雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
285 / 592
第四章:最弱の英雄と戦士達

第四十八話:本物の愛を持つのは何もクーリアさんだけじゃありません

しおりを挟む
「ただいま、イリス」
「あ、お姉ちゃん。大丈夫?」

 ウアカリの生家に帰るなり、妹のイリスがそう言って駆け寄る。
 今ではクーリアを超えウアカリナンバー2となっても、その華奢で小柄な体つきは変わらない。

「ああ、エリーに諭されてな。ちょっとナディアに決闘を申し込むことにした」
「……、そっか。ウアカリだもんね。拳で語れ、ん、応援するね」
「ありがとう。ところで……」

 立ち話も程々に、後ろのマルスを指す。
 ここウアカリは男を見つければ皆で捕まえて楽しむのだが、流石にクーリアがマルスを完全に射止めたと知られている為、それ程騒がれることもない。
 過去に一度だけ別格な者が居て国全体が狂乱状態になったが、マルスよりも強い者が国の半分以上を占めるこの国では彼はそこまで強い興味を惹かれはしない。

「やあ、すまないね、イリス君」
「あ、いらっしゃいマルス様」

 多くのウアカリ住人は恋に溺れたクーリアを悪くは思っていない。
 ここでは強いことがすなわち正義、つまり、今でもナンバー3の実力者である彼女を批判などそもそも出来はしない。
 そして、ナンバー2のイリスは少し特殊な力の為、ウアカリよりもむしろ他国の一般的な恋愛感覚を持っている。純粋に姉の幸せを願っている為に抵抗はない。
 そのまま、リビングに二人を迎え入れる。

「イリス、アタシは少し思い違いをしていた気がする」
「いきなりどうしたの?」

 お茶の用意を終え、二人の向かいに座ったイリスにクーリアは告げる。

「アタシは恋が成就して、どうにも力の成長が止まってしまったことを理解した」
「うん。でも、それは仕方ないよ」
「アタシも何処かでそう思ってた。でも、それが間違いだった」
「どういうこと?」
「エリーは、アタシよりも身体能力が低いにも関わらず、アタシよりも遥かに強くなってた」
「ああ、なるほど」

 エリーの戦い方をイリスも思い出す。
 確実に勝てると思いながら、何度も何度も逆転されて苦戦を繰り返し、最近では全く勝てなくなったことを。
 単純な身体能力では、彼女はそれ程ではない。複数の武器を軽く背負って動き回る持ち前の怪力はあるものの。
 もちろんそれ以外もディエゴ程低いわけではないが、オリヴィア、クーリア、そしてライラといった別格の身体能力を持つ勇者と比べれば一歩劣ると言わざるを得ない。
 それでも、彼女は最高の四人と呼ばれるオリヴィア、ライラ、ナディア、ディエゴに匹敵する力を発揮する。

「つまりだ。アタシが弱い理由は戦いが下手だからだ」
「お姉ちゃんの戦いが下手……」

 イリスは考える。確かに自分の身体能力はクーリアよりも低いが、ウアカリとしての力を持たない自分は、代わりの力を使えばその身体能力を軽く乗り越える戦闘能力を発揮できる。
 しかしそう考えると、確かに身体能力だけならクーリアの方が今でもかなり上だ。
 ナンバー1のナディアにも負けてはいない。

「……でも、レインさんもお姉ちゃんには何も言ってなかったけど、下手なのかな」
「レインが居た時には他の子達に欠点がそれだけ多かったのさ。現に、今のアタシは英雄候補で一番弱いと言わざるを得ない」
「……そっか、あれから4年も経つわけだもんね」

 過去にレインは全ての英雄候補を強くする為の修行をしている。そんな中、クーリアを問題なしとしたレインは、その時だったからに他ならない。
 今後の成長を見込んでこそ、その戦い方で問題なしとしたわけだ。

「そうだ。だからアタシは戦いを工夫する。その為にもナディアとの決闘は必須なのさ」
「あはは、ナディアさんから学ぶお姉ちゃんは想像付かないな」

 イリスはナディアの戦い方を思い出す。
 戦士の国ウアカリにあって、異色の戦士。
 一言で表せば卑怯者。
 勝つ為ならなんでもする貪欲な双剣使い。
 しかしその卑怯さを否定出来る程に強い戦士が、この国には最早一人もいない。
 例え策を弄して正面から戦っても勝てる者が居ないのが今のナディアという戦士だ。

 そしてその顔は、聖女サニィに瓜二つ。

「もちろん、ナディアを真似するわけじゃない。それは戦士クーリアのすることではない」
「ってことは」
 そんな久しぶりの姉の勇ましい表情に、イリスも目を輝かせる。
「そうだ。ナディアに一泡吹かせるまで決闘を挑み続けてやる。その間が勉強だ」
「ははは、それはお姉ちゃんらしい」

 そうして、二人は笑い合った。
 いつの間にかマルスがいるのすら忘れて。マルスの戦闘能力は、どうやっても伸びない。
 ディエゴに劣る身体能力、ディエゴに劣る才能、そして死なないからと自らが囮になりたがってしまう実直さ。
 だからこそ、こういう時には何も口に出さないのがマルス流だ。
 クーリアの努力を認めるからこそ何も言わない優しさが、クーリアの惚れたそれなのだろう。

 ナディアは、そう認める。

「ま、そういう事なら決闘しますよ。毎日でも毎時間でも、いつでも受け付けます。本物の愛を持つのは何もクーリアさんだけじゃありません。勝つのはいつだって私ですから」

 いつの間にかリビングに居たナディアはそう宣言をして、ちょうどお茶を飲んでいたマルスはお茶を吐き出すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...