雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第三章:王妃と幼馴染

第七十六話:順位

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「オリヴィアさんとエリーちゃんの代の英雄達は、実力が拮抗している場合には必ず勝つ方が決まっている。まあ、エレナ以外は……」

 ある日、サラはルークそんなことを言われたことがある。
 奇想天外な母はかつてエリー以外英雄には誰にでも勝ったことがある、という話なのでエレナを例外にするのはなんとなく分かるのだけれど、勝つ方が決まっているという話はにわかに信じられなかった。

「どういうこと?」
「そうだな、まずオリヴィアさんとエリーちゃんを頂点として、僕とサンダルさんとナディアさんが同じくらい、そしてイリスさんとクーリアさん。エレナはよく分からないけど、多分僕と同じかそれより少し上くらいに位置してるんだと思う」
「なにが?」
「順位さ」

 順位? とサラは首を傾げる。

「勝負した場合、もし全員の強さが同じだとしたら、多分結果は今言った順になる。何回やっても、どれだけ頑張っても、恐らく変わらない。もちろん、強さが極端に違えば順位は当然入れ替わるんだけどね」

 言ってることがよく分からない、とやはりサラは首を捻る。
 順位とやらに応じて結果が決まっているという点が、どうにも腑に落ちないのだ。
 戦いには絶対は無い。特に魔法使いは勇者よりも更に体調や気分に左右されやすい。
 そう思ったのを察してか、ルークは説明を始めた。

「というのもね、僕がイリスさんに勝ち続けるのはおかしいんだよ。実力的には、僕とイリスさんとサンダルさんは殆ど拮抗してる。イリスさんとの戦いってめちゃくちゃ大変なんだよ。でも、何故か必ず終わってみれば僕が勝ってるんだ」

 確かに、と思う。
 イリスの防御は鉄壁だ。要塞とも言われるその防御技術と、遠近両方に通じた攻撃に隙は無く、例えルークでも毎回毎回勝ち続けるのは異常に思う程。
 呪文が必要だとはいえ、魔法が使える勇者という時点で常に戦いの手段は魔法使いよりも一手多い。
 それでも、いつもド派手な戦いを制するのはルークの方。
 幾重にも張り巡らせた罠の一つが、毎回辛うじて当たることで勝利を手にしているのだ。
 それはいつもいつも、あと少し違えばイリスが勝っていたと、本人達を含めて誰しもが納得する程にギリギリの結果。

「それに、考えてもみなさい。
 どれだけ剣の技術があろうと、勇者では無くなってしまったオリヴィアさんがデーモンに勝つなんて有り得ない。剣が届くことさえ奇跡に近いはずだ。それに届いたとしても、少なくとも僕の力じゃどれだけ切れる剣で体重を乗せてもデーモンの硬い皮膚に剣は通らなかった。
 なのに、オリヴィアさんは何度もデーモンを倒してる。これは明らかな異常だ」

「それは、私も不思議に思ってた。何か理由があるの?」

 サラの疑問に対して、ルークは頷く。
 今更それを証明する方法は全く無いけれど、とんでもない予想はある、と。

「それが、順位。正確にはオリヴィアさんとエリーちゃんじゃなくて、聖女サニィを頂点にした順位なんだけど」
「へえ、あ……もしかして、そういうこと?」
「流石は僕の娘だね。多分、そういうこと。サラも多分、その順位には入ってるんじゃないかな」
「これのおかげ、ってこと?」
「それは分からない。もしかしたら、サラ自身が祝福されてるかもしれないよ」
「ははは、私としてはどっちでも構わないんだけどね」

 気を使った様に言うルークに、サラは笑って返す。
 確かにそんなルールの様なものがあるのなら、英雄達を超えられる人が出てこないのも納得だ。
 一般人ですら、デーモンを倒してしまう強さを得られるもの。それが本当ならば、一流の勇者や魔法使いがその影響を受けたのなら、それはもう圧倒的な強さになるに決まってる。

「あれ、じゃあクラウスは? 私昔はずっとクラウスよりも強かったんだけど……」

 順位というものがあるのなら、クラウスこそそのトップに君臨してもおかしくない、とサラは思う。
 しかしクラウスにサラが勝てなくなったのは、明確にクラウスの力がサラを上回ってから。勝てそうなのに勝てないという経験は、一度も無いと記憶している。

「彼はどうなんだろうね。僕達が予想出来てるのは、その剣の力まで、だから」

 ルークは言う。
 まるで、クラウスだけはエレナとは違う意味で別枠なのだとでも言わんばかりに、顎に手を上げてて考えながら。

 クラウスは、実際に別枠だ。
 それは、英雄達なら誰しもが分かっている。
 ただ生きているだけで際限なく強くなる、化け物の子ども。
 母は救世の英雄、魔法使いの母で、父は魔王で史上最強の勇者。

 今はまだ英雄には勝てないけれど、それはその順位に縛られているからなのだ、とルークは言う。
 クラウスは少なくとも、順位に当てはまるのならば英雄達の誰よりも下に位置している。
 だから、内に眠る化物を封印していられるのだ、と言う。

「じゃあ、なんでエリーさんやみんなはクラウスに稽古を付けるの? あんまり強くなったら困るんじゃないの?」
「それは、どっちにしろ強くなってしまうからかな。ちなみに素振りは強い暗示をかけるトリガーだったりするんだよ。彼が律儀に素振りをしてる以上は、彼が自分自身のことを理解することは無い」
「ふーん。……でも、いずれは知られるんだよね?」
「そうだね。その時は必ず来る」
「そっか。なら、私は魔法使いで良かった。勇者じゃその時クラウスの側に居られないもんね」

 サラの言葉に、ルークは押し黙る。
 いずれ来るその時に側に居られるとしたら、可能性があるのは一般人か魔法使いだけ。
 そして一般人でも魔法使いでも、その殆どはそれを本当には理解出来ないだろう。

「だから私は、英雄の娘で良かった。だって、おかげで私はずっと、覚悟が出来てるんだもん」
「……そうか。じゃあ、僕から言うことはもう何も無い。大会の結果も関係無く合格だ」
「それはダメだよ。パパにはちゃんと、私の成長を見てほしいな。英雄の娘として、恥じない戦いをしてみせるから、それからもう一度決めて」

 ある日、そんな約束を交わした父娘は、大会を通して無事その成長を親の目に焼き付けた。
 四回戦のエリスは、実力だけ見ればサラよりも上だった。
 それはきっと、単純な魔法使いと勇者の差。
 しかしそれを覚悟でもって覆して見せたのだから、と言い訳をして、とっくに認めている娘の成長を、家族水入らずで喜んだのだった。

 ――。

「クラウスー! これからは私も旅に同行しても良い?」
「わーい! さらもいっしょだー!」

 大会が終わっていざハーフグラスから旅立とうとしたクラウスとマナは、後ろから追いかけてきたサラに、遂に捕まることになった。
 マナが言うなら仕方ないな、と言いながらもクラウスは満更でもない。

「よろしくね、マナ」

 そう言いながらマナを抱きかかえるサラに、「戦いはなるべく任せるよ、ベストエイト」と目を逸らしながら言うのだった。
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