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第十三章:帰還した世界で
第百七十七話:恋の話の様な
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「なるほど。そういうことなら私が皆殺しにしてあげる」
霊峰で生徒の悩みを聞いたサニィは一つの決意を固める。
最近、ルークはエレナと上手くいっていないらしい。
2年前に思いを打ち明けて以来、清純な付き合いをしている二人だったが、ある出来事をきっかけに気まずい雰囲気に陥っている。
だからそれを解決して欲しいという事だった。
そもそも、エレナもルークも能力も高ければそれなり社交性もあって、同年代の子どもからはとてもモテるタイプだ。
密かにルークのことを想っている研究所の女の子もいれば、密かにエレナを想っている研究所の男の子もいることを、何度か研究所に顔を見せたサニィは知っていた。
そして、エレナは12歳にしてなかなか大人っぽい。
もちろん、オリヴィア程美人と言うわけでもスタイルが良いわけでもないのだが、小悪魔的と言うべきか、魔性と言うべきか、ともかくその仕草は男心をくすぐるものがあるのだろうと、サニィから見ても理解出来るタイプだった。
もちろん、それがエレナの魔法に完全にマッチしている為に、ルークも頭が良いせいもあって、やきもきしながらもそんな仕草をしてしまうことを受け入れていた。
そもそも、そんな風に上手く他人に取り入ろうとしてしまう理由はエレナの家庭環境にあって、彼女は捨て子同然の扱いでマナスルに送られて来たと言うことからしても、仕方のないことであるのだろう。
さて、本題。
現在、そんな魔性の12歳エレナに、執拗にまとわり付く連中が居る。
そいつらをエレナは軽くあしらっているのだが、見ているルークは非常に気分がよろしくない。
その連中は日に日に勢いを増し、エレナにアプローチをかけるのだと言う。
流石に少しばかりイライラしてしまって、もうちょっとちゃんと対処してくれと頼んだところ、エレナの回答はこうだった。
「わたしの魔法研究の役に立ってるんだから良いじゃない。それに、心配しなくても大丈夫だから」
そんな回答が、どうにも気に入らず、つい先日喧嘩をしてしまったとのこと。
そこで、サニィが放った一言が冒頭のセリフだ。
「お願いします先生。僕、もうこれ以上あんなエレナを見るのは嫌なんです」
「うん、よしよし。私がちゃんとちょん切ってあげるからね」
ルークの頭を撫でながらサニィは、エレナの気配を探る。
「エレナちゃんは今、東の山に向かってる最中かー」
「一応、周りには迷惑かけないようにって、気配を感じたらそっちに向かう様にしてるみたいで」
「それなら現行犯で殺そうか」
「はいっ」
二人はそんな物騒なことを口にすると、後の片付けを、残った研究員エイミーに任せ走り出した。
「あぁあ、聖女サニィ様」
と言う声が聞こえてくるが、再び聖女だとバレてからは笑顔でこう返せば解決することが分かっていた。
「お願いします。私の犬のエイミーさんっ」
「はぁあん、この犬にお任せ下さいぃ」
もちろん、ルークは自分の担当教官でもあるエイミーにドン引きだし、サニィはエレナ以上の悪女ではないかと若干の恐怖に怯えるものの、それを口には出さない。
二人は、魔法で強化した身体能力で、エレナのもとへと駆け出した。
実はこの時、サニィは凄まじい怒りを抑えているのだが、それを哀れなルークはまだ知らない。
――。
「あはは、みんなそんなにわたしが欲しいの? でもあげない。私はルー君のものだもの。分かったら跪きなさい」
エレナは、魔法で弄んでいた。
その様子を見たルークは即座に顔を紅潮させ、研究を進めていた重力魔法を発動しようとする。
一方サニィはほう、とその様子を見て、関心したように見える。
「先生、エレナが。僕、もう嫌です!!」
そんな叫びをする寸前、サニィはエレナの魔法を打ち消すと、それまでエレナに操られ、地べたに平伏しエイミーの様に、いや、馬鹿な犬の様に涎を垂れ流していた者達を一人残らず串刺しにした。
――。
ルークとエレナは、現在張り付けにされている。
エレナの幻惑の魔法は、淫魔をも上回っている。
淫魔を昇天し尽くして消滅させるという手段は、今まで誰一人成し得なかったことながらも、決してやってはいけないことだった。
彼らは昇天する度にフェロモンの様な魔法をマナに乗せて飛ばすことにより、同族を呼び寄せる。
つまり、一度サキュバスを淫夢によって殺したエレナは、サキュバスインキュバスその他淫魔達を、世界中から呼び寄せる体質となってしまっていた。
それらを全て幻惑魔法で上回ると言うことは、つまるところ実践で幻惑魔法の有用性を引き上げる為の修行としてこの上ない。
それは、ルークも分かっていたが。
「エレナちゃん、ルー君、あなた達はまだ12歳なんだから、こういうことはまだ早い。良い?
確かに丁度良い修行だってエレナちゃんが思ったのは分かるし、ルー君が感情を押し殺してエレナちゃんの為にって思ったのが最初なのは分かるよ?
でもさ、物事には限度ってものがあるでしょ?
なんでここにはこんな50匹も淫魔がいるのかな?
これが、何? 毎日?は? エレナちゃんは12歳で毎日50人を相手にしてるの? 淫魔を50人も従えてなんでそんな楽しそうなの?
何言ってるの私?
でもエレナちゃん、ルー君が嫌な思いをして私に相談してきたってことは、仮に年齢が大丈夫だとしても限度を超えてるってことだからね?
今回はこれで私が淫魔を誘き寄せる魔法は切ったけど、次にあったらルー君に愛想尽かされても知らないよ?
ルー君も止めないとダメでしょ? 何が嫌だったから、なの? あなたの大切な人なんでしょ?
ともかく、ルー君も今回は連帯責任で、ブロンセンに連れて行きます。
二人共レインさんに根性を叩き直して貰いますからね」
早口でそんなことを捲し立てられ、いつの間にか、かろうじて届いた手を繋いで怯える二人。
その背後にはサニィの幻覚魔法で魔王よりも更に魔王らしい鬼神レインが見えていた。
いや、それも恐ろしいのだが、弱冠笑いながらキレているサニィの怖いこと。
「ごめんなさい先生。わたし、強くなるの楽しくて。ルー君のこと、想ってれば良いんだって勘違いしてて」
「分かれば良いから。でも、大切な人を悲しませるのは駄目だからね?」
そんなエレナを目を細めた笑顔で撫でるサニィは、エレナにとってこれ以上なく恐ろしく、それが新しい魔法のヒントになったことを、サニィは決して知ることがない。
エレナの後の二つ名『悪夢のエレナ』と言うものは、この時のサニィをモチーフにした魔法を中心にした戦法から作り出されたということを、決して知ることは、ない。
霊峰で生徒の悩みを聞いたサニィは一つの決意を固める。
最近、ルークはエレナと上手くいっていないらしい。
2年前に思いを打ち明けて以来、清純な付き合いをしている二人だったが、ある出来事をきっかけに気まずい雰囲気に陥っている。
だからそれを解決して欲しいという事だった。
そもそも、エレナもルークも能力も高ければそれなり社交性もあって、同年代の子どもからはとてもモテるタイプだ。
密かにルークのことを想っている研究所の女の子もいれば、密かにエレナを想っている研究所の男の子もいることを、何度か研究所に顔を見せたサニィは知っていた。
そして、エレナは12歳にしてなかなか大人っぽい。
もちろん、オリヴィア程美人と言うわけでもスタイルが良いわけでもないのだが、小悪魔的と言うべきか、魔性と言うべきか、ともかくその仕草は男心をくすぐるものがあるのだろうと、サニィから見ても理解出来るタイプだった。
もちろん、それがエレナの魔法に完全にマッチしている為に、ルークも頭が良いせいもあって、やきもきしながらもそんな仕草をしてしまうことを受け入れていた。
そもそも、そんな風に上手く他人に取り入ろうとしてしまう理由はエレナの家庭環境にあって、彼女は捨て子同然の扱いでマナスルに送られて来たと言うことからしても、仕方のないことであるのだろう。
さて、本題。
現在、そんな魔性の12歳エレナに、執拗にまとわり付く連中が居る。
そいつらをエレナは軽くあしらっているのだが、見ているルークは非常に気分がよろしくない。
その連中は日に日に勢いを増し、エレナにアプローチをかけるのだと言う。
流石に少しばかりイライラしてしまって、もうちょっとちゃんと対処してくれと頼んだところ、エレナの回答はこうだった。
「わたしの魔法研究の役に立ってるんだから良いじゃない。それに、心配しなくても大丈夫だから」
そんな回答が、どうにも気に入らず、つい先日喧嘩をしてしまったとのこと。
そこで、サニィが放った一言が冒頭のセリフだ。
「お願いします先生。僕、もうこれ以上あんなエレナを見るのは嫌なんです」
「うん、よしよし。私がちゃんとちょん切ってあげるからね」
ルークの頭を撫でながらサニィは、エレナの気配を探る。
「エレナちゃんは今、東の山に向かってる最中かー」
「一応、周りには迷惑かけないようにって、気配を感じたらそっちに向かう様にしてるみたいで」
「それなら現行犯で殺そうか」
「はいっ」
二人はそんな物騒なことを口にすると、後の片付けを、残った研究員エイミーに任せ走り出した。
「あぁあ、聖女サニィ様」
と言う声が聞こえてくるが、再び聖女だとバレてからは笑顔でこう返せば解決することが分かっていた。
「お願いします。私の犬のエイミーさんっ」
「はぁあん、この犬にお任せ下さいぃ」
もちろん、ルークは自分の担当教官でもあるエイミーにドン引きだし、サニィはエレナ以上の悪女ではないかと若干の恐怖に怯えるものの、それを口には出さない。
二人は、魔法で強化した身体能力で、エレナのもとへと駆け出した。
実はこの時、サニィは凄まじい怒りを抑えているのだが、それを哀れなルークはまだ知らない。
――。
「あはは、みんなそんなにわたしが欲しいの? でもあげない。私はルー君のものだもの。分かったら跪きなさい」
エレナは、魔法で弄んでいた。
その様子を見たルークは即座に顔を紅潮させ、研究を進めていた重力魔法を発動しようとする。
一方サニィはほう、とその様子を見て、関心したように見える。
「先生、エレナが。僕、もう嫌です!!」
そんな叫びをする寸前、サニィはエレナの魔法を打ち消すと、それまでエレナに操られ、地べたに平伏しエイミーの様に、いや、馬鹿な犬の様に涎を垂れ流していた者達を一人残らず串刺しにした。
――。
ルークとエレナは、現在張り付けにされている。
エレナの幻惑の魔法は、淫魔をも上回っている。
淫魔を昇天し尽くして消滅させるという手段は、今まで誰一人成し得なかったことながらも、決してやってはいけないことだった。
彼らは昇天する度にフェロモンの様な魔法をマナに乗せて飛ばすことにより、同族を呼び寄せる。
つまり、一度サキュバスを淫夢によって殺したエレナは、サキュバスインキュバスその他淫魔達を、世界中から呼び寄せる体質となってしまっていた。
それらを全て幻惑魔法で上回ると言うことは、つまるところ実践で幻惑魔法の有用性を引き上げる為の修行としてこの上ない。
それは、ルークも分かっていたが。
「エレナちゃん、ルー君、あなた達はまだ12歳なんだから、こういうことはまだ早い。良い?
確かに丁度良い修行だってエレナちゃんが思ったのは分かるし、ルー君が感情を押し殺してエレナちゃんの為にって思ったのが最初なのは分かるよ?
でもさ、物事には限度ってものがあるでしょ?
なんでここにはこんな50匹も淫魔がいるのかな?
これが、何? 毎日?は? エレナちゃんは12歳で毎日50人を相手にしてるの? 淫魔を50人も従えてなんでそんな楽しそうなの?
何言ってるの私?
でもエレナちゃん、ルー君が嫌な思いをして私に相談してきたってことは、仮に年齢が大丈夫だとしても限度を超えてるってことだからね?
今回はこれで私が淫魔を誘き寄せる魔法は切ったけど、次にあったらルー君に愛想尽かされても知らないよ?
ルー君も止めないとダメでしょ? 何が嫌だったから、なの? あなたの大切な人なんでしょ?
ともかく、ルー君も今回は連帯責任で、ブロンセンに連れて行きます。
二人共レインさんに根性を叩き直して貰いますからね」
早口でそんなことを捲し立てられ、いつの間にか、かろうじて届いた手を繋いで怯える二人。
その背後にはサニィの幻覚魔法で魔王よりも更に魔王らしい鬼神レインが見えていた。
いや、それも恐ろしいのだが、弱冠笑いながらキレているサニィの怖いこと。
「ごめんなさい先生。わたし、強くなるの楽しくて。ルー君のこと、想ってれば良いんだって勘違いしてて」
「分かれば良いから。でも、大切な人を悲しませるのは駄目だからね?」
そんなエレナを目を細めた笑顔で撫でるサニィは、エレナにとってこれ以上なく恐ろしく、それが新しい魔法のヒントになったことを、サニィは決して知ることがない。
エレナの後の二つ名『悪夢のエレナ』と言うものは、この時のサニィをモチーフにした魔法を中心にした戦法から作り出されたということを、決して知ることは、ない。
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