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第十三章:帰還した世界で
第百七十三話:弟子達の成長と
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オリヴィアが仕事を終えるとエリーの所へと赴く。
転移で送ってもらうと、サニィは二人の弟子の様子を見に霊峰へと飛んでゆく。
約一年ぶりの師弟の再開、200m程の距離、エリーは真剣な修行中でレインには気づかない。
「大きくなったな。集中力も高い」
「わたくしも成長しましたわ。色々。どうでしょう?」
「さて、少し試してみるか」
オリヴィアの言葉をさっくりと無視して、走り寄りながらほんの僅かだけ敵意を漏らす。敵意というよりも、極々僅かな闘争心程度だろう。
身長も平均よりも少し低い程度で順調に成長しているエリーは、そのレインの敵意を瞬時に察知すると、即座に振り返り体の力を緩める。
8歳にして既に一流。
レインがもしただの素人であれば、これはチャンスだと踏み込んで、一瞬にして肉塊に変えられていただろう。
それほどに、一見隙だらけの構え。
しかし、それはただカウンターを極める為の準備段階としての脱力。それを隙と見て踏み込めば、その狙いを読み取って反撃に移れる。それを達人と見て躊躇すれば、また別の行動に移れる。そんな構え。
レインは、無策に踏み込む。
単純な反射だけで戦いエリーの成長を見る為、あえて何も考えずに踏み込む。
初手、レインの袈裟斬りをエリーは左前方に腰を落として回避すると、そのまま前方に走り込みながら剣を右に残してレインの胴を薙ぎに行く。
二手、胴を滑るように斬りにかかるエリーの長剣をレインは右手で摘むように受け止めるとそのまま力任せに元の方向へと引き戻す。
三手、その意図を読んだエリーは即座に武器を捨てる判断、短剣に切り替える。右手で剣を引き戻される力を利用して回転から、左手逆手持ちでレインの背骨の隙間を切り離しにかかる。
とはいえ、そこで終わりだ。
一瞬後には背骨を切り離せるとエリーが確信した瞬間、それは消え、体が浮遊感を覚える。
「強くなったなエリー」
「うわっ、し、ししょう!?」
いつの間にか、体が浮いている。
師匠に脇を抱えられ、思いっきり持ち上げられている。
倒したという確信が油断に変わり隙を作った瞬間、エリーの負けは確定した。
とは言え、レインはそれなりに真剣に戦っていた。
流石に命を懸けたオリヴィアを相手にした時の様なものではないが、ディエゴを相手にする程度には。
要するに、少女は僅か8歳にして、かつてグレーズ最強と言われたディエゴ・ルーデンスと同等の扱いをしても良いという評価を受けたことになる。
「久しぶりだな。流石にまだ隙は出来てしまうが、頑張っているようだ」
「うん、はい! 師匠とは思わなくて、本気で殺そうとしちゃった」
安心したのか脚をぶらぶらとさせたまま、エリーは先ほどの戦いを振り返る。
この歳で容赦なく殺そうとする辺り姉弟は似るのかと少し複雑な気分になる。先ほどの短剣はレインでなければ死んでいただろう一撃だ。
とはいえ、相手を魔物に限れば、最善手。先ほどの戦いの講評を開始する。
「まず、きっちり相手の動きは読めているな。力任せに振るう様なことにもなっていない。俺が剣を奪おうとした力を回転力に変換したのも、短剣で背骨を切り離そうとしたのも良い。
無駄にでかい武器を使わず最小限、心を読めるエリーには向いている。
しかし、最後の一撃、意識が逸れたな。
あれが決まっても死なない魔物もいる。次の手の用意を、忘れていたな」
「う、はいぃ」
「息の根を止めてようやく決着だ」
あ、と思う。いつの間にか、殺すことを前提に話している。
このままでは、レイニー事件の二の舞だ。少し揺さぶられてしまったところで、ついという理由で殺人を犯してしまいかねない。
強者は恨みを買い、敵対される可能性がある。
レイン程であればそれも少ないが、エリーがどこまで強くなるかはまだ分からない。
だからこそ、付け加えなければならない。
「そして一つ、完全な人間が相手の場合、なるべく殺すな。心を折る戦い方をしてやれ。心を読めるお前なら、相手が嫌がることが分かるだろう」
「なんで、ですか?」
「そうだな、俺がこの間、勘違いかもしれない理由で騎士を一人殺してしまってな。オリヴィアにも随分と迷惑をかけた」
「うーん、なるほど」
なんとなく、分かっていない様な顔。
今まで魔物のみを相手にしてきて、人間が相手であれば正面からしか戦っていない。
人から殺意を向けられたことなど、あの時の盗賊団以外には存在しない。それらもレインが彼女の目の前で有無を言わさず殺してしまったのだ。
母親アリスも、今はそんなことを考えている余裕などない。きっと、自身の持つ死への恐怖感から、エリーが生きる為ならば簡単に人を殺すだろう。
だからこそ、鈍くなっている。
「対人はわたくしがいたしますわ。お師匠さ、レイン様、エリーさんはもっともっと強くなれますから、まずはやはりそれを優先してはいかがでしょうか」
ついでに、そう言った倫理観は王女としてのわたくしがお教えしますから。
強くなって余裕が出来れば、きっとそんなこともちゃんと考えられますわ。
エリーの妹弟子は、そう続ける。
「全く、頼りになる王女様だ」
「いいえ、お師匠様のお尻を綺麗にするのも弟子のお役目ですもの」
言い方はともかくオリヴィアもまた、確かに色々な意味で、確実に成長していた。
転移で送ってもらうと、サニィは二人の弟子の様子を見に霊峰へと飛んでゆく。
約一年ぶりの師弟の再開、200m程の距離、エリーは真剣な修行中でレインには気づかない。
「大きくなったな。集中力も高い」
「わたくしも成長しましたわ。色々。どうでしょう?」
「さて、少し試してみるか」
オリヴィアの言葉をさっくりと無視して、走り寄りながらほんの僅かだけ敵意を漏らす。敵意というよりも、極々僅かな闘争心程度だろう。
身長も平均よりも少し低い程度で順調に成長しているエリーは、そのレインの敵意を瞬時に察知すると、即座に振り返り体の力を緩める。
8歳にして既に一流。
レインがもしただの素人であれば、これはチャンスだと踏み込んで、一瞬にして肉塊に変えられていただろう。
それほどに、一見隙だらけの構え。
しかし、それはただカウンターを極める為の準備段階としての脱力。それを隙と見て踏み込めば、その狙いを読み取って反撃に移れる。それを達人と見て躊躇すれば、また別の行動に移れる。そんな構え。
レインは、無策に踏み込む。
単純な反射だけで戦いエリーの成長を見る為、あえて何も考えずに踏み込む。
初手、レインの袈裟斬りをエリーは左前方に腰を落として回避すると、そのまま前方に走り込みながら剣を右に残してレインの胴を薙ぎに行く。
二手、胴を滑るように斬りにかかるエリーの長剣をレインは右手で摘むように受け止めるとそのまま力任せに元の方向へと引き戻す。
三手、その意図を読んだエリーは即座に武器を捨てる判断、短剣に切り替える。右手で剣を引き戻される力を利用して回転から、左手逆手持ちでレインの背骨の隙間を切り離しにかかる。
とはいえ、そこで終わりだ。
一瞬後には背骨を切り離せるとエリーが確信した瞬間、それは消え、体が浮遊感を覚える。
「強くなったなエリー」
「うわっ、し、ししょう!?」
いつの間にか、体が浮いている。
師匠に脇を抱えられ、思いっきり持ち上げられている。
倒したという確信が油断に変わり隙を作った瞬間、エリーの負けは確定した。
とは言え、レインはそれなりに真剣に戦っていた。
流石に命を懸けたオリヴィアを相手にした時の様なものではないが、ディエゴを相手にする程度には。
要するに、少女は僅か8歳にして、かつてグレーズ最強と言われたディエゴ・ルーデンスと同等の扱いをしても良いという評価を受けたことになる。
「久しぶりだな。流石にまだ隙は出来てしまうが、頑張っているようだ」
「うん、はい! 師匠とは思わなくて、本気で殺そうとしちゃった」
安心したのか脚をぶらぶらとさせたまま、エリーは先ほどの戦いを振り返る。
この歳で容赦なく殺そうとする辺り姉弟は似るのかと少し複雑な気分になる。先ほどの短剣はレインでなければ死んでいただろう一撃だ。
とはいえ、相手を魔物に限れば、最善手。先ほどの戦いの講評を開始する。
「まず、きっちり相手の動きは読めているな。力任せに振るう様なことにもなっていない。俺が剣を奪おうとした力を回転力に変換したのも、短剣で背骨を切り離そうとしたのも良い。
無駄にでかい武器を使わず最小限、心を読めるエリーには向いている。
しかし、最後の一撃、意識が逸れたな。
あれが決まっても死なない魔物もいる。次の手の用意を、忘れていたな」
「う、はいぃ」
「息の根を止めてようやく決着だ」
あ、と思う。いつの間にか、殺すことを前提に話している。
このままでは、レイニー事件の二の舞だ。少し揺さぶられてしまったところで、ついという理由で殺人を犯してしまいかねない。
強者は恨みを買い、敵対される可能性がある。
レイン程であればそれも少ないが、エリーがどこまで強くなるかはまだ分からない。
だからこそ、付け加えなければならない。
「そして一つ、完全な人間が相手の場合、なるべく殺すな。心を折る戦い方をしてやれ。心を読めるお前なら、相手が嫌がることが分かるだろう」
「なんで、ですか?」
「そうだな、俺がこの間、勘違いかもしれない理由で騎士を一人殺してしまってな。オリヴィアにも随分と迷惑をかけた」
「うーん、なるほど」
なんとなく、分かっていない様な顔。
今まで魔物のみを相手にしてきて、人間が相手であれば正面からしか戦っていない。
人から殺意を向けられたことなど、あの時の盗賊団以外には存在しない。それらもレインが彼女の目の前で有無を言わさず殺してしまったのだ。
母親アリスも、今はそんなことを考えている余裕などない。きっと、自身の持つ死への恐怖感から、エリーが生きる為ならば簡単に人を殺すだろう。
だからこそ、鈍くなっている。
「対人はわたくしがいたしますわ。お師匠さ、レイン様、エリーさんはもっともっと強くなれますから、まずはやはりそれを優先してはいかがでしょうか」
ついでに、そう言った倫理観は王女としてのわたくしがお教えしますから。
強くなって余裕が出来れば、きっとそんなこともちゃんと考えられますわ。
エリーの妹弟子は、そう続ける。
「全く、頼りになる王女様だ」
「いいえ、お師匠様のお尻を綺麗にするのも弟子のお役目ですもの」
言い方はともかくオリヴィアもまた、確かに色々な意味で、確実に成長していた。
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