雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十三章:帰還した世界で

第百八十一話:その日の晩餐

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 ようやくのこと、二人の繋いだ小指を話す事に成功した日の晩御飯は、急遽豪勢なものとなった。
 四人の頑張りを見たサニィは少しだけ話をすると、即座に何処かに転移していく。そしてどこからか海の幸や山の幸、そして上質な肉類を買い占めて、皆が戻る時には既に宿屋『漣』へと戻っていたのだった。
 もちろんそれらを調理したのは、度々四人の修行を遠くから見学していたアリスと最近腕に自信が出てきたサニィ、そして、毎日六人の修行を陰ながら支えてくれた女将だった。

「うへぇ……、やっぱりお姉ちゃん凄いなぁ。わたし達こんなにくたくたなのにぃ」

 と、レインの左側小脇に抱えられてだらーんとしているエリー。
 実際の所、サニィは戦闘中殆ど立っているだけだったが、常に周囲に被害が出ない様飛び散る石の礫を途中で落としたり、毎回変わってしまう地形を元に戻したりと、実はルークやエレナよりも高精度な多くの魔法を使っていた。

「わたくし達のお姉様ですものぉ」

 同じくレインに背負われながらだらーんとしているオリヴィア。
 半分は甘えているだけだが、流石に今日は良いだろうと、サニィが許可した結果、必要以上に力を抜いて全てを預けている。

 因みにエリーの武器は全て巨大な袋に詰め、レインが右手で持ってきている。

「うーん、魔人様に幻覚、結局1秒もかからないよぉ」
「僕の重力魔法も意味があるんだか無いんだか」

 エレナはルークに背負われている。
 エリーとオリヴィアを見たエレナが、「もう動けないよぉ、ルー君、チラッ」と露骨にアピールをしてきた為だ。
 そんな露骨なおんぶ要求魔法に、対抗出来るルーク等存在しない。ルークは自分の体に鞭打って、重力魔法の応用で重力を軽減すると、エレナを軽々と背負ってみせたのだった。
 もちろん、ほぼ限界なので非常に苦しい。
 しかしそこは男の意地で、如何にも頼れる男風に。その時ばかりは平然と弟子二人を持ち上げた上に、合計50kgは軽く超えそうな武器達を片手で持ち上げるレインを参考に、顔面を維持したのだった。

 弟子達は、大部屋に辿り着くと、全員が大の字で倒れ込む。
 天井を仰いで、一先ずは勝ったのだと、ようやく実感が湧き始める。
 もちろん、魔王が相手では命のやり取りだ。
 もちろん、魔王戦はこんなに緩くは無いだろう。
 もちろん、魔王戦では偶然等起こらないだろう。
 それでも、二人の師の隙を突いた一撃を加えられたという実感は、とてつもなく大きいものだった。

 エリーは、これまでに町の防衛にトロールの群れを一人で倒してみた。
 オリヴィアはレインとの戦いがあったのでともかくとして。
 エレナは、50を超える淫魔を一人で相手どっていた。
 ルークは、マナスル南の山岳地帯のグリフォンを、一人で一掃してみた。

 しかし、それら実際の戦闘経験を全て含めても、一切勝てる気配のない相手の隙を突いた一撃を加えることが出来た。
 その実感が、とても、重要だった。

 そんな実感を噛み締めていると、エリーのお腹がぐーと鳴く。とても可愛らしいものだ。
 みんなであははと笑っていると、次にオリヴィアのお腹がぐおーと鳴く。見た目とのギャップがまた良いのだと言う人がいるだろう。
 そしてエレナのお腹がきゅるるーとあざとく鳴けば、ルークのお腹はぎゅーと鳴く。
 それぞれにお腹の虫が主張を始めた頃、サニィが巨大な皿を蔦の手でいくつも持って、部屋に入ってきた。

「今日だけはみんな疲れてるだろうし、存分に食べて休憩しよう。質問は受けるけど、私達が何か言うのは明日から。でも、今日の戦いの感触は忘れないでね」

 そんな言葉と共に、四人がガバっと起きると宴会が開始される。
 エリーは余程空腹だったのだろう。先程のまでのピクリとも動かない様子から一点、猛獣の様に肉へと食らいつく。
 他の三人もそれぞれに食べ始める。
 そこに更に追加の料理を持って、アリスと女将、そして無口な大将も加わって、宴会は盛り上がりを見せていった。

「ところでレインさん、一つお聞きしたいんですけど」

 ルークがふと尋ねる。

「あの距離関係なく飛んでくる斬撃ってなんなんですか?」

 その斬撃は、絶対に当たらない様に、特に配慮されて繰り出されていた。
 一度それを相殺しようと対になりそうな魔法をぶつけてみたり、壁を作ったりしてみたが、一切の意味がなく目的であろう位置まで到達していた。
 途中からはそれがわざと避けていると気づいたが、それを見抜くまでは本当に生きた心地がしなかったものだった。

「あれは俺の奥義みたいなものだ。この武器でしか実現出来ん」
「その剣、宝剣ですよね? 何か特別な効果があるんですか?」

 魔法使いは基本的に剣の様な武器を使わない場合が多いが、流石に宝剣の存在は知っている。
 それは強大な魔物等と金属を加工して作られており、それぞれに特殊な力を秘めている。
 作戦を考える中で、オリヴィアの羽の軽さの【ささみ3号】を聞いていたし、エリーの武器が全て認定を受けていない準宝剣だと聞いている。
 そんな準宝剣の大剣を逆持ちした大槌の地面を割る一撃を、剣の腹の部分で受けてしなるどころか微動だにしないその剣は間違いなく宝剣ではないかと見込んでいた。

「この武器は絶対に壊れない、とだけ聞いている。実際にその様に扱っているし、しなりも無いからか斬れ味も通常の業物と変わらない」
「それと斬撃とどんな関係が?」

 確かにレインの剣速ならば、武器はそう長く持たないだろう。しかし、その武器でしか使えないと言うのが気にかかる。

「あの斬撃を他の武器で使うと、消滅する」
「へ?」

 皆が、間抜けな声を上げてレインに注目する。
 壊れるではなく、消滅する。その意味が分からない。

「あれは俺もよく分からないんだがな、空間の狭間、何か別の世界の様な物に干渉して斬撃を届けるんだ。まあ、簡単に言えば、その別の世界を通す時に、他の武器だと形を保てなくなる。一応斬撃は弱い形で届くんだが……」
「ってことは、レインさんの能力でないと出来ないってことですか?」

 ルークは更に尋ねる。単純に、レインの秘密が知りたいだけでなく、それを魔法に応用できれば、そう考えている。

「恐らくな。とは言え、俺がなんであれを出来るのかが分かれば出来るのかもしれん」

 それが、ルークの転機だった。
 元々感性で魔法を使ってきたエレナと違い、ルークの本質は思考だ。少しのヒントがあれば、そこから思考を広げ新しい魔法を作り出すことすら出来る。
 重力魔法はそんな思考のヒントとしてエレナの言った、空を飛ぶ、と言うものがあった。
 今回のヒントは別の世界、とか、空間の狭間。
 ルークはそこから新たな可能性を見出し、サニィにすら使えない魔法を創り出すに至る。
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