雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十章:未来の為に

第百三十話:あるカップルのデート中に

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 霊峰マナスル、その中腹で一組の少年少女が訓練をしていた。殆ど誰も立ち入らない高度まで登って。二人だけの世界。
 そんな少しばかりロマンチックな修行の日々が、彼らの日常だった。

 少年の方、ルークは自ら望んでこの霊峰にやってきていて、少女の方、エレナは厄介払いではないけれど、親に霊峰で修行してこいと言われこの地に来ていた。
 二人は最初、余りにも違う境遇にあって、敵対していた。子どもながらの、なんとなく気に入らないと言う理由で。
 それがいつからだろうか。エレナはルークがとても眩しく見える様になっていたし、ルークはエレナの出自に同情した。
 初めは、そんな憧れと同情だった。しかしそれは、少しずつ変わっていって、エレナはルークを支えたいと思う様になり、ルークはエレナを守りたいと思う様になった。
 僅か12歳になったばかり、世間的に言えば少しばかりマセていたと言えなくも無いが、二人の関係はそんなものだった。

「先生は僕の魔法を見てなんと言うだろうか。新しい魔法だけれど、ここの敵だけじゃ実用性があるのか無いのかいまいち分からない」
「それは大丈夫だと思うよ。リッチの魔法をも飲み込む魔法って、意味が分からない」
「僕は逆にエレナの幻惑魔法の方が意味不明だよ。アンデッドが自爆するってどんなことをすればそんなことが起こるのさ」

 二人が真逆なのは、マナスルに来た理由だけではない。その魔法の使い方の特性こそが、彼ら二人が互いに惹かれあった最大の理由なのかもしれない。
 ルークはサニィの理論を完全に理解し、世界の新しいルールを、独自に発見して、全て頭の中で出来上がった計算通りに魔法を展開する。
 それに対してエレナは、サニィの言っていることは理解しているものの、ほぼイメージだけで魔法を展開する。幻術だったり、精神操作を得意とし、何故それが出来るのか自分でも分かっていない。
 全く別のタイプの魔法使いだった。

 二人共がサニィの生徒ではあるが、ルークはその教えのみを素直に聞いていたのに対し、エレナはレインのイメージに共感して自身の魔法を発展させた一面もある。

「なあエレナ、エレナはなんでレインさんが平気なんだ? あれが平気になればそんな魔法が使えるのか?」

 以前、エレナの幻術にかかってから、ルークはしばしばそんなことを聞くようになっていた。ルークにとってレインと言えば悪鬼、未だにエレナを怒らせると出現するレインの幻術は、恐ろしいの一言だ。

「うーん、レインさんの殺気は確かに死ぬって思うよ。と言うより死んだ? でも、ルー君がビビってるって思うと冷静になるって言うか、それを見たいって言うか」
「なんだそれ……」

 相変わらず、エレナの言うことは分からない。途中までは分かるけれど、最後を理解したくない。
 まあ、だから、エレナの様な幻術を使えないのだろうけれど。

 その日も、そんな雑談をしていた所だった。

「久しぶり、ルー君、エレナちゃん」

 突然、目の前からそんな声がしたかと思うと、表れた淡い金色の光が徐々に人の形を成していく。
 ルークのことをルー君と呼ぶのは、エレナを除けば一人だけ。

「先生?」

 なんだ突然現れるのかは全く分からない。全く分からないけれど、自分の先生である聖女サニィならば、きっとなんでも出来る。
 無条件に、そう信じられた。
 それをイメージに向けられることが出来れば、エレナの様な魔法が使えるのだけれど。そんなことには気付かないまま、そのヒト型を見つめる。

「サニィ先生、お久しぶりです。聞いてください! ルー君が新しい魔法を開発したんですよ!!」

 ルークの視線を塗り潰す様に、エレナはそのヒト型に向かって話しかける。
 少しして姿を現し終わったそれは、やはり先生こと聖女サニィその人だった。

「お、おぉ、元気だねエレナちゃん。ここ、結構な高度だけど」

 そんなことを言うサニィは、既に嬉しそうだ。

「はい、先生、重力魔法ってのを生み出したんですけど、少し見てもらっても良いですか?」
「うん、もちろん」

 サニィ自身が既に重力魔法をマスターしていることは置いておいて、ルークはそれを実践して見せる。
 ルークのそれはサニィよりも出力が弱いものの、マナ効率はサニィよりも良い様で、攻撃も防御も十分に行える。以前の水魔法と違い、相手を空中に留めて仕舞えば、空を飛べない、魔法を使えないあらゆる魔物を倒すことが出来る。

「なるほど。流石は私の教え子って褒めれば良いのかな、とにかく凄いね……」
「は、はい! ありがとうございます!! 実用性はどうでしょう」
「マナ効率も申し分無し。強い強い」

 そんはサニィの褒めちぎり口撃に、思わずデレっとするルーク、それに当然エレナは対抗心を燃やした。もちろん、それが恋愛感情では無いと分かっていても、なんとなくムカつくから。

「わたしのも見てください。幻惑魔法ってルー君は名付けたんですけど、多分、オリジナルです」

 サニィの視界を覆ったのは、狂気だった。
 目の前には、殺気を放ちながらくねくねとダンスをするレイン、30名程。そのどれもが奇妙に腰を振り、本人では絶対にやらない様な踊りを踊りながらサニィをいやらしい目で見つめながら殺気を放っている。
 それらは徐々に距離を詰め、サニィを取り囲むと、その体に触れてくる。感触が、ある。

「……ぶふっ!!」

 思わず、噴き出してしまう。
 この娘は狂っている。こんな魔法をかけられたら、確かにひとたまりもないだろう。
 尤も、普通に触ってくるだけじゃ今は同じ部屋で寝ている私に効かないけれど。流石にまだ12歳、狂気の中にも、純粋さがあるのが可愛い。

「エレナちゃんの魔法は完全なオンリーワンだね。私にはとても真似出来ないかも……。ぶっ、これでいつもルー君を躾けてるの?」
「ちょっせんせ……」
「はい、もちろんです」

 ルークには、サニィに何が見えていたのかは分からない。
 サニィの反応からしてろくでもないものだと言うことは分かる。分かるけれど、それで躾けられていると言われれば、とても恥ずかしかった。
 一方サニィは何やらエレナがルークに向けて勝ち誇った顔をしていることが、何やらとても不穏に感じて、話を切り替えた。

「さて、二人とも、少し大事なお話があるから、麓まで降りよう。転移するから動かないでね」

 サニィの新たな魔法に再び驚きつつも、二人はサニィの真剣な表情にようやく大人しくなるが、麓の町に着いて、再び驚きの声をあげた。
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