315 / 592
第七章:鬼の棲む山の拒魔の村
第七十八話:狛とは拒魔。
しおりを挟む
魔王討伐軍は、魔王やその出現前に増加する魔物に対抗する為に造られた国際組織だ。
トップには各大陸の代表であるグレーズ王国国王ピーテル・G・グレージア、アルカナウィンド女王アリエル・エリーゼ、そしてウアカリの、魔王討伐軍発足当時の首長であったクーリア、更には実在の七英雄であるマルスが就いている。
その下に英雄候補であるエリー、オリヴィア、ディエゴ、ルーク、エレナ、ライラ、ナディア、イリスという八人が並ぶ。
そしてその更に下にジャム、エイミー、狛の村代表リシン、アルカナウィンド近衛隊の代表者五名と、小国家も合わせた各国の代表者達が就いている。
これが一応の形だ。
代表者達は勇者である場合皆がその能力を明かすことで信用を得、また方針を決める為の指針としている。
勇者で無い者はそれだけで不利だ。
裏切れば最悪誰にも気付かれずに始末されるという危険性を犯してまで出席することで、信用を得ている。
つまり、形式上は誰しもが平等な発言権を持っている。
そしてそれは決して形の上ではなく、エリーとアリエルによって強力に監査され、自国の利益ばかりを追求する様な者が現れない様に見張ることも含めて、平等とされている。
そんな中でも、やはり自然と信用の多かった人物が七英雄マルス。逆に信用がおけないと多くの者から見られていた人物が狛の村のリシンだった。
その理由は、『聖女の魔法書』と呼ばれる一冊の本が普及し始めたことと、狛の村の噂が理由だった。
――狛の村の人々は皆、体内に魔物と同じものを宿している。
死の山と呼ばれる危険地帯に蔓延する魔物の元が、そこで暮らす狛の村の人々に高い身体能力という武器を与え、デーモンをも軽々屠る戦士達へと変貌させているのだ。
彼らはとても強く、とても明るい。
確かな強さに裏打ちされた自信がある、とても素敵な人々だ。
『魔法書』には、その様に書かれている。
そして、更にはその文章には続きがある。
――しかしこの魔物の元は、それに耐性の無い人物を凶暴化させる危険性がある。
私自身がそうだった。
狛の村の特殊な人々は、そんな環境に適応した特殊な人々だ。
『魔法書』の数が十分で無かった頃、この後半の部分が上手く伝わらず、多くの妊婦が危険を犯してまで狛の村での出産を望んだ。
結果的に、生まれてきた子ども達は時折凶暴性を見せてしまった。
そんな事件が、聖女達の没後には起こっていた。
それは転移魔法の普及と共に瞬く間に世界的なニュースとなり、結果的に狛の村の人々も機嫌が悪くなれば暴れ回る危険な人物達だ、などという情報に置き換わっていった。
それは、『聖女の魔法書』の普及と共には治らず、狛の村の人々を恐怖の対象としてみる者が、未だに少なくない。
リシンが信用されなかった理由は、それが原因だ。
そして狛の村の人々は当然の様にそんなことを気にせず、陽気に振舞っていた。
英雄候補達の全員が、狛の村のことを知っていたからだ。
狛の村は英雄レインの出身地。例え各国の代表者達はその人物を知らなくとも、英雄候補達は皆がその人物を知っている。
たった一人で二体の魔王を倒し、幼きエリーを救い、そして死にかけだったサニィを希望の象徴に変えた影の英雄。
狛の村の人々は、いつも言っていた。
「狛とは拒魔。魔物が拒む我らが力を貸せば、魔王も容易く倒せるだろう」
そんな風に、明るく。
彼らは、知らなかった。
いや、もしかしたら知っていたのかもしれない。知っていて、蓋をしていたのかもしれない。
それはただ、エリーすら気付かぬ程に自然と、彼等の心の奥底に根付く恐怖だったのかもしれない。
【拒魔とは、魔物が拒む者ではなく、魔を拒もうとする者のことだ】
つまり、彼らは……。
最後の魔王がその産声を上げる直前、グレーズ王国の不可侵領域では、絶望が産声を上げていた。
――。
「世界の意思、最近は随分と静かね」
南の大陸最南端、一匹の狐は、そんなことを呟いた。
トップには各大陸の代表であるグレーズ王国国王ピーテル・G・グレージア、アルカナウィンド女王アリエル・エリーゼ、そしてウアカリの、魔王討伐軍発足当時の首長であったクーリア、更には実在の七英雄であるマルスが就いている。
その下に英雄候補であるエリー、オリヴィア、ディエゴ、ルーク、エレナ、ライラ、ナディア、イリスという八人が並ぶ。
そしてその更に下にジャム、エイミー、狛の村代表リシン、アルカナウィンド近衛隊の代表者五名と、小国家も合わせた各国の代表者達が就いている。
これが一応の形だ。
代表者達は勇者である場合皆がその能力を明かすことで信用を得、また方針を決める為の指針としている。
勇者で無い者はそれだけで不利だ。
裏切れば最悪誰にも気付かれずに始末されるという危険性を犯してまで出席することで、信用を得ている。
つまり、形式上は誰しもが平等な発言権を持っている。
そしてそれは決して形の上ではなく、エリーとアリエルによって強力に監査され、自国の利益ばかりを追求する様な者が現れない様に見張ることも含めて、平等とされている。
そんな中でも、やはり自然と信用の多かった人物が七英雄マルス。逆に信用がおけないと多くの者から見られていた人物が狛の村のリシンだった。
その理由は、『聖女の魔法書』と呼ばれる一冊の本が普及し始めたことと、狛の村の噂が理由だった。
――狛の村の人々は皆、体内に魔物と同じものを宿している。
死の山と呼ばれる危険地帯に蔓延する魔物の元が、そこで暮らす狛の村の人々に高い身体能力という武器を与え、デーモンをも軽々屠る戦士達へと変貌させているのだ。
彼らはとても強く、とても明るい。
確かな強さに裏打ちされた自信がある、とても素敵な人々だ。
『魔法書』には、その様に書かれている。
そして、更にはその文章には続きがある。
――しかしこの魔物の元は、それに耐性の無い人物を凶暴化させる危険性がある。
私自身がそうだった。
狛の村の特殊な人々は、そんな環境に適応した特殊な人々だ。
『魔法書』の数が十分で無かった頃、この後半の部分が上手く伝わらず、多くの妊婦が危険を犯してまで狛の村での出産を望んだ。
結果的に、生まれてきた子ども達は時折凶暴性を見せてしまった。
そんな事件が、聖女達の没後には起こっていた。
それは転移魔法の普及と共に瞬く間に世界的なニュースとなり、結果的に狛の村の人々も機嫌が悪くなれば暴れ回る危険な人物達だ、などという情報に置き換わっていった。
それは、『聖女の魔法書』の普及と共には治らず、狛の村の人々を恐怖の対象としてみる者が、未だに少なくない。
リシンが信用されなかった理由は、それが原因だ。
そして狛の村の人々は当然の様にそんなことを気にせず、陽気に振舞っていた。
英雄候補達の全員が、狛の村のことを知っていたからだ。
狛の村は英雄レインの出身地。例え各国の代表者達はその人物を知らなくとも、英雄候補達は皆がその人物を知っている。
たった一人で二体の魔王を倒し、幼きエリーを救い、そして死にかけだったサニィを希望の象徴に変えた影の英雄。
狛の村の人々は、いつも言っていた。
「狛とは拒魔。魔物が拒む我らが力を貸せば、魔王も容易く倒せるだろう」
そんな風に、明るく。
彼らは、知らなかった。
いや、もしかしたら知っていたのかもしれない。知っていて、蓋をしていたのかもしれない。
それはただ、エリーすら気付かぬ程に自然と、彼等の心の奥底に根付く恐怖だったのかもしれない。
【拒魔とは、魔物が拒む者ではなく、魔を拒もうとする者のことだ】
つまり、彼らは……。
最後の魔王がその産声を上げる直前、グレーズ王国の不可侵領域では、絶望が産声を上げていた。
――。
「世界の意思、最近は随分と静かね」
南の大陸最南端、一匹の狐は、そんなことを呟いた。
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる