103 / 592
第九章:英雄たち
第百三話:レインの覚悟と魔王の話と
しおりを挟む
「実際のところ、マルス様の強さはどうだったんですか?」
「本当にデーモンと互角程度だった。魔王戦は本当に、ひたすら死に続けていただけだったんだろう」
「じゃあ、ヴィクトリア様が来るなって言ったのは」
「ああ、守ろうとしたんだろうな」
マルス邸を離れ、ウェニスの町を観光しながらそんな話をする二人。
レインは、本当に一切の容赦なくマルスを切り刻んでいた。それがマルスの望んでいたこと、そしてレインの彼に対する尊敬の念の現れだとしても、それはもう本当に慈悲の欠片すらないのかと思わせるほどに。
しかし、マルスはそんなレインの猛攻の前に、一切倒れなかった。
最も勇敢な英雄、最弱で不敗の英雄の戦い方と言うものを、存分に思い知らされた。
彼は死ぬ様なダメージはかなり痛いと言っていた。しかし、それでも一切引かない。
勝つまで挑み続ける信念が、彼を不敗たらしめている。それを理解した。
「マルス様は赤の魔王討伐で十分過ぎるほど働いていただきましたから、次の魔王討伐は二人で頑張りましょうね」
「いや、次の魔王は俺が一人で倒す。一度も死なずに倒してみせる。これは、俺に必要なことだ」
サニィの笑顔の申し出に、レインはその様に返す。
「そ、そうですか……。でも、見学はさせてくださいね」
その言葉だけは、サニィも否定してはいけない。そこまでの覚悟を孕んでいることがありありと見て取れた。
以前の魔王に、レインは負けている。3度。そして、倒した後には思わず膝をついている。一人で魔王を倒した勇者はレインただ一人だが、膝をついていない勇者は今だにマルスただ一人。だから次の魔王には決して負けない。言いたいことは、流石に分かった。魔王殺しの勇者たちを何人か知って、男の意地の様なものが湧き上がってきたのだと。
「ああ、お前には側にいて欲しい」
今一理由は分からないものの、レインのその言葉も真に迫っている。
いつもの何も考えていないように見えるそれとは違い、覚悟を持った瞳に、サニィも思わずたじろいでしまうものの、嫌というわけではない。
と言うよりも、むしろ、少しばかり安心する気がした。
「も、もちろんです。レインさんが一度でもやられたら加勢しますからね!」
4ヶ月後にレインのところに生まれる魔王。グレーズ王国を出る前に聞いた話によると、占いに出た魔王の種類は黄の魔王。紫に次いで黄色、その次もあるのだろうか。
そんなことを思いながら。サニィとレインはウェニスの町を練り歩く。
ちょうど今の時期はマルス祭。町の人々がマルスの勇敢さを讃える祭りを催していた。
毎年、マルス本人が仮面を付けて英雄マルス役として参加している祭りだ。
マルスが生きていることを知っているのは役場中でも一部の人のみ。仮面の巨漢がマルスだとは、極一部の人以外は気づいていないらしい。
ともかく、彼は町を挙げて讃えられ毎年祭りは大成功を収めるらしい。
「ひたすら死ぬ目にあった後は、ずっと人々に讃えられ、好かれる英雄か。これまたボブと真逆で大変な人生だな」
「それはレインさんが人に褒められ慣れてないだけじゃないんです?」
「でも、マルスはこの先どれだけ生きるのかすら分からん。ま、いつまでもこの祭りが続くと良いな」
「そうですね……」
そうして二人はマルス祭を楽しむと、再び旅を始める。前回は南から行ったので、今回は北から行こう。そんな単純な考えのもと、北へと向かう。次に向かうは英雄ベルナール誕生の地と言われるこの大陸北方の地。誰よりも堅実に、誰もが認めた英雄ベルナール。無茶な戦いのマルス達に次いで2番目に死者の少ない魔王戦を繰り広げた英雄の生まれた土地。
――。
「それにしても、魔王はそれぞれ魔物の姿をしているんですね」
「……みたいだな」
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもないさ。もし、魔王のマナを感じたらすぐに教えてくれ」
「んん? 分かりましたけどー。あと4ヶ月位、緊張しますね」
「ああ、そうだな」レインのそんな声がサニィに届いかたどうか、サニィはいつもの様に花を咲かせる。
サニィはレインの勝ちを確信している。それに対してレインには何か不安があるように思う。
しかしその内容を、恐らく聞くべきではない。そんな予感が、なんとなくしている。
「もしレインさんが負けたら私が倒しちゃいますからね」
「ああ、その時は頼む。まあ、負けないがな」
そんな風に答えるレインの様子だけは、いつもと同じく優しいものだった。
二人は再び少し明るく戻ると、また会話を交わしながら北へと歩く。もちろん、いつものように魔法の修行は欠かさないままに。
――。
「赤がイフリート、紫がデーモンロード、茶はなんか書いてありましたっけ?」
「茶はオーガだと聞いたことがある気がする。真偽は不明だけどな」
「そういえば資料館には何もありませんでしたね。そうなると、黒はなんなんでしょうね。呪いを撒き散らす魔物……レイス?」
「ああ、そうだな。少し、確信に迫ってみよう」
「ん? どうしました?」
「俺は黒の魔王を、強力な魔法使い系の魔物だと考えている。例えばリッチとか」
「それはなんでです?」
「こればっかりは課題だ。俺の考えも正解だとは限らないしな」
残り【1346日→1344日】 次の魔王出現まで【135日】
「本当にデーモンと互角程度だった。魔王戦は本当に、ひたすら死に続けていただけだったんだろう」
「じゃあ、ヴィクトリア様が来るなって言ったのは」
「ああ、守ろうとしたんだろうな」
マルス邸を離れ、ウェニスの町を観光しながらそんな話をする二人。
レインは、本当に一切の容赦なくマルスを切り刻んでいた。それがマルスの望んでいたこと、そしてレインの彼に対する尊敬の念の現れだとしても、それはもう本当に慈悲の欠片すらないのかと思わせるほどに。
しかし、マルスはそんなレインの猛攻の前に、一切倒れなかった。
最も勇敢な英雄、最弱で不敗の英雄の戦い方と言うものを、存分に思い知らされた。
彼は死ぬ様なダメージはかなり痛いと言っていた。しかし、それでも一切引かない。
勝つまで挑み続ける信念が、彼を不敗たらしめている。それを理解した。
「マルス様は赤の魔王討伐で十分過ぎるほど働いていただきましたから、次の魔王討伐は二人で頑張りましょうね」
「いや、次の魔王は俺が一人で倒す。一度も死なずに倒してみせる。これは、俺に必要なことだ」
サニィの笑顔の申し出に、レインはその様に返す。
「そ、そうですか……。でも、見学はさせてくださいね」
その言葉だけは、サニィも否定してはいけない。そこまでの覚悟を孕んでいることがありありと見て取れた。
以前の魔王に、レインは負けている。3度。そして、倒した後には思わず膝をついている。一人で魔王を倒した勇者はレインただ一人だが、膝をついていない勇者は今だにマルスただ一人。だから次の魔王には決して負けない。言いたいことは、流石に分かった。魔王殺しの勇者たちを何人か知って、男の意地の様なものが湧き上がってきたのだと。
「ああ、お前には側にいて欲しい」
今一理由は分からないものの、レインのその言葉も真に迫っている。
いつもの何も考えていないように見えるそれとは違い、覚悟を持った瞳に、サニィも思わずたじろいでしまうものの、嫌というわけではない。
と言うよりも、むしろ、少しばかり安心する気がした。
「も、もちろんです。レインさんが一度でもやられたら加勢しますからね!」
4ヶ月後にレインのところに生まれる魔王。グレーズ王国を出る前に聞いた話によると、占いに出た魔王の種類は黄の魔王。紫に次いで黄色、その次もあるのだろうか。
そんなことを思いながら。サニィとレインはウェニスの町を練り歩く。
ちょうど今の時期はマルス祭。町の人々がマルスの勇敢さを讃える祭りを催していた。
毎年、マルス本人が仮面を付けて英雄マルス役として参加している祭りだ。
マルスが生きていることを知っているのは役場中でも一部の人のみ。仮面の巨漢がマルスだとは、極一部の人以外は気づいていないらしい。
ともかく、彼は町を挙げて讃えられ毎年祭りは大成功を収めるらしい。
「ひたすら死ぬ目にあった後は、ずっと人々に讃えられ、好かれる英雄か。これまたボブと真逆で大変な人生だな」
「それはレインさんが人に褒められ慣れてないだけじゃないんです?」
「でも、マルスはこの先どれだけ生きるのかすら分からん。ま、いつまでもこの祭りが続くと良いな」
「そうですね……」
そうして二人はマルス祭を楽しむと、再び旅を始める。前回は南から行ったので、今回は北から行こう。そんな単純な考えのもと、北へと向かう。次に向かうは英雄ベルナール誕生の地と言われるこの大陸北方の地。誰よりも堅実に、誰もが認めた英雄ベルナール。無茶な戦いのマルス達に次いで2番目に死者の少ない魔王戦を繰り広げた英雄の生まれた土地。
――。
「それにしても、魔王はそれぞれ魔物の姿をしているんですね」
「……みたいだな」
「どうしたんですか?」
「……いや、なんでもないさ。もし、魔王のマナを感じたらすぐに教えてくれ」
「んん? 分かりましたけどー。あと4ヶ月位、緊張しますね」
「ああ、そうだな」レインのそんな声がサニィに届いかたどうか、サニィはいつもの様に花を咲かせる。
サニィはレインの勝ちを確信している。それに対してレインには何か不安があるように思う。
しかしその内容を、恐らく聞くべきではない。そんな予感が、なんとなくしている。
「もしレインさんが負けたら私が倒しちゃいますからね」
「ああ、その時は頼む。まあ、負けないがな」
そんな風に答えるレインの様子だけは、いつもと同じく優しいものだった。
二人は再び少し明るく戻ると、また会話を交わしながら北へと歩く。もちろん、いつものように魔法の修行は欠かさないままに。
――。
「赤がイフリート、紫がデーモンロード、茶はなんか書いてありましたっけ?」
「茶はオーガだと聞いたことがある気がする。真偽は不明だけどな」
「そういえば資料館には何もありませんでしたね。そうなると、黒はなんなんでしょうね。呪いを撒き散らす魔物……レイス?」
「ああ、そうだな。少し、確信に迫ってみよう」
「ん? どうしました?」
「俺は黒の魔王を、強力な魔法使い系の魔物だと考えている。例えばリッチとか」
「それはなんでです?」
「こればっかりは課題だ。俺の考えも正解だとは限らないしな」
残り【1346日→1344日】 次の魔王出現まで【135日】
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる