雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十一章:南の大陸へ

第百四十一話:上陸してすぐに

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 南の大陸北西部、二人がたどり着いた場所は熱帯雨林だった。
 マングローブが生え、少しばかり湾になったところに船を泊める。
 町等を探しても良かったが、この大陸北西部の村落ではよそ者に対して警戒心の強い人も多いらしく、余計なトラブルが起きる可能性も考えれば、まあ、上陸場所はどこでも良い。
 ここは以前通ったジャングルともまた違った趣の熱帯雨林の様だった。湿度は更に高く、地面は水に浸かっている部分が多い。
 そして、陰陽どちらのマナも非常に薄く、サニィの能力では魔法の出力が随分と落ちてしまう土地だった。
 その分生き物の凶暴性はこちらの方が上な様で、少し歩く度にワニだピラニアだと言った獰猛な生物を見つけることができた。
 もちろん、二人にとってはそれらはご馳走でしかないわけで、襲いかかってくることもなくむしろ逃げ始めるそれらの動物を、二人は食べる分だけ捕まえた。

「生き物の多様性が、豊かな自然の証ですねぇ」

 昼食でピラニアを食べながらそんなことを言うサニィに、レインは微笑みながら話を投げかける。

「このジャングルにしかいない動物なんかはいるのか?」
「面白い動物だとナマケモノってのがいるみたいですよ」
「なんだそれは?」
「凄くゆっくりしか動かないサルみたいな生き物です。ご飯を食べてても餓死することがあるみたいですよ」
「それは……ナマケモノではなくてイキルキナシではないのか?」
「いや……彼らも必死に生きてますから。動くと死んじゃうから動かないんです」
「呪われてるのか……?」
「かもしれませんね……。肉食動物に襲われて死ぬ時には、苦しまないように体の力を抜くとかなんか……。だから、レインさんは絶対近づいちゃダメですよ? きっと近づいただけで死んじゃいますから」
「了解した……」

 そんな話題をすれば、サニィがそれを見つける。
 「あ、アレです。ちょっと近いので、見たかったらもっと離れてください」
 そんなことを言われれば、その場を離れるしかなかった。
 遠目に見てみると、それは確かに気配すら感じない。
 レインの目から見ても、生きているのか死んでいるのか分からない。隙しか見えないというか、周りの風景と何も変わらないと言うか、ともかく能力で見つけることすら困難だ。
「彼らは人間に命の儚さを教えてくれる、とても尊い幻なのかもしれません」
 そんなサニィのセリフに、珍しく共感を覚えてしまった。

 ――。

 熱帯雨林を歩き始めて三日、大陸に入ってから450km程。ここまでの道中、魔物に出会うことは殆どなく、巨大な蛇の様な魔物が2匹程度居たのみだった。それもまた、通常の蛇と変わらない強さで、食べられないと言うこと、積極的に二人を襲ったことを除けば、特に危険もない熱帯雨林だった。
 そこで、至る所に罠が仕掛けてあるポイントに遭遇する。
 よそ者に対しての警戒心の強い部族という人達が仕掛けたものだろうか。全ては蔦や葉、木を使って作られており、金属を使った仕掛けはない。文明のレベルで言えばそれまでのどの国のどの村よりも低いと言えるだろう。

「これは、避けたほうが良いですかね」
「探知の結果は?」
「マナは感じなかったので気づかなかったのですが、2km程先に集落があるようです。そもそもここはすごくマナが薄いので、勇者なんかは居ないっぽいんですよね。弱い魔法使いが一人?」
「なるほど。それじゃ、少しとおま、いや、既に見つかってるな」

 言い終えると同時、木に石をくくりつけた槍が数本、二人に向かって飛んでくる。
「――。――。――。――。――!!」
 それをキャッチすると同時、5人の人が飛び出してくる。
 肌に泥でペイントをしており、褐色の肌も相まって木々の中によく溶け込んでいた。
 余りに弱い存在だったため、レインも気づいていなかった。それよりも、数百m先にいる8m程のヘビ型の魔物に気を取られていた。
 彼らが何を叫んでいるのか、全く聞き取れない。

「しまったな。何を言っているのか全くわからん」
「えーと、ちょっと意思疎通の魔法を開発するので少し待っててください」
「アー、スコシマテ、イイカ? オレタチ、テキジャナイ」
「何アホなを言ってるんですか。通じませんからっ……」

 二人がそんなコントをしている間にも、彼らは鬼の形相で叫んでいる。
 レインが全ての槍を事も無げにキャッチしているのを見て弓を構えるが、その顔には恐怖ではなく敵対者は殺すといった敵意しか見られない。
 いや、真面目にやってたつもりだったが、と言うレインをよそに、サニィは集中していた。
 レインがサニィの方を向いた瞬間、彼らは一斉に弓を放つ。連携は完璧だ。
 5本の弓が全く同時にサニィを襲った。
 それをレインが薙ぎ払うと同時、サニィは魔法を完成させた。

「出来ましたっ。――エート、ワタシタチ、テキジャナイ」
「俺と同じじゃねえか……」

 そんなツッコミをよそに、5人の人々は少しだけ動きを止める。

「テキイ、アリマセン。トオリタイダケ」
「それ、本当に通じてるのか?」

 一々茶々が入るものの、彼らの内の一人は言葉を口にした。

「――。――。――――。――」
「あ、ああ、ハイ。マホウツカイデス」
「カタコトじゃないといけないのか?」
「ちょっと、ウルサイデス」
「――――。――。――。――」
「ワカリマシタ。マカセテ」

 蚊帳の外にされているレインを置いたまま、サニィと原住民は打ち解けた様だった。
 話を聞けば、彼らの村には病が流行っており、今はそのせいでピリピリしていた。
 シャーマンと呼ばれる恐らく魔法使いの者が祈祷をするものの、それも効果がなく、死者が出始めている。
 通る条件として治せるのなら見逃す。治せないのなら生贄にさせてもらう。
 そんな話をしていたらしい。

「レインさん、そういうことなのでもしもの時は守ってください。私、念の為にここら一帯のマナを全部集めて村まで行くので、尽きちゃうかも」
「ワカッタ。マカセロ」
「なんでカタコトなんですか……」

 会話に入れずうるさいとまで言われると意外と寂しいレインは、村に着くまでカタコトだった。
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