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第三章:王妃と幼馴染
第四十一話:自分だけの
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「隣、よろしいですか?」
素振りを思い出したクラウスは王との話を終えた後、鍛錬を続ける王妃の下へと向かった。
鍛錬を続ける王妃の様子は確かに王が見惚れるのも分からなくはないが、まあ、クラウスにとっては母の方が美しい。
いや、親族である王を除けば恐らく大体の人はそう思うのではないか、と自分に言い訳をしつつ、クラウスは王妃の隣に並んだ。
「ええ、むしろクラウスさんの強さの秘訣を少しでも吸収したいと思いますので歓迎ですよ」
そう微笑む王妃の隣で、素振りを開始する。
母とエリー叔母さん直伝の、最も効率的に力を斬撃に変える形。
勇者は全て、生まれ持った身体能力がまるで違う。例えば魔王戦当時の英雄エリーは150cm程の小柄な体格で、筋肉をよく鍛えたウアカリの殆どよりも力が強かったと言う。
筋肉量や骨格よりも、勇者としての超常現象の一つとも言えるものが、その個体差の幅だ。
そこに、骨格や筋肉量の違いが影響して、更には勇者の力の特性次第で、勇者は人によって効率的に力を伝える為の形がまるで変わってくる。
例えば英雄オリヴィアの主力は脚だった。
他を圧倒する踏み込みに乗せた刺突による必中の一撃が、オリヴィア最大の武器。その為オリヴィアは常に動き続けることでその力を最大限に引き出していた。
それに対して、曰く英雄ライラはどれだけ脚を止められるかが勝負だった。
ダメージの受け渡しによる反射の力を持つライラは全身が優れたパワーを発揮する格闘家タイプだったものの、オリヴィアの様に脚が速い訳でも、必中の力を持っている訳でも無い。
つまり突撃してたまたま上手くカウンターを合わせられるのならば問題は無いが、相手も自分も動く以上そうは行かない。
その為ライラは地に根を生やした様に立ち止まることで、冷静にカウンターを放つことを最良とした。
その大きな個人差を考慮した、人によって全く異なる形こそが、エリー叔母さん直伝の素振りに繋がっている。
「少し、変わった形ですね」
それを見ていた王妃は興味深そうにそう告げた。
「軍はグレーズ騎士団式でしたっけ?」
「ええ、かつては一時的に時雨流というものを取り入れたと聞きますが、今はそれを使いません。改良型の騎士団式ですね」
軍を編成する際に、随分ともめたのだとクラウスは聞いていた。
魔王の剣である時雨流を、グレーズ軍の中に残すべきか否か。
特別顧問であるオリーブと王の命によって改良型のグレーズ式が採用されることになるまで、二年ほど掛かったのだとか。
新グレーズ式の剣術は、時雨流の一部を含めた騎士団式。オリーブの基礎が騎士団式だったことから、反対者はようやく出なくなったのだと言う曰くの剣。
その形は全員同じく決められており、単純にその熟練度が高ければ優れたものになる様に設計されている。
ただし、それはある意味では才能殺しの剣術だ。
才能の低い者でも鍛錬さえ続ければ強くなれるのと引き換えに、才能の高い者も同程度の熟練度の者と戦えば同じくらいの強さでしかない。
もちろん全員に平等に同じ鍛錬をさせるだけで平均が上がるという素晴らしい面はあるものの、本当に才能のある者が天井に頭をぶつけてしまう様な、そんな可能性を持った剣だった。
もちろん、全く同じことをしていても、そこから第二の剣聖ディエゴ・ルーデンスが出ないとも限らないから、悪いとは絶対に言い切れない。
しかし初めてそれを聞いた時には、クラウスは意地が強さよりも大切なのかと呆れたものだったことを思い出した。
そして当然ながら、王妃エリスは時雨流を知らない。
まだエリスが軍に居て、オリーブが個人的に鍛錬を付けようとした際には、エリスはそれをやんわりと断ってしまっていた。
まだオリーブが英雄オリヴィアだと知らない時に、何故自分よりも弱い一般人に教わらなければならないのかと、若かったエリスは傲慢にも思ってしまっていたのだった。
「これは僕の二人の師匠の直伝です。僕が僕の肉体で、最も上手く動く為の形。僕よりも遥かに強いエリー叔母さんと、かつての英雄である母の教えてくれた僕の為の形」
「なるほど、それが噂の……」
「噂の?」
「あ、いえ、私よりも遥かに強いクラウスさんよりも更に強いなんて、凄い方なのですね」
「真夜中に突然剣で刺してきたり、めちゃくちゃな人ですけどね……。でもおかげで僕は強くなれたんです。英雄でもないのに、本当に何者なんだか……」
何も知らぬは本人ばかり、クラウスのそんな間抜けた疑問にエリスは「あ、ははは」と乾いた笑いを漏らすことしか出来なかった。
それでも、クラウスの14万回にも及ぶ素振りを眺めて、エリスは新たなヒントを見つけることが出来たのだった。
エリスの力は勇者の中でもかなり特異な超常現象であるテレポート。
それを活かすには、エリスにしか出来ない戦い方があっても良いのかもしれない。そんかことを素直に思う程度には、柔軟になろうとしていた。
「私が参考にすべきは、やはり英雄エリーなのかもしれませんね」
そう呟いたエリスにアーツは微笑ましそうな顔をして、姉への手紙を書くことにしたのだった。
内容はもちろん、八本の武器を使ったエリーの戦いをエリスに見せたい、ということだ。
素振りを思い出したクラウスは王との話を終えた後、鍛錬を続ける王妃の下へと向かった。
鍛錬を続ける王妃の様子は確かに王が見惚れるのも分からなくはないが、まあ、クラウスにとっては母の方が美しい。
いや、親族である王を除けば恐らく大体の人はそう思うのではないか、と自分に言い訳をしつつ、クラウスは王妃の隣に並んだ。
「ええ、むしろクラウスさんの強さの秘訣を少しでも吸収したいと思いますので歓迎ですよ」
そう微笑む王妃の隣で、素振りを開始する。
母とエリー叔母さん直伝の、最も効率的に力を斬撃に変える形。
勇者は全て、生まれ持った身体能力がまるで違う。例えば魔王戦当時の英雄エリーは150cm程の小柄な体格で、筋肉をよく鍛えたウアカリの殆どよりも力が強かったと言う。
筋肉量や骨格よりも、勇者としての超常現象の一つとも言えるものが、その個体差の幅だ。
そこに、骨格や筋肉量の違いが影響して、更には勇者の力の特性次第で、勇者は人によって効率的に力を伝える為の形がまるで変わってくる。
例えば英雄オリヴィアの主力は脚だった。
他を圧倒する踏み込みに乗せた刺突による必中の一撃が、オリヴィア最大の武器。その為オリヴィアは常に動き続けることでその力を最大限に引き出していた。
それに対して、曰く英雄ライラはどれだけ脚を止められるかが勝負だった。
ダメージの受け渡しによる反射の力を持つライラは全身が優れたパワーを発揮する格闘家タイプだったものの、オリヴィアの様に脚が速い訳でも、必中の力を持っている訳でも無い。
つまり突撃してたまたま上手くカウンターを合わせられるのならば問題は無いが、相手も自分も動く以上そうは行かない。
その為ライラは地に根を生やした様に立ち止まることで、冷静にカウンターを放つことを最良とした。
その大きな個人差を考慮した、人によって全く異なる形こそが、エリー叔母さん直伝の素振りに繋がっている。
「少し、変わった形ですね」
それを見ていた王妃は興味深そうにそう告げた。
「軍はグレーズ騎士団式でしたっけ?」
「ええ、かつては一時的に時雨流というものを取り入れたと聞きますが、今はそれを使いません。改良型の騎士団式ですね」
軍を編成する際に、随分ともめたのだとクラウスは聞いていた。
魔王の剣である時雨流を、グレーズ軍の中に残すべきか否か。
特別顧問であるオリーブと王の命によって改良型のグレーズ式が採用されることになるまで、二年ほど掛かったのだとか。
新グレーズ式の剣術は、時雨流の一部を含めた騎士団式。オリーブの基礎が騎士団式だったことから、反対者はようやく出なくなったのだと言う曰くの剣。
その形は全員同じく決められており、単純にその熟練度が高ければ優れたものになる様に設計されている。
ただし、それはある意味では才能殺しの剣術だ。
才能の低い者でも鍛錬さえ続ければ強くなれるのと引き換えに、才能の高い者も同程度の熟練度の者と戦えば同じくらいの強さでしかない。
もちろん全員に平等に同じ鍛錬をさせるだけで平均が上がるという素晴らしい面はあるものの、本当に才能のある者が天井に頭をぶつけてしまう様な、そんな可能性を持った剣だった。
もちろん、全く同じことをしていても、そこから第二の剣聖ディエゴ・ルーデンスが出ないとも限らないから、悪いとは絶対に言い切れない。
しかし初めてそれを聞いた時には、クラウスは意地が強さよりも大切なのかと呆れたものだったことを思い出した。
そして当然ながら、王妃エリスは時雨流を知らない。
まだエリスが軍に居て、オリーブが個人的に鍛錬を付けようとした際には、エリスはそれをやんわりと断ってしまっていた。
まだオリーブが英雄オリヴィアだと知らない時に、何故自分よりも弱い一般人に教わらなければならないのかと、若かったエリスは傲慢にも思ってしまっていたのだった。
「これは僕の二人の師匠の直伝です。僕が僕の肉体で、最も上手く動く為の形。僕よりも遥かに強いエリー叔母さんと、かつての英雄である母の教えてくれた僕の為の形」
「なるほど、それが噂の……」
「噂の?」
「あ、いえ、私よりも遥かに強いクラウスさんよりも更に強いなんて、凄い方なのですね」
「真夜中に突然剣で刺してきたり、めちゃくちゃな人ですけどね……。でもおかげで僕は強くなれたんです。英雄でもないのに、本当に何者なんだか……」
何も知らぬは本人ばかり、クラウスのそんな間抜けた疑問にエリスは「あ、ははは」と乾いた笑いを漏らすことしか出来なかった。
それでも、クラウスの14万回にも及ぶ素振りを眺めて、エリスは新たなヒントを見つけることが出来たのだった。
エリスの力は勇者の中でもかなり特異な超常現象であるテレポート。
それを活かすには、エリスにしか出来ない戦い方があっても良いのかもしれない。そんかことを素直に思う程度には、柔軟になろうとしていた。
「私が参考にすべきは、やはり英雄エリーなのかもしれませんね」
そう呟いたエリスにアーツは微笑ましそうな顔をして、姉への手紙を書くことにしたのだった。
内容はもちろん、八本の武器を使ったエリーの戦いをエリスに見せたい、ということだ。
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