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第六章:鬼神の友人と英雄候補達
第七十話:なんだホモでしたか……
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サンダルはことあるごとに挑発しつつ決闘を挑んでくるナディアをなんとか避けながら修行の旅を続けていた。
ナディアと合流してからは目立った脅威が現れることもなく、やっかいなのはナディアだけ。いやむしろ平和なおかげでナディアがより厄介だったのだが、ようやく転機が訪れた。
サンダルははっとした表情の後、こめかみ辺りに手を当てる。
「どうやらここから南西40km、強力な魔物が出る様だ、私はさ……」
言い終わるよりも早く、その女の姿はなくなっていた。
南西を見ると、砂煙が舞っている。
流石は世界三位と報じられた勇者なだけあってその走力を見るに、確かにこれはあの程度で引き離すことなど出来ないと納得する。
それ程にナディアの足は速い。いやそれ以前に行動が早く、魔物からしたら最も油断出来ない勇者などと言われているだけはあると頷く。
「流石はレインを目指すと言うだけはあるな。だが、私は負けない。40kmなど射程内だ」
そうつぶやく様に言うと、サンダルは背中から一つの武器を取り出した。
武器と言うには余りに巨大で無骨。
長さ1mを超える扇型が付いた斧だ。斧と言うには余りに大き過ぎる、しかも刃も付いていないそれは全長3m程、横向きの扇が持ち手に挿さった形で、上から見るとその扇型は流線型を描いている。
見た人の全てが『変な武器』やら、『邪魔過ぎる』やら、『扱いきれない』、『斧ですらない』やら好き勝手に言っていくサンダルの主要武器。
サンダルが一部で、『変なイケメン』と呼ばれている理由となっている武器を構える。
「さて勝手に、しかも嫌々結婚の約束をされるのは嫌だけれど、だからと言って負ける訳にはいかない。私だって目標はレインなんだ。遠慮はしないぞ、魔女様」
そう言うと同時、サンダルはその場から姿を消した。
……。
ナディアがその場に辿り着くと、魔物は既に粉々に散っていた。
それがなんだったのかなどまるで分からぬ程にバラバラになってその魔物の少し奥の岩に、サンダルが座っている。
3mの大斧を隣の大岩に立てかけ、手足を組んで余裕の表情で言う。
「迷子にでもなっていたのかな? 魔女様」
そんな挑発に、しかしナディアもまた余裕の表情を崩さない。
「そんなに私が欲しいのなら決闘しましょう」
「君が欲しいわけではないさ。ただ、私の力も見せておこうと思ってね」
サンダルもまた余裕の表情で答えるが、相手が悪い。魔女と呼ばれるだけあって、それは割と狂っている。
「余計決闘したくなりました」
「待て、待ってくれ。せめて私の話くらい聞いてくれ」
今迄の女性経験がまるで通じないナディアにやはり戸惑い始めるサンダル。
対して腰に差した毒の無い双剣を引き抜くと、ナディアはその力を使う。
彼女の男を測る力はウアカリ史上最高の精度を誇っている。つまり、その力を看破することなどそれ程難しくはない。
「走る程に加速する力。決闘しましょう」
あっさりと正解を出して、そんなことを言う。
あくまで自分のペースを崩すつもりがない彼女にサンダルは何度目か分からない溜息をつくと、遂には諦めた様に呟いた。
「はあ、まあ決闘するのは良いだろう。ただし、結婚とか云々はやめてくれ。私が勝ったら私が強い、君が勝ったら君が強い。強い方がよりレインに近い。それで良いじゃないか」
「なんだホモでしたか……」
「いや、私は普通に女性が好きだ……」
相変わらず噛み合わない二人は、その曖昧な空気のままに緊張感を漲らせ、言葉を無くす。
サンダルはかつて聖女に吹き飛ばされた時の様な緊張感を感じ、一方のナディアは目の前の強敵に微かな笑みを漏らす。
そうして緊張が最大限に張り詰めた瞬間、どちらともなく動き始めるのだった。
――。
南の大陸には、一人の女が降り立っていた。
180cm程もある白樺とルビーの杖を右手に持ち、肩からは鞄を提げている。
誰もが羨む程にさらさらとした緑の黒髪に白磁の肌、その整った顔は誰が見ても思わず見惚れてしまう程で、歩き方にも気品が漂っている。
正に絶世の美女と呼べる一人の女だ。
南の大陸の最南端に、彼女は一先ず拠点として家を建てる。
『聖女の魔法書』によって得た知識と、杖に染み込んだ聖女の力の残滓によって、それはいとも簡単に造られた。
蔦で出来た平屋の簡素な家。雨風だけは完璧に凌ぐことが出来る、しかしそれ以上は何もない小屋。
そんな小屋の中で、その美女は、妖狐たまきは、一人呟いた。
「前は何としてでも排除しようと思ってた聖女サニィが、今では一番の頼りとは分からないもの。妾、……いや、わたくしは遂に魔物を脱せたのかしらね」
もちろん、その言葉に答える声はなかった。
その狐は、知る由もない。
聖女の杖を、聖女の鞄を、タンバリンを、何故手に入れようとしたのか、自分でも分かっていないことなど。
――。
ちょうどその頃、魔王討伐軍では、遂に一人目の犠牲者が出ていた。
ナディアと合流してからは目立った脅威が現れることもなく、やっかいなのはナディアだけ。いやむしろ平和なおかげでナディアがより厄介だったのだが、ようやく転機が訪れた。
サンダルははっとした表情の後、こめかみ辺りに手を当てる。
「どうやらここから南西40km、強力な魔物が出る様だ、私はさ……」
言い終わるよりも早く、その女の姿はなくなっていた。
南西を見ると、砂煙が舞っている。
流石は世界三位と報じられた勇者なだけあってその走力を見るに、確かにこれはあの程度で引き離すことなど出来ないと納得する。
それ程にナディアの足は速い。いやそれ以前に行動が早く、魔物からしたら最も油断出来ない勇者などと言われているだけはあると頷く。
「流石はレインを目指すと言うだけはあるな。だが、私は負けない。40kmなど射程内だ」
そうつぶやく様に言うと、サンダルは背中から一つの武器を取り出した。
武器と言うには余りに巨大で無骨。
長さ1mを超える扇型が付いた斧だ。斧と言うには余りに大き過ぎる、しかも刃も付いていないそれは全長3m程、横向きの扇が持ち手に挿さった形で、上から見るとその扇型は流線型を描いている。
見た人の全てが『変な武器』やら、『邪魔過ぎる』やら、『扱いきれない』、『斧ですらない』やら好き勝手に言っていくサンダルの主要武器。
サンダルが一部で、『変なイケメン』と呼ばれている理由となっている武器を構える。
「さて勝手に、しかも嫌々結婚の約束をされるのは嫌だけれど、だからと言って負ける訳にはいかない。私だって目標はレインなんだ。遠慮はしないぞ、魔女様」
そう言うと同時、サンダルはその場から姿を消した。
……。
ナディアがその場に辿り着くと、魔物は既に粉々に散っていた。
それがなんだったのかなどまるで分からぬ程にバラバラになってその魔物の少し奥の岩に、サンダルが座っている。
3mの大斧を隣の大岩に立てかけ、手足を組んで余裕の表情で言う。
「迷子にでもなっていたのかな? 魔女様」
そんな挑発に、しかしナディアもまた余裕の表情を崩さない。
「そんなに私が欲しいのなら決闘しましょう」
「君が欲しいわけではないさ。ただ、私の力も見せておこうと思ってね」
サンダルもまた余裕の表情で答えるが、相手が悪い。魔女と呼ばれるだけあって、それは割と狂っている。
「余計決闘したくなりました」
「待て、待ってくれ。せめて私の話くらい聞いてくれ」
今迄の女性経験がまるで通じないナディアにやはり戸惑い始めるサンダル。
対して腰に差した毒の無い双剣を引き抜くと、ナディアはその力を使う。
彼女の男を測る力はウアカリ史上最高の精度を誇っている。つまり、その力を看破することなどそれ程難しくはない。
「走る程に加速する力。決闘しましょう」
あっさりと正解を出して、そんなことを言う。
あくまで自分のペースを崩すつもりがない彼女にサンダルは何度目か分からない溜息をつくと、遂には諦めた様に呟いた。
「はあ、まあ決闘するのは良いだろう。ただし、結婚とか云々はやめてくれ。私が勝ったら私が強い、君が勝ったら君が強い。強い方がよりレインに近い。それで良いじゃないか」
「なんだホモでしたか……」
「いや、私は普通に女性が好きだ……」
相変わらず噛み合わない二人は、その曖昧な空気のままに緊張感を漲らせ、言葉を無くす。
サンダルはかつて聖女に吹き飛ばされた時の様な緊張感を感じ、一方のナディアは目の前の強敵に微かな笑みを漏らす。
そうして緊張が最大限に張り詰めた瞬間、どちらともなく動き始めるのだった。
――。
南の大陸には、一人の女が降り立っていた。
180cm程もある白樺とルビーの杖を右手に持ち、肩からは鞄を提げている。
誰もが羨む程にさらさらとした緑の黒髪に白磁の肌、その整った顔は誰が見ても思わず見惚れてしまう程で、歩き方にも気品が漂っている。
正に絶世の美女と呼べる一人の女だ。
南の大陸の最南端に、彼女は一先ず拠点として家を建てる。
『聖女の魔法書』によって得た知識と、杖に染み込んだ聖女の力の残滓によって、それはいとも簡単に造られた。
蔦で出来た平屋の簡素な家。雨風だけは完璧に凌ぐことが出来る、しかしそれ以上は何もない小屋。
そんな小屋の中で、その美女は、妖狐たまきは、一人呟いた。
「前は何としてでも排除しようと思ってた聖女サニィが、今では一番の頼りとは分からないもの。妾、……いや、わたくしは遂に魔物を脱せたのかしらね」
もちろん、その言葉に答える声はなかった。
その狐は、知る由もない。
聖女の杖を、聖女の鞄を、タンバリンを、何故手に入れようとしたのか、自分でも分かっていないことなど。
――。
ちょうどその頃、魔王討伐軍では、遂に一人目の犠牲者が出ていた。
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