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第八章:ほんの僅かの前進
第百二話:あれがあの男の直弟子か……
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少し弟子二人の戦いが見たい。
そんなことを言ったサンダルの為に、ナディアは先に一人南部へと向かった。
脚の速いサンダルであれば、北部の戦いを多少見てからでも南部に敵が到達するまでには間に合う。
サンダルには純粋に興味があった。ナディアも認める、友人の可憐な二人の直弟子が、一体どれほどの実力を持っているのかを。ナディア自身が見ておけと言ったことも含めて、その興味は尽きなかった。
「よし、それじゃサービスってことで、ちょうど昨日思いついたばかりの必殺技を見せてあげるよサンダルさん」
一番弟子を名乗る小さなお嬢さんの方が、気分良さげにそんなことを言う。
人の生死がかかっている戦場でそんな浮ついた気分とは何事かと優しく諭したいところではあったが、それをぐっと堪える。
最強だと言われる姫様の方が、それを優しげな顔で見守っているからだ。
「昨日思いついたばかりのものを、いきなり実戦で使えるのか?」
代わりに、そんな質問をぶつける。
すると小さなお嬢さんは、心を読んだ様で、逆に諭す様に言う。
「サンダルさんが最強の瞬間ってどんな時?」
「……」
咄嗟に答えられないでいると、お嬢さんは言う。
「私はね、大切なものを守る時。それだけは、違えない。だから、大丈夫。これが私の戦い方なの」
「ふふ、そういうことですわ」
そうして、お嬢さんは街に背を向けた。するとその小さな体は、途端に大きく見え始める。
彼女から溢れ出る自信だろうか、もしくは、彼女を包む宝剣達がやる気なのだろうか。
それともただの実力か。
150cmに満たない身長で堂々と構える彼女が、とても頼もしい。
「……なるほど」
思わずそう呟いてしまう程には、その小さな守護神は歴戦の勇姿を感じさせた。
「さて、ついでだから名乗りも上げようオリ姉」
「ええ、良いですわね」
サンダープリンセスを名乗っていたオリヴィアは、それなりに名乗りを上げて魔物討伐を行ってきた。
目の前の状況と、背後の不安げな住人達を見て、少しばかりやる気が満ちている。
二人の目の前に広がる光景は、既にこの世の終わりの様な光景だ。
一体一体はそれほど大したことはないものの、デーモンクラスも混じった数千に及ぶ魔物の群れ。それがまだ一部だというのだから。
「ああ、師匠なら一太刀で終わりなんだろうなぁ」
「そう考えるとまだまだ遠いですわね」
「うん。でも、私達も負けてられない。さて」
言いながら、少女は背負った武器のうち、盾を地面に突き刺し、大剣を逆さまに持って構える。刀身に二つの穴が空いており、逆さまに持てば鍔に当たる部分が面となりハンマーの形を持つ宝剣ヴィクトリア。
それを思いっきり後ろに振りかざしながら、叫ぶ。
「世界の意思とやらに操られた魔物達! 私達は怒ってるよ! 師匠を殺したこと、お姉ちゃんを殺したこと、そして狛の村のみんなを殺したこと。全部全部!」
「そんなことまで言いますの……?」
いつもの様に自由なことを言って、それについて行けないオリヴィア。
本当なら絶望的な光景を前になんとも気の緩むことだと思いながら、サンダルは見守る。
そんな二人を無視して、エリーは続ける。
「ここはこの小さな守護神エリーと!」
「ち、血塗れの鬼姫、オリヴィアが通しませんわ!」
結局つられる様に焦りながら名乗りを上げたオリヴィアも、それがスイッチになったのだろうか。
一気に空気が引き締まる。
かつてのレインと似た様な、重く冷たい殺気。相変わらず余裕の表情を崩さないエリーに対して、その視線だけでも射殺されそうな程の緊張感がオリヴィアから放たれる。
「……これが現在の最強か」
血塗れの鬼姫。そんな二つ名が正にぴったりと当てはまる。
そんな感想を抱く程に、レインの後継者然としたその美女は、右の腰に差した見慣れた宝剣月光を抜き、それを両手で持つと数歩前に出て、エリーを振り返った。
正に迫り来る魔物を前に、一体何をするつもりなのだろうか。
そう思った瞬間だった。
「んんっ!」
エリーが思いっきりヴィクトリアを放り投げる。そのまま一回転すると、手には腰に提げていた白い弓を右手に持っている。大剣は魔物の群れの最前線、一体の魔物を貫いて地面に突き刺さる。それと同時、バシュッという音と共に、一本の矢が放たれた。
どれだけ武器の鍛錬を重ねればそんなことが出来るのだろうか。
思わずそんな感想を抱いてしまう程に流れる様に、エリーは予め地面に刺していた大盾を、左手に装備していた。
直後、魔物の群れがカッと白い閃光に包まれる。最前線の一体に向かって進んでいた矢が、敵に当たる直前で光り輝いたらしい。
それに驚いている間もなく、ガァアンという金属同士が激しくぶつかった音がエリーから聞こえる。それにほんの一瞬遅れて、地面が揺れる。
「よぉし、行っ……てらっしゃい、オリ姉!」
「お先に参りますわ!」
見れば、大盾にオリヴィアが思いっきり月光を打ち付けている。捉えるのもやっとな速度で踏み込んだ彼女が、エリーの構えた盾に両の足を付きながらその剣を盾に、打ち付けて、それを足場に魔物の群れに飛び込んでいく。
打ち付けたのと全く同時に爆発が起こり、飛び散った魔物の群れに向かって、単身飛び込んで行った。
「この盾で受け止めた攻撃はあの大剣が発散する。弓は光る。そしてオリ姉の以前の自称はサン、……雷姫」
見れば確かになるほどと、納得せざるを得ない。
オリヴィアが飛び込んで5秒。既に彼女一人で、サンダル一人では30秒以上かかる量を倒している。
そしてその前の一連の連携で魔物達にも動揺が走り、その歩みも止まっている。もちろん、最初に真っ二つになった最前線の魔物と、光が収まって見えた矢の刺さった魔物の他にも、先の爆発で既に百近くが吹き飛んでいる。
最速の踏み込みで思いっきり振った剣を、これまた全力で腕を振りながら大盾で受け止めた。そのエネルギーがそのままあの大剣に伝わったというのだ。繊細な動きなど何一つない全力の力技。
それを、ナディアをして凄まじい身体能力だというオリヴィアがエリーの身体能力を上乗せして放った一撃。
それは既に、サンダルが15分の加速を得てようやく到達する最強の一撃に等しかった。
「これぞ、雷姫と守護神の融合技。雷神の怒槌いかづち。なんつって」
そう言いながらエリーもまた、左手にはショートソードを、右手にはロングソードを持って駆けて行く。
何よりも驚いたのは、エリーの何度練習したかも分からぬ程に卓越した、流れる様な武器の扱い。
とてもではないが、昨日思いついたばかりの技を行ったとは思えなかった。
――。
「どうでした?」
南部、ナディアの元にたどり着くと、ナディアは振り返りもせずに問いかける。
「ああ、危うく自信を喪失するところだった」
「言ったでしょう。あなた程度では、って何度も何度も」
「あれがあの男の直弟子か……」
「落ち込んでる暇があったら今強くなりなさい」
そう言うナディアもまた、あの二人に負けたくないと必死な様子で魔物の群れに突撃していった。
中央にサンダルが向かった時には、北部も南部もほぼ、魔物は掃討されていた。
間もなく集まった全員によって、東部の大群も一匹残らず殲滅。
結局討伐量が他三人に負けて悔しそうにしているエリーを見て、なんとも複雑な気分に陥るサンダルが、そこにはいた。
そんなことを言ったサンダルの為に、ナディアは先に一人南部へと向かった。
脚の速いサンダルであれば、北部の戦いを多少見てからでも南部に敵が到達するまでには間に合う。
サンダルには純粋に興味があった。ナディアも認める、友人の可憐な二人の直弟子が、一体どれほどの実力を持っているのかを。ナディア自身が見ておけと言ったことも含めて、その興味は尽きなかった。
「よし、それじゃサービスってことで、ちょうど昨日思いついたばかりの必殺技を見せてあげるよサンダルさん」
一番弟子を名乗る小さなお嬢さんの方が、気分良さげにそんなことを言う。
人の生死がかかっている戦場でそんな浮ついた気分とは何事かと優しく諭したいところではあったが、それをぐっと堪える。
最強だと言われる姫様の方が、それを優しげな顔で見守っているからだ。
「昨日思いついたばかりのものを、いきなり実戦で使えるのか?」
代わりに、そんな質問をぶつける。
すると小さなお嬢さんは、心を読んだ様で、逆に諭す様に言う。
「サンダルさんが最強の瞬間ってどんな時?」
「……」
咄嗟に答えられないでいると、お嬢さんは言う。
「私はね、大切なものを守る時。それだけは、違えない。だから、大丈夫。これが私の戦い方なの」
「ふふ、そういうことですわ」
そうして、お嬢さんは街に背を向けた。するとその小さな体は、途端に大きく見え始める。
彼女から溢れ出る自信だろうか、もしくは、彼女を包む宝剣達がやる気なのだろうか。
それともただの実力か。
150cmに満たない身長で堂々と構える彼女が、とても頼もしい。
「……なるほど」
思わずそう呟いてしまう程には、その小さな守護神は歴戦の勇姿を感じさせた。
「さて、ついでだから名乗りも上げようオリ姉」
「ええ、良いですわね」
サンダープリンセスを名乗っていたオリヴィアは、それなりに名乗りを上げて魔物討伐を行ってきた。
目の前の状況と、背後の不安げな住人達を見て、少しばかりやる気が満ちている。
二人の目の前に広がる光景は、既にこの世の終わりの様な光景だ。
一体一体はそれほど大したことはないものの、デーモンクラスも混じった数千に及ぶ魔物の群れ。それがまだ一部だというのだから。
「ああ、師匠なら一太刀で終わりなんだろうなぁ」
「そう考えるとまだまだ遠いですわね」
「うん。でも、私達も負けてられない。さて」
言いながら、少女は背負った武器のうち、盾を地面に突き刺し、大剣を逆さまに持って構える。刀身に二つの穴が空いており、逆さまに持てば鍔に当たる部分が面となりハンマーの形を持つ宝剣ヴィクトリア。
それを思いっきり後ろに振りかざしながら、叫ぶ。
「世界の意思とやらに操られた魔物達! 私達は怒ってるよ! 師匠を殺したこと、お姉ちゃんを殺したこと、そして狛の村のみんなを殺したこと。全部全部!」
「そんなことまで言いますの……?」
いつもの様に自由なことを言って、それについて行けないオリヴィア。
本当なら絶望的な光景を前になんとも気の緩むことだと思いながら、サンダルは見守る。
そんな二人を無視して、エリーは続ける。
「ここはこの小さな守護神エリーと!」
「ち、血塗れの鬼姫、オリヴィアが通しませんわ!」
結局つられる様に焦りながら名乗りを上げたオリヴィアも、それがスイッチになったのだろうか。
一気に空気が引き締まる。
かつてのレインと似た様な、重く冷たい殺気。相変わらず余裕の表情を崩さないエリーに対して、その視線だけでも射殺されそうな程の緊張感がオリヴィアから放たれる。
「……これが現在の最強か」
血塗れの鬼姫。そんな二つ名が正にぴったりと当てはまる。
そんな感想を抱く程に、レインの後継者然としたその美女は、右の腰に差した見慣れた宝剣月光を抜き、それを両手で持つと数歩前に出て、エリーを振り返った。
正に迫り来る魔物を前に、一体何をするつもりなのだろうか。
そう思った瞬間だった。
「んんっ!」
エリーが思いっきりヴィクトリアを放り投げる。そのまま一回転すると、手には腰に提げていた白い弓を右手に持っている。大剣は魔物の群れの最前線、一体の魔物を貫いて地面に突き刺さる。それと同時、バシュッという音と共に、一本の矢が放たれた。
どれだけ武器の鍛錬を重ねればそんなことが出来るのだろうか。
思わずそんな感想を抱いてしまう程に流れる様に、エリーは予め地面に刺していた大盾を、左手に装備していた。
直後、魔物の群れがカッと白い閃光に包まれる。最前線の一体に向かって進んでいた矢が、敵に当たる直前で光り輝いたらしい。
それに驚いている間もなく、ガァアンという金属同士が激しくぶつかった音がエリーから聞こえる。それにほんの一瞬遅れて、地面が揺れる。
「よぉし、行っ……てらっしゃい、オリ姉!」
「お先に参りますわ!」
見れば、大盾にオリヴィアが思いっきり月光を打ち付けている。捉えるのもやっとな速度で踏み込んだ彼女が、エリーの構えた盾に両の足を付きながらその剣を盾に、打ち付けて、それを足場に魔物の群れに飛び込んでいく。
打ち付けたのと全く同時に爆発が起こり、飛び散った魔物の群れに向かって、単身飛び込んで行った。
「この盾で受け止めた攻撃はあの大剣が発散する。弓は光る。そしてオリ姉の以前の自称はサン、……雷姫」
見れば確かになるほどと、納得せざるを得ない。
オリヴィアが飛び込んで5秒。既に彼女一人で、サンダル一人では30秒以上かかる量を倒している。
そしてその前の一連の連携で魔物達にも動揺が走り、その歩みも止まっている。もちろん、最初に真っ二つになった最前線の魔物と、光が収まって見えた矢の刺さった魔物の他にも、先の爆発で既に百近くが吹き飛んでいる。
最速の踏み込みで思いっきり振った剣を、これまた全力で腕を振りながら大盾で受け止めた。そのエネルギーがそのままあの大剣に伝わったというのだ。繊細な動きなど何一つない全力の力技。
それを、ナディアをして凄まじい身体能力だというオリヴィアがエリーの身体能力を上乗せして放った一撃。
それは既に、サンダルが15分の加速を得てようやく到達する最強の一撃に等しかった。
「これぞ、雷姫と守護神の融合技。雷神の怒槌いかづち。なんつって」
そう言いながらエリーもまた、左手にはショートソードを、右手にはロングソードを持って駆けて行く。
何よりも驚いたのは、エリーの何度練習したかも分からぬ程に卓越した、流れる様な武器の扱い。
とてもではないが、昨日思いついたばかりの技を行ったとは思えなかった。
――。
「どうでした?」
南部、ナディアの元にたどり着くと、ナディアは振り返りもせずに問いかける。
「ああ、危うく自信を喪失するところだった」
「言ったでしょう。あなた程度では、って何度も何度も」
「あれがあの男の直弟子か……」
「落ち込んでる暇があったら今強くなりなさい」
そう言うナディアもまた、あの二人に負けたくないと必死な様子で魔物の群れに突撃していった。
中央にサンダルが向かった時には、北部も南部もほぼ、魔物は掃討されていた。
間もなく集まった全員によって、東部の大群も一匹残らず殲滅。
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