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第十章:鬼の娘
第百三十四話:例えどんなことがあっても
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「ねえルー君」
「なんだいエレナ?」
修行を続けるライラとエリーを見ながら、魔法使いのカップルは話を始める。
ルークは最近夜、星空を眺めて居た時にある魔法を思いついたらしい。
レインを参考に作ってみた『次元の狭間切り』は、イメージする為の時間も長くかかり、視界が遮られれば届かなくなるのが最大の欠点。それを克服した同等以上の力を持つ魔法。
それも既に実験済み。着実に地力は伸びて来ている。
「ぶっちゃけ、私達が魔人様に勝てる確率ってどの位?」
いつもの様にエレナは気になることを素直に尋ねる。
実際に魔王になってしまっても魔人様と呼び続ける辺り、エレナは本当に図太い。
とは言えそれを指摘する者はいない。魔王になったからと言って気を使って呼び方を変えればオリヴィアも更に落ち込んでしまう。きっと、そんなことが本能で分かっているのだろう。
「んー、たまきの強さにもよるんだよなぁ」
たまきの現在の強さは、少なくとも魔王を止められる程。
とは言え以前先生であるサニィから聞いた際にはデーモンロードクラスでレインに攻撃を躊躇させる程の魅了をしていたと言う。当時のレインよりは弱い魔王を魅了出来た所で現在の強さがどのくらいなのかは想像は出来ない。
「先生くらいだとしたら?」
「本気の先生だとしたら0%だね」
魔王だけを想定しても被害ゼロは相当に厳しいことだと考えていた。アリエルの掲げる死者ゼロに共感はしていたものの、現実的には厳しい。それをはっきりと分かっていたルークは冷静だった。
たまきが聖女サニィのレベルにあるのであれば、ディエゴ、ナディア、オリヴィアを欠いた今勝つことは不可能だ。
「ふーん。じゃあオリヴィアさん位だとしたら?」
「13%かな」
いくらオリヴィアが最強だとは言え、二人掛りで挑んで勝てないレベルではない。
そうなれば、たまきに二人を割くとして、残りで魔王を討伐出来る可能性はそのくらい。
少なくとも、今の魔王討伐隊の面々は過去のどの勇者達よりも強い。
「じゃあ、ルー君が総合的に思ってる勝率は?」
「5%」
本当に正直なところで言えばそのくらいだ。
魔王はそれほど強大で、ディエゴとナディアを欠くという事はそれだけの損失。
更にたまきの出現。
「5%かー。上々だね」
しかし、エレナはあっけらかんと納得する。
まるで絶望等した様子もなく、むしろ良い感じと笑顔を見せる。
「5%を上々と考えるエレナは本当に凄いよ」
苦笑いを隠さずルークは言う。
エレナはそもそも、確率を当てにしないことが多々あるのだ。
その結果が戦闘のムラにも繋がっているものの、結果的にそれが絶望的な結果になったことはただの一度もない。何よりも心を乱さないエレナは、なんだかんだで勝利を手に入れてきている。
なんだかその根拠の無さそうな自信が心強いと感じている辺り、ルークも相当にエレナに毒されているのかもしれない。
しかし、今回ばかりはエレナにも根拠はある様だ。
「先生はぶっちゃけ勝率0%のドラゴンと相打ちになったって聞いてる。魔人様は何度死んでもおかしくない戦い方をし続けて無敗。そんな二人が選んでくれた私達が5%を掴めないのだとしたら、二人には見る目が無いってことになっちゃうから」
更に言えば二人は、運命的な出会いを果たしている。同じ日に呪いに罹り、同じ日が誕生日で、同じ日に命を落とした。そんな最強の二人。そんな二人が選んだ救世主が、救世主で無いわけがない。
「なるほど。エレナらしい考え方だね」
確率なんてものはそもそもまやかしで、結末は決められている。
エレナが言いたい事はそういうことだ。
アリエルの能力が指し示す道も、常に変化はしているものの終わりが訪れるとは全く出てはいない。
流石に図太いエレナらしい発想。
「私は先生も魔人様も信じてる。あの二人のおかげで、一体どれだけみんなが強くなったことか分からない。魔人様はきっと、自分が魔王になることも知ってた様な気がするな」
「それは確かにね。あの人のことだから、本当は何処までも知ってたのかもしれないね」
あのなんでも見抜く様な力がこうなることを暗に予測していたのなら、自分達が彼らに出会ったことそのものがあの鬼神の想定通り。
そんなことを言われても信じられる程度には、あの人は規格外だった。
「うんうん。魔人様はきっと、大切な人に殺されたかったんだと思うよ」
「それはまた、エレナらしい考え方だね」
ルークはそれを否定しない。
「殺されるなら好きな人の手で。私はそうだからね」
「僕はエレナには幸せだったと言って寿命を迎えてもらえるよう努力するよ」
家族に放られたも同然に研究所に預けられたエレナは、少々性格が歪んでいる。
病んでいると言う程ではない。余りに図太い為にそこまではいかず、しかし自分の価値は他の人よりも低め。少しの破滅願望。
ルークが側にいることである程度相殺されていながらも、時々漏れるそんな暗黒面。
しかしそれがまたエレナの才能の一端で、ルークにとってのエレナの魅力の一つ。
「今のまま行けば大丈夫。私は本当に幸せだよ。だから」
「ん?」
「みんなを程々に幸せにするには、英雄候補の皆で魔王魔人様を倒すしかないんだよ。オリヴィアさんも辛いと思うけど、きっと本当は分かってる」
決して乱れない【悪夢のエレナ】は、相変わらず頼もしく言いながら。
「…………そうだね」
「だから、本当は5%じゃなくてもっと高いんじゃない?」
そんな、ルークの心でも読んだかの様に確率を指摘する。
「いや、僕の想定では5%だけど……」
「オリヴィアさんが復帰しないことが前提だよね、それ」
「…………うん。ははは、全くエレナには敵わないな」
オリヴィアは今のままでは戦えない。
毎日の修行も出来ていない。
修行を怠ったオリヴィアは、本人の言では弱くなる。
それが、もう10日も修行をしていない。
彼女がどの程度弱くなったのかは想像出来ないが、そもそも動くことすら難しいのだ。
だから、ルークの5%はオリヴィアを抜いた予想。
「私にはルー君の考えてることは全然分からないけど、考えそうなことはなんとなく分かるから」
「ははは、そっか。エレナの考えが全然分からない僕はまだまだかもしれないね」
【悪夢のエレナ】と【天才ルーク】
このカップルはきっといつまで経っても互いのことを完全に分かり合うことはない。
それでも、二人は互いを尊重しながら今日も笑い合う。
「ふふ、そうだね。ルー君はまだまだ成長の余地があるのかもね。それに」
「それに?」
「魔人様は例えどんなことがあってもエリーちゃんとオリヴィアさんだけは殺さないよ」
「うん、それはそうかもしれないね」
ディエゴやグレーズ王が殺されても、サニィだと勘違いされたナディアだけは死んでいない。
それは少々難しい問題ではあるけれど、感情さえ抜いてしまえば、世界にとっては確実に『良い話』だ。
「なんだいエレナ?」
修行を続けるライラとエリーを見ながら、魔法使いのカップルは話を始める。
ルークは最近夜、星空を眺めて居た時にある魔法を思いついたらしい。
レインを参考に作ってみた『次元の狭間切り』は、イメージする為の時間も長くかかり、視界が遮られれば届かなくなるのが最大の欠点。それを克服した同等以上の力を持つ魔法。
それも既に実験済み。着実に地力は伸びて来ている。
「ぶっちゃけ、私達が魔人様に勝てる確率ってどの位?」
いつもの様にエレナは気になることを素直に尋ねる。
実際に魔王になってしまっても魔人様と呼び続ける辺り、エレナは本当に図太い。
とは言えそれを指摘する者はいない。魔王になったからと言って気を使って呼び方を変えればオリヴィアも更に落ち込んでしまう。きっと、そんなことが本能で分かっているのだろう。
「んー、たまきの強さにもよるんだよなぁ」
たまきの現在の強さは、少なくとも魔王を止められる程。
とは言え以前先生であるサニィから聞いた際にはデーモンロードクラスでレインに攻撃を躊躇させる程の魅了をしていたと言う。当時のレインよりは弱い魔王を魅了出来た所で現在の強さがどのくらいなのかは想像は出来ない。
「先生くらいだとしたら?」
「本気の先生だとしたら0%だね」
魔王だけを想定しても被害ゼロは相当に厳しいことだと考えていた。アリエルの掲げる死者ゼロに共感はしていたものの、現実的には厳しい。それをはっきりと分かっていたルークは冷静だった。
たまきが聖女サニィのレベルにあるのであれば、ディエゴ、ナディア、オリヴィアを欠いた今勝つことは不可能だ。
「ふーん。じゃあオリヴィアさん位だとしたら?」
「13%かな」
いくらオリヴィアが最強だとは言え、二人掛りで挑んで勝てないレベルではない。
そうなれば、たまきに二人を割くとして、残りで魔王を討伐出来る可能性はそのくらい。
少なくとも、今の魔王討伐隊の面々は過去のどの勇者達よりも強い。
「じゃあ、ルー君が総合的に思ってる勝率は?」
「5%」
本当に正直なところで言えばそのくらいだ。
魔王はそれほど強大で、ディエゴとナディアを欠くという事はそれだけの損失。
更にたまきの出現。
「5%かー。上々だね」
しかし、エレナはあっけらかんと納得する。
まるで絶望等した様子もなく、むしろ良い感じと笑顔を見せる。
「5%を上々と考えるエレナは本当に凄いよ」
苦笑いを隠さずルークは言う。
エレナはそもそも、確率を当てにしないことが多々あるのだ。
その結果が戦闘のムラにも繋がっているものの、結果的にそれが絶望的な結果になったことはただの一度もない。何よりも心を乱さないエレナは、なんだかんだで勝利を手に入れてきている。
なんだかその根拠の無さそうな自信が心強いと感じている辺り、ルークも相当にエレナに毒されているのかもしれない。
しかし、今回ばかりはエレナにも根拠はある様だ。
「先生はぶっちゃけ勝率0%のドラゴンと相打ちになったって聞いてる。魔人様は何度死んでもおかしくない戦い方をし続けて無敗。そんな二人が選んでくれた私達が5%を掴めないのだとしたら、二人には見る目が無いってことになっちゃうから」
更に言えば二人は、運命的な出会いを果たしている。同じ日に呪いに罹り、同じ日が誕生日で、同じ日に命を落とした。そんな最強の二人。そんな二人が選んだ救世主が、救世主で無いわけがない。
「なるほど。エレナらしい考え方だね」
確率なんてものはそもそもまやかしで、結末は決められている。
エレナが言いたい事はそういうことだ。
アリエルの能力が指し示す道も、常に変化はしているものの終わりが訪れるとは全く出てはいない。
流石に図太いエレナらしい発想。
「私は先生も魔人様も信じてる。あの二人のおかげで、一体どれだけみんなが強くなったことか分からない。魔人様はきっと、自分が魔王になることも知ってた様な気がするな」
「それは確かにね。あの人のことだから、本当は何処までも知ってたのかもしれないね」
あのなんでも見抜く様な力がこうなることを暗に予測していたのなら、自分達が彼らに出会ったことそのものがあの鬼神の想定通り。
そんなことを言われても信じられる程度には、あの人は規格外だった。
「うんうん。魔人様はきっと、大切な人に殺されたかったんだと思うよ」
「それはまた、エレナらしい考え方だね」
ルークはそれを否定しない。
「殺されるなら好きな人の手で。私はそうだからね」
「僕はエレナには幸せだったと言って寿命を迎えてもらえるよう努力するよ」
家族に放られたも同然に研究所に預けられたエレナは、少々性格が歪んでいる。
病んでいると言う程ではない。余りに図太い為にそこまではいかず、しかし自分の価値は他の人よりも低め。少しの破滅願望。
ルークが側にいることである程度相殺されていながらも、時々漏れるそんな暗黒面。
しかしそれがまたエレナの才能の一端で、ルークにとってのエレナの魅力の一つ。
「今のまま行けば大丈夫。私は本当に幸せだよ。だから」
「ん?」
「みんなを程々に幸せにするには、英雄候補の皆で魔王魔人様を倒すしかないんだよ。オリヴィアさんも辛いと思うけど、きっと本当は分かってる」
決して乱れない【悪夢のエレナ】は、相変わらず頼もしく言いながら。
「…………そうだね」
「だから、本当は5%じゃなくてもっと高いんじゃない?」
そんな、ルークの心でも読んだかの様に確率を指摘する。
「いや、僕の想定では5%だけど……」
「オリヴィアさんが復帰しないことが前提だよね、それ」
「…………うん。ははは、全くエレナには敵わないな」
オリヴィアは今のままでは戦えない。
毎日の修行も出来ていない。
修行を怠ったオリヴィアは、本人の言では弱くなる。
それが、もう10日も修行をしていない。
彼女がどの程度弱くなったのかは想像出来ないが、そもそも動くことすら難しいのだ。
だから、ルークの5%はオリヴィアを抜いた予想。
「私にはルー君の考えてることは全然分からないけど、考えそうなことはなんとなく分かるから」
「ははは、そっか。エレナの考えが全然分からない僕はまだまだかもしれないね」
【悪夢のエレナ】と【天才ルーク】
このカップルはきっといつまで経っても互いのことを完全に分かり合うことはない。
それでも、二人は互いを尊重しながら今日も笑い合う。
「ふふ、そうだね。ルー君はまだまだ成長の余地があるのかもね。それに」
「それに?」
「魔人様は例えどんなことがあってもエリーちゃんとオリヴィアさんだけは殺さないよ」
「うん、それはそうかもしれないね」
ディエゴやグレーズ王が殺されても、サニィだと勘違いされたナディアだけは死んでいない。
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