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第十二章:仲間を探して
第百四十八話:その身に流れるのは英雄の血と
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その日の晩、二人はサンダルの家に招待された。
昨日の敵は今日の友と言うには早すぎるが、サンダルの目が覚めた時、サニィに説教されるレインを見て考えを改めたらしい。
「君は強いが愛する女性には弱い。傲慢の皮を被っていても私と同じだったようだね」等とよく分からないことを言って打ち解けていた。
それを見て周囲の女性達はまたもや黄色い声援を送っていたが、それはまた別の話ということで良いだろう。
「しかし、私のサンダル剣は50匹のワイバーンの群れを一人で倒した実績もあるんだが、君の力はどうなってるんだ?」
「俺の能力は隙を見ることだ。グレーズ王国の竜殺しと言えば、こちらにも伝わっているんだろう? というか、技の名前ダサすぎないか?」
「ああ、それなら納得だ。ドラゴンを一人で倒すなど、君はそもそも人の力を超えているんだな……。と、いう事はやはり君が聖女様だったんだね」
「おい、無視するんじゃない。なんだサンダル剣って」
「ドラゴンを倒せる人が二人。私は今伝説を目の前にしているのか。正直英雄の子孫というだけで調子に乗っていたことが恥ずかしいよ」
「なんだサンダルけ――」
「ところでサンダルさん、一つお話があります」
レインの質問を無視したのは、サニィも同じだった。
確かに自分の名前を付けるのは恥ずかしいけれど、さんだるけんと言う響きは意外と悪くないと思ったからだ。
ネーミングセンスのない二人が同調してしまった以上、これ以上の追求は無意味だった。
まあいい、そう呟くと、姿勢を正した。
二人を見てサンダルも、重要なことの様だね、と姿勢を正す。
「サンダルさんの力は非常に強いです。きっと、まだまだ強くなれると思います」
「それは俺も認めよう。女にうつつを抜かすのを止めればな」
「それは出来ない。強くはなるつもりだが、女性は私の生きる理由だ」
相変わらず二人の意見は合わない。
「まぁ、そこはどうでも良いんですけど」
「そうだな、こいつが死んだ所で本当に悲しむ女など居はしない」
「それはこちらのセリフだ。君が死ねば聖女様は大喜びだろうね」
「ちょっと、怒りますよ?」
青筋を浮かべるサニィにすまない、と二人は返す。
喧嘩しながらでないと会話すら出来ないらしい。
「本当に、命に関わることなんですから」
「それは確かにそうだ。ちゃんと聞け」
「君が先に仕掛けるんじゃないか。大丈夫だ。私は女性の為ならば常に命を懸けるつもりだ」
「まぁ、その辺りはどうでも良いんですけど。
さて、問題なんですが、世界は今、危機に瀕しています。続きを聞けば、もう逃れられません」
「聞こう」
ヘルメスは即答した。その顔はそれまでと違い、真剣そのもの。
レインと闘った時よりも、更に。
「私はこれでも、英雄の子孫だというプライドを持っている。世界の危機だと聞いて、黙って見ていられる程恥知らずではない」
「……信じよう」
そこから、これから起こる魔王の誕生について説明した。
北の二大陸では既に準備を始めていること。3人の勇者と魔法使い、そして二国が全面的に準備を開始しているということ。現状の戦力では足らない為、戦える者を集めているということ。
自分達の命が残り少ないということ。サニィが魔王になったこと。
そしてもちろん、死ぬ確率の方が遥かに高いということ。
「なるほど。信じよう。私の機嫌を取るどころか喧嘩越しにかかってきて信じろと言われたら、しかもそれが私よりずっと強い二人だとしたら、そりゃ信じるしかない」
「話が早くて助かる」「ええ」
「ああ、何より、美しい聖女様の話だ。それを信じないなんて私失格じゃないか」
「お前がアホで助かる」「二人とも?」
「私の生存率はどのくらいだと予想できる?」
「現状では0%だ」「0%ですね……」
話は、滞りなく進んだ。
死亡率0%でもサンダルは驚くことは無かったし、自分より強い女性勇者がいると聞いても、それをすぐに受け入れた。
レインに叩きのめされたことで、青年は自分の弱さをはっきりと自覚していた。
普段はチャラチャラしている様でも、ヘルメスの子孫だという自尊心は、女性好きのそれよりも強いらしい。
「大丈夫だ。私は例え生き残れなくとも、魔王討伐には参加する。もちろん、進んで死ぬつもりはない。レイン、稽古を付けてくれないか」
「急に真面目になられると気持ち悪いな」
「流石に私よりも強い女性が二人も居るというのは少しばかり我慢ならない。私は世界の全ての美しい女性を守りたい。しかし、きっと美しくて聡明なのだろうね」
「すまん、普段から気持ち悪かったな」
この二人はこれがきっと、一番仲の良いコミュニケーション方法なのだろう。
サニィはそう、諦めた。
それから一週間、レインは街の外でサンダルを鍛え続けた。
エリーやオリヴィアを相手にするのとはまた違う、男同士でしか許されないような激しい特訓。殆ど虐めに近いと言っても過言ではない。
もちろん、日に日に増えていく女性の黄色い声援のおかげで、サンダルのやる気がなくなることはなかった。
しかしその時ばかりはレイン達が彼の家に滞在していたこともあり、サンダルが夜の街に消えていくことがなかったということが逆に、ある特殊なファンを増やしたというのだけが、サンダルの誤算だった。
残り[978日→932日]
昨日の敵は今日の友と言うには早すぎるが、サンダルの目が覚めた時、サニィに説教されるレインを見て考えを改めたらしい。
「君は強いが愛する女性には弱い。傲慢の皮を被っていても私と同じだったようだね」等とよく分からないことを言って打ち解けていた。
それを見て周囲の女性達はまたもや黄色い声援を送っていたが、それはまた別の話ということで良いだろう。
「しかし、私のサンダル剣は50匹のワイバーンの群れを一人で倒した実績もあるんだが、君の力はどうなってるんだ?」
「俺の能力は隙を見ることだ。グレーズ王国の竜殺しと言えば、こちらにも伝わっているんだろう? というか、技の名前ダサすぎないか?」
「ああ、それなら納得だ。ドラゴンを一人で倒すなど、君はそもそも人の力を超えているんだな……。と、いう事はやはり君が聖女様だったんだね」
「おい、無視するんじゃない。なんだサンダル剣って」
「ドラゴンを倒せる人が二人。私は今伝説を目の前にしているのか。正直英雄の子孫というだけで調子に乗っていたことが恥ずかしいよ」
「なんだサンダルけ――」
「ところでサンダルさん、一つお話があります」
レインの質問を無視したのは、サニィも同じだった。
確かに自分の名前を付けるのは恥ずかしいけれど、さんだるけんと言う響きは意外と悪くないと思ったからだ。
ネーミングセンスのない二人が同調してしまった以上、これ以上の追求は無意味だった。
まあいい、そう呟くと、姿勢を正した。
二人を見てサンダルも、重要なことの様だね、と姿勢を正す。
「サンダルさんの力は非常に強いです。きっと、まだまだ強くなれると思います」
「それは俺も認めよう。女にうつつを抜かすのを止めればな」
「それは出来ない。強くはなるつもりだが、女性は私の生きる理由だ」
相変わらず二人の意見は合わない。
「まぁ、そこはどうでも良いんですけど」
「そうだな、こいつが死んだ所で本当に悲しむ女など居はしない」
「それはこちらのセリフだ。君が死ねば聖女様は大喜びだろうね」
「ちょっと、怒りますよ?」
青筋を浮かべるサニィにすまない、と二人は返す。
喧嘩しながらでないと会話すら出来ないらしい。
「本当に、命に関わることなんですから」
「それは確かにそうだ。ちゃんと聞け」
「君が先に仕掛けるんじゃないか。大丈夫だ。私は女性の為ならば常に命を懸けるつもりだ」
「まぁ、その辺りはどうでも良いんですけど。
さて、問題なんですが、世界は今、危機に瀕しています。続きを聞けば、もう逃れられません」
「聞こう」
ヘルメスは即答した。その顔はそれまでと違い、真剣そのもの。
レインと闘った時よりも、更に。
「私はこれでも、英雄の子孫だというプライドを持っている。世界の危機だと聞いて、黙って見ていられる程恥知らずではない」
「……信じよう」
そこから、これから起こる魔王の誕生について説明した。
北の二大陸では既に準備を始めていること。3人の勇者と魔法使い、そして二国が全面的に準備を開始しているということ。現状の戦力では足らない為、戦える者を集めているということ。
自分達の命が残り少ないということ。サニィが魔王になったこと。
そしてもちろん、死ぬ確率の方が遥かに高いということ。
「なるほど。信じよう。私の機嫌を取るどころか喧嘩越しにかかってきて信じろと言われたら、しかもそれが私よりずっと強い二人だとしたら、そりゃ信じるしかない」
「話が早くて助かる」「ええ」
「ああ、何より、美しい聖女様の話だ。それを信じないなんて私失格じゃないか」
「お前がアホで助かる」「二人とも?」
「私の生存率はどのくらいだと予想できる?」
「現状では0%だ」「0%ですね……」
話は、滞りなく進んだ。
死亡率0%でもサンダルは驚くことは無かったし、自分より強い女性勇者がいると聞いても、それをすぐに受け入れた。
レインに叩きのめされたことで、青年は自分の弱さをはっきりと自覚していた。
普段はチャラチャラしている様でも、ヘルメスの子孫だという自尊心は、女性好きのそれよりも強いらしい。
「大丈夫だ。私は例え生き残れなくとも、魔王討伐には参加する。もちろん、進んで死ぬつもりはない。レイン、稽古を付けてくれないか」
「急に真面目になられると気持ち悪いな」
「流石に私よりも強い女性が二人も居るというのは少しばかり我慢ならない。私は世界の全ての美しい女性を守りたい。しかし、きっと美しくて聡明なのだろうね」
「すまん、普段から気持ち悪かったな」
この二人はこれがきっと、一番仲の良いコミュニケーション方法なのだろう。
サニィはそう、諦めた。
それから一週間、レインは街の外でサンダルを鍛え続けた。
エリーやオリヴィアを相手にするのとはまた違う、男同士でしか許されないような激しい特訓。殆ど虐めに近いと言っても過言ではない。
もちろん、日に日に増えていく女性の黄色い声援のおかげで、サンダルのやる気がなくなることはなかった。
しかしその時ばかりはレイン達が彼の家に滞在していたこともあり、サンダルが夜の街に消えていくことがなかったということが逆に、ある特殊なファンを増やしたというのだけが、サンダルの誤算だった。
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