337 / 592
第八章:ほんの僅かの前進
第百話:まずね、使う武器はフィリオナ、ヴィクトリア、エリーゼにオリ姉!
しおりを挟む
アーツの稽古を終えたエリーが部屋に戻ると、オリヴィアは既に仕事を終えたのか、魔法書を読んでいた。
既に何度も何度も読み込んで、色も変わっているその本は、オリヴィアが心を落ち着ける為に一役買っている。お姉様と呼び尊敬し憧れたお姉様の残した知識の全て。プライベートのことは書いていないことも多い為、もちろん、自分自身が直接聞いた記憶の方が知識としては多い。
それでも、居なくなってから記憶の底に沈み始めていた彼女の記憶を再び掘り起こす為に、その直筆の本は大いに役立っていることをエリーは知っている。
それを見て、過去に囚われていると考えている者も、王城で働く者の中には多かった。
しかし、そう思われていることを知っていても、オリヴィアはそれを止めず、エリーもまた、それを止めない。
魔王戦を見据えるオリヴィアにとって過去の思い出はつまり、明確な目標だ。
鬼神レインであれば魔王を無傷で倒せる。聖女サニィであれば、120mのドラゴンをいとも簡単に蒸発させられる。
それを忘れてしまっては、魔王戦で致命的なミスを犯しかねない。
だからこそ、オリヴィアはあえて過去に囚われ、エリーもそれを見守っている。
天才肌のエリーとは対照的に、オリヴィアはそうしなければ強さを維持できない。それはそう思い込んでいるわけではなく、現実として。
かつてエリーを探した二週間程の空白を取り戻すのに、一ヶ月以上の月日を費やさねばならなかった。
未来に向かうという甘い言葉で過去を忘れては、最早その戦闘能力を維持できない可能性すら、ある。
それはかつて最愛の師匠が言った教えに反する最大の禁忌だった。
エリーはそれを知っている。
いつもいつもオリヴィアは、その心を少しずつ蝕みながら、必死の努力を続けていることを、知っている。
だからこそ、エリーはオリヴィアを尊敬など出来ない。
だからこそエリーは、いつまでも、オリヴィアに勝てない。
そう、明確に勝利してしまえば、オリヴィアは自身の価値を見失ってしまうかもしれないから。
子どもも出来ない身で、王女でありながら魔王討伐などに出向き、国民の魔物化も救えず、そしてエリーに抜かれ最強から陥落してしまったオリヴィアなど、オリヴィア自身にとって価値がない。
エリーは、それを知っている。
誰よりも気丈で誰よりも美しく、誰よりも強い王女の危うさを、エリーだけは知っている。
だから、エリーは今日も彼女を見守ることに決めた。
今日もまた、少しだけ良い夢を見せてあげようと、そう決めて、話しかけた。
「お、お疲れオリ姉。アーツに聞いたんだけど、宝剣って力を指定して作れるの?」
「エリーさんもいつも弟の相手ありがとうございますわ。そうですわよ。前に一度言ったはずですけれど」
そんな風にいつも通り、他愛なく会話を進める。
「え、聞いてなかったかも」
「あなた、お勉強嫌いですものね……」
「私の宝剣に絡めた話なら覚えてたはずよ」
「確かにエリーさんの宝剣には絡めてないですけれど……」
「まあ、それは良いんだけど」
「あんまりよくないですわ」
「良いの。なんで師匠ってあえてランダムな力の宝剣をプレゼントしてくれたんだろう」
呆れ顔のオリヴィアをいつもの様に無視して、特に悩んだ様子もなく、あっけらかんとエリーは問うてみる。
「うーん、流石にエリーさんに分からないレイン様のお考えは分かりませんわ。可能性としてはやはり、エリーさんの奇天烈な戦い方を見抜いてらしたんではないかしら」
「奇天烈って……あ、良い戦い方思いついた。連携技!」
エリーが特に悩んでいる様子も無いのを見て、オリヴィアもまたいつもの様に少しだけ適当に答える。
これがまた、二人の心の平穏を維持するには、随分と役に立つ。
初めて出会ってからもう9年程。
既に姉妹の様相を呈している二人の、いつものコミュニケーションだ。
「そういうところですわ。奇天烈」
「奇天烈は良いから、対複数戦闘の最強技を思いついた、聞いて!」
こんな風に天真爛漫なエリーがオリヴィアにとっても有難いことは、もう9年間を通して実証済み。いつもと変わらないエリーに、再び少しだけ呆れながら、癒される。
いつもと違うところと言えば、オリヴィアに勝つ為の策を考えるエリーが、珍しく連携を申し出たくらいのこと。
また漏れ出た心を読んだのだろう姉弟子の少しの苦労に感謝して、オリヴィアはわざと呆れ顔を作る。いつもの様に。
「……はいはい。聞きますわ。最強技」
「うん。まずね、使う武器はフィリオナ、ヴィクトリア、エリーゼにオリ姉!」
「わたくしはあなたの武器ではありませんわ……」
そんな会話をしていた次の日。
南の大陸東部に大量の魔物が現れた。
ナディアとサンダルだけでは対処しきれないその量に、新しい連携技を、初めての連携技を考えついた二人は向かう。
既に何度も何度も読み込んで、色も変わっているその本は、オリヴィアが心を落ち着ける為に一役買っている。お姉様と呼び尊敬し憧れたお姉様の残した知識の全て。プライベートのことは書いていないことも多い為、もちろん、自分自身が直接聞いた記憶の方が知識としては多い。
それでも、居なくなってから記憶の底に沈み始めていた彼女の記憶を再び掘り起こす為に、その直筆の本は大いに役立っていることをエリーは知っている。
それを見て、過去に囚われていると考えている者も、王城で働く者の中には多かった。
しかし、そう思われていることを知っていても、オリヴィアはそれを止めず、エリーもまた、それを止めない。
魔王戦を見据えるオリヴィアにとって過去の思い出はつまり、明確な目標だ。
鬼神レインであれば魔王を無傷で倒せる。聖女サニィであれば、120mのドラゴンをいとも簡単に蒸発させられる。
それを忘れてしまっては、魔王戦で致命的なミスを犯しかねない。
だからこそ、オリヴィアはあえて過去に囚われ、エリーもそれを見守っている。
天才肌のエリーとは対照的に、オリヴィアはそうしなければ強さを維持できない。それはそう思い込んでいるわけではなく、現実として。
かつてエリーを探した二週間程の空白を取り戻すのに、一ヶ月以上の月日を費やさねばならなかった。
未来に向かうという甘い言葉で過去を忘れては、最早その戦闘能力を維持できない可能性すら、ある。
それはかつて最愛の師匠が言った教えに反する最大の禁忌だった。
エリーはそれを知っている。
いつもいつもオリヴィアは、その心を少しずつ蝕みながら、必死の努力を続けていることを、知っている。
だからこそ、エリーはオリヴィアを尊敬など出来ない。
だからこそエリーは、いつまでも、オリヴィアに勝てない。
そう、明確に勝利してしまえば、オリヴィアは自身の価値を見失ってしまうかもしれないから。
子どもも出来ない身で、王女でありながら魔王討伐などに出向き、国民の魔物化も救えず、そしてエリーに抜かれ最強から陥落してしまったオリヴィアなど、オリヴィア自身にとって価値がない。
エリーは、それを知っている。
誰よりも気丈で誰よりも美しく、誰よりも強い王女の危うさを、エリーだけは知っている。
だから、エリーは今日も彼女を見守ることに決めた。
今日もまた、少しだけ良い夢を見せてあげようと、そう決めて、話しかけた。
「お、お疲れオリ姉。アーツに聞いたんだけど、宝剣って力を指定して作れるの?」
「エリーさんもいつも弟の相手ありがとうございますわ。そうですわよ。前に一度言ったはずですけれど」
そんな風にいつも通り、他愛なく会話を進める。
「え、聞いてなかったかも」
「あなた、お勉強嫌いですものね……」
「私の宝剣に絡めた話なら覚えてたはずよ」
「確かにエリーさんの宝剣には絡めてないですけれど……」
「まあ、それは良いんだけど」
「あんまりよくないですわ」
「良いの。なんで師匠ってあえてランダムな力の宝剣をプレゼントしてくれたんだろう」
呆れ顔のオリヴィアをいつもの様に無視して、特に悩んだ様子もなく、あっけらかんとエリーは問うてみる。
「うーん、流石にエリーさんに分からないレイン様のお考えは分かりませんわ。可能性としてはやはり、エリーさんの奇天烈な戦い方を見抜いてらしたんではないかしら」
「奇天烈って……あ、良い戦い方思いついた。連携技!」
エリーが特に悩んでいる様子も無いのを見て、オリヴィアもまたいつもの様に少しだけ適当に答える。
これがまた、二人の心の平穏を維持するには、随分と役に立つ。
初めて出会ってからもう9年程。
既に姉妹の様相を呈している二人の、いつものコミュニケーションだ。
「そういうところですわ。奇天烈」
「奇天烈は良いから、対複数戦闘の最強技を思いついた、聞いて!」
こんな風に天真爛漫なエリーがオリヴィアにとっても有難いことは、もう9年間を通して実証済み。いつもと変わらないエリーに、再び少しだけ呆れながら、癒される。
いつもと違うところと言えば、オリヴィアに勝つ為の策を考えるエリーが、珍しく連携を申し出たくらいのこと。
また漏れ出た心を読んだのだろう姉弟子の少しの苦労に感謝して、オリヴィアはわざと呆れ顔を作る。いつもの様に。
「……はいはい。聞きますわ。最強技」
「うん。まずね、使う武器はフィリオナ、ヴィクトリア、エリーゼにオリ姉!」
「わたくしはあなたの武器ではありませんわ……」
そんな会話をしていた次の日。
南の大陸東部に大量の魔物が現れた。
ナディアとサンダルだけでは対処しきれないその量に、新しい連携技を、初めての連携技を考えついた二人は向かう。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる