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第三章:王妃と幼馴染
第三十九話:反省会
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夕方、再び昨日と同じ様なメンバーで集まって夕食会となっている。
違うのはジャムのメンバーが再び入れ替わり二人になっていること、マナが大人しくクラウスの隣の椅子に座ったことくらい。
王と王妃の間にはまだ7歳の王女がいるはずだが、本日も別で食事を取っているらしい。
「それにしてもクラウスは強いな。まさかエリスが勝てないとは」
王としては自信があったのだろう。
何しろ国々の威信をかけた第一回武闘大会で8位入賞、ジャムのメンバーよりも強いというエリスだ。
当時からグレーズナンバーワンの名を冠していた王妃が、ここまであっさりと負けるとは思っていなかったのだろう。
「本当に強かったです。ジョニー、クラウスさん、何か私に弱点等ありましたか?」
王女を別に食事を取らせている理由は決闘の反省会が目的だったからだろうか、真剣な顔で尋ねる。
「俺から見た感じでは明らかに地力の差だな。流石に王妃サマが日々戦い続けるわけにはいかない。その点クラウスは本当に戦いなれている。ブランクのある王妃サマが遅れを取るのも仕方が無いってものだ」
それがジョニーの見解だった。
膂力の差などは仕方が無い。ならばそれを埋めるのが技術だが、それがクラウスの方が上。
日々英雄相手に、今は魔物相手に戦っているクラウスに分があるということ。
対してクラウスの見解は全く別だった。
「背後にテレポートするまでは文句無い出だしの様に思います。でも僕ならあの後、背中ではなく左腕か右足を切り落とします。もしもそれを狙われていたら、僕は手が出せなかったかもしれません」
クラウスはそう語る。
そもそも左手が後ろにあるのだから、そこを狙うべきだ。そうすれば目は塞がれなかった。
踏み込むために残っている右足があるのだから、それを斬り落とせば次の一手は回避できない。
急所は誰でも守るもの。
例え実際の殺し合いでなかったとしても、次の一手で殺せる手をとるべきだというのがクラウスの弁。
「流石にクラウス坊はえぐいな……」
戦いを見ることが出来なかったジョンはそう苦笑いする。
グレーズ討伐軍は基本的に魔物を相手する組織だ。
盗賊を始末することはあれど、対人よりも対魔物が圧倒的に多い。
魔物相手なら平然と手足を狙えるし、盗賊相手ならば無効化する為に仕方なくその様なことをすることもある。
しかし殺し合いではない試合で平然と手足を切り落とせと言われれば、抵抗があるのが普通だ。
つまり、直接の敗因は明らかだった。
「私は甘かったと言うわけですか……」
ただの試合で、例え魔法使いに治療してもらえるからと、手足を切り落とされる覚悟をしながら戦っているクラウスに、背に剣を突きつけて勝ちを取ろうとしていたエリスが敵わないのは当然だったのかもしれない。
それはきっと、あのエリザベート・ストームハートも同じだったのだと、今更になって気づく。
英雄が上位を独占している現実は、単なる実力差もあるけれど、それ以上の覚悟の差。
決勝戦、ルーク対ストームハートを見ていたエリスは、その気迫に圧されていたことを思い出した。
実力があるからと大切に育てられたのがエリスだった。
そしてそれは英雄エリーやオリヴィアも一緒だったが、オリヴィアなんかは腕を吹き飛ばされて尚挑む程の気迫を見せたらしい。
ディエゴやエリーは魔王と一対一で戦ったらしい。
ならば目の前のクラウスに恐怖を感じて縮こまってしまった時点で、エリスの負けは決まっていたのかもしれない。
ストームハートが言っていたらしいエリスは強かったという言葉はきっと馬鹿にした言葉ではなく、それまでの試合も見ていての言葉だったのだろう。
「まあ確かに、魔王戦以来グレーズ軍が甘いことは事実だ。参考になったよクラウス坊」
先の魔王戦で大きく戦力を削がれたグレーズ軍は、強者を大切にしなければならなかった。
技術や戦術は特別顧問のオリーブやジャム達が直々に指導したことで大幅に上昇したものの、ジャムはともかくして、あのオリーブがオリヴィアだと言うのであれば、強く出られないのも当然のこと。
誰かが犠牲になるくらいなら自分が出ると言い出すのが英雄オリヴィアだ。
つまり、魔法が存分に吹き荒れる集団戦では十分に力を付けたが、一体一では騎士団の頃よりもむしろ弱体化してしまったのが今のグレーズ軍なのだろう。
「でも、今や集団戦では世界最強とも言われてますし、僕に負けたところでそれ程では」
そう答えるクラウスに、ジョンとエリスは首を振る。
「集団戦だけで済めば良いんだが、そうじゃない場合は致命的な欠点だ。特にこれからはな」
「私も悔しいです。もう少しくらい、良い試合が出来ると驕っていました」
その意味を、この場ではクラウスと美味しそうに料理を頬張っていたマナだけが知らなかった。
――。
「エリス、まず最初にクラウスを殺しても良いというのは、半分冗談だ。今そんなことをすればきっと俺はエリーさんに殺されてしまう。
それに多分だけど、もしもマナを残してクラウスを殺せば世界は滅んでしまうだろうしね。同時にマナだけを殺しても世界は滅ぶだろう。クラウス達は丁重に扱わないといけない爆弾なんだよ。
そもそもクラウスってのはね、ほぼ100%勇者じゃ無いんだ……」
違うのはジャムのメンバーが再び入れ替わり二人になっていること、マナが大人しくクラウスの隣の椅子に座ったことくらい。
王と王妃の間にはまだ7歳の王女がいるはずだが、本日も別で食事を取っているらしい。
「それにしてもクラウスは強いな。まさかエリスが勝てないとは」
王としては自信があったのだろう。
何しろ国々の威信をかけた第一回武闘大会で8位入賞、ジャムのメンバーよりも強いというエリスだ。
当時からグレーズナンバーワンの名を冠していた王妃が、ここまであっさりと負けるとは思っていなかったのだろう。
「本当に強かったです。ジョニー、クラウスさん、何か私に弱点等ありましたか?」
王女を別に食事を取らせている理由は決闘の反省会が目的だったからだろうか、真剣な顔で尋ねる。
「俺から見た感じでは明らかに地力の差だな。流石に王妃サマが日々戦い続けるわけにはいかない。その点クラウスは本当に戦いなれている。ブランクのある王妃サマが遅れを取るのも仕方が無いってものだ」
それがジョニーの見解だった。
膂力の差などは仕方が無い。ならばそれを埋めるのが技術だが、それがクラウスの方が上。
日々英雄相手に、今は魔物相手に戦っているクラウスに分があるということ。
対してクラウスの見解は全く別だった。
「背後にテレポートするまでは文句無い出だしの様に思います。でも僕ならあの後、背中ではなく左腕か右足を切り落とします。もしもそれを狙われていたら、僕は手が出せなかったかもしれません」
クラウスはそう語る。
そもそも左手が後ろにあるのだから、そこを狙うべきだ。そうすれば目は塞がれなかった。
踏み込むために残っている右足があるのだから、それを斬り落とせば次の一手は回避できない。
急所は誰でも守るもの。
例え実際の殺し合いでなかったとしても、次の一手で殺せる手をとるべきだというのがクラウスの弁。
「流石にクラウス坊はえぐいな……」
戦いを見ることが出来なかったジョンはそう苦笑いする。
グレーズ討伐軍は基本的に魔物を相手する組織だ。
盗賊を始末することはあれど、対人よりも対魔物が圧倒的に多い。
魔物相手なら平然と手足を狙えるし、盗賊相手ならば無効化する為に仕方なくその様なことをすることもある。
しかし殺し合いではない試合で平然と手足を切り落とせと言われれば、抵抗があるのが普通だ。
つまり、直接の敗因は明らかだった。
「私は甘かったと言うわけですか……」
ただの試合で、例え魔法使いに治療してもらえるからと、手足を切り落とされる覚悟をしながら戦っているクラウスに、背に剣を突きつけて勝ちを取ろうとしていたエリスが敵わないのは当然だったのかもしれない。
それはきっと、あのエリザベート・ストームハートも同じだったのだと、今更になって気づく。
英雄が上位を独占している現実は、単なる実力差もあるけれど、それ以上の覚悟の差。
決勝戦、ルーク対ストームハートを見ていたエリスは、その気迫に圧されていたことを思い出した。
実力があるからと大切に育てられたのがエリスだった。
そしてそれは英雄エリーやオリヴィアも一緒だったが、オリヴィアなんかは腕を吹き飛ばされて尚挑む程の気迫を見せたらしい。
ディエゴやエリーは魔王と一対一で戦ったらしい。
ならば目の前のクラウスに恐怖を感じて縮こまってしまった時点で、エリスの負けは決まっていたのかもしれない。
ストームハートが言っていたらしいエリスは強かったという言葉はきっと馬鹿にした言葉ではなく、それまでの試合も見ていての言葉だったのだろう。
「まあ確かに、魔王戦以来グレーズ軍が甘いことは事実だ。参考になったよクラウス坊」
先の魔王戦で大きく戦力を削がれたグレーズ軍は、強者を大切にしなければならなかった。
技術や戦術は特別顧問のオリーブやジャム達が直々に指導したことで大幅に上昇したものの、ジャムはともかくして、あのオリーブがオリヴィアだと言うのであれば、強く出られないのも当然のこと。
誰かが犠牲になるくらいなら自分が出ると言い出すのが英雄オリヴィアだ。
つまり、魔法が存分に吹き荒れる集団戦では十分に力を付けたが、一体一では騎士団の頃よりもむしろ弱体化してしまったのが今のグレーズ軍なのだろう。
「でも、今や集団戦では世界最強とも言われてますし、僕に負けたところでそれ程では」
そう答えるクラウスに、ジョンとエリスは首を振る。
「集団戦だけで済めば良いんだが、そうじゃない場合は致命的な欠点だ。特にこれからはな」
「私も悔しいです。もう少しくらい、良い試合が出来ると驕っていました」
その意味を、この場ではクラウスと美味しそうに料理を頬張っていたマナだけが知らなかった。
――。
「エリス、まず最初にクラウスを殺しても良いというのは、半分冗談だ。今そんなことをすればきっと俺はエリーさんに殺されてしまう。
それに多分だけど、もしもマナを残してクラウスを殺せば世界は滅んでしまうだろうしね。同時にマナだけを殺しても世界は滅ぶだろう。クラウス達は丁重に扱わないといけない爆弾なんだよ。
そもそもクラウスってのはね、ほぼ100%勇者じゃ無いんだ……」
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