225 / 592
第十五章:帰還、そして最後の一年
第二百二十五話:三人目のイレギュラー
しおりを挟む
「きゃ、何を」
「この僕が結婚してやるって言ってるんだ!」
「いや、やめて!」
男は女に襲いかかる。
剣で脅して、力づくでモノにしようと、その二本の剣を振り上げる。
余りにもお粗末な剣。
例えデーモンを倒せるとしても、ただ才能に驕っただけの、中身の無い剣。
レインすら魅了にかけた狐には、逆立ちしても勝てないだろう。
例え、彼女が尻尾を全て無くしてしまったとしても。
だからこそ、レインは男が死ぬ前に、狐を殺そうと動こうとして、サニィに止められた。
「や、やめ、レイン様ぁ」
狐はそう口にして、蹲る。
どこからどう見ても、自分よりも格下を相手に、狐は逃げる様に頭を隠す。
「まだ言うか、良いだろう、レインってのを連れて来い。ぶっ殺してやる!」
頭に血が上った男は、今にも本当に狐に斬りかからんとばかりに声を上げる。
恐らく、狐が魅了を使っていないのは本当なのだろう。男は本能的に彼女が魔物だと察しているのかもしれない。
その怒りは時間と共にどんどんと増しているのが分かる。
「どういうことだ……」
「あの女狐、本当に戦わないつもりですかね……」
しばらく様子を見張る。
どう見ても、美女が男に強姦されようとしている様にしか見えない。
背を向けて蹲る女を、男はその襟を後ろから掴み持ち上げ、剣を使って威嚇する。
二人の良心が、痛めつけられるのを感じる。
明らかに、力は現時点で女の方が上だ。
どんな状況になろうとも、どこからでも逆転出来る。しかし、女は何もせず、ひたすら嫌々と首を振るだけ。
次第に、男は理性を失いかけているのだろう。サニィ曰く、変質した魅了が漏れ出始めている。
その服の胸元を切り裂く。
そして、その胸が露わになった所で、憲兵達が騒ぎを聞きつけて駆け付けた。
「おい! 何をしている!」
「た、助けて!」
「うるさい黙れ! 僕はこの女を!」
その後、男が取り押さえられるまでに、憲兵が二人怪我を負った。片方はかなりの重症で、もう一人は浅い裂傷。
その二人をサニィがこっそりと治療しながら、様子を見守る。
何が起こっているのか、未だにしっかりと理解が出来てはいない。
すると、憲兵に支えられて保護された狐は呟いた。周囲の誰にも聞こえない様に、ぽつりと。
集音していたサニィの耳にしか届かない声で。
「妾は人間にならないと。いつかレイン様を……。レイン様、お慕い申し上げております」
――。
「サニィ、殺すか?」
レインが問う。
今なら彼も魅了の影響も受けておらず、簡単に殺してしまえるだろう。
しかし、一度魔王になって、世界の意思とやらに触れてしまったサニィは思う。
あれの殺意に逆らってレインを想うなど、並大抵のことではない。ましてや、魔物の本質である勇者殺しすら耐えて、人間になろうとしている。
そんな無理はきっと、いつか限界がくるだろう。
しかし、少しだけ、応援しても良いのではないかと、思ってしまう。
きっとこれは、魔王になってしまった自分しか分からない感情だ。
レインは、あれを見ても尚殺せるらしい。
それならば、言えることは一つしかなかった。
「レインさん、ダメだと分かってますが少しだけ、見逃しませんか? もしも暴走した時には、私が責任を持って処分します。だから、最後まで見守ってみちゃ、駄目ですか?」
責任を持てる時間が、あと半年もないことは分かっている。それでもサニィは、思ってしまった。
「駄目だと言いたい所だがな……、あの状況で手を出さなかったのもまた事実だ。……クソ、分からん」
「なら、取り敢えず半年だけ、見守らせて下さい。確実に監視しておきますから」
最後までと何も変わらないことを言いながら、サニィは懇願する。
魔物は敵だ。必ず。
それが分かっていながらも、サニィはイレギュラーの存在も知っている。
魔物の勇者と言える体を持つレイン、勇者でありながら魔王になった自分。であれば、魔物でありながら人間になれる者もいるのではないか。
そんな淡い期待を、せずにはいられなかった。
「分かった。それじゃ取り敢えず半年、だ。その時までに少しでも不審な行動を取れば殺すこと。そして、最後にもう一度確認する」
流石に根負けしたのだろう、レインはそういう条件を付けて渋々納得する。
「はい。まあ、レインさんは渡しませんけど」
それならいっそ殺した方が良いのではと思いながらも、レインもほんの少しだけの期待をする。
あの狐は確かに、唯一殺せなかった魔物だ。
本来であれば、いかな魅了を受けても殺せるのがレインという男だった。
それ程に、あの狐は例外的な存在だった。
そこだけは、納得している。
上手くいけば、魔王が居なくなった世界では、人間と魔物が上手く共存していける可能性すら見えてくる。
「しかし、あの狐までなんで俺なんだ」
ウアカリに向かう途中、ふと気づいたようにレインが呟く。
「までって、他にも気付いてるんですか?」
「オリヴィアにライラ、ナディア辺りは本気も本気だろう……」
「オリヴィアとナディアさんはともかくライラまで気付いてるって、なんでそんな鋭いんですかレインさんは……」
自分が好かれていることを自覚していても全く変わらないように過ごしているレインに、サニィは呆れ顔を向ける。
「クーリアさんは?」
「クーリアは肉体関係のみあれば良いって感じだな」
「……そうですね。まあ、あっさりしてて良いんですけどね……ところで」
妙に的確に見抜いているレインに呆れた顔を向けていたサニィは突然真顔になる。
「レインさんって、ナディアさん好きですよね?」
「この僕が結婚してやるって言ってるんだ!」
「いや、やめて!」
男は女に襲いかかる。
剣で脅して、力づくでモノにしようと、その二本の剣を振り上げる。
余りにもお粗末な剣。
例えデーモンを倒せるとしても、ただ才能に驕っただけの、中身の無い剣。
レインすら魅了にかけた狐には、逆立ちしても勝てないだろう。
例え、彼女が尻尾を全て無くしてしまったとしても。
だからこそ、レインは男が死ぬ前に、狐を殺そうと動こうとして、サニィに止められた。
「や、やめ、レイン様ぁ」
狐はそう口にして、蹲る。
どこからどう見ても、自分よりも格下を相手に、狐は逃げる様に頭を隠す。
「まだ言うか、良いだろう、レインってのを連れて来い。ぶっ殺してやる!」
頭に血が上った男は、今にも本当に狐に斬りかからんとばかりに声を上げる。
恐らく、狐が魅了を使っていないのは本当なのだろう。男は本能的に彼女が魔物だと察しているのかもしれない。
その怒りは時間と共にどんどんと増しているのが分かる。
「どういうことだ……」
「あの女狐、本当に戦わないつもりですかね……」
しばらく様子を見張る。
どう見ても、美女が男に強姦されようとしている様にしか見えない。
背を向けて蹲る女を、男はその襟を後ろから掴み持ち上げ、剣を使って威嚇する。
二人の良心が、痛めつけられるのを感じる。
明らかに、力は現時点で女の方が上だ。
どんな状況になろうとも、どこからでも逆転出来る。しかし、女は何もせず、ひたすら嫌々と首を振るだけ。
次第に、男は理性を失いかけているのだろう。サニィ曰く、変質した魅了が漏れ出始めている。
その服の胸元を切り裂く。
そして、その胸が露わになった所で、憲兵達が騒ぎを聞きつけて駆け付けた。
「おい! 何をしている!」
「た、助けて!」
「うるさい黙れ! 僕はこの女を!」
その後、男が取り押さえられるまでに、憲兵が二人怪我を負った。片方はかなりの重症で、もう一人は浅い裂傷。
その二人をサニィがこっそりと治療しながら、様子を見守る。
何が起こっているのか、未だにしっかりと理解が出来てはいない。
すると、憲兵に支えられて保護された狐は呟いた。周囲の誰にも聞こえない様に、ぽつりと。
集音していたサニィの耳にしか届かない声で。
「妾は人間にならないと。いつかレイン様を……。レイン様、お慕い申し上げております」
――。
「サニィ、殺すか?」
レインが問う。
今なら彼も魅了の影響も受けておらず、簡単に殺してしまえるだろう。
しかし、一度魔王になって、世界の意思とやらに触れてしまったサニィは思う。
あれの殺意に逆らってレインを想うなど、並大抵のことではない。ましてや、魔物の本質である勇者殺しすら耐えて、人間になろうとしている。
そんな無理はきっと、いつか限界がくるだろう。
しかし、少しだけ、応援しても良いのではないかと、思ってしまう。
きっとこれは、魔王になってしまった自分しか分からない感情だ。
レインは、あれを見ても尚殺せるらしい。
それならば、言えることは一つしかなかった。
「レインさん、ダメだと分かってますが少しだけ、見逃しませんか? もしも暴走した時には、私が責任を持って処分します。だから、最後まで見守ってみちゃ、駄目ですか?」
責任を持てる時間が、あと半年もないことは分かっている。それでもサニィは、思ってしまった。
「駄目だと言いたい所だがな……、あの状況で手を出さなかったのもまた事実だ。……クソ、分からん」
「なら、取り敢えず半年だけ、見守らせて下さい。確実に監視しておきますから」
最後までと何も変わらないことを言いながら、サニィは懇願する。
魔物は敵だ。必ず。
それが分かっていながらも、サニィはイレギュラーの存在も知っている。
魔物の勇者と言える体を持つレイン、勇者でありながら魔王になった自分。であれば、魔物でありながら人間になれる者もいるのではないか。
そんな淡い期待を、せずにはいられなかった。
「分かった。それじゃ取り敢えず半年、だ。その時までに少しでも不審な行動を取れば殺すこと。そして、最後にもう一度確認する」
流石に根負けしたのだろう、レインはそういう条件を付けて渋々納得する。
「はい。まあ、レインさんは渡しませんけど」
それならいっそ殺した方が良いのではと思いながらも、レインもほんの少しだけの期待をする。
あの狐は確かに、唯一殺せなかった魔物だ。
本来であれば、いかな魅了を受けても殺せるのがレインという男だった。
それ程に、あの狐は例外的な存在だった。
そこだけは、納得している。
上手くいけば、魔王が居なくなった世界では、人間と魔物が上手く共存していける可能性すら見えてくる。
「しかし、あの狐までなんで俺なんだ」
ウアカリに向かう途中、ふと気づいたようにレインが呟く。
「までって、他にも気付いてるんですか?」
「オリヴィアにライラ、ナディア辺りは本気も本気だろう……」
「オリヴィアとナディアさんはともかくライラまで気付いてるって、なんでそんな鋭いんですかレインさんは……」
自分が好かれていることを自覚していても全く変わらないように過ごしているレインに、サニィは呆れ顔を向ける。
「クーリアさんは?」
「クーリアは肉体関係のみあれば良いって感じだな」
「……そうですね。まあ、あっさりしてて良いんですけどね……ところで」
妙に的確に見抜いているレインに呆れた顔を向けていたサニィは突然真顔になる。
「レインさんって、ナディアさん好きですよね?」
0
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる