と共に国を担うのですから、他国に知られてはならない秘密もその身に蓄える事になります。そんな方が王妃を辞めると言って外に出たらどうなりますか。他国にその身を奪われて秘密を暴かれるでしょう。拷問にかけられて国の敵になるよりは、毒を賜って死ぬ方が楽でございますよ」
にべもなく言い放つリルギットに、脅えたように大きく目を見開いてアリスは震え出す。
そんな事、聞いてないよぅ……。
呆然とした表情で、アリスはリルギットに問いかけた。
「お姫様や、王妃様って、綺麗なドレスを着て、美味しいものを食べて、毎日楽しく暮らしているんじゃないの……?」
眉を顰めたリルギットが、冷たい声音で答える。
「それは庶民の描く夢物語でございますね。確かに貴族や王族には豊かな生活をなさる方々もおいでですけれど、大半は職務に追われています。どちらかといえば、そういった悠々自適な生活を送れるのは、裕福な商人の奥方ではないでしょうか?ご主人が有能な商人なら、働かなくても済みますでしょうし、市民よりも立場は強いでしょうしね」
その言葉でアリスの頭に浮かんだのは、マーティンだった。
彼は異国の血を引く、一風変わった美貌の持ち主である。
実家のマクラウド商会は大商会で、手に入らない物はないよ、と言っていた。
実際にマーティンからは、高価なドレスや宝石なども貰った事がある。
ぱっと、アリスは顔を上げて、縋るような笑顔を浮かべた。
「ぁ…あの、王様に、王妃にはならないって言って下さい。私には無理だと思うんです……レンダー様のお嫁さんじゃなくって、マーティンのお嫁さんになりたいのでぇ……」
「畏まりました。それでは、こちらで自由にお寛ぎ下さいませ」
にこっと笑顔を浮かべて、リルギットは完璧な淑女の礼を執って、部屋を退出した。
「まさか、三日も持たずに投げ出すとはな……一日どころか、一時間ではないか……」
リルギットの報告を受けて、国王は深く深く溜息を吐いた。
同席している公爵家の面々の目からは光が消えている。
死んだ魚の目の方がまだマシかもしれない。
「父上!お呼びになりましたか!」
何故か満面の笑顔で現れたレンダーを、ある者は死んだ目のまま見、ある者は汚物でも見るような目を向ける。
だが、本人はそんな事に気づかず、上機嫌だ。
「どうですか、アリス嬢は?」
根拠のない自信に裏打ちされた、遥か北にあるレスト山脈よりも高い自尊心はどこからやってくるのか。
父親の国王ですら分からなかった。
「王妃になりたくないそうだ」
「はい?」
ぽかんと口を開けて、レンダーは聞きなおした。
だが、何度聞きなおしても、国王の言葉が変わるわけではない。
「お前の妻にはならずに、マーティンとやらと結婚したいのだそうだ」
「えっ?……はっ?……どういう事ですか!アリスに何かしたんですか?」
知らんがな。
王を含めて、全員がその言葉に似たような感想を思い浮かべた。
疲れたように国王は言う。
「それは直接アリス・ピロウに確認するが良い。今この時を以って、淑女教育を中断とする。よって、お前の正妃どころか側妃にもなる資格はない」
「そ、そんな!私が直接話してきますから!」
慌てたようにレンダーは謁見の間を後にアリスの部屋へと走った。
部屋に入ると、アリスは円卓の椅子に座って、のんびり紅茶を飲んでいる。
無理矢理言わされたのだとか、そういう陰惨な様子はなく、あまりに平和な風景に、レンダーには意味が分からなかった。
「私と結婚しないとは、どういう事だ?結婚、したかったのだろう?」
「したかったですよぅ?うーん、でもぉ……元々無理だと思ってたんですよぉ。だってぇ、皆無理だって言ってたし……でもオリゼー様に応援されたからぁ、なれるかと思ったんですけど……無理でしたぁ」
えへへ、と笑顔で断言されて、あまりの軽さに脱力を覚える。
「いや……だが、教育さえ受ければ、なれるというのに……誰もが望む立場だぞ?」
「じゃぁ何で、だぁれもいないんでしょぉ」
「……は?……そ、れは……」
能天気な質問に、レンダーも返す言葉が無かった。
何故、オリゼーは去っていったのか。
何故、シャルロッテへの打診をローザンヌ公爵に断られたのか。
何故、ロージーは帝国へ逃げたのか。
「きっと、皆知ってたんですねぇ、大変だって」
何も考えていないような、それでいて真理を衝くアリスの言葉にレンダーはその場に崩れ落ちた。
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