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第十二章:仲間を探して
第百五十話:唯一の友人との別れ
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サンダルは、一撃必殺の道を突き詰める。
彼の能力はヘルメスとは違い、自身の重量には影響されない。重いものを持てばそれだけ初速は落ちるが、サンダルが制御し切る限界速度は同じ。それならば、重量級の武器を持って一撃に特化した戦術を組み立てることが最善。
レインとの戦いで自身の弱さを自覚したことで、考え方を改めた。
全く、美しい戦いではない。
十分な速度が得られるまではひたすら走り回り、その間は仲間に任せる。武器も選り好みなどしていられない。持ちうる限り巨大で、持ちうる限り重い武器。
サンダルは勇者としての資質が高く、美しさの為にという名目上ではあったものの、鍛えられた肉体の持ち主だったので、完成した武器は、それは巨大だった。ついでに、個人戦でも戦えるようにと一本のショートソードも付けておいたが、それはオマケだ。
とはいえ、その気遣いを素直に感謝できる程度には、レインとの仲も良くなっていた。
「私はこれから修行の旅に出る。王女様達との合流は魔王復活が迫ってからとなるだろう。それまでは、ひたすら一人で頑張るよ」
「お前が女断ちを宣言するとはな。気でも狂ったか」
「そんなことは言っていない。私は全ての美しい女性の味方だ。困っている女性がいれば一夜を共にすることもあるだろうさ」
「ああ、元から狂っていたか」
「いや、困っていなくとも美しい女性がいれば……」
「お前はきっと無様に死ぬんだろうな」
相変わらずこんな感じではあるものの、そのやりとりも慣れたものだった。
「全く二人は……」そんな風にサニィが呆れているのも、またいつも通り。
とはいえその旅立ちを見守る女性は、確かに数多くいる。元気に手を振って見送る女性もいれば、泣き崩れる女性もいる。レインとの友情に興奮している女性もいる。
彼はそれなりに、いや、きっと一部の街でのサニィ並に、この街では人気だったらしい。
「それでは行ってくるよハニー達、私はいつかこの勇者レインを倒せる様になって戻ってくる。女性を悲しませることは僕としても辛いけれど、男にはやらねばならない時もあるんだ、分かってくれ。必ず戻ってくるから、それまで元気でね」
そんな風に手を振れば、女性達は皆涙を流しながら見送った。
青年は巨大な武器を背追い、腰にはショートソードを提げると、南東へと向かって駆け出した。
徐々に加速していくその後ろ姿を、涙を流しながら見守る女性陣と、呆れ顔のレイン、そして、何やら微笑ましそうなサニィ。
「あんなののどこが良いんだろうな……」
「あれだけちょっかいを出してたレインさんが言ってもなんにも説得力がありませんけど……」
そんなことを言われてしまえば反論も出来ない。
渋い顔をするしかない。
「……まあ、同年代の友人と言えば聞こえは良いが……」
「初めて正面から喧嘩できて嬉しかったんですよね」
その内容は下らないものだったが、確かに、言われてみればそうかもしれない。
サニィの嬉しそうな顔を見れば、それを否定することは憚られる。
なにはともあれ、レインには初めて同年代の友人が出来たことは事実、その青年に死んで欲しくないと思うことも、その意志を正面から否定することも出来ず、受け入れて武器を作らせたのもまた事実だった。
だから、言えることは一つだった。
「まあ、オリヴィアやエリーに手を出そうとすれば俺が殺すけどな」
「あ、あはは。まあ、良いんじゃないでしょうか」
「オリヴィアはともかくエリーは絶対に許さん」
「相変わらずオリヴィアに冷たいのも、本当は結構心を動かされそうになることの裏返しなんですよね」
「それはないな……」
きっとそれは、ずっと一緒に居られないが故の優しさの様なものでもあるのだろう。なんだかんだ言って、ずっと心配していることは知っている。
レインにとって二人の弟子が、自分の次に大切な存在であることを、サニィは知っている。
それはともかくとして、唯一の同年代の友人となったサンダルは、修行の為に一人旅立った。
きっとナンパでもしながらも、修行だけはまともにこなして行くのだろう。
「しかし正直、あいつは今のままじゃオリヴィアどころかディエゴより弱い。あいつ自身が選んだとは言え、相当な道だ」
「それでも、認めたから武器まで送ったんでしょう。なら、普通に友人として、応援してあげれば良いんじゃないですか?」
「そういうものか」
「そういうものです」
見えなくなっても手を振り続けるサンダルファンを他所に、二人も旅立ちの準備を進める。
結局のところ、随分な時間この街には留まってしまった。
それが悪いわけではないけれど、もう少しだけ、仲間が欲しい。
そんなことを考える二人の次の目的地は、極西にある島国。
いよいよ、レインの念願だったフグが食べられる国へと渡る。
そこで仲間が見つかるかどうかはさておき、レインの母親の好物は食べておきたい。そんなレインの為に、どうしても行っておきたい場所だった。
サニィは両親に全てを与えられていた。男以外は。
だから、親に影響を受けたレインの夢の一つを叶えてあげられることが、とても大切だった。
「フグ、楽しみですね」
そんなことを言うサニィの瞳は、愛おしそうにレインを見つめていた。
残り[924日→896日]
――。
それからしばらくして、魔物に襲われ絶体絶命だと思っている所、突然の暴風と共に忽然と魔物が姿を消すと言う珍事件が頻発すると、大陸南東部で噂になるようになった。
彼の能力はヘルメスとは違い、自身の重量には影響されない。重いものを持てばそれだけ初速は落ちるが、サンダルが制御し切る限界速度は同じ。それならば、重量級の武器を持って一撃に特化した戦術を組み立てることが最善。
レインとの戦いで自身の弱さを自覚したことで、考え方を改めた。
全く、美しい戦いではない。
十分な速度が得られるまではひたすら走り回り、その間は仲間に任せる。武器も選り好みなどしていられない。持ちうる限り巨大で、持ちうる限り重い武器。
サンダルは勇者としての資質が高く、美しさの為にという名目上ではあったものの、鍛えられた肉体の持ち主だったので、完成した武器は、それは巨大だった。ついでに、個人戦でも戦えるようにと一本のショートソードも付けておいたが、それはオマケだ。
とはいえ、その気遣いを素直に感謝できる程度には、レインとの仲も良くなっていた。
「私はこれから修行の旅に出る。王女様達との合流は魔王復活が迫ってからとなるだろう。それまでは、ひたすら一人で頑張るよ」
「お前が女断ちを宣言するとはな。気でも狂ったか」
「そんなことは言っていない。私は全ての美しい女性の味方だ。困っている女性がいれば一夜を共にすることもあるだろうさ」
「ああ、元から狂っていたか」
「いや、困っていなくとも美しい女性がいれば……」
「お前はきっと無様に死ぬんだろうな」
相変わらずこんな感じではあるものの、そのやりとりも慣れたものだった。
「全く二人は……」そんな風にサニィが呆れているのも、またいつも通り。
とはいえその旅立ちを見守る女性は、確かに数多くいる。元気に手を振って見送る女性もいれば、泣き崩れる女性もいる。レインとの友情に興奮している女性もいる。
彼はそれなりに、いや、きっと一部の街でのサニィ並に、この街では人気だったらしい。
「それでは行ってくるよハニー達、私はいつかこの勇者レインを倒せる様になって戻ってくる。女性を悲しませることは僕としても辛いけれど、男にはやらねばならない時もあるんだ、分かってくれ。必ず戻ってくるから、それまで元気でね」
そんな風に手を振れば、女性達は皆涙を流しながら見送った。
青年は巨大な武器を背追い、腰にはショートソードを提げると、南東へと向かって駆け出した。
徐々に加速していくその後ろ姿を、涙を流しながら見守る女性陣と、呆れ顔のレイン、そして、何やら微笑ましそうなサニィ。
「あんなののどこが良いんだろうな……」
「あれだけちょっかいを出してたレインさんが言ってもなんにも説得力がありませんけど……」
そんなことを言われてしまえば反論も出来ない。
渋い顔をするしかない。
「……まあ、同年代の友人と言えば聞こえは良いが……」
「初めて正面から喧嘩できて嬉しかったんですよね」
その内容は下らないものだったが、確かに、言われてみればそうかもしれない。
サニィの嬉しそうな顔を見れば、それを否定することは憚られる。
なにはともあれ、レインには初めて同年代の友人が出来たことは事実、その青年に死んで欲しくないと思うことも、その意志を正面から否定することも出来ず、受け入れて武器を作らせたのもまた事実だった。
だから、言えることは一つだった。
「まあ、オリヴィアやエリーに手を出そうとすれば俺が殺すけどな」
「あ、あはは。まあ、良いんじゃないでしょうか」
「オリヴィアはともかくエリーは絶対に許さん」
「相変わらずオリヴィアに冷たいのも、本当は結構心を動かされそうになることの裏返しなんですよね」
「それはないな……」
きっとそれは、ずっと一緒に居られないが故の優しさの様なものでもあるのだろう。なんだかんだ言って、ずっと心配していることは知っている。
レインにとって二人の弟子が、自分の次に大切な存在であることを、サニィは知っている。
それはともかくとして、唯一の同年代の友人となったサンダルは、修行の為に一人旅立った。
きっとナンパでもしながらも、修行だけはまともにこなして行くのだろう。
「しかし正直、あいつは今のままじゃオリヴィアどころかディエゴより弱い。あいつ自身が選んだとは言え、相当な道だ」
「それでも、認めたから武器まで送ったんでしょう。なら、普通に友人として、応援してあげれば良いんじゃないですか?」
「そういうものか」
「そういうものです」
見えなくなっても手を振り続けるサンダルファンを他所に、二人も旅立ちの準備を進める。
結局のところ、随分な時間この街には留まってしまった。
それが悪いわけではないけれど、もう少しだけ、仲間が欲しい。
そんなことを考える二人の次の目的地は、極西にある島国。
いよいよ、レインの念願だったフグが食べられる国へと渡る。
そこで仲間が見つかるかどうかはさておき、レインの母親の好物は食べておきたい。そんなレインの為に、どうしても行っておきたい場所だった。
サニィは両親に全てを与えられていた。男以外は。
だから、親に影響を受けたレインの夢の一つを叶えてあげられることが、とても大切だった。
「フグ、楽しみですね」
そんなことを言うサニィの瞳は、愛おしそうにレインを見つめていた。
残り[924日→896日]
――。
それからしばらくして、魔物に襲われ絶体絶命だと思っている所、突然の暴風と共に忽然と魔物が姿を消すと言う珍事件が頻発すると、大陸南東部で噂になるようになった。
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