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第十四章:取り敢えずで世界を救う
第百八十六話:ただ確実に、勝つために
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レインの本気を見たことがあるのはサニィとディエゴのみ。
しかし、ディエゴも見ていた魔王戦では、誰もそれを目で追うことが出来ていない。
反応どころか、その光を捉えることすら出来てはいなかった。
今回、レインはサニィの魔法によって、己に制約をかけた。一体目のドラゴン、それと互角程度まで。
互角に近い戦力でレインがどの様に戦うのか、弟子達は知りたがった。
何も制約をかけずに本気で戦ってしまえば、恐らく今それを見ることが出来るのはオリヴィアのみだろう。
徐々に制約を解除していき、本来の実力は目が慣れた頃に18頭の内一体で見せれば良い。
その案を言いだしたのはマルスだった。
彼の英雄は、現在世界の真実を記録する者として、旅をしている。
その為、レインの強さの根幹も、その目に焼き付けたいと思ったのだろう。
良ければ制約をかけることは出来ないかとレインに問うた所、弟子達も興味を示した為に許可したというわけだ。
「それじゃ、サニィ、アリエルを中心に守っておいてくれ」
そんな一言と共に、ドラゴンをおびき出そうとする。
ブロンセンから東に1000km、海沿いのリアス式海岸、その崖の一つに空いた大穴の中に、それは居た。
レインとサニィが50km程まで近づくと、それはすぐさま反応を示す。
レインは殺さなければならない。そんな本能が、それを動かした。
「50m、小さいな」
それはかつてエリーゼが倒したと言われる150m級、最初の魔王に比べれば1/3程の大きさ。
とは言え、ドラゴンと言うだけで本気を出せば都市を滅ぼせるだろう。
オリヴィアも、一人では勝てるイメージがわかない。
「さて、このサイズまで力が落とされているなら全員見られるだろうな。見ておけよ」
そう言って、レインは直剣月光を手に駆け出した。
その戦闘は、凄まじかった。
レインは基本的に全ての攻撃を回避する。どんな攻撃も月光で受けるということがない。
エリーの攻撃を月光で受けていた理由は、単純に動かないルールだったのと、避けるまでも無かったからだ。
しかし、その回避方法が、異常の一言。
「レイン、はっ」
誰かが、そんな声を上げる。
ドラゴンの攻撃が、直撃したように見えたからだ。
レインはあらゆる敵の攻撃を回避する。
あとほんの少しだけズレていれば、頭が飛ぶ位置で。あとほんの少し遅ければ、潰される遅さで。
どう見ても直撃しそうな攻撃も本当に紙一重で避けていく。
もしも足を滑らせれば、それで終わりだろう。
レインの身体能力その他は、全てサニィによって制限されている。
そんな中で、レインは死による恐怖が増幅しているとは思えない様なギリギリの回避を繰り返す。
ドラゴンの爪が掠り、擦り傷も出来ている。
「……師匠、おかしい。凄いけど、でも」
レインの心境を感じたのだろう。
ぽつりと、エリーがそんなことを呟く。
その意味を分かったのは、魔法使いの二人と、アリエル以外。
勇者達は全員、その戦闘の異常性をその目に焼き付けていた。
レインには、隙が見える。
それは、レインが到底反応できない様な僅かな瞬間され、隙として見えてしまう。
そんな中で、レインはその能力を最大限に活かす為、限界の回避をするのだ。
あえて相手に追い詰めさせる。
そして、相手が勝利を確信した瞬間、その戦闘は終わるのだ。
レインが追い詰められ、ドラゴンが大口を開いて食らいつこうとする。
以前、サニィがやられた様に。
それは、あの時の、正に再現の様だった。
大口を開いたドラゴンがレインに食らい付き、その姿が消える。
その直後、その大口は苦痛の声と共に再び開かれた。
敢えてその中に踏み込んだレインが、一気にその喉奥を傷つける。
口を開きレインを吐き出すと、ブレスを吐こうと炎を溜めるが、その時には既にレインは次の隙に向かって動いている。
片目が潰され、ブレスも止まってしまう。
確信した勝利から一瞬にして形勢が逆転し、ドラゴンは知性が高いが故にパニックへと陥る。
こうなれば、最早魔法は使えない。魔法の補助が無ければ、飛ぶことすら出来ない。
必死にレインを振り払おうとするドラゴンの、その頚動脈に刃を突き立て、その戦闘は終わりを告げた。
血を噴水の様に吹き出し、急激に意識を無くして行くドラゴンのその首は、あっけなく斬り落された。
「ふう。久しぶりの殺し合いだったな」
絶句する弟子達。
そう言いながら持ってくるレインに、最初に声をかけられたのはマルスだった。
その戦い方は、彼に酷似している。何度殺されても立ち上がり、最後は相手を倒すマルスに、とてもよく似ていた。
「レイン君は、互角の相手にはいつもこんな戦いを?」
「ああ。こちらが追い詰められれば相手は隙を見せる。どんな相手だろうと、勝利を確信した瞬間は隙だらけだ」
「後少しずれていれば死んでたと思うんだけれど」
「ずれなければ良い」
「……」
これが、レインが強くなった理由だった。
その人外は、6歳、母親を亡くして狛の村へ逃げてから、毎日毎日魔物を殺し続けてきた。
その中の全て、少なくとも、互角以上の相手には全て、レインは今の様な戦い方をしてきたのだと言う。
強いから強いのではなく、死地で死ななかったから強い。
ただ、それだけなのだと言う。
「これが一度でも失敗していれば、俺はもうこの世には居ない」
その戦い方は何度死んでも最後には勝つマルスにとても似ていて、その本質は全く違うもの。
真逆と言っても良いかもしれない。
マルスは、自分の能力で最終的に相手を倒す為の戦い。
レインは、自分を犠牲にして確実に殺すための戦い。
それはまるで、レインの母親が死んでしまった理由は自分のせいなのだと、未だに後悔しているような、そんな無茶苦茶な戦い方だった。
「次からは、制約は無くしてくれ」
そんなことを言うマルスに、全ての英雄候補達は皆、静かに首を縦に振った。
しかし、ディエゴも見ていた魔王戦では、誰もそれを目で追うことが出来ていない。
反応どころか、その光を捉えることすら出来てはいなかった。
今回、レインはサニィの魔法によって、己に制約をかけた。一体目のドラゴン、それと互角程度まで。
互角に近い戦力でレインがどの様に戦うのか、弟子達は知りたがった。
何も制約をかけずに本気で戦ってしまえば、恐らく今それを見ることが出来るのはオリヴィアのみだろう。
徐々に制約を解除していき、本来の実力は目が慣れた頃に18頭の内一体で見せれば良い。
その案を言いだしたのはマルスだった。
彼の英雄は、現在世界の真実を記録する者として、旅をしている。
その為、レインの強さの根幹も、その目に焼き付けたいと思ったのだろう。
良ければ制約をかけることは出来ないかとレインに問うた所、弟子達も興味を示した為に許可したというわけだ。
「それじゃ、サニィ、アリエルを中心に守っておいてくれ」
そんな一言と共に、ドラゴンをおびき出そうとする。
ブロンセンから東に1000km、海沿いのリアス式海岸、その崖の一つに空いた大穴の中に、それは居た。
レインとサニィが50km程まで近づくと、それはすぐさま反応を示す。
レインは殺さなければならない。そんな本能が、それを動かした。
「50m、小さいな」
それはかつてエリーゼが倒したと言われる150m級、最初の魔王に比べれば1/3程の大きさ。
とは言え、ドラゴンと言うだけで本気を出せば都市を滅ぼせるだろう。
オリヴィアも、一人では勝てるイメージがわかない。
「さて、このサイズまで力が落とされているなら全員見られるだろうな。見ておけよ」
そう言って、レインは直剣月光を手に駆け出した。
その戦闘は、凄まじかった。
レインは基本的に全ての攻撃を回避する。どんな攻撃も月光で受けるということがない。
エリーの攻撃を月光で受けていた理由は、単純に動かないルールだったのと、避けるまでも無かったからだ。
しかし、その回避方法が、異常の一言。
「レイン、はっ」
誰かが、そんな声を上げる。
ドラゴンの攻撃が、直撃したように見えたからだ。
レインはあらゆる敵の攻撃を回避する。
あとほんの少しだけズレていれば、頭が飛ぶ位置で。あとほんの少し遅ければ、潰される遅さで。
どう見ても直撃しそうな攻撃も本当に紙一重で避けていく。
もしも足を滑らせれば、それで終わりだろう。
レインの身体能力その他は、全てサニィによって制限されている。
そんな中で、レインは死による恐怖が増幅しているとは思えない様なギリギリの回避を繰り返す。
ドラゴンの爪が掠り、擦り傷も出来ている。
「……師匠、おかしい。凄いけど、でも」
レインの心境を感じたのだろう。
ぽつりと、エリーがそんなことを呟く。
その意味を分かったのは、魔法使いの二人と、アリエル以外。
勇者達は全員、その戦闘の異常性をその目に焼き付けていた。
レインには、隙が見える。
それは、レインが到底反応できない様な僅かな瞬間され、隙として見えてしまう。
そんな中で、レインはその能力を最大限に活かす為、限界の回避をするのだ。
あえて相手に追い詰めさせる。
そして、相手が勝利を確信した瞬間、その戦闘は終わるのだ。
レインが追い詰められ、ドラゴンが大口を開いて食らいつこうとする。
以前、サニィがやられた様に。
それは、あの時の、正に再現の様だった。
大口を開いたドラゴンがレインに食らい付き、その姿が消える。
その直後、その大口は苦痛の声と共に再び開かれた。
敢えてその中に踏み込んだレインが、一気にその喉奥を傷つける。
口を開きレインを吐き出すと、ブレスを吐こうと炎を溜めるが、その時には既にレインは次の隙に向かって動いている。
片目が潰され、ブレスも止まってしまう。
確信した勝利から一瞬にして形勢が逆転し、ドラゴンは知性が高いが故にパニックへと陥る。
こうなれば、最早魔法は使えない。魔法の補助が無ければ、飛ぶことすら出来ない。
必死にレインを振り払おうとするドラゴンの、その頚動脈に刃を突き立て、その戦闘は終わりを告げた。
血を噴水の様に吹き出し、急激に意識を無くして行くドラゴンのその首は、あっけなく斬り落された。
「ふう。久しぶりの殺し合いだったな」
絶句する弟子達。
そう言いながら持ってくるレインに、最初に声をかけられたのはマルスだった。
その戦い方は、彼に酷似している。何度殺されても立ち上がり、最後は相手を倒すマルスに、とてもよく似ていた。
「レイン君は、互角の相手にはいつもこんな戦いを?」
「ああ。こちらが追い詰められれば相手は隙を見せる。どんな相手だろうと、勝利を確信した瞬間は隙だらけだ」
「後少しずれていれば死んでたと思うんだけれど」
「ずれなければ良い」
「……」
これが、レインが強くなった理由だった。
その人外は、6歳、母親を亡くして狛の村へ逃げてから、毎日毎日魔物を殺し続けてきた。
その中の全て、少なくとも、互角以上の相手には全て、レインは今の様な戦い方をしてきたのだと言う。
強いから強いのではなく、死地で死ななかったから強い。
ただ、それだけなのだと言う。
「これが一度でも失敗していれば、俺はもうこの世には居ない」
その戦い方は何度死んでも最後には勝つマルスにとても似ていて、その本質は全く違うもの。
真逆と言っても良いかもしれない。
マルスは、自分の能力で最終的に相手を倒す為の戦い。
レインは、自分を犠牲にして確実に殺すための戦い。
それはまるで、レインの母親が死んでしまった理由は自分のせいなのだと、未だに後悔しているような、そんな無茶苦茶な戦い方だった。
「次からは、制約は無くしてくれ」
そんなことを言うマルスに、全ての英雄候補達は皆、静かに首を縦に振った。
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