雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
上 下
153 / 592
第十二章:仲間を探して

第百五十三話:素晴らしい料理の為に

しおりを挟む
 二人で旅を始めて最初の頃は、ひたすらサニィが強くなる為の修行をしていた為、料理もレインがやることが多かった。
 レインの料理は基本的にシンプルなもので、味は悪くないが同じ様なものが多い。しばらく旅を続けてサニィが成長し始めた頃、そんな食事事情を変えてみようと料理を始めたことがある。
 結果は、酷かった。
 サニィは箱入り娘で、料理は家政婦が作ることが多かった。少しは手伝いもしたことがあるものの、家政婦は家政婦で料理に自身があった為、味付けなどを手伝わせてくれることはなかった。
 そんな彼女がレインの為に拘って料理を作ったところ、まあ、それは、……。
 何でもかんでも足せば良いというものじゃない。
 レインの作る料理が何故あそこまでシンプルなものなのか、その時に初めて思い知ったのだった。
 その時のレインの顔が忘れられず、サニィは道中の宿屋に泊まった際、密かに料理を板前に教えてもらってきたという経験がある。
 特に別れて行動していたしばらくの間は、サニィは意地でも自炊をしていた。
 そしてそんな密かな修行は、この街でも同じだった。
 密かに魔法で厨房の様子を確認して、料理人の技術を勉強していた。
 もちろん、フグが捌ける様にはなってはいない。
 そんな時、ちょうど良いことに、一つの事件が起ころうとしていた。

「この村に魔物の群れが向かって来てますね。ちょっと任せても良いですか?」

 魔物から街を守ることは、サニィの悲願だった。
 しかし、今はもう、それよりも大切なことが出来ていた。
 ドラゴンと相打ちして守ったことで、満足したということもあるのかもしれない。魔王化の影響で、他者への興味が希薄になっているのかもしれない。
 理由はともかくとして、これは一つのチャンスだと思った。 
 もちろん、レインは任せろと言って方角だけ確認すると、瞬時に駆けていく。
 だからその間に、二日間回った中で一番美味しかった料亭へと赴いた。

 ――。

 その場に向かうと、レインの視界に入ってきたのは一人の美女だった。
 そしてその背後には4m程もあるオーガの様な生き物に、見たこともない様々な固有の魔物。
 緑の黒髪の美しいその美女はリブレイド特有の着物を着ており、走ってきては助けを求める。
 その見た目は、レインにとって少しばかりエキゾチックで、その魅力は一般的な目線で見れば恐らくサニィは愚かオリヴィアをも超えている。

「はあ、はあ、そこのお方、お助け下さいませ」

 そう言われるのと同時、レインは背後の魔物達を一瞬で細切れにする。

「大丈夫か?」
「ええ、有難うございました。街道を歩いていたら突然鬼達に追いかけられてしまいまして……。仲間達は皆殺しに……」

 何か、妙な感覚がする。
 この美女は嘘は吐いていない様に感じる。しかし、微かな敵意を感じる。
 もちろんレインのそれらを見抜く方法は経験からの勘しかない。
 だが、魔物に追いかけられて命からがら逃げてきたにしては、助けた自分に対して隙が無い。
 警戒心が強ければそうなることもあるのかもしれないが、なんとなく、そうではない気がする。
 それでも、この女はレインを頼って来た弱者である。
 そんな、妙な感覚がする。

「お前は、サキュバスか?」
「サキュバスとはなんでございましょう……? 申し訳ありません。わたくしこの島から出たことがないものでして……」

 だから一先ず訪ねてみる。
 レインは会ったことが無いが、強烈な情欲を駆り立て男を骨抜きにして殺すサキュバスと、女に魔物を産ませるインキュバスと言う魔物がいる。先の妙な感覚からそれに近しい存在ではないかと疑ったものの、レインは特にその美女に興奮を覚えはしない。
 その返答も、不審な点はない。

「まあ良い。他に魔物は居なそうだ。お前の仲間を弔いに行こうか」
「私の村では死者への弔いは、自然に還すことで御座います。ここで祈りを捧げればそれで充分で御座います」
「なら、俺もそれに従おう」

 そうして二人はその場で祈りを捧げると、街に向かって歩き出した。
 女はレインの半歩後ろを歩き、ほんの少しの敵意をレインに向け続ける。
 それが少しだけ心地良く、首元に刺さってくる。
 それと同時に、ほんの少しの好意も感じる。
 その目的が分からない以上油断はしないものの、敵ではない。なんとなく、そんな感覚がする。
 とは言え街まで徒歩で3時間程、話すことは何もない。

「その、とてもお強いのですね。鬼達をあんなにも一瞬で……」

 そう思っていたのを察したのか、美女の方から話しかけてくる。

「ああ、魔物を殺す、必要があるからな」
「あの、お名前は?」
「レインだ」
「レイン様、で御座いますか」

 そこで、二人の会話は一旦途切れる。

 そしてもう、30分歩いた頃だろうか。
 再び美女が口を開く。

「このお礼は必ず致します。レイン様」
「必要無い。力ある者の責務だ」
「ですが……」

 また、それで終わり。

 更にまた、30分後。

「あの、わたくし、たまきと申します。名乗りが遅れて申し訳ありませんでした」
「そうか。覚えておく」

 結局、二人は殆ど会話を交わすこともなく、街の手前まで辿りついた。
 妙な感覚は、もう殆ど無い。
 美女は微かに好意を持って背後を付いて来ているし、相変わらず隙を見せない。
 3時間による歩き方やその他振る舞いの観察からして、デーモン程度なら10匹以上同時に相手に出来る程、腕も立つ様に感じる。
 敵意はやはり心地良く、サニィが居なければその好意を受け取ってみても良かっただろう。
 何よりその美しさは直視することも憚られる程だ。
 そんな女が、敵であるという可能性は低いだろう。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...