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第十四章:取り敢えずで世界を救う
第百九十話:王都の流行
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グレーズ国王ピーテル・G・グレージアは、オリヴィアとディエゴが共に王都を離れるにあたり、騎士団の指揮を取っていた。
元々彼は騎士団の出、かつてはディエゴと最強の座を争った程の腕を持っている。
王は娘オリヴィアがサニィに負け、その後の努力によってディエゴをも上回る力を得たのを見て、密かにトレーニングを進めていた。
王になって以来、騎士団と共に戦いに赴くことはおろか、まともにトレーニングすらしていなかった為に、その実力は初めてレインに会った時点で既にオリヴィアに負けていた。
とは言え、そんな娘に簡単に勝てる者など、親友でもあるディエゴを除けば、彼が手も足も出ないと言うレインしかあり得ないものだと思っていた。
そしてレインを時期国王に据えれば、この国は魔物に対して絶対的な力を持つことで、民衆からの支持も盤石となる。そう考えていた。
それが、蓋を開けてみれば、サニィと言うかつて嫁である王妃の憧れた魔法使いリーゼ、大量の魔物の襲撃で死亡したと言われる彼女の娘が、レインの伴侶として圧倒的な力を持って現れた。
あのリーゼの娘ならばと思う反面、魔法使いに遅れをとる勇者など居ないとタカを括っていた部分もあった。
自分自身が、かつてリーゼが破れ、ピンチに陥っていた王妃を救ったことから王への道が開かれたことを思い出す。
勇者は魔法使いより強い。それが常識だった。
サニィは魔法使いではないと知った今でも、全盛期の自分を軽々上回るオリヴィアが軽々負けると言うことが、信じられなかった。
だからこそ、改めて鍛錬を重ね、騎士団臨時団長として、騎士団時代を思い出しながら今はそれをまとめ上げていた。
「おいお前らぁ!! 引退した俺に負けててどうするんだ!!」
そんな気合の言葉に、全ての団員が答える。
彼等は全員が国王に打ちのめされ、背を地面に付けながらも、声を上げる。
「英雄の剣、時雨流とやらはその程度か!? ほら、起きろ間抜け共!!」
「押忍!!」
全員が、動かない体を、無理やりに動かして起き上がる。
密かなトレーニングは、確実にかつての勘を取り戻していた。
そこに居たのは20年前にはグレーズ最強の一人と言われた心眼ピーテル、一瞬先を読むグレーズ騎士団斬り込み隊長の姿。
ストイックながら穏健なディエゴと違い、その能力を十全に使い、ごりごりの力押しで戦うタカ派騎士。王になってからは落ち着いていたものの、当時の王女の心をその剥き出しの闘争心で捉えたと言っても過言ではない男。
「陛下、も、もう一度お願いします!」
「今の俺は陛下じゃあねえ、グレーズ騎士のピーテル・グリューネヴァルトだ。陛下と呼びたきゃ俺から一本でも取ってからにして貰おうか」
何を言っているのか、騎士達には理解出来ない。
しかし、とっくに引退した男に負けている様では話にならない。ついこの間、自分達は英雄レインに稽古をつけて貰った所なのだ。
英雄の剣、時雨流。聖女様がそう呼んだ剣を、グレーズ騎士の剣と組み合わせた最新の剣術を修練しておいて、負けっぱなしは許されない。
それだけは、分かっていた。
「しかし時雨流か、ささみ3号といいやっぱり聖女様はセンス抜群だな。戻ってきたら俺の宝剣の名付け親にもなって貰うか」
「喋りながらとは楽勝ですね、くっ」
「はっはっは。弱い弱い。おら、次元の狭間斬り!!」
「ぐっはぁっ、全然斬れてなぃ……」
こうして、全然斬れない次元の狭間斬りによって、騎士達は次々に地面に倒れていく。
これが後に大事件を引き起こすことなど知りもせず、王は聖女の名付けた時雨流奥義の名前を、叫びに叫んだのだった。
――。
「何やら嫌な予感がするな」
3匹目のドラゴンを素手で倒し終えたレインが、ふとそんなことを言う。
「サニィ、マナに異変はあるか?」
「うーん、マナには何も変な反応はありませんね。女狐も相変わらず見つかりませんし、ドラゴン以外の強大な魔物ってのも、特には」
もちろん、サニィはとぼけてなどいない。
真剣に世界中のマナ探知をしているし、実際に残る15のドラゴンの動きは感じない。
強い魔物が動き出せば恐らく分かるだろうが、それもない。
レインが嫌な予感を言い始めることは初めてなので、もちろん警戒は解きはしない。
魔王が生まれる直前ですら嫌な予感を感じないレインが言うことが当てになるのかどうかはともかくとして。
「とりあえずは警戒を続けてくれ。アリエル」
「妾の能力にも特に何も出ておらんぞ?」
当然だ。レインの嫌な予感は、今王都騎士間で起こっている流行。サニィがディエゴを連れてくる時に”少しの話”をした結果起こった、必殺技ブームだ。
その中でもレインの剣の最終奥義、サニィ曰く『次元の狭間斬り』は、王のツボを最も押さえた必殺技として、騎士達をなぎ倒す際に一々言い放つ程。
それを、レインは知らない。
いや、サニィすらも知らない。
何やらくしゃみをするレインを横目に、嫌な予感って風邪じゃないんですか? 等ととぼけたことを言いながら、次の大陸へと進む準備を進めていた。
元々彼は騎士団の出、かつてはディエゴと最強の座を争った程の腕を持っている。
王は娘オリヴィアがサニィに負け、その後の努力によってディエゴをも上回る力を得たのを見て、密かにトレーニングを進めていた。
王になって以来、騎士団と共に戦いに赴くことはおろか、まともにトレーニングすらしていなかった為に、その実力は初めてレインに会った時点で既にオリヴィアに負けていた。
とは言え、そんな娘に簡単に勝てる者など、親友でもあるディエゴを除けば、彼が手も足も出ないと言うレインしかあり得ないものだと思っていた。
そしてレインを時期国王に据えれば、この国は魔物に対して絶対的な力を持つことで、民衆からの支持も盤石となる。そう考えていた。
それが、蓋を開けてみれば、サニィと言うかつて嫁である王妃の憧れた魔法使いリーゼ、大量の魔物の襲撃で死亡したと言われる彼女の娘が、レインの伴侶として圧倒的な力を持って現れた。
あのリーゼの娘ならばと思う反面、魔法使いに遅れをとる勇者など居ないとタカを括っていた部分もあった。
自分自身が、かつてリーゼが破れ、ピンチに陥っていた王妃を救ったことから王への道が開かれたことを思い出す。
勇者は魔法使いより強い。それが常識だった。
サニィは魔法使いではないと知った今でも、全盛期の自分を軽々上回るオリヴィアが軽々負けると言うことが、信じられなかった。
だからこそ、改めて鍛錬を重ね、騎士団臨時団長として、騎士団時代を思い出しながら今はそれをまとめ上げていた。
「おいお前らぁ!! 引退した俺に負けててどうするんだ!!」
そんな気合の言葉に、全ての団員が答える。
彼等は全員が国王に打ちのめされ、背を地面に付けながらも、声を上げる。
「英雄の剣、時雨流とやらはその程度か!? ほら、起きろ間抜け共!!」
「押忍!!」
全員が、動かない体を、無理やりに動かして起き上がる。
密かなトレーニングは、確実にかつての勘を取り戻していた。
そこに居たのは20年前にはグレーズ最強の一人と言われた心眼ピーテル、一瞬先を読むグレーズ騎士団斬り込み隊長の姿。
ストイックながら穏健なディエゴと違い、その能力を十全に使い、ごりごりの力押しで戦うタカ派騎士。王になってからは落ち着いていたものの、当時の王女の心をその剥き出しの闘争心で捉えたと言っても過言ではない男。
「陛下、も、もう一度お願いします!」
「今の俺は陛下じゃあねえ、グレーズ騎士のピーテル・グリューネヴァルトだ。陛下と呼びたきゃ俺から一本でも取ってからにして貰おうか」
何を言っているのか、騎士達には理解出来ない。
しかし、とっくに引退した男に負けている様では話にならない。ついこの間、自分達は英雄レインに稽古をつけて貰った所なのだ。
英雄の剣、時雨流。聖女様がそう呼んだ剣を、グレーズ騎士の剣と組み合わせた最新の剣術を修練しておいて、負けっぱなしは許されない。
それだけは、分かっていた。
「しかし時雨流か、ささみ3号といいやっぱり聖女様はセンス抜群だな。戻ってきたら俺の宝剣の名付け親にもなって貰うか」
「喋りながらとは楽勝ですね、くっ」
「はっはっは。弱い弱い。おら、次元の狭間斬り!!」
「ぐっはぁっ、全然斬れてなぃ……」
こうして、全然斬れない次元の狭間斬りによって、騎士達は次々に地面に倒れていく。
これが後に大事件を引き起こすことなど知りもせず、王は聖女の名付けた時雨流奥義の名前を、叫びに叫んだのだった。
――。
「何やら嫌な予感がするな」
3匹目のドラゴンを素手で倒し終えたレインが、ふとそんなことを言う。
「サニィ、マナに異変はあるか?」
「うーん、マナには何も変な反応はありませんね。女狐も相変わらず見つかりませんし、ドラゴン以外の強大な魔物ってのも、特には」
もちろん、サニィはとぼけてなどいない。
真剣に世界中のマナ探知をしているし、実際に残る15のドラゴンの動きは感じない。
強い魔物が動き出せば恐らく分かるだろうが、それもない。
レインが嫌な予感を言い始めることは初めてなので、もちろん警戒は解きはしない。
魔王が生まれる直前ですら嫌な予感を感じないレインが言うことが当てになるのかどうかはともかくとして。
「とりあえずは警戒を続けてくれ。アリエル」
「妾の能力にも特に何も出ておらんぞ?」
当然だ。レインの嫌な予感は、今王都騎士間で起こっている流行。サニィがディエゴを連れてくる時に”少しの話”をした結果起こった、必殺技ブームだ。
その中でもレインの剣の最終奥義、サニィ曰く『次元の狭間斬り』は、王のツボを最も押さえた必殺技として、騎士達をなぎ倒す際に一々言い放つ程。
それを、レインは知らない。
いや、サニィすらも知らない。
何やらくしゃみをするレインを横目に、嫌な予感って風邪じゃないんですか? 等ととぼけたことを言いながら、次の大陸へと進む準備を進めていた。
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