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第九章:英雄たち
第百七話:英雄の王【剣王ベルナール】
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【剣王ベルナール】
通常魔王の討伐は偵察から実際の討伐まで、何度もの進軍を重ね、その度に100名以上の死者を出す。
少人数で行けば簡単に殲滅され何も情報が得られず、かと言っていきなり最大戦略で進んだとしても、魔王の特性が分からない以上いたずらに死者が増えるだけ。討伐部隊はそれまでの幾度もの戦闘から得たデータを元に最善の構成で行う。
ベルナールは、そんな魔王戦に於いて合計死者数が97名。他の魔王討伐作戦の一回戦闘に於ける死者数よりも少ない死者数で討伐を成功させた英雄だ。
これはマルスの加わっていた赤の魔王討伐に次いで二番目に少ない記録で、マルスの死亡数まで含めてしまえば圧倒的に少ない記録となる。
片手剣一本の軽装で強敵に挑むベルナールは、声と共に手信号も用いて指示を出していたと言う。
その能力は同調。右手の手信号の意味が瞬時に複数の味方に伝わり、左手の手信号は相手を惑わす。
その特性上味方が多くとも混乱が起こらず、かと言って個人戦でも弱くない。むしろ図抜けた強さを持っていていたと言われている。
両の手を器用に切り替え戦うその男は、まさに英雄の中の英雄と言われている。
「おお、ここに来て普通に英雄らしい英雄が来ましたね」
「同調か。面白い能力を持ってるな」
「300年前の英雄王、個人技のレインさんの正反対という感じで面白いですね。レインさんって絶対自分より弱い人が死ぬような戦闘に行くこと許さないし」
「当然だ。俺は強い。あのドラゴン戦だけは別だったが、もう次はない」
「とか言って結局は私の意志を尊重するくせにっ」
流石にベルナールは英雄達の中でも最も有名な存在。二人はそんな会話をしながらもその膨大な資料に興味津々だ。
巨大な資料館は、多くの資料や肖像画、そして武具のレプリカに加え、それを主題にした大量の物語等を所蔵する図書館などが併設されいる。
華のある英雄といえばベルナール。ボブやマルスの様に後暗いものがあるわけでも、ヴィクトリアやフィリオナの様に末路が悲惨だったわけでもない。
貴族の子として生まれ、子どもの頃からその才覚を発揮し、史上最年少で騎士団長へと上り詰め、その後魔王討伐を最も少ない犠牲者で成し遂げる。英雄として祖国に凱旋した後は一人の妻、三人の子どもと幸せに暮らしましたという話は、ハッピーエンドの英雄譚として申し分ない。
この資料館の館長も代々ベルナールの子孫が引き継いでおり、その維持費その他は税金からも十分に充てられているとのことだ。
レインとサニィもその資料館を見て存分にそのベルナールの資料を読み込みながら、自分たちと比べて考えてみる。流石にベルナールに比べれば、今は幸せとは言え先の見えた有限、レインもサニィとも十分に不幸だと言えるだろう。
「それにしても、一分の隙もない完璧な英雄ですねー」
「そういう者も居るだろう。きっと、隙があるとすれば変態だったとか、その程度だ」
「いやー、そんなこ……と、ありま、すね……」
展示室の通路の途中から入れる図書館で存分に資料を読みふけった後、再び展示室に戻り資料室を進むと、そこにはあった。恐らく最後の部屋であろう。
できれば図書館からそのまま帰って欲しい。そんな位置にあるようにも思える。
ベルナールが使っていたとされるコレクション。
先の尖ったヒールに黒い女性用の際どい衣装、柄から先が幾つにも分かれた鞭、首輪、手錠、その他。
完璧な英雄と持て囃されていたベルナールが没頭していた趣味のグッズ達。
300年が経って尚、しっかりと保存されていたそれらは、どう見ても女が男を苛めるための道具達だ。
「え、と、なんでこんなのを、子孫達が保存してるんですかね……と言うか、晒されてるんですかね……」
「理由はここに書いてあるな。えーと……」
生前何をしても優秀であったベルナールは幼少期、一切叱られることもなく褒められ続けた。
そんなある日、ベルナールが騎士団長となった頃、一人の女性がベルナールにぶつかり、それに怒った女性がベルナールを蔑んだ目で見たという。
それに衝撃を受けたベルナールはその女性に猛アプローチをした。
女性は言った。「本当に気持ち悪いから来ないで」その言葉も、衝撃的だった。
今まではベルナールのことを気持ち悪い等と言う人は一人としていなかったのだ。
皆が一様にキャーキャーと黄色い声援を送ってくる。
女性というものは皆無個性の集まりでしかない。そんなことを思っていたからだ。
そしてそんなやりとりが幾度も続くといつしか、その女性は気づく。この優秀な騎士団長を跪かせることが出来る自分が最も偉いのではないかと。
それ以来二人は主従関係を結び、ベルナールは妻となったその女に身も心も捧げたという。
【※この資料は、ベルナール本人が死後公開して欲しいと望んだ資料達である】
「なんだこれ……」
「え、え、とこれどうやって使うんですか? そんなに良いんですかね?」
呆れるレインに、混乱して興味を示し始めるサニィ。
ベルナールには裏がなく、理想的な英雄王である。
彼はその性癖すら隠しはしない、完璧な【勇者】であった。
通常魔王の討伐は偵察から実際の討伐まで、何度もの進軍を重ね、その度に100名以上の死者を出す。
少人数で行けば簡単に殲滅され何も情報が得られず、かと言っていきなり最大戦略で進んだとしても、魔王の特性が分からない以上いたずらに死者が増えるだけ。討伐部隊はそれまでの幾度もの戦闘から得たデータを元に最善の構成で行う。
ベルナールは、そんな魔王戦に於いて合計死者数が97名。他の魔王討伐作戦の一回戦闘に於ける死者数よりも少ない死者数で討伐を成功させた英雄だ。
これはマルスの加わっていた赤の魔王討伐に次いで二番目に少ない記録で、マルスの死亡数まで含めてしまえば圧倒的に少ない記録となる。
片手剣一本の軽装で強敵に挑むベルナールは、声と共に手信号も用いて指示を出していたと言う。
その能力は同調。右手の手信号の意味が瞬時に複数の味方に伝わり、左手の手信号は相手を惑わす。
その特性上味方が多くとも混乱が起こらず、かと言って個人戦でも弱くない。むしろ図抜けた強さを持っていていたと言われている。
両の手を器用に切り替え戦うその男は、まさに英雄の中の英雄と言われている。
「おお、ここに来て普通に英雄らしい英雄が来ましたね」
「同調か。面白い能力を持ってるな」
「300年前の英雄王、個人技のレインさんの正反対という感じで面白いですね。レインさんって絶対自分より弱い人が死ぬような戦闘に行くこと許さないし」
「当然だ。俺は強い。あのドラゴン戦だけは別だったが、もう次はない」
「とか言って結局は私の意志を尊重するくせにっ」
流石にベルナールは英雄達の中でも最も有名な存在。二人はそんな会話をしながらもその膨大な資料に興味津々だ。
巨大な資料館は、多くの資料や肖像画、そして武具のレプリカに加え、それを主題にした大量の物語等を所蔵する図書館などが併設されいる。
華のある英雄といえばベルナール。ボブやマルスの様に後暗いものがあるわけでも、ヴィクトリアやフィリオナの様に末路が悲惨だったわけでもない。
貴族の子として生まれ、子どもの頃からその才覚を発揮し、史上最年少で騎士団長へと上り詰め、その後魔王討伐を最も少ない犠牲者で成し遂げる。英雄として祖国に凱旋した後は一人の妻、三人の子どもと幸せに暮らしましたという話は、ハッピーエンドの英雄譚として申し分ない。
この資料館の館長も代々ベルナールの子孫が引き継いでおり、その維持費その他は税金からも十分に充てられているとのことだ。
レインとサニィもその資料館を見て存分にそのベルナールの資料を読み込みながら、自分たちと比べて考えてみる。流石にベルナールに比べれば、今は幸せとは言え先の見えた有限、レインもサニィとも十分に不幸だと言えるだろう。
「それにしても、一分の隙もない完璧な英雄ですねー」
「そういう者も居るだろう。きっと、隙があるとすれば変態だったとか、その程度だ」
「いやー、そんなこ……と、ありま、すね……」
展示室の通路の途中から入れる図書館で存分に資料を読みふけった後、再び展示室に戻り資料室を進むと、そこにはあった。恐らく最後の部屋であろう。
できれば図書館からそのまま帰って欲しい。そんな位置にあるようにも思える。
ベルナールが使っていたとされるコレクション。
先の尖ったヒールに黒い女性用の際どい衣装、柄から先が幾つにも分かれた鞭、首輪、手錠、その他。
完璧な英雄と持て囃されていたベルナールが没頭していた趣味のグッズ達。
300年が経って尚、しっかりと保存されていたそれらは、どう見ても女が男を苛めるための道具達だ。
「え、と、なんでこんなのを、子孫達が保存してるんですかね……と言うか、晒されてるんですかね……」
「理由はここに書いてあるな。えーと……」
生前何をしても優秀であったベルナールは幼少期、一切叱られることもなく褒められ続けた。
そんなある日、ベルナールが騎士団長となった頃、一人の女性がベルナールにぶつかり、それに怒った女性がベルナールを蔑んだ目で見たという。
それに衝撃を受けたベルナールはその女性に猛アプローチをした。
女性は言った。「本当に気持ち悪いから来ないで」その言葉も、衝撃的だった。
今まではベルナールのことを気持ち悪い等と言う人は一人としていなかったのだ。
皆が一様にキャーキャーと黄色い声援を送ってくる。
女性というものは皆無個性の集まりでしかない。そんなことを思っていたからだ。
そしてそんなやりとりが幾度も続くといつしか、その女性は気づく。この優秀な騎士団長を跪かせることが出来る自分が最も偉いのではないかと。
それ以来二人は主従関係を結び、ベルナールは妻となったその女に身も心も捧げたという。
【※この資料は、ベルナール本人が死後公開して欲しいと望んだ資料達である】
「なんだこれ……」
「え、え、とこれどうやって使うんですか? そんなに良いんですかね?」
呆れるレインに、混乱して興味を示し始めるサニィ。
ベルナールには裏がなく、理想的な英雄王である。
彼はその性癖すら隠しはしない、完璧な【勇者】であった。
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