131 / 592
第十章:未来の為に
第百三十一話:今はまだ、最弱の
しおりを挟む
宝剣と言うものは、大抵が超希少な金属と強大な魔物の身体の一部で出来ている。
極々一部には、そういう力を持った勇者の鍛治師が、超希少な金属に力を込めて鍛えることで魔法効果を発揮するものがあるが、それは宝剣と呼ばれるものの中でも本当に一部だけだ。
勇者レインの持つ宝剣『月光』は、代々狛の村に伝わる宝剣。それがなんの魔物を使っているのかは分からないが、決して壊れない。決して劣化しない。ただそれだけの理由で宝剣として認定されている武器だ。
宝剣と呼ばれる物はその全てが研究施設に委託して、その能力が宝剣たり得るかを鑑定してもらい、その認定を受けることになる。
『月光』もかつてはそんなことがあったらしいが、それはまた昔の話。
エリーの武器は、8つとも全てが準宝剣だ。宝剣の要素である希少素材と、特殊な効果を持っているものの、研究施設には提出していない。宝剣かもしれないし、そうではないかもしれない。そんな8つの武器達。
その中で、特殊な効果がはっきりとしているものが二つあった。宝剣はその効果が現れる使い方をするまでどんな効果を持っているのかは分からない。
オリヴィアの『ささみ3号』などは羽の様に軽く鋭いと、その効果が分かりやすいものの、『月光』の様に壊れないと言うだけは分かりづらい。
そんな中で、エリーの『戦棍ボブ』は、非常に分かりやすい効果を持っていた。
最初に振るってから一定時間内、振るう程に威力が向上する。シンプル故に強力な効果だった。尤も、その分重量も増していく為、ドラゴンを一撃で葬れる程の威力になる頃にはレインですら持つことが出来なくなる。
そんなある意味で欠陥を持った武器だった。
もう一つは『短剣ヘルメス』所謂ダガーと言われる刺突武器だが、これは突き刺した相手の感覚が遅くなる。刺された相手は周囲が素早く動いて見え、自身の身体も加速して動く様に感じてしまう。
相手が実際に遅くなる訳でもなんでもないのだが、その感覚だけが遅くなると言う効果は、魔物にも大いに有効な様だ。多くの魔物はそれを一度刺してしまえばエリーの動きに反応すら出来ず、二度三度と刺され、更に反応を失って行く。
残りの六つはまだ判明していないものの、『長剣レイン』は恐らく、速く振るう程に威力が増す、とかそんな感じの様だ。
宝剣の中には、主人だと認めた相手にしか素性を表さない物もある。もしかしたら、まだエリーが未熟な為に能力を扱えないのかもしれない。それをレインがもしキッチリと使いこなしてしまえば、その武器にとって主人の水準はレインとなり、エリーは二度と真の力を発揮出来なくなる可能性すらある為、下手に能力研究を行うことは出来なかった。
「ということで、エリー、次はこれらの武器の真の力を解放するんだ」
「はいっ、師匠!」
短剣と槍についての勉強を終えた後、レインはそんな準宝剣達について説明していた。
サニィ達が出掛けてしまっている今の内に、エリーを出来る限り育ててしまいたい。せめてオリヴィアに一泡吹かせられる程度になれれば、後は勝手に二人とも成長して行くだろう。
せめて、その位には。
残された時間では、流石に彼女を魔王に対抗出来るほど強くは出来まい。ならば、せめて未来に可能性を残す程度のことは、最低限でもしておきたい。
今の世界の戦力では、恐らく魔王が出現してしまえば蹂躙されるのみ。オリヴィアですら、魔王の足元にようやく小指をかけるかどうか、と言ったところ。
「エリー、オリヴィアのことをどう思う?」
「変なひとだけど、強い。でも、多分いけると、思います」
7歳になる手前の子どもとは思えない、冷静な判断だった。
レインの見立てでも、エリーはあと3年以内にディエゴに近い程の力を手に入れる。成長は順調。体は母親に似て小さいものの、その怪力は当時のレイン並み。
類稀なる戦闘センスと、冷静さを兼ね備えている。情熱もある。
「よし、それじゃ今日はお前の基礎能力の向上を目指そうか。武器は要らない。今日は組手だ」
「はいっ!」
エリーはこの先も戦闘中、武器を放ったり手放すことがあるだろう。武器を持たない格闘技術を覚えておいて損はない。彼女の天性の戦闘センスは、恐らくそれだけならレインをも超える。
今は母親アリスとも夜寝るときにしか一緒に居ない様だが、今は、彼女を育てなければならない。
彼女が何やらやる気に満ち溢れている今の内に。
せめてオリヴィアと並び立てる様に、せめて魔王に殺されない様に、せめて、アリスを守れる様に。
レインはきっと、エリーを自分と重ねて見ていた。
自分が守れなかった母親を、彼女は守れる様な勇者になることを、ただ、感情だけで望んでいた。
レインは、オリヴィアよりもエリーを贔屓している。
きっと、身の上を知っているサニィと心を読めるエリー以外の誰もが、そう思っていた。
(師匠は、本当にオリ姉のことを信じている。わたしは、まだまだだ)
最強の英雄の一番弟子が一番認めている相手はオリヴィアだと言うことは、あまり語られない事実だった。
極々一部には、そういう力を持った勇者の鍛治師が、超希少な金属に力を込めて鍛えることで魔法効果を発揮するものがあるが、それは宝剣と呼ばれるものの中でも本当に一部だけだ。
勇者レインの持つ宝剣『月光』は、代々狛の村に伝わる宝剣。それがなんの魔物を使っているのかは分からないが、決して壊れない。決して劣化しない。ただそれだけの理由で宝剣として認定されている武器だ。
宝剣と呼ばれる物はその全てが研究施設に委託して、その能力が宝剣たり得るかを鑑定してもらい、その認定を受けることになる。
『月光』もかつてはそんなことがあったらしいが、それはまた昔の話。
エリーの武器は、8つとも全てが準宝剣だ。宝剣の要素である希少素材と、特殊な効果を持っているものの、研究施設には提出していない。宝剣かもしれないし、そうではないかもしれない。そんな8つの武器達。
その中で、特殊な効果がはっきりとしているものが二つあった。宝剣はその効果が現れる使い方をするまでどんな効果を持っているのかは分からない。
オリヴィアの『ささみ3号』などは羽の様に軽く鋭いと、その効果が分かりやすいものの、『月光』の様に壊れないと言うだけは分かりづらい。
そんな中で、エリーの『戦棍ボブ』は、非常に分かりやすい効果を持っていた。
最初に振るってから一定時間内、振るう程に威力が向上する。シンプル故に強力な効果だった。尤も、その分重量も増していく為、ドラゴンを一撃で葬れる程の威力になる頃にはレインですら持つことが出来なくなる。
そんなある意味で欠陥を持った武器だった。
もう一つは『短剣ヘルメス』所謂ダガーと言われる刺突武器だが、これは突き刺した相手の感覚が遅くなる。刺された相手は周囲が素早く動いて見え、自身の身体も加速して動く様に感じてしまう。
相手が実際に遅くなる訳でもなんでもないのだが、その感覚だけが遅くなると言う効果は、魔物にも大いに有効な様だ。多くの魔物はそれを一度刺してしまえばエリーの動きに反応すら出来ず、二度三度と刺され、更に反応を失って行く。
残りの六つはまだ判明していないものの、『長剣レイン』は恐らく、速く振るう程に威力が増す、とかそんな感じの様だ。
宝剣の中には、主人だと認めた相手にしか素性を表さない物もある。もしかしたら、まだエリーが未熟な為に能力を扱えないのかもしれない。それをレインがもしキッチリと使いこなしてしまえば、その武器にとって主人の水準はレインとなり、エリーは二度と真の力を発揮出来なくなる可能性すらある為、下手に能力研究を行うことは出来なかった。
「ということで、エリー、次はこれらの武器の真の力を解放するんだ」
「はいっ、師匠!」
短剣と槍についての勉強を終えた後、レインはそんな準宝剣達について説明していた。
サニィ達が出掛けてしまっている今の内に、エリーを出来る限り育ててしまいたい。せめてオリヴィアに一泡吹かせられる程度になれれば、後は勝手に二人とも成長して行くだろう。
せめて、その位には。
残された時間では、流石に彼女を魔王に対抗出来るほど強くは出来まい。ならば、せめて未来に可能性を残す程度のことは、最低限でもしておきたい。
今の世界の戦力では、恐らく魔王が出現してしまえば蹂躙されるのみ。オリヴィアですら、魔王の足元にようやく小指をかけるかどうか、と言ったところ。
「エリー、オリヴィアのことをどう思う?」
「変なひとだけど、強い。でも、多分いけると、思います」
7歳になる手前の子どもとは思えない、冷静な判断だった。
レインの見立てでも、エリーはあと3年以内にディエゴに近い程の力を手に入れる。成長は順調。体は母親に似て小さいものの、その怪力は当時のレイン並み。
類稀なる戦闘センスと、冷静さを兼ね備えている。情熱もある。
「よし、それじゃ今日はお前の基礎能力の向上を目指そうか。武器は要らない。今日は組手だ」
「はいっ!」
エリーはこの先も戦闘中、武器を放ったり手放すことがあるだろう。武器を持たない格闘技術を覚えておいて損はない。彼女の天性の戦闘センスは、恐らくそれだけならレインをも超える。
今は母親アリスとも夜寝るときにしか一緒に居ない様だが、今は、彼女を育てなければならない。
彼女が何やらやる気に満ち溢れている今の内に。
せめてオリヴィアと並び立てる様に、せめて魔王に殺されない様に、せめて、アリスを守れる様に。
レインはきっと、エリーを自分と重ねて見ていた。
自分が守れなかった母親を、彼女は守れる様な勇者になることを、ただ、感情だけで望んでいた。
レインは、オリヴィアよりもエリーを贔屓している。
きっと、身の上を知っているサニィと心を読めるエリー以外の誰もが、そう思っていた。
(師匠は、本当にオリ姉のことを信じている。わたしは、まだまだだ)
最強の英雄の一番弟子が一番認めている相手はオリヴィアだと言うことは、あまり語られない事実だった。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる