391 / 592
第十一章:血染めの鬼姫と妖狐と
第百五十四話:私からしたら20点
しおりを挟む
グレーズ王国、旧フィオーレの跡地にある墓地にエリーとオリヴィアはやって来ていた。
王都の方では現在軍の編成が行われおり、同時に英雄に関する情報整理も行われている。
今回最前線で戦い続けたエリーと止めを刺したオリヴィアはもちろん英雄。それも、師匠が魔王だと知った弟子である彼女達が命を顧みずに最前線に立ったのだということになっている。
とは言えオリヴィアは死亡、エリーは魔王戦後、一度グレーズに戻ったものの行方不明となってしまった。
そして最初の対峙の際、オリヴィアを救い六日間にも及び戦い抜き、命を落とした騎士団長ディエゴ・ルーデンスも英雄だ。結局救ったオリヴィアは死んでしまったものの、六日間という実績は代え難い。最後の決戦も、3時間も経たない内の決着。
そして、前国王ピーテル。その一見愚かな自殺行為も、新王であるアーツが意図を察した演説をしたことで愚王の汚名は免れることとなった。軍を引き連れての突撃ではなく、どうしても王に着いていきたいと言った独身騎士のみを引き連れての戦闘だった為、ある意味で無駄な死者は出していない。全軍を率いていれば全滅は確実、しかし単身で向かえばただの自殺。魔王の準備期間をなるべく取らせない為には有用な決断だった、と言うのが新大将であるジャム達の見解。
更には父としての、その無謀な勇敢さがオリヴィアの心を動かしたのだという美談が語られているらしい。
その噂を流したのは妻シルヴィアなのだが、まあそれは今は置いておくとして。
最後に、不運な騎士レイニー。
若くして戦死した騎士は、勇敢にも一人で戦いを挑み、人知れず散っていった。
レイニーは反逆者だと宣う魔王に踊らされた前王はその責任を取るためにも魔王戦に向かったのだが、レイニーは魔王の本質に唯一気付いた騎士として、グレーズの英雄の一人として歴史に名を刻むことになったということ。
【孤独の騎士レイニー・フォクスチャーム】
市井にも人気の高かった好青年は王女オリヴィアとお似合いだと考えていた市民も多く、時期国王として期待されていた。そのつもりがオリヴィアには全く無くとも、レイニーの姫に対する忠誠心を見ていた市民達はその青年を英雄扱いすることで、自らも貶めてしまった贖罪としたかったらしい。
そんな彼らが、エリーは嫌だった。
何も知らない者達が知った様な顔をして、レインを貶めている。それは本質的にはお前達の好きなオリヴィアすらも貶めていると知っているのかと。それがまた、アーツを振ることになった理由の一つでもある。
5歳から戦場にあったエリーは、言ってみれば強者だ。いつも守る側の存在で、守られる側の母や女将、そしてブロンセンの市民達は皆そんなエリーを娘の様に可愛がっていた。アリスの身の上を知っても差別などする訳もなく。
ブロンセンの市民達は、言ってみれば特殊な人々だ。辺境の片田舎、まるで心が読めるエリーの為に存在する様な心優しき人々。そんな者達は、凄まじく少数派。人口密度が多くなればそれだけ人々の摩擦も大きくなり、軋轢を生む。それは、余裕の無かったエリーの生まれ故郷も同じ。
だからこそ、エリーは生まれ故郷とある種似ている、王都に住む極一般的な弱者の気持ちを理解等出来はしなかった。
知り合いに英雄や王族が多すぎることが原因の一つなのかもしれないが、ともかく、心が読めるエリーは、グレーズ王都をなるべく早く出たがった。
かつてフィオーレの町だった場所に入り、レインとサニィの墓に着くと、予想通りのことが起こっている。
人間歴452年7月28日
世界を救った■■■英雄
■■■■■■■
Sunny Prismheart
魔王の呪いを消し去り眠る
「こういうのを見ると、世界の意思の考えもあながち間違いじゃないって思うね」
人間は滅んでしまっても良いのではないかと、考えてしまう。
「それすらも、世界の意思の思惑通りかもしれませんけれど……、少なくともレイン様は――」
「うん、分かってる」
魔王となったレインは、人を殺したくはなかったはず。
だからこそ残ってすらいない意思で、それこそ、本能的な部分であえてたまきの魅了に引っかかって活動を停止していた。
それをエリーは知っている。オリヴィアも、当然の如く予想が付いている。
ここには居ないかもしれないけど、と前置きして語り始める。
「お姉ちゃん、師匠が魔王になっちゃったけど、なんとか魔王討伐隊で止められたよ。ディエゴさんとライラさんが死んじゃって、ナディアさんも意識が戻らない。その上で、みんな師匠を敵扱いだ。悔しいよ。
師匠は魔王を二人も倒したのに。魔王を倒すためにって、私達皆を鍛えてくれたのに……。ドラゴンだって、全滅させた、本当なら英雄の中の英雄のはずなのに……。
お姉ちゃんから見たら、何点位の戦いだったのかな。私からしたら20点。
死者を一人も出さないでって、アリエルちゃんの掲げた目標は全然届かなかった。
だから、一般市民に被害が出なかったってことで20点…………、なんで、なんで皆師匠を悪く言うのかな、何も知らない癖に。
うあぁぁああぁ、皆、みんな頑張って戦ったのに、なんでだよおおおぉぉぉぉお!」
今まで心の中に溜め込んでいたものを放出する様に、エリーは叫び始めた。涙をぼろぼろと流し、今までオリヴィアの代わりに気丈に振舞っていた者が一瞬にして崩れ去る様に、わんわんと泣き始めた。
「エリーさん……」
それを、オリヴィアが抱きしめる。今までで散々心の中のものを出し切ったオリヴィアは、今となっては冷静になっていた。自分自身も、レインを悪者にした一人だ。国の為にとは言え、弟の為にとは言え、エリーにとってはそれが一番辛いことだということを、一番知っているのは同じ師匠の弟子のオリヴィア。そんな罪の意識がある中で、エリーと共に泣くことなど出来はしない。
それにしても、今まで可愛い妹に随分と大きな負担をかけてしまったものだと反省もしながら、15歳の英雄が泣き止むまで抱きしめ続けた。
王都の方では現在軍の編成が行われおり、同時に英雄に関する情報整理も行われている。
今回最前線で戦い続けたエリーと止めを刺したオリヴィアはもちろん英雄。それも、師匠が魔王だと知った弟子である彼女達が命を顧みずに最前線に立ったのだということになっている。
とは言えオリヴィアは死亡、エリーは魔王戦後、一度グレーズに戻ったものの行方不明となってしまった。
そして最初の対峙の際、オリヴィアを救い六日間にも及び戦い抜き、命を落とした騎士団長ディエゴ・ルーデンスも英雄だ。結局救ったオリヴィアは死んでしまったものの、六日間という実績は代え難い。最後の決戦も、3時間も経たない内の決着。
そして、前国王ピーテル。その一見愚かな自殺行為も、新王であるアーツが意図を察した演説をしたことで愚王の汚名は免れることとなった。軍を引き連れての突撃ではなく、どうしても王に着いていきたいと言った独身騎士のみを引き連れての戦闘だった為、ある意味で無駄な死者は出していない。全軍を率いていれば全滅は確実、しかし単身で向かえばただの自殺。魔王の準備期間をなるべく取らせない為には有用な決断だった、と言うのが新大将であるジャム達の見解。
更には父としての、その無謀な勇敢さがオリヴィアの心を動かしたのだという美談が語られているらしい。
その噂を流したのは妻シルヴィアなのだが、まあそれは今は置いておくとして。
最後に、不運な騎士レイニー。
若くして戦死した騎士は、勇敢にも一人で戦いを挑み、人知れず散っていった。
レイニーは反逆者だと宣う魔王に踊らされた前王はその責任を取るためにも魔王戦に向かったのだが、レイニーは魔王の本質に唯一気付いた騎士として、グレーズの英雄の一人として歴史に名を刻むことになったということ。
【孤独の騎士レイニー・フォクスチャーム】
市井にも人気の高かった好青年は王女オリヴィアとお似合いだと考えていた市民も多く、時期国王として期待されていた。そのつもりがオリヴィアには全く無くとも、レイニーの姫に対する忠誠心を見ていた市民達はその青年を英雄扱いすることで、自らも貶めてしまった贖罪としたかったらしい。
そんな彼らが、エリーは嫌だった。
何も知らない者達が知った様な顔をして、レインを貶めている。それは本質的にはお前達の好きなオリヴィアすらも貶めていると知っているのかと。それがまた、アーツを振ることになった理由の一つでもある。
5歳から戦場にあったエリーは、言ってみれば強者だ。いつも守る側の存在で、守られる側の母や女将、そしてブロンセンの市民達は皆そんなエリーを娘の様に可愛がっていた。アリスの身の上を知っても差別などする訳もなく。
ブロンセンの市民達は、言ってみれば特殊な人々だ。辺境の片田舎、まるで心が読めるエリーの為に存在する様な心優しき人々。そんな者達は、凄まじく少数派。人口密度が多くなればそれだけ人々の摩擦も大きくなり、軋轢を生む。それは、余裕の無かったエリーの生まれ故郷も同じ。
だからこそ、エリーは生まれ故郷とある種似ている、王都に住む極一般的な弱者の気持ちを理解等出来はしなかった。
知り合いに英雄や王族が多すぎることが原因の一つなのかもしれないが、ともかく、心が読めるエリーは、グレーズ王都をなるべく早く出たがった。
かつてフィオーレの町だった場所に入り、レインとサニィの墓に着くと、予想通りのことが起こっている。
人間歴452年7月28日
世界を救った■■■英雄
■■■■■■■
Sunny Prismheart
魔王の呪いを消し去り眠る
「こういうのを見ると、世界の意思の考えもあながち間違いじゃないって思うね」
人間は滅んでしまっても良いのではないかと、考えてしまう。
「それすらも、世界の意思の思惑通りかもしれませんけれど……、少なくともレイン様は――」
「うん、分かってる」
魔王となったレインは、人を殺したくはなかったはず。
だからこそ残ってすらいない意思で、それこそ、本能的な部分であえてたまきの魅了に引っかかって活動を停止していた。
それをエリーは知っている。オリヴィアも、当然の如く予想が付いている。
ここには居ないかもしれないけど、と前置きして語り始める。
「お姉ちゃん、師匠が魔王になっちゃったけど、なんとか魔王討伐隊で止められたよ。ディエゴさんとライラさんが死んじゃって、ナディアさんも意識が戻らない。その上で、みんな師匠を敵扱いだ。悔しいよ。
師匠は魔王を二人も倒したのに。魔王を倒すためにって、私達皆を鍛えてくれたのに……。ドラゴンだって、全滅させた、本当なら英雄の中の英雄のはずなのに……。
お姉ちゃんから見たら、何点位の戦いだったのかな。私からしたら20点。
死者を一人も出さないでって、アリエルちゃんの掲げた目標は全然届かなかった。
だから、一般市民に被害が出なかったってことで20点…………、なんで、なんで皆師匠を悪く言うのかな、何も知らない癖に。
うあぁぁああぁ、皆、みんな頑張って戦ったのに、なんでだよおおおぉぉぉぉお!」
今まで心の中に溜め込んでいたものを放出する様に、エリーは叫び始めた。涙をぼろぼろと流し、今までオリヴィアの代わりに気丈に振舞っていた者が一瞬にして崩れ去る様に、わんわんと泣き始めた。
「エリーさん……」
それを、オリヴィアが抱きしめる。今までで散々心の中のものを出し切ったオリヴィアは、今となっては冷静になっていた。自分自身も、レインを悪者にした一人だ。国の為にとは言え、弟の為にとは言え、エリーにとってはそれが一番辛いことだということを、一番知っているのは同じ師匠の弟子のオリヴィア。そんな罪の意識がある中で、エリーと共に泣くことなど出来はしない。
それにしても、今まで可愛い妹に随分と大きな負担をかけてしまったものだと反省もしながら、15歳の英雄が泣き止むまで抱きしめ続けた。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる