雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
214 / 592
第十五章:帰還、そして最後の一年

第二百十四話:たまらんタマリン

しおりを挟む
 ジャングルは相変わらず生き物達で賑わっている。
 それを見たサニィは相変わらず興奮しっぱなしで、見ていて飽きない。

「お、あそこにタンバリンがいるじゃないか」
「タマリンだって言ってるじゃないですかもー」
「いや、アレだ」
「あれ、ホントですね。というかまだ放置しっぱなしなんですねアレ……」

 レインの指差す先には、いつか見たタンバリンが雨風にさらされながらもまだ原型を留めて残っていた。
 鳴子的に使われているわけでもなく、そもそもここ4年間誰かが触った形跡すらない。

「せっかくなんで修復してもらって行きますか」
「要らないだろう……」
「まあ、記念品ということで。本当はタマリンがたまらんのですけどタンバリンをたんまりと持って帰るだけで我慢しておきましょう」
「……相変わらずテンション高いな」

 もちろん、たんまりと言うようなタンバリンはない。一つだけだ。
 サニィは何やら浮かれながらそれを手に取ると、魔法でぱぱっと修復してカバンの中に入れる。

「ふう。この子は『たまらんタマリン』と名付けましょう」
「いや、タンバリンだろう……」
「まあ細かいことは良いじゃないですか、あ、ドラム!!」
「待て、お前がいつも指摘するんだろうが。というかその流れは以前やった。どうせゴリラなんだろ……って」

 そこには、ドラム缶が転がっている。
 ゴリラでも楽器でもなく、ドラム缶だ。

「いえいえ、そっちじゃなくてそっちじゃなくてあっちです」

 サニィの指差す方向を見ると、そこにはレールが敷かれており、手押しのトロッコが草木に埋もれているのが分かる。どうやら、過去にここは何かの採取場だった時期があるらしい。

「……あれはトラムだな」
「あっはっは、間違えちゃいましたよ」

 相変わらず楽しそうにサニィは笑う。今はきっと、箸が転がっても笑えるのだろう。

「全く、ここのジャングルはなんでもアリだな。お前のテンションもだが……」
「あははははは、ダメですか?」
「いや、良いだろうさ。お前の為のジャングルだ。お、ゴリラがいるぞ」
 黒い塊を指差す。
「……あれ、ただの石炭ですから」
「……なんかすまん」

 きっとサニィのテンションに影響されたのだろう、大きさの同じくらいなゴリラと石炭を見間違える。

「もう、ギャグにもなってないじゃないですかー」
「すまんな節穴で」
「そうですよー。あ、あんな所にジャガーがいますよ!」
「あれはジャガーノートだ」

 サニィの指差す先にいるのは体長4m程もある四足歩行型の魔物。筋骨隆々、巨大な牙を持ち、このジャングルの中でも全く隠れる気のない赤一色の体毛。
 ジャングルで会ったら危険な生物と言えばこいつと言われる魔物だ。
 ランクとしても、デーモンに近しい。
 それが、今にも二人に襲いかかろうと唸っている。
 しかし、二人ともそんな中でも平然と会話を続ける。

「でも、ジャガーの音もするんですけど」
「お前、言葉遊びの方を楽しんでないか……」
「あはは、それもありますね。テンション上がっちゃって」

 二人はジャガーの音がしたと言う方に歩き出す。その後にはサニィによって心臓を一突きにされた、ジャガーノートの死体を残して。

「おお、本当にあの模様は木々に溶け込みますねー」

 相変わらず楽しそうに、サニィはジャガーを見つめる。
 気配を完全に遮断している為、二人の存在は気付かれることがない。
 レイン程の圧力を持つ人間が野生動物に気付かれない程のステルス。それだけで、サニィの魔法での威力が分かるというもの。
 二人はのんびりと、そのジャガーの観察を続けることにした。

「ふう、有意義な時間でした」
「そうか。相変わらず体力だけは有り余ってるなお前は」

 結局、サニィがジャガーの観察を満足したのは三日後。獲物を捕らえて食べる所まで観察を終えてからのことだった。
 その間、サニィは一睡もせずそのジャガーに張り付いていた。
 夜になって眠るレインを放置したまま、一人で観察を続けていた。

「あはは、初めてレインさんに勝った気分です」

 そんなことを言いながら無邪気に笑うサニィは、聖女と言うよりもやはり、ただの一人の動物好きの少女の様だ。
 そんな風にレインは思う。
 この4年間で変化したことは色々ある。多過ぎるほどに。
 しかしそれでも、変わらないものはあるのだと、今更ながらに実感する。
 だからこそ、「そろそろ行きましょうか」と言うサニィに、あえてこう言ってみることにした。

「いいや、まだゴリラを見てない。俺はゴリラが結構好きなんだ」

 そんなレインにサニィは少し驚くと、ふふふと笑う。

「石炭との見分けもつかない癖にっ」
「うるさい。とにかくゴリラを探すぞ。俺はゴリラに剣を教えるんだ」
「時雨流トロッコの形ですね」
「何を言ってるんだ……」

 二人は最早自分たちで何を言っているのか分からない。しかしそれでも良いかと思う程、サニィの嬉しそうな顔は眩しいものだった。
 ともかく、再びテンションの上がりきったサニィがゴリラの観察を終えるまで更に一週間程かかったのだが、結局ゴリラに剣を教えることは叶わなかった。ストレスに弱い彼等は、サニィの力で姿を消していてもレインが近づくと不安そうな行動を取り始めた為だった。

「残念でしたねレインさん……」
「いや、別に本気で剣を教えようとしてたわけじゃないからな……」

 何故か本気でがっかりするサニィを慰める為にもう一種類珍しい動物の観察をさせようと、更に10日間ジャングルへの滞在日数が増えたことも、まあ、良い思い出になるだろう。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...