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第十五章:帰還、そして最後の一年
第二百十四話:たまらんタマリン
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ジャングルは相変わらず生き物達で賑わっている。
それを見たサニィは相変わらず興奮しっぱなしで、見ていて飽きない。
「お、あそこにタンバリンがいるじゃないか」
「タマリンだって言ってるじゃないですかもー」
「いや、アレだ」
「あれ、ホントですね。というかまだ放置しっぱなしなんですねアレ……」
レインの指差す先には、いつか見たタンバリンが雨風にさらされながらもまだ原型を留めて残っていた。
鳴子的に使われているわけでもなく、そもそもここ4年間誰かが触った形跡すらない。
「せっかくなんで修復してもらって行きますか」
「要らないだろう……」
「まあ、記念品ということで。本当はタマリンがたまらんのですけどタンバリンをたんまりと持って帰るだけで我慢しておきましょう」
「……相変わらずテンション高いな」
もちろん、たんまりと言うようなタンバリンはない。一つだけだ。
サニィは何やら浮かれながらそれを手に取ると、魔法でぱぱっと修復してカバンの中に入れる。
「ふう。この子は『たまらんタマリン』と名付けましょう」
「いや、タンバリンだろう……」
「まあ細かいことは良いじゃないですか、あ、ドラム!!」
「待て、お前がいつも指摘するんだろうが。というかその流れは以前やった。どうせゴリラなんだろ……って」
そこには、ドラム缶が転がっている。
ゴリラでも楽器でもなく、ドラム缶だ。
「いえいえ、そっちじゃなくてそっちじゃなくてあっちです」
サニィの指差す方向を見ると、そこにはレールが敷かれており、手押しのトロッコが草木に埋もれているのが分かる。どうやら、過去にここは何かの採取場だった時期があるらしい。
「……あれはトラムだな」
「あっはっは、間違えちゃいましたよ」
相変わらず楽しそうにサニィは笑う。今はきっと、箸が転がっても笑えるのだろう。
「全く、ここのジャングルはなんでもアリだな。お前のテンションもだが……」
「あははははは、ダメですか?」
「いや、良いだろうさ。お前の為のジャングルだ。お、ゴリラがいるぞ」
黒い塊を指差す。
「……あれ、ただの石炭ですから」
「……なんかすまん」
きっとサニィのテンションに影響されたのだろう、大きさの同じくらいなゴリラと石炭を見間違える。
「もう、ギャグにもなってないじゃないですかー」
「すまんな節穴で」
「そうですよー。あ、あんな所にジャガーがいますよ!」
「あれはジャガーノートだ」
サニィの指差す先にいるのは体長4m程もある四足歩行型の魔物。筋骨隆々、巨大な牙を持ち、このジャングルの中でも全く隠れる気のない赤一色の体毛。
ジャングルで会ったら危険な生物と言えばこいつと言われる魔物だ。
ランクとしても、デーモンに近しい。
それが、今にも二人に襲いかかろうと唸っている。
しかし、二人ともそんな中でも平然と会話を続ける。
「でも、ジャガーの音もするんですけど」
「お前、言葉遊びの方を楽しんでないか……」
「あはは、それもありますね。テンション上がっちゃって」
二人はジャガーの音がしたと言う方に歩き出す。その後にはサニィによって心臓を一突きにされた、ジャガーノートの死体を残して。
「おお、本当にあの模様は木々に溶け込みますねー」
相変わらず楽しそうに、サニィはジャガーを見つめる。
気配を完全に遮断している為、二人の存在は気付かれることがない。
レイン程の圧力を持つ人間が野生動物に気付かれない程のステルス。それだけで、サニィの魔法での威力が分かるというもの。
二人はのんびりと、そのジャガーの観察を続けることにした。
「ふう、有意義な時間でした」
「そうか。相変わらず体力だけは有り余ってるなお前は」
結局、サニィがジャガーの観察を満足したのは三日後。獲物を捕らえて食べる所まで観察を終えてからのことだった。
その間、サニィは一睡もせずそのジャガーに張り付いていた。
夜になって眠るレインを放置したまま、一人で観察を続けていた。
「あはは、初めてレインさんに勝った気分です」
そんなことを言いながら無邪気に笑うサニィは、聖女と言うよりもやはり、ただの一人の動物好きの少女の様だ。
そんな風にレインは思う。
この4年間で変化したことは色々ある。多過ぎるほどに。
しかしそれでも、変わらないものはあるのだと、今更ながらに実感する。
だからこそ、「そろそろ行きましょうか」と言うサニィに、あえてこう言ってみることにした。
「いいや、まだゴリラを見てない。俺はゴリラが結構好きなんだ」
そんなレインにサニィは少し驚くと、ふふふと笑う。
「石炭との見分けもつかない癖にっ」
「うるさい。とにかくゴリラを探すぞ。俺はゴリラに剣を教えるんだ」
「時雨流トロッコの形ですね」
「何を言ってるんだ……」
二人は最早自分たちで何を言っているのか分からない。しかしそれでも良いかと思う程、サニィの嬉しそうな顔は眩しいものだった。
ともかく、再びテンションの上がりきったサニィがゴリラの観察を終えるまで更に一週間程かかったのだが、結局ゴリラに剣を教えることは叶わなかった。ストレスに弱い彼等は、サニィの力で姿を消していてもレインが近づくと不安そうな行動を取り始めた為だった。
「残念でしたねレインさん……」
「いや、別に本気で剣を教えようとしてたわけじゃないからな……」
何故か本気でがっかりするサニィを慰める為にもう一種類珍しい動物の観察をさせようと、更に10日間ジャングルへの滞在日数が増えたことも、まあ、良い思い出になるだろう。
それを見たサニィは相変わらず興奮しっぱなしで、見ていて飽きない。
「お、あそこにタンバリンがいるじゃないか」
「タマリンだって言ってるじゃないですかもー」
「いや、アレだ」
「あれ、ホントですね。というかまだ放置しっぱなしなんですねアレ……」
レインの指差す先には、いつか見たタンバリンが雨風にさらされながらもまだ原型を留めて残っていた。
鳴子的に使われているわけでもなく、そもそもここ4年間誰かが触った形跡すらない。
「せっかくなんで修復してもらって行きますか」
「要らないだろう……」
「まあ、記念品ということで。本当はタマリンがたまらんのですけどタンバリンをたんまりと持って帰るだけで我慢しておきましょう」
「……相変わらずテンション高いな」
もちろん、たんまりと言うようなタンバリンはない。一つだけだ。
サニィは何やら浮かれながらそれを手に取ると、魔法でぱぱっと修復してカバンの中に入れる。
「ふう。この子は『たまらんタマリン』と名付けましょう」
「いや、タンバリンだろう……」
「まあ細かいことは良いじゃないですか、あ、ドラム!!」
「待て、お前がいつも指摘するんだろうが。というかその流れは以前やった。どうせゴリラなんだろ……って」
そこには、ドラム缶が転がっている。
ゴリラでも楽器でもなく、ドラム缶だ。
「いえいえ、そっちじゃなくてそっちじゃなくてあっちです」
サニィの指差す方向を見ると、そこにはレールが敷かれており、手押しのトロッコが草木に埋もれているのが分かる。どうやら、過去にここは何かの採取場だった時期があるらしい。
「……あれはトラムだな」
「あっはっは、間違えちゃいましたよ」
相変わらず楽しそうにサニィは笑う。今はきっと、箸が転がっても笑えるのだろう。
「全く、ここのジャングルはなんでもアリだな。お前のテンションもだが……」
「あははははは、ダメですか?」
「いや、良いだろうさ。お前の為のジャングルだ。お、ゴリラがいるぞ」
黒い塊を指差す。
「……あれ、ただの石炭ですから」
「……なんかすまん」
きっとサニィのテンションに影響されたのだろう、大きさの同じくらいなゴリラと石炭を見間違える。
「もう、ギャグにもなってないじゃないですかー」
「すまんな節穴で」
「そうですよー。あ、あんな所にジャガーがいますよ!」
「あれはジャガーノートだ」
サニィの指差す先にいるのは体長4m程もある四足歩行型の魔物。筋骨隆々、巨大な牙を持ち、このジャングルの中でも全く隠れる気のない赤一色の体毛。
ジャングルで会ったら危険な生物と言えばこいつと言われる魔物だ。
ランクとしても、デーモンに近しい。
それが、今にも二人に襲いかかろうと唸っている。
しかし、二人ともそんな中でも平然と会話を続ける。
「でも、ジャガーの音もするんですけど」
「お前、言葉遊びの方を楽しんでないか……」
「あはは、それもありますね。テンション上がっちゃって」
二人はジャガーの音がしたと言う方に歩き出す。その後にはサニィによって心臓を一突きにされた、ジャガーノートの死体を残して。
「おお、本当にあの模様は木々に溶け込みますねー」
相変わらず楽しそうに、サニィはジャガーを見つめる。
気配を完全に遮断している為、二人の存在は気付かれることがない。
レイン程の圧力を持つ人間が野生動物に気付かれない程のステルス。それだけで、サニィの魔法での威力が分かるというもの。
二人はのんびりと、そのジャガーの観察を続けることにした。
「ふう、有意義な時間でした」
「そうか。相変わらず体力だけは有り余ってるなお前は」
結局、サニィがジャガーの観察を満足したのは三日後。獲物を捕らえて食べる所まで観察を終えてからのことだった。
その間、サニィは一睡もせずそのジャガーに張り付いていた。
夜になって眠るレインを放置したまま、一人で観察を続けていた。
「あはは、初めてレインさんに勝った気分です」
そんなことを言いながら無邪気に笑うサニィは、聖女と言うよりもやはり、ただの一人の動物好きの少女の様だ。
そんな風にレインは思う。
この4年間で変化したことは色々ある。多過ぎるほどに。
しかしそれでも、変わらないものはあるのだと、今更ながらに実感する。
だからこそ、「そろそろ行きましょうか」と言うサニィに、あえてこう言ってみることにした。
「いいや、まだゴリラを見てない。俺はゴリラが結構好きなんだ」
そんなレインにサニィは少し驚くと、ふふふと笑う。
「石炭との見分けもつかない癖にっ」
「うるさい。とにかくゴリラを探すぞ。俺はゴリラに剣を教えるんだ」
「時雨流トロッコの形ですね」
「何を言ってるんだ……」
二人は最早自分たちで何を言っているのか分からない。しかしそれでも良いかと思う程、サニィの嬉しそうな顔は眩しいものだった。
ともかく、再びテンションの上がりきったサニィがゴリラの観察を終えるまで更に一週間程かかったのだが、結局ゴリラに剣を教えることは叶わなかった。ストレスに弱い彼等は、サニィの力で姿を消していてもレインが近づくと不安そうな行動を取り始めた為だった。
「残念でしたねレインさん……」
「いや、別に本気で剣を教えようとしてたわけじゃないからな……」
何故か本気でがっかりするサニィを慰める為にもう一種類珍しい動物の観察をさせようと、更に10日間ジャングルへの滞在日数が増えたことも、まあ、良い思い出になるだろう。
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